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自作小説倶楽部 第5冊/2012年下半期(第25-30集)  作者: 自作小説倶楽部
第26集(2012年8月)/「スイカ」&「橋」
9/38

4 BENクー 著  西瓜 『スイカの記憶』


山中の小滝に集う蛍の群れを見に行った翌日のこと。

仕事に向かう父を見送った僕と弟は、『やってくるっとありがたかぁ』と言う祖父母の言葉にほだされ、畑の雑草取りを手伝うことになった。

何も知らない僕たちは、祖母が用意してくれた軍手・帽子・長袖の作業服を身に着け、鎌と熊手を手に、午後の日差しの下で雑草を刈り始めた。

「自分とこで食う野菜ば作る家庭菜園たい」と、祖父は言ったが、その広さはテニスコート3面分を優に越えるもので、雑草を鎌で刈り取り、熊手で寄せ集め、一輪車に積んで運ぶ作業を繰り返し、ようやく全ての雑草を取りきった頃には夕陽が綺麗な橙色になっていた。

「よ~し、終わろ~かい!」と、ケロッとした顔で言った祖父とは対照的にヘロヘロになっていた僕らは、そのまま積み上げた雑草の上に座り込んだ。

「どぎゃんした?バテたつかい。草ん上に汗掻いたまま座っとっと虫が寄ってくったい!」と、一輪車に収穫物を載せた祖母がこちらもケロッとした顔でゆっくりと僕らの横を通り過ぎていった。


『おばあちゃんたち、いつもこんなことやってるのか…』

僕は、何事もない顔でいる祖父母たちに驚きを隠せなかった。いくら年寄りで干からびているとはいえ、見た目にも汗一つ掻いてない祖父母の様子がとても不思議でならなかったからだ。

「おじいちゃんたちは何で汗掻かないの?」

僕は、弟にホースの水を頭から掛けてもらいながら、すぐそばで顔を拭いている祖父に尋ねた。

「あんま水ばっか摂っと、汗掻いて仕事にならんけんたい。まあ、慣れたい。そぎゃんこつはよかけん、はよ、タケシは風呂に入ってこんね」

ホースを受け取った祖父が、今度は弟の頭に水を掛けてやりながらこう言って僕を風呂へと促した。


シャワーを浴びて着替えた僕が水分を求めて台所に入ると、三角形に切り分けられたスイカがテーブルの上にいっぱい並んでいた。よく冷えているらしく、皮の部分に薄っすら水滴が浮いている。

「のど渇いとっだろ、はよ食べんね」

スイカは、真っ赤な中に真っ黒のタネがポツポツと配され、まるで絵に書いたように鮮やかで、甘い香りが台所中に充満していた。

『いただきます』もそこそこにスイカにかぶりついた僕は、その冷たさに瞬間あたまがキーンとなったが、これまで食べたスイカの中で一番美味いと感じた。

「おばあちゃん、これすっげえ美味え!」

「草取りして、のど渇いとるけん美味かったい!冷やしとったつば2つ玉全部切ったけん、いっぱい食べんね」

そう言いながら、祖母は切ったスイカを取って口へと運んだ。シャクっと快い音が僕の耳に届いた。

遅れてきた弟もすぐにスイカにかぶりつくと、切られたスイカは見る間になくなって行き、一切れづつしか食べなかった祖父母を横目に、結局、僕ら二人でほとんど食べ尽くした。


後にも先にも、あれほど美味いスイカを食べた覚えはない…


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