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自作小説倶楽部 第5冊/2012年下半期(第25-30集)  作者: 自作小説倶楽部
第30集(2012年12月)/「初霜・初雪」&「失敗」
34/38

2 レーグル 著  初雪 「作戦名『プレゼントX』」

   1


 世間は今まさに伝記ブーム。

 商業利用が許可されたタイムマシンで、過去の偉人に『実際に』密着して書かれた伝記が大ヒット中。作家志望だった私にもチャンスが巡って来た。

 私は世界を救った偉人、高畑願望のぞみの伝記を書くため、二十一世紀後半の日本に移動し、美木と名乗り、未来の技術を使って、彼の研究所に助手として潜入した。しかし、彼はなんと世界征服を企んでいたのだ。最初はおかしな発明をするだけだったのだが、最近は発明品と一緒に街に出るようになったので、私は未来の技術を使ったヒーローを仕立て、彼の目的を間接的に邪魔していた。



「ついに完成だ」

 願望が大きく手を広げ、今回の発明品を誇らしげに見つめる。

「そうですね」

 私は罪悪感に心を痛めながら、目の前の木を上から下まで眺めた。それは、どこからどう見ても、一本の大きなモミの木だった。枝にはたくさんの電飾や光沢のある飾りが釣り下げられている。この時代の宗教的な行事の象徴のようなものらしい。願望は今回、研究室を出て、近くの公園に発明品を設置することにした。この大木は研究室には入りきらないからだろう。そして、私とヤマモト君はその手伝いをさせられている。

「このXTMエックスティーエムは、ただのクリスマスツリーに見えるだろう。だがまず、この電飾一つ一つが光線銃の銃口なのだ。理論的には最も速い銃弾で、しかも射程距離は地上から宇宙空間まで軽く届くほどだ。コンクリートや鋼鉄でも軽々貫通するし、威力も申し分無い」

 この時代にはまだ光子を使った光線兵器の理論は、とりあえず地球上には、存在もしないはずなんだけど、さも当たり前かのように願望は発明品の説明を続ける。

「しかし、それは単なるツリー本体を守るための防御機構に過ぎん。何を隠そう、このツリー自体がミサイル兵器なのだ。クリスマスに浮かれる憎き男女を全て粉微塵にするためのな。これをここから発射して街の真ん中に落とすのだ。あのジャスティストラベラーも、この電撃作戦には対処出来まい」

 願望が高笑いする。ここ最近の彼の発明はかなり暴力的になっている。特に十二月に入ってからは顕著になってきた。何が彼をそこまで駆り立てるのかは分からないが、おそらく私がさりげなく被害の大きくなりそうな部分に手を加えているせいで発明が尽く不発に終わったり、ジャスティストラベラーに邪魔されたりして、不満が溜まっているのだろう。悪循環だが、未来の英雄を犯罪者にするわけにはいかない。このミサイルも発射後に宇宙空間へと飛んでいくように仕掛けをしておいた。広大な宇宙空間なら問題も起きないだろう。

「でも、こんなところに置いておいて、誰かに片づけられたりしませんかね」

 私は赤い帽子を被った人形の飾りをいじりながら願望に聞いた。

「平気だろう。発射するのは明日だから置いておくのは一日だけだし。見たまえ。正体も知らずに喜んでいるじゃないか」

 願望の見る方に目を向けると、何人かの子供が木を見上げて歓声を上げている。木の周りに柵を立てているヤマモト君を質問攻めする子供もいた。暴発とか光線銃の誤射とか、願望に限って無いとは思うけど、少し不安だ。

「しかし、何か足りないな」

 願望がもう一度、モミの木を見上げて呟く。まだ何か凶悪な兵器を付け足すつもりなのか。

「美木君。飾りは全部付けたのか?」

「はい。残ってるのは、クッションだけですよ」

 私は飾りの入っていた段ボール箱を覗き込んで確認した。

「クッション?」

 そう言うと、願望も箱を覗き込む。

「ええ。白いやつです」

 願望がその白い綿のクッションを取り出して、私をチラッと見て、溜め息を吐いた。まさか。嫌な予感がする。

「これも飾りの一つだ」

 そのまさかだった。

「積もった雪を表現した飾りなんだが、えっと、美木君もさすがに雪は見たことあるだろう」

 願望が白い綿を持ったまま、ぎこちない笑顔で私に聞いてくる。咄嗟に目を逸らしてしまった。未来ではとにかく効率志向だ。都市規模の気温制御技術のおかげで、私たちは夏の暑さも冬の寒さも知らない。『雪が降る』なんて都市伝説みたいなものだ。冬も深まり、期待しているのだが、この街に雪が降るのは稀だそうだ。

「まあ、いい。これから知れば良いんだ」

 少し気まずいまま、私たち三人は最後の飾り付けをした。


「それでは、明日のことだが、やはり目的を考えれば夜が良いだろう。午後九時に発射する」

 研究所に戻ると、願望が私とヤマモト君を並べて明日の計画について話し始めた。

「明日って二十四日ですよね。クリスマスって二十五日じゃないですか。前日に発射するんですか?」

 私が質問する。

「良いことを聞いてくれた。二十四日はクリスマスの前日だが、クリスマスイブと名乗っている。何に浮かれているのか知らないが、その日は我々の憎きかたきたちが街中を跋扈するのだ。硬派な日本男児として、これを討たねばならん」

 何やら使命感を持った願望が拳をぐっと握る。

「よく分かりません」

 しかし、何が彼をそうさせるのだろう。伝記を書く上で知っておきたいことだ。

「それに二十五日は、あの偉大な人物の誕生日だからな。滅多なことで騒ぎは起こせん」

 今度は一転して、偉そうに腕を組んで何度も噛みしめるように頷く。

「そうですか」

 あまり興味の無さそうな私に、願望が少し不満気な顔をした。私だって、クリスマスの概要ぐらいは知っている。しかし、私の知識によればクリスマスは降誕祭であり誕生日では無い。信者でも無い私には些細な違いで訂正する気にならないことだが。

「そうだ。言おうと思ってたんですけど、明日は用事があるので発射には立ち会えません」

「なに」

 全く原稿の進まない私に、原稿を待ってもらう条件として、他の歴史的事件に関するレポートの提出が命令されたのだ。その事件がちょうど明日の午後九時に起こる。さすがにこれを断ることは出来ない。

「別に私がいなくても困るようなことも無いし」

 あのミサイルがきちんと宇宙まで飛んでいくかは不安だが、出来ることはしたつもりだ。ジャスティストラベラーの光太郎にも連絡を入れておくべきだろうか。

「ちなみに用事っていうのは何なんだ」

「言うほどのことじゃありませんよ」

 当たり前だけど、言えるような内容じゃない。私がさらりと願望の質問をかわすと、願望はヤマモト君の横に移動し、何やら耳打ちする。

「用事って何ですか?」

 すると、ヤマモト君がこっちを向いて、私に聞く。いや、バレバレだろう。

「だから、言うほどのことじゃありませんって」

「なぜ僕に向かって言う」

 願望もまさか本当に私が気付かないと思ったわけじゃないはずだ。

「聞きたそうにしていたので」

「なら、教えてくれても良いだろう」

 適当な嘘を言っても良いんだろうけど、それはなんとなく嫌だった。

「プライベートですから」

「美木君は毎日研究所に来ているし、何やら特殊な生い立ちみたいだから、世間一般の流行りに流されたりしないと思っていたが、やることはやっているんだな。くそ!」

 急に声を荒げた願望に驚いたが、彼がそれから一言も言わずに自分の部屋に入って行ったので、私には何が何やら分からなかった。



 彼が世界を救うまであと半年。


   2


 これから数百年後。地球も所謂『宇宙人』の仲間になる。『宇宙評議会』入りだ。一定の科学技術や文化の成熟を示した知的生命体は、彼らと『接触』することが許されるのだ。しかし、今はまだ地球と人類はその基準を満たしておらず、『接触前』の知的生命体と位置付けられている。こうした知的生命体やその住む星を広い意味で守る法律が原住知的生命体接触前交流法だ。

 なぜこのような法律があるかと言うと、科学技術の劣る知的生命体に対して悪事を働く者が、個人から種族まで数多く存在するからである。特に、ジャーク星人と呼ばれる種族は、他の知的生命体が住む星を侵略することを生業にしており、宇宙評議会が何度警告をしても、それを止める気配は無く、宇宙各地を侵略用の宇宙船で転々としていたのだ。

 そして、その魔の手は地球にも及ぼうとしていた。もちろん、宇宙評議会も無能じゃない。地球人が分からないように宇宙空間でも地球上でも人類を守っている。だから今夜、ジャーク星人の母船クラスの宇宙戦艦が地球上空に現れる事件は、全くの異例であり、さらに、それが撃退されてしまったことは、異例中の異例なのである。


 ビルの屋上で私は寒さに震えていた。今夜の『異例中の異例』は、地球の記録はもちろん、宇宙評議会の記録にも残っておらず、長い間、地球は他の知的生命体からの侵略を受けたことが無いと思われてきた。しかし、近年、和平に応じたジャーク星人の提出した記録により、この侵略作戦が判明したのだ。侵略に来た宇宙戦艦は大破し、記録が何も残らなかったので正確な情報は無いが、彼らはここ、願望の研究所のある町の隣町に降りようとしたらしい。その町にはいくつか高いビルがあったので、侵入させてもらった。

「寒い。通信代ケチらないで『気象記録ウェザーレポート』取り寄せておけば良かった」

 だって、防寒になんて頭が回るはずない。未来人なめるな。寒くて両手をこすり合わせていると、ポケットで何かがブルブル振動した。念のため買っておいた現代の携帯用通信機器、携帯電話だ。取り出して操作すると、どうやらメールが来たらしい。

 そこでひらめいた。この時代にも天気予報程度の情報なら存在するはずだ。ケータイを操作して、天気予報を探す。

『今夜はよく晴れますが、気温が下がって今年一番の冷え込みになるでしょう』

 よく考えたら、天気を知ったからと言って、今さらどうしようも無い。時間までもう少しだ。我慢しよう。するしかない。


 歯をカチカチ鳴らしながら待つこと十数分。午後九時のほんの少し前。空がふと暗くなった。いや、夜だからもともと暗いのだが、急に星が見えなくなって、巨大な黒い円が空を覆った。町一つなんて簡単に覆い隠すぐらいの大きさの宇宙戦艦。その巨体に似合わず、物音ひとつさせずに突如出現したそれは、おそらく空でも見上げてなければ気付かないだろう。

 私は未来人で、おそらく彼らにも対抗できるし、彼らが撃退される未来を知らされているから、冷静でいられるが、もし、あれを発見した人がその正体に気が付いたら、とても正気ではいられないはずだ。あれをどうにか出来る人間なんて、今のところ一人しか心当たりが無い。ジャスティストラベラーだ。私が未来の技術を貸したヒーローなら、私と同様に彼らを撃退出来る。しかし、願望のミサイルが気になって、連絡を入れておいたから、向こうの町にいるはずだ。

 ジャスティストラベラーについて考えが及んで思い出したが、次元間エネルギー活用装置をオンにすれば、寒さに震える必要なんて無かった。機能をオンにして、人心地が付く。

 すると、遠くからかすかに聞こえる音に気が付いた。そちらに目を向けて、持ってきていた双眼鏡を懐から取り出す。小さな点が遠くから、宇宙戦艦に向かって飛んで来ている。もうすぐぶつかりそうだ。慌てて双眼鏡を構えて覗いてみると、それは、どこからどう見ても一本の大きなモミの木だった。

「なんであれが」

 思わず呟く。宇宙に飛んでいかなかったのか。私にとっては、とんでも無い失敗のはずだが、後の展開がなんとなく分かってきた。

 モミの木に飾りつけられた電飾から黒い筋が伸びる。光子を撃ち出すタイプの光線銃は、射線上の光を巻き込むので、横から見ると黒い筋が走っているように見えるのだ。この銃は、威力が高過ぎ射程も長過ぎるため、未来ではほとんど使われない。黒い筋は、ジャーク星人の母艦の定位性物理干渉型シールドを物ともせず、反対側まで貫通して、それでもなお止まらない。おそらく宇宙空間を数光年先まで伸びていくだろう。

 そして、普通ならミサイルを撃ち落とすための小型艇が出てくるはずなのだが、どうやら母艦を離れる前に逆に撃ち落とされているようだ。そして、為す術も無いまま、ミサイル本体が母艦のシールドに衝突する。ここでミサイルが爆発でもしたなら、母艦はダメージはあるものの、墜落したりはしないはずだ。なぜなら、ただの爆発ならあのシールドで防げるからだ。しかし、なぜかミサイルは爆発しない。物理干渉シールドは、こういう突破しようと押し続ける攻撃には弱く、次第にミサイルの頭がシールドを抜けようとしていた。もちろん、普通ならそれを防ぐ策が二重三重にあるのだが、すでにそれらはほとんど全て光線銃によって破壊されている。

 たった一発のミサイル、それも自分たちより科学力が劣るはずの知的生命体の放ったものが、母船クラスの宇宙戦艦を落とそうとしているのだ。ジャーク星人たちの恐怖たるや、凄まじいものだろう。そして、ミサイルはシールドを突破すると、母艦本体を貫通した。

「え?」

 突き刺さったり、爆発したりすることなく、まるで何も無かったかのように、ミサイルは宇宙船を貫通していった。双眼鏡を覗くと、母艦にはミサイルが通った穴が開いているのが見える。何かがぶつかったのではなく、まるで切り取ったかのような丸い円の穴だ。その丸い切り口の表面は、透明な液体で濡れていた。いや、切り口そのものが液体へと変化している。ミサイルの通過した場所から徐々に宇宙船は液体化しているのだ。

「まさか」

 嫌な予感がして、ミサイルの飛んで行った方に目を向ける。すると、ジャーク星人の攻撃をまるで無いもののように通過したミサイルは、すでに半分の長さになっていた。下半分だけになって飛び続けるが、それも長くは続かず、どんどん短くなり、ついに完全に消えてしまった。

 下降を始めた宇宙船は、ミサイルを追って後からやって来たジャスティストラベラーが支えている間も、液体化が止まらず、その液体は凍って町に降り注いだ。白くて冷たい水の結晶。

「雪だ」

 静かな夜は、街を白く染めながら深まっていった。


   3

 次の日。研究所に行くと、願望の姿は無く、ヤマモト君が一人で炬燵に入ってワイドショーを見ていた。

「おはよう」

「美木さん。おはようございます」

 ヤマモト君がテレビから目を離さずに返事をする。テレビでは、一晩で数センチの雪が降り積もった街について特集が組まれたようだ。私も炬燵に入って、テレビを見る。

「こんなに降る予定じゃ無かったんですけどね」

 珍しくヤマモト君が難しそうな顔で呟く。

「やっぱりあれって、博士の仕業なのね」

「ええ。昨日の朝、急にノゾミさんが『ミサイルの調整をする』って言い出して、もともと搭載していた、相手の嫌なところが見えてくる電波を発生させる装置『キライニナール』を取り外して、物質を陽子まで分解して純水に再構成する『ミズニナール』に交換したんです。あと、ミサイルの目標がなぜか宇宙になっていたので、匂いを追跡して他人の居場所を特定する機械で、発射する時、美木さんのいる方向に飛ぶようにもしました」

 物質を水に変換する願望の発明品は、前に見たことがある。それは一定量を変化させた後は、機能が停止するように出来ていたが、今回はそのリミッターが外れていたから宇宙船が全て水に変わってしまったのだろう。本来はあのミサイルだけが水に変わるはずだったのに。

「なんでそんなこと」

 いや、聞かなくても分かる。私が雪を見たことが無いと言ったからだ。それだけのために、願望はもともとの目的を投げ打って、ミサイルの改造をした。一昨日は何故かは分からないけど、私に怒っていたのに。

「美木さんのためだって言ってましたよ」

 分かってはいるが、そう聞かされてしまえば、無関係を装うわけにはいかない。

「博士は?」

「ミサイルを発射した後、部屋に籠もって出てきてません」

 研究所の奥の部屋。願望が普段、色々な発明をする部屋で、私も入ったことは無い。私は炬燵から出て、その部屋の前に行く。だが、何と話しかけたら良いのか。ドアをノックしようと手を上げたところで、私はしばらく止まっていた。

「ちょっと買い物に行って来ますね」

 すると、ヤマモト君がそう言って、部屋を出て行った。あのアンドロイドに空気を読まれるなんて、情けない。私は思い切って、ドアを二回叩いた。

「博士、私です。美木です」

 中からの反応を待つと、返事は無いが、ガタガタと音がして、願望がいるということは分かった。

「昨日はすみません。どうしても外せない用事で。本当にすみませんでした。どうして一昨日あんなに怒ったのか、私にはよく分かりませんけど、私がここにいるためには必要なことだったんです。信じてください。私も博士のことを信じることにしました」

 あのミサイルは結局、人を無闇に傷つける爆弾じゃなかった。もしかしたら、今まで私が細工で邪魔してきた発明も同じだったのかもしれない。もう、発明品に直接細工をして邪魔するのはやめようと思う。部屋の中からの反応は無い。

「私のために、あのミサイルを改造してくれたことも聞きました。ありがとうございます。雪、見ました」

 他に言うことが見つからない。テレビが付いているはずなのに、やけに静かに感じた。

「彼氏と一緒に、か」

 部屋から返事があった。願望はドアの近くにいるようだ。

「彼氏なんていませんけど」

 未来人の私が、この時代で恋人なんて作れるはずがない。いや、もちろん未来にもそういう相手はいないけど。すると、ドアが開いて、寝巻姿の願望が目の前に現れた。目が真っ赤だ。

「泣いてたんですか?」

 まさか、願望は私に恋人がいると思って、悔しくて怒ってたのか。自分にも恋人がいないのに、助手にいるなんて、とか。しかも、泣くほど悔しかったのか。

「じゃあ、昨日はなんで」

 願望が恨みがましい口調で言う。

「それは」

 私はソファに置いた私の鞄に目をやる。鋭い目でにらむ願望を牽制しながら、鞄まで辿り着くと、中から綺麗に包装された箱を取り出した。

「これです」

 昨日、願望の高校時代の同級生の胡夏さんからメールが届いて、急いで用意したものだ。彼女とは一度しか会ったことは無いが、いつかもっと昔の願望の話を聞くために連絡先を交換していたのだ。

「今日、誕生日なんですよね。胡夏さんに聞きました」

 そう言いながら、プレゼントを願望に手渡す。彼は呆然とそれを受け取った。この嘘は実はかなり苦しいので、あまり余計なことは言わないようにする。

「そ、そうか」

 しばらくしてから、なんとか願望が口を開く。この様子なら大丈夫そうだ。

「開けてもいいか」

「どうぞ」

 願望は細くしなやかな指で几帳面に包装を剥いで箱を開け、中から山吹色のマフラーを取り出した。そして、しばらく見つめた後、嬉しそうに早速首に巻いた。きっと、私がはしゃいでいるのを見つめている時の願望たちはこんな気持ちなんだろう。

「いや、しかし、そうか、まあ、うん。さすが僕の助手だな」

 あまり褒められた気はしないけど、褒められていると思うことにしよう。

「何か僕に言うことがあるんじゃないか?」

 マフラーを巻いたまま、両手を大きく広げた願望が急に変なことを言う。特に言いたいことは無い。私が戸惑って沈黙していると、願望がソワソワし出す。何を期待しているんだろう。

「あ」

 気付いて、思わず声が出た。

「お誕生日おめでとうございます」

 それとも「メリークリスマス」だったかな。願望は目に見えてがっくりとしていた。やっぱり「メリークリスマス」の方だったか。

 その後、ヤマモト君がケーキを買って帰って来たので、その日はちょっとしたパーティーになりました。その様子は、先に昨日の事件について書かないといけないので、書けません。






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