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自作小説倶楽部 第5冊/2012年下半期(第25-30集)  作者: 自作小説倶楽部
第29集(2012年11月)/「冬支度」&「ストーブ」
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2  レーグル 著  冬支度 「作戦名 『炬燵からの脱出』」

「ヒーローになりたいかい?」

 もう冬と言っても差支えない寒空の下、頭から水を被ったようにびしょ濡れの少年に声を掛けた。今の私は全身タイツの正義のヒーローで、これからは彼がそれになる。少年は顔を上げて、目を見開いた。

 この少年の名前は大久保光太郎。年齢は十七歳。何日か彼のことを観察していたのだが、正義感が強く、自分の身を顧みず他人を助ける勇気を持っている。発泡スチロールの箱に乗せられ川を流れる子犬を助けようと川に飛び込んだのを見て、私は彼に決めた。



 世間は今まさに伝記ブーム。

 商業利用が許可されたタイムマシンで、過去の偉人に『実際に』密着して書かれた伝記が大ヒット中。作家志望だった私にもチャンスが巡って来た。

 私は世界を救った偉人、高畑願望のぞみの伝記を書くため、二十一世紀後半の日本に移動し、美木と名乗り、未来の技術を使って、彼の研究所に助手として潜入した。しかし、彼はなんと世界征服を企んでいたのだ。最初はおかしな発明をするだけだったのだが、最近は発明品と一緒に街に出るようになり、私はそれを渋々未来の技術を使って阻止していた。


「街行く一般市民よ。恐怖するがいい」

 願望が冬用の厚手のマスクを被ったまま、大きな声で呼びかけた。隣に居るのはヤマモト君と私、そして、今回の怪人、龍艦ドラゴンシップだ。今回の怪人は金色の鱗に覆われており、西洋のドラゴンをベースにしているのだと思うが、大きな翼と胴体部分にはメタリックな装飾があり、半分機械のようだ。そこらへんが『シップ』要素なんだろうか。

「この龍艦は、インフルエンザウイルスを撒き散らす怪人だ。お前ら全員を寝込ませて、都市機能を麻痺させてやる」

 こんな機能が本当にあったら色々な意味でかなりの恐怖なので、ウイルスを入れておく容器には、代わりにりんごのフレーバーを入れておきました。

「そこまでだっ!ドクターガンボー!」

 そして、そこに現れたのは正義のヒーロー、ジャスティストラベラー。格好良くポーズを決めて登場。中の人が違うと、ここまで違う。

「なんかいつもより気合いが入っているな。まあ、いい。まずはお前を風邪にして、障害を排除してやる。布団の中で、我々が世界征服をするのを震えながら見ているがいい」

「ジャスティスパンチ!」

 龍艦がジャスティストラベラーの方に顔を向けると、ほぼ同時にジャスティストラベラーが拳を突き出す。すると、私たち全員が宙に浮かび、遥か上空へと吹き飛ばされてしまった。ジャスティストラベラーのスーツ表面には次元間エネルギー活用装置がオン状態で機能していて、どんな攻撃も効かないし、軽いパンチでコンクリートや硬い金属でも破壊出来る。ただ、安全装置で生命体を殺傷したりは出来ないので、こんな感じです。

「くそ。またしても負けた」

 願望がヤマモト君の足にしがみつきながら悪態を吐いた。どうやって助かってるのかと思ったら、ヤマモト君に反重力機能なんてあったのか。右手には私、左手で龍艦を掴み、ヤマモト君はゆっくり地面へと降りた。



 彼が世界を救うまで、あと七ヶ月。



 都市規模でサーモコントロールが行われる未来で育った私には、四季のある日本と言う国はとても魅力的だ。中でも、四季の変化に対する人々の対策がとても興味深い。春から秋までの衣替えは、それはそれで面白かったが、冬への備えはまた違うものだった。

「今年からは三人だから、これを使うことにした」

 そう言って願望がリビングの中央に置いたのは、いつものおかしな発明ではなく、まともな市販品だ。

「これが炬燵ですか」

 私がおもむろに炬燵布団をめくる。そして、それを二人がニコニコと見つめる。その視線に気付いた私が睨むと、慌てて視線を逸らす。反応まで含めて予想通りだから、別に気にすることじゃない。

「抵抗に電気を流して熱を発生させるんですね」

 原始的で無駄が多い気がする。

「流石の僕でも、これに手を加えようとは思わないな」

 願望がコードを電源に繋ぎ、スイッチを入れた。炬燵の熱源が赤く光る。暖かそうだ。私がめくっているのと反対側に願望が入り、ヤマモト君がみかんを持ってきた。私も炬燵に入り、暖かくなるまでなんとなく三人無言で座っていた。



 脇に抱えた子犬が小さく鳴いたので、地面に下ろした。

「ジャスティストラベラーって、本当にヒーローだったんだ」

 光太郎が呟く。ドクターガンボーとジャスティストラベラーの戦いは、一般人には映画か何かの撮影か、どこかの企業のプロモーションイベントだと思われているらしい。私としてもその認識はありがたかったが、願望に不審に思われては困る。そのため私は手頃な人間に未来の技術の一部を貸与し、仕事を手伝ってもらうことにしたのだ。

「もちろんさ。早速本題に移りたいが、実は君にヒーローになって欲しい」

「え?」

 あまりに驚いたのか、彼がくしゃみをする。

「詳しい話は、また後にしよう。その格好のままじゃ風邪を引いてしまうからね」

 私と彼は連絡先を交換して別れた。その日のうちに彼から連絡があり、私は適当に事情を捏造して、彼を新しい『ジャスティストラベラー』に仕立てることに成功したのだった。



「あ、あったかくなってきた」

 これで冬支度も終わり。今日は光太郎がどんなジャスティストラベラーをするのか不安で願望たちに付いて行ったが、あの様子なら大丈夫そうだ。これからは二人が出かけている間、この炬燵を独占することにしよう。

「これで安心して冬を迎えられますね」

 寒さなんて感じないヤマモト君がそう言うが、まだまだ秋だ。私は剥いたみかんを口の中でじっくり味わう。

「食べ過ぎないか心配だ」

 願望が私の手元を見てぼやくが、無視する。その後、願望とヤマモト君が私の剥いたみかんの皮が何に見えるか話しているのを、私は黙って聞いていた。

 そろそろ眠くなってきたし、原稿は書けません。


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