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*嘘*-uso-




「ね、俺と付き合ってくれない?」

「えっ?」

「俺のこと、どういうふうに聞いてるか知らないけど、皆が言うほど不真面目じゃないし。俺ってけっこう真面目でさ、無害だから、ね? お願い!」

 っていうのは嘘で、自分で言うのもなんだが、俺、石洗(いしみ) (うつろ)はけっこー適当人間。

 純情そうな子を相手にしないのがポリシーだった。

 だって、別れる時めんどいじゃん?

 気に入らなかったところがあったら直すから、別れないでとか言われて、なかなか別れられなかったりすんの。

 過去にあったんだよ。

 別れるの、大変だったな~。

 ……なんだけど、今回は仕方がない。

 ポーカーで負けてしまった罰ゲームとして言いわたされた告白だから。

 まあ、自慢にはできないけれど、このガッコではけっこー俺の、「男女問わずのたらし」としての噂が流れている。

 火のないところに煙は立たぬって言うし。

 俺自身、その噂は否定しない。

 噂はセンセの耳にも届いているくらいだし、彼も俺の性格くらい知ってるっしょ。

 ってなことで、俺は頭を下げて、パチンと両手を合わせる。

 彼の名前は、布袋(ほてい) (くるめ)だったかな。

 クラスメイト。

 俺よりも背は、頭ひとつぶん低い。

 高校二年生にしては今時めずらしい黒髪。

 ほら、高二にもなれば、受験間近だし、ちょっとハメを外したいな~とか思うじゃん?

 それがどうも彼にはないらしい。

 前髪は、目にかかるくらい長いから、遠目で見ると、顔はよくわからなかったんだけど、近づいてよく見てみると、なかなか可愛い。

 黒くて大きな目は潤んでいて、女の子顔負けかもしんない。

 だけど、俺はパス。

 いくら俺が男女相手に出来るって言ってもさ、彼との性格が違いすぎる。

 遊び(ほう)けてばかりいる不真面目な俺と、たぶん、授業さえもサボったことのない、真面目な彼。

 なにせ俺は、黒だった髪を金に染め、女子からもらった髪留めで前髪をくくっているし、制服のボタンも二つ目まで開けている。

 ほら、どうやったって俺と布袋 包とは別次元の人間だ。

「……はい」

 俺とは別次元の布袋 包は、たぶん、俺の必死な姿に何かを感じたのだろう。

 ふたつ返事で俺との交際を承諾してくれた。

 そして罰ゲームのデート当日。

 公園で待ち合わせした俺と彼。

 なんだけども……。

 俺は今、女の子数人と一緒に街の中を楽しく歩いている。

 女の子たちの名前は知らない。

 ま、楽しいから名前なんてどうでもいいんじゃない?

「ね、虚。今日ってたしか、例の罰ゲームのデートの日なんじゃないの?」

 数人いる女子の中のひとりが言った。

「ん?」

 ああ、忘れてた。

 たしか映画を観ようって約束してたんだっけ。罰ゲームで。

 時計は午後三時を指している。

 布袋 包とは、公園に午後一時の待ち合わせ。

 時間はもうとっくに過ぎている。

 だからきっと、布袋 包は呆れてもう帰っていることだろう。

 だけど……。

 もしかしたら、彼はまだ俺を待っているかもしれない。

 一月の、この真冬の季節。

 公園なんて、風よけになる物も無い場所で、たったひとりきり。

 あの細い体を震わせながら……。

 罪悪感。

 それが、なかなか消えてくれない。

「ごめん、俺、用事思い出した」

「え? 虚?」

 俺は女の子たちに謝って、俺にしては珍しく走り出した。

 目指す先は、布袋 包と待ち合わせている公園。

 走って、走って――。

 どれだけ寒空の下を走っただろうか。

 今まで、俺以外のために走ったことなんてなかったから、自分でもびっくりだ。

 誰もいない寂しい公園に辿り着いた先に見たのは、ひとり、佇む細身の、彼の姿。

「なんでまだいるんだよ!?」

 駆け寄った俺は、ほぼ反射的に冷たくなった華奢な体を引き寄せた。

 ……俺、いったいどうしちまったんだろう。

 来るもの拒まず去る者追わずだったってのに……。

 相手が布袋 包だと、なんか調子狂う。

 俺が俺じゃないみたいだ。

「えっ? あれ? どうしているの?」

 俺が()いているっていうのに、布袋 包は、俺に抱きしめられたまま、訊ねた。

 声は寒さからなのか、震えている。

「ぼくは……嬉しかったんだ。たとえ嘘でも、罰ゲームでも、ぼくを貴方の相手に選んでくれたことが……」

 ああ、やっぱり罰ゲームってこと、知っていたんだ。

「馬鹿だな……。俺が告白したの、ただ頷いてくれる相手だったらそれで良かっただけなんだぞ?」

「知ってる……」

 そう言った布袋 包は、長いまつげを振るわせて、ただ俺の手を握り、うつむいている……。

『離さないで』

 まるで、そう言っているかのように……。

「ごめんなさい……。ぼくが、勝手に待ってただけなんだ……。今日のこれは罰ゲームで、石洗くん本心からの告白じゃないって、どんなに言い聞かせても、それでも諦めることができなくて……」

 俺の手に、そっと触れるだけの彼の手が、小刻みに震えている。

 ……なんだよ。

 今までのこの手のタイプだったら、泣きすがってでも、「捨てないで」とか言う奴らばっかだったってのにさ……。

「目、はなせねぇし……」

 ボソッとつぶやいたのは、本当に俺だろうか。

 マジかよ。

 これはやばい。

 今まで特定の恋人をつくったことなんてなかったのに……。

 俺の嘘さえも包み込むキミ。

 そのキミを愛おしいと感じてしまった俺は、もうキミの虜だ。

「あ~、付き合っている子たちのメアドやら電話番号。消さなきゃな~」

 寒空の下、俺は腕の中にいる布袋 包の耳元で、ぼそっとささやいた。

 今回は、無添加シャンプー×タオルくんでした。無添加って、防腐剤が入っていても、そう言うものもあるらしい。そういうことで、シャンプーの虚くんには嘘つきのタラシくんになりました。お楽しみくだされば幸いです。

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