バレンタイン大作戦
高らかに叫ぼう!我らは無敵のソロ団!!
何が無敵かって、クリスマスだってカウントダウンだって、バレンタインだって、花見も花火大会も、なにもかも!季節行事のなにもかもを一人で味わい風流に身を任せ、世の中の季節の移りかわりを肌で寂しく、いやダイレクトに感じることが出来て、あまつさえ最初からいないのだからパートナーと別れるという悲しい思いをして精神面にダメージを負うことなく社会に貢献することの出来る、崇高な団体である!!!
ここは小さな田舎町の県立高校。
ホームルーム前の、クラスメイト達が朝の挨拶を交し合うそんな風景の中、怒鳴るような声が教室内に響き渡った。
「リア充爆発しろ!!!!」
朝っぱら一番からそう叫びながら、怒りを顕わに教室の扉を開けて、ガタガタと派手に音を立てながら、自分の席につき、鞄を乱暴に置く幼なじみの秋吉 誠に俺、田中 修一郎は苦笑いしながら問いかけた。
「どうした?今日は何があったんだ?」
「公共の乗り物の中でイチャイチャするのを重犯罪にするべきだと思う!!」
まだ中学生でも通りそうな童顔を真っ赤にして、誠は言う。
ああ、また通学途中のバスの中またはバス停でイチャつくカップルを目撃したのか。
誠の席の前に座りぶりぶりと起こる様子を見ながら苦笑いをした。
それにしたって、普通に暮らしていたら、そうそうそんなにイチャつくカップルに出くわすようなものだろうか?
誠のイチャイチャカップル目撃談を聞くと一日に一度は必ず目撃しているのだから不思議だ。そうそう道を歩いていて、ディープなキスやAどころかBまで公衆の面前でしている男女に俺はついぞ出会ったことはないのだが、一緒に出歩いていても誠はそういうものを目にする機会がやたらあるらしい、俺が他のものに気を取られて目を離しているタイミングとかでイチャイチャされてそれを目撃する度に、誠は憤慨して怒りくるっている。
ああ、あれか?
苦手なものとか嫌いなものとかって嫌いな奴見つけるのはやいよなあ……。
料理にはいってる隠し味みたいなのも見つけるし、姿が見えていないのにゴキブリの存在を関知したりする超能力みたいなあれか?
まあ、そういう意味での超能力なら、俺にもあるけど。
いつでもどこでも、誠が居る場所なら何となくわかるっていう超能力
これってあれかな、オタクが仲間を判別する事が出来るアレにちょっとにてるのかなあ?いや、違うか……
俺は、こいつのことが好きで、大好きだからきっとどこにいても見つけてしまう。
小さい頃からそう、一つのことに向きになると周囲が見えなくなっってしまうくせとか、思いこみが激しすぎてすぐにつっぱしってはもどってこれなくなるところとか。
まあ、そんなこいつがカップル嫌いなのはそれ即ち、女嫌いと言うことで、そんなこいつに安心したりしてるから
こいつのバカなカップル撲滅運動とかにもつきあったりしているわけだけど……。
カップル撲滅運動というのは、誠が作ったソロ団の一番大事な活動内容で世の中の独り身の為の独り身によるカップルのイチャイチャ行為を邪魔するものであり、けっして羨ましいとか悔しいとかそういう感情ではなく世の中の風紀のために活動を続ける、ソロ軍団の崇高な活動なのだ!!らしい。
ちなみに団員は2人
一人は団長の誠、どうやら副団長なのは俺。
幼馴染のよしみでつき合わされている。
随時団員募集中なのだが、なかなかメンバーは集まらない。
そりゃそうだ、健全な高校生男子がなんでわざわざ恋人を作りません宣言しなくちゃならないのか。
俺は誠と一緒にいられるからいいんだけどね?
この感情は団長にばれると大変だから、もちろん内緒。
そんなことを考えながら、誠を見つめる。
世の中のカップルがどうとかこうとか、正直どうでもいいことにこんなにムキになる誠が可愛くてしょうがない。
いつものように一しきりわめき散らしたら、力尽きて机に突っ伏すだろうと思っていたら何故か今日は違っていた。
ひとしきり騒ぎ立て悪口雑言言いまくった後に、打ちひしがれたように机に突っ伏してしまう誠。
それを慰めてやるのが俺の役目……のはずなのだが。
誠は、突如不適に笑みを作る。
何かたくらんでるな?とその顔を見れば、急に切り替えたようにどや顔で宣言された。
「今年の俺は、ソロ軍団団長としてバレンタイン撲滅運動をしている!」
ふんぞり返らんばかりの態度で言う彼はに俺は聞き返した。
「バレンタイン撲滅運動?」
本当にこいつは見ていて飽きがこない、今度は何をたくらんでいるんだろう。
「バレンタイン撲滅運動って一体何をしてるんだ?」
「それは秘密だ!」
ふふん♪と鼻先で笑いながら答える誠
「副団長にもおしえてくれないのか?」
どうせこいつが考えてる事なんてろくでもないんだけどな、と思いながら聞けばこいつにしては珍しく口を割らない
「そのうちわかる」
そう、意味ありげに言うから、その件はそのままにしておいた。
数日後
誠の魂胆が明らかになる。
バレンタインが近づくにつれて、町中のチョコが姿を消してしまったのだ
それこそ今のシーズンだから、バレンタイン用に可愛くラッピングされたチョレートが例年なら山のように近所のスーパーやコンビニで展開しているはずなのに、それこそ駄菓子のようなチョコから板チョコまでが姿を消してしまっった。
どうしたことかと、慌てたのは年頃の女の子たちではなく男子の方だった。
これではいつも期待していた義理チョコすら手に入らないかもしれない
あわてた男子たちは店頭に詰め寄り、店側に説明をもとめた
聞けば、「一人の男の子が店にチョコレートが入荷すると全部買っていってしまう」
のだそうだ。
それを聞いた俺はピンときた。
そのままその足で、誠の家に向かい、玄関の扉を開ける。
と、甘ったるい匂いとともに、雪崩のように崩れ落ちてくる綺麗な包装紙にくるまれた小さな箱たち、それらを積み上げている幼馴染。
すでに自分の部屋だけでは収まりきらなくなったであろうそれは、玄関にまで溢れだしている。
「何をやってるんだお前は・・・・」
甘ったるい匂いに埋もれた幼馴染にあきれつつ問いかければ
「町中のチョコレートを買い占めてやったんだ!、これでこの町にバレンタインがくることはない!!!」
それはそれは、自信満々にそう言い放ったのだった。
いくら小さい町とはいえ、全てのチョコレートを買い占めて回っていたなんて、本当にこいつは馬鹿だなあ。
しかして、誠の狙い通りにこの町にバレンタインが来なかったかというと
女の子たちはチョコレートがなくても、甘いお菓子は用意できたし。
それに、世の中にはインターネットやお取り寄せ通販という手段もあったりするわけで…・・・。
「ちくしょおおおおお!!!!」
雄叫びを上げる誠と後に残されたのは、膨大な量のチョコレートと、請求書の山
それだけの努力と画策をしたのに、今年の聖バレンタインも彼の目論見が適うことは無く、カップル達は今日も誠の目の前でイチャイチャぶりを繰り広げる、そんないちゃつく男女を見つめながら、ギリィと歯を食いしばるソロ軍団団長。
今日は2月14日
当たり前のように公園の片隅で数多のカップルが目撃される、この今日良き日に。
涙目の団長の隣を歩きながら、女の子たちがチョコレートを好きな人に渡す様子を眺めつつ、自分のコートのポケットの中身へ視線を落とす。
そこには有名なチョコメーカーの包装紙にくるまれた、小箱が一つ握られていて。
さて、ソロ団長をソロでなくならせるためには、どのタイミングで渡したら良いものなのかと、俺は一人悩むのだった。