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ガジェット・ワールド/プロローグ  作者: 饂飩滲みるは
6/19

第ゴォォォ章

10/03/2014

大幅に加筆しました。

テナヤードと、10棟ほどの常温保管倉庫、3棟ほどの低音倉庫に税関の詰め所の2階建ての低い建物がコンクリート塀で囲われている。


 隣は漁協で様々な漁船が停泊していた。通りを隔てて向かいには数基の原油の備蓄タンクを備えた化学生成工場があった。


 亮介達は人っ子一人いない税関区の鎖で厳重に施錠された門を柳刃包丁で切断して中に入った。


 都市の中心部では、飲食店食料品店の市民の認知度が高いが、この税関区画にはまだ略奪の波は押し寄せてないみたいだった。


 亮介達は取り合えず税関の建物に自分達の荷物を降ろすと日本刀や柳刃包丁、出刃包丁や金槌などをめいめい持って倉庫を調査する事にした。最初は低温倉庫だ。


 『低温3』と壁に書かれた倉庫の錠を破壊して皆で中に入ってみる。昨日まで零下30度に保たれていた庫内は、断熱材のお陰かそれ程温度は上昇していない。入り口から外に流れ出してくる冷気で一気に鳥肌が立った。


「うわ! さむ……」


 薄着のつばきが肩を押さえて呟く。

 入り口から庫内へと差し込む光で確認すると、小さな体育館ほどの庫内にはそれ程物が入っておらず、奥の方に木のパレットが4~5枚敷かれ、その上に発泡スチロールの箱が高さ3メートルぐらいに積み上げてある。多分箱の中身は魚だろう。


 亮介達は『低温3』の倉庫の扉を閉めると、『低温2』の倉庫の扉を開けた。二番目の倉庫は中身が半分以上詰まっており、冷凍肉や野菜が中心らしかった。200トン近くありそうだ。解凍された先から腐ってしまうだろう。


「う~ん、一応食料はあるみたいですが、どうすりゃいいんですかね?」

 亮介は後ろの5人を振り返って困り顔で聞いた。

 すると、長壁高継さんが答えた。


「腐りやすい物、特に肉や魚は塩漬けにするしかないでしょうね」

 高継さんの言う事を受けて、秀美さんも付け加えて言った。


「根菜や球根類は、日陰の風通しのよいところならば、数ヶ月は持ちますけど、葉物は塩漬けにしたり発酵食品に加工するしかないでしょう」

 更に高継さんが言う。


「早急に処理しなければ、食べられなくなってしまいますね」

 ここに居る皆は、200トン近くある食糧を見て、ウンザリとしたため息を付いた。


 最後に『低温1』と書かれた倉庫の扉を開けた。この倉庫は前の2つと違い冷凍では無く冷蔵倉庫だった。全員で扉を開け放って中に入ってみると、中には缶詰や乾物、塩・味噌を始めとする調味料、米や小麦粉、トウモロコシ粉や片栗粉などがびっしりと貯蔵されていた。全員の口からは、安堵の声がそれぞれ聞こえる。


「すごーい、みかんの缶詰やパイナップルの缶詰もあるわ」

 亜理紗が目ざとく甘味系の食料を発見してはしゃいでいた。


「これだけあれば、困った人におすそ分けしてもいいわねぇ」

 能天気な亮介の母が頓珍漢な事を言い出す。


「かあさん! 何危機感の無いこといってるんだよ!」

 亮介は厳しい声で言った。

「もし万が一、3年間は食料の流通が出来ないかも知れないんだぜ! それにここにある食料だって、百人の人間が食べ始めたら1年も持たないだろうさ」


 渚は唇を尖らせて黙った。


「お兄ちゃん! どうしちゃったの? その他人なんてどうでもいいみたいな言い方。お兄ちゃんらしくないわよ!」

 つばきがむっとした声で、亮介に言った。


『ここにも居た、甘甘な奴が……。こういうのをステロタイプな奴というんだろうな。自分の責任能力を超えた範疇で他人にエゴを押し付ける奴……我が妹ながら……いや、妹であるがゆえに超ムカムカする』

 と亮介は心でそう思った。


「つばきちゃん、亮介君のお母さんも……彼の判断が間違ってると暗に指摘するのは、やめて貰えませんか? 

 私達は亮介さんの判断で此処にやって来て、食料を見つけました。それは、彼の賢明な判断によるものです。私達は、彼に助けられてるんですよ?

 彼以外の誰が此処に来る事を提案できましたか? 私も含めて、彼以外の誰がこの事を予見できたと言うんですか?

 私は私の亮介君の指示や命令に無条件で従います」

 亜理紗が彼の言いたい事を粗方代弁してくれた。


『あー気持ちがいい』

 彼は大いに胸の溜飲を下げた。


「……取り合えずだ。ちょっとキツイ言い方になっちゃったけど、ボランティア活動なんかしている暇は無いんだ。此処の物資は災厄を乗り切る為に必要なんだから、計画的に使おうよ」

 彼の言葉に今度は皆も頷いてくれた。


 その後、冷蔵倉庫から棟続きの10棟の倉庫の中身も確認して、全員で税関の建物に戻ってくると昼食を取りながら今後の方針を話し合う事になった。


 勿論昼食は冷蔵倉庫から持ってきた各種缶詰と渚が持ってきた食パンである。


「まず、優先順位が高い順にここでの生活を築いてゆくかだな」

 亮介は話し始めた。


「取りあえずは、冷凍倉庫にある魚と肉の加工でしょう」

 高継さんがその言葉を受けて言った。


「魚は干物でしょうね。背開きにして高濃度の食塩水に浸して、3日ほど天日に干せば長期保存できるでしょう」

 秀美さんが旦那の後を続けて言った。


「なんか経験者のような言い方」

 つばきが餡蜜の缶詰をパクつきながら感心したように言った。


「こう見えても、私は漁師の家で育ったのよ」

 秀美さんが微笑みながら言う。


「同様に私もパン屋を開く前は、フレンチのシェフをしていたので、肉の加工はお手のもんですよ」

 高継さんは胸を大きく叩きながら言った。


「うわぁ、お父さんお母さん、なんか頼もしいわ」

 亜理紗が嬉しそうに言った。


「わ、私だって農家のちょ、長女ですから漬物ぐらいは、お、お手の物ですの……ほほほっ」

 長壁家の様子を見た母の渚が慌ててカミングアウトしてきた。


「ですが、加工した肉や野菜を貯蔵する容器がありませんな。出来れば木の樽が良いのですが」

 高継さんが思案顔で言った。


「樽ですか……見た目を気にしないのであれば、僕がなんとかしますよ」

 亮介はちょっと考えてから、答えた。


 午前中に確認した倉庫の中に、家具用の板材が大量にあるのを見つけたのだ。ブナや樫材なので、樽には向いていると思う。たしかウィスキーの樽もオーク(西洋樫材)だったはずだ。木箱をビンディングするスチールベルトも見つけてあるからガジェット練成で樽は作れるだろう。


「高継さん、大体のサイズと個数を教えてください。今日中に作って置きますよ」

 亮介の言葉に高継さんは驚いていた。

「職人でもないのに、今日中なんて無理だろう?」


「ああ、ガジェット練成という魔法みたいな力が使えますから」

 亮介は苦笑いしながら答える。


「それじゃあ亮介君、干物用と漬物用に大・中・小の桶も作ってくれるかしら?」

 秀美さんがおずおずと聞いてきた。


「分りました、お安い御用ですよ」

 彼は快く引き受けた。


「それでは、午後からは、長壁さんご一家は魚と肉の加工をお願いいたします。母さんは野菜をお願いするね? つばきは僕と一緒に桶と樽の製作だ」

 そういうことで、ガジェット暦0年8月9日の亮介達は動き始めたのだった。

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