第ロク章
10/03/2014
大幅に書き足したのです
ガジェット暦0年8月10日(ガジェット化3日目)
亮介は昨日の午後、大桶(50リットル入り)50杯、中桶(20リットル入り)80杯、小桶(10リットル入り)30杯、手桶(5リットル入り)5杯と、大樽(120リットル入り)70樽、中樽(60リットル入り)15樽、小樽(20リットル入り)20樽と、樽を運搬する為の木製の手押し車2台を作り、干物を乾燥させる6畳ほどの広さの乾燥台4脚を作りまくった。
お陰で昨晩は夢も見ないでぐっすり眠る事が出来た亮介だった。
彼は膨大な食料が確保できた所為で、この小さなコミュニティ(2家族=6人)以外の人間を仲間に引き込むのが難しくなったと感じていた。
ガジェット化災害で亮介たち以外に大量に食料を確保していると考えられるのは、元自衛隊と市役所の災害対策課ぐらいだろうか?
一般家庭でも一週間程度の食料の備蓄は有るはずだから死に物狂いになって食料を探し始める人間はそう多くないはずだ。まだ、2~3日は狂気の発生まで時間は有るはずだと彼は判断した。ならば仲間を探すのもこの2~3日中にやっておかなければ、狂気が街を支配してからでは遅いだろうと思っていた。
亮介は朝食を済まして食品加工に行こうとしている亜理紗を呼び止めた。
「亜理紗、僕達のグループの中で僕の次に一番信頼が出来るのは君なんだ」
彼はちょっと赤くなりながら言った。
「な、何よ、いきなり。それ告ってんの?」
亜理紗もちょっと慌てたように言う。
「ま、まあそう思ってもらってもいい」
彼は更に赤くなって答えると、亜理紗はまるで茹蛸の様になってしまった。
「だ、だから、君には僕が外に出ている間、皆の事をお願いしたいんだ」
「……って、どっかいくの?」
亜理紗は、はっとした顔で言った。
亮介は、先ほど自分が分析した現在の状況や外にでてコミュニティの協力者を探してくるという事などを亜理紗に話す。
「……確かに私達だけでこのコミュニティを守り抜くのは無理があるわね」
彼女はほっぺたを膨らませ、眉間にしわを寄せながら言った。
「僕は午前中、この税関施設を囲う塀を補強しておく、君は普通倉庫1,2,3に入っていた機械類とか化繊の布・衣類などを出来るだけがジェットに分解して、レベルを上げて欲しい」
彼はそう言って彼女の様子を覗った。
「わかったわよ、あんたみたいにレベルアップで身体強化して欲しいんでしょ? ところで……あんたはマッチョな女の子は好きなのよね?」
亜理紗は物凄い形相で亮介を睨んできた。
亮介はこの状況で『マッチョな女性は苦手です』などと口が裂けても言えない事を悟った。
「あははは、均整の取れた女性は大好きさ~」
ちょっと冷や汗を流しながらだったが、彼女はそれで納得したようだった。
「だけど、レベルアップを実行する時は僕の指示に従ってやってよね?」
最後はジト目で見られたが、彼女はそのまま倉庫の方に歩み去って行った。
亮介は安堵のため息をつきながら今一度税関施設の敷地内を見回した。
港湾の一部(サッカーの競技面6個分くらいの面積)を2メーターのコンクリート塀でぐるっと囲われた敷地には、門を入って左側に税関棟(2部屋の宿泊施設を含め、2階建10室)と常温保管倉庫10棟、冷凍・冷蔵倉庫3棟が岸壁の方に入り口を向けて建っている。
右側はコの字型にガントリークレーンのレールが敷かれ、岸壁に近い方にコンテナが数百個野積みされていた。真ん中辺りには、外国に向け出荷される中古車が数十台、手前には護岸工事の折使い残したコンクリート製のテトラポットが数十個放置されている。
『新ためて見ると、ここ広すぎるんだよね』
亮介は心の中で呟くと、常温倉庫の方にとぼとぼと歩いて行った。
「造詣黄土色×1、運搬灰色×2、よろしいですか?」
亮介は『YES』と答えて、手押し車を練成した。脳裏で簡単にイメージした1輪の手押し車なので大した構造ではない。車輪を支える軸の部分に潤滑油代わりのラードを摺り込めば十分実用になる。
「造詣黄土色×3、よろしいですか?」
次に木製の脚立を練成する。
「やれやれ、さっさとやっちまおうか」
亮介は手押し車に道具や材料それに今さっき練成したばかりの脚立を積んで、敷地をぐるりと取り囲む塀に向かって手押し車を押して行った。
コンクリート塀の上端には、盗人返しの鉄条網が3段張られていた。それらはかなり赤錆びており、本来の目的を果たすのは骨のようだった。
彼はその鉄条網を振動刃の柳刃包丁で切断し、ガジェットに変換すると新たにビンディング様の鉄帯を取り出しコイル状に塀の上に乗せて行った。鉄帯と塀の上に飛び出している鉄製のLチャンネル鋼とは練成で繋いでゆく。一巻きで30メートルほどが塀の上に設置できた。
亮介が今作ろうとしているのは通称『ヘル・レイザー』と呼ばれる防犯装置で、鉄帯にZ型の剃刀の刃が付いた凶悪な代物である。アメリカなどの重犯罪者用刑務所などで使用されているものだ。
亮介は練成で幅2センチ程の鉄帯を『ヘル・レイザー』の形状に変形させてゆく。そして最後の仕上げは剃刀の刃の部分に超振動刃を付ける。これで、たとえプレートアーマーで装甲した人間でもズタズタになってしまうだろう。彼は『もしかしてこれって、2度と撤去できないんじゃないだろうか?』と思ったが、それ以上考えるのを止めた。
その後彼は2時間かけて塀の補強を完了した。今日も天気がよくまだ9時前だって言うのに気温は30度を越えなんとしている。
彼は自分用に密かに作った銅の水筒から、まだ温くなってない水を飲みながら、防護柵の出来栄えを確認していた。
『塀の乗り越え対策はこれでいいとして、あとはコンクリート塀の厚さかなぁ』
そう考えて、小さくため息を付いた。
『いずれやらなきゃ、ダメなんだよな』
うじうじと考えながら税関棟に向けて歩き出した。
亮介は税関棟に着くと入り口の部屋の隅に立てかけてあった日本刀から、一番長い白木の物を取り上げた。そして、それに柳刃包丁と同じように超振動刃加工を施す。
更にレベルアップ権利6回の内2回を筋力アップの身体能力に使った。筋力が上がったスーパー細マッチョの身体に変化する。これで亮介は筋力レベル3の身体を手に入れたことになる。
彼は日本刀を肩に担いでコンテナヤードの隅に歩いて行った。
そこには高さが3メートル以上もあるテトラポットが打ち捨てられていた。
彼は抜き身の日本刀で、そのテトラポットの足を1本1本切り離していき、更にそれを大根を切るように輪切りにしていった。敷地のコンクリート塀の厚みを付ける為にテトラポットを素材として使う事にしたのだった。筋力を増強したのは、力仕事をする為である。 亮介は30分ほどでテトラポットを粗方輪切りにし終わると、1個200キロ以上はある円盤状のコンクリートをゴロゴロと運んでいき、塀の厚みを3倍ほどにするという作業を黙々と続けて行った。
そしてそれはようやく昼前に終了した。
亮介が腹ペコで税関棟に戻ってみると、他の皆も既に仕事を中断して戻っていた。
「まあ、何てことでしょう! 亮介、その身体はどうしたの?」
彼が入ってくるなり、母の渚が大きな声を上げた。他の皆も絶句している。
「ちょっと力仕事用に改造したんだよ」
彼はそう言って、外壁の防御強化について話して聞かせた。心の中では
『兎に角、何か食わせてくれぇ』と思いながら。
鋼伝寺亮介・総合レベル10
肉体強化レベル3
スキル=暗視・ステータス・アナライズ
レベルアップボーナス、4
お楽しみ下さい。