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自作小説倶楽部 第5冊/2012年下半期(第25-30集)  作者: 自作小説倶楽部
第29集(2012年11月)/「冬支度」&「ストーブ」
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1 奄美剣星 著  ストーブ 『隻眼の兎の憂鬱』

 南欧風の尖がり屋根の住宅街は、港から坂道を登ったところにある。ポプラ並木の葉がようやく散りだした。白いリムージンが、そこを登っていた。


 ハンドルを握る魔界王子ダリウスは考えた。有栖川ミカをわがものとするために、これまでに失敗した理由というものを……。そうだ、隻眼の兎ギルガメッシュとサーベルタイガー・エンキドウが、彼女に防御アイテムを預けているからではないか。


「そうだ。奴らを始末しなくては――どうして、こんな単純なことに気づかなかったんだ」白いタキシードをきた、耳の尖った青年は、ほくそ笑むと、折り畳み式の携帯電話を開いた。



 一五八二年六月二十一日(天正十年六月二日)。


 古都の一隅に堀一重を巡らした寺院があり、ある男が共三十名とともに宿泊していた。夜である。そこを数万のかがり火を持った軍団が襲い掛かった。



 ――敵は本能寺にあり。



 織田家は、天下の半ばを制してはいたが、まだ四海平定されたわけではない。下剋上の風潮がいまだ残っていた。将領たちが、遠地四方に散っているため、中央が真空地帯になった。丹波攻めを命じられていた麾下の明智軍三万が、京都・本能寺に押し寄せた。


 寺には寺号のほかに山号というものがあるのだがこの寺にはない。平地にあるからだろうか。山門でないところの寺門を、明智勢は、周囲を取り囲み、山門を突き破って突入してきた。


 織田家の共の者たちに、助かろうという者はいなかった。主従が寝間着姿で応戦していた。戦国の作法である。家臣たちは信長が自害するときを稼いだ。


「蘭丸か、用意ができたのだな?」


「御意」小姓がうなづいた。


 ひとしきり弓矢を射て、信長が、寝室に戻ると、部屋に火薬を詰めた壺がいくつか置かれていた。火のついた燈明皿をそこに落とした。


 轟音が鳴り、屋根が吹っ飛ぶ。


 声がした。若い男のものだ。

 


 ――召喚!





 「――というわけで、『彼』もまた、わが家にやってきました」ショートカットの女子高生が、二階に昇っていった。


「皆さん、午後の紅茶のお時間ですよお」


 有栖川家の二階にゆく踊り場には、部屋が増築されていた。時空警察が準備した、異空間ポケット、と呼ぶような仮設部屋である。そこには、時空の狭間の迷い子たちが、預けられていた。


 先客である、チョビ髭の総統閣下と、冬でもランニングシャツとリュックサックを背負った画家が降りてきた。


"Oder Newcomer namens Nobunaga. "(新入りは信長というのか)


「ふ、二人きたんだな。若いほうが蘭丸っていうんだな」


 午後の紅茶の時間、リビングに戻ってくると、隻眼の兎とサーベルタイガーが、有栖川夫人の手作りモンブランケーキを食べているところだった。


 口髭の父親がストーブを引っ張り出してきてつけた。


「いやあ、エアコンが故障してしまって、今日は代わりにストーブです。ささ、鍋で温めた牛乳瓶をお取りください。ケーキに牛乳というのもオツなものですよ」


 中学生の弟・剛志は興奮していた。


「すんげえ。ナマ信長、蘭丸つき!」


 紅茶のあとは麻雀大会になった。山下清画伯、ヒトラー総統、信長と蘭丸の主従の対局だ。背後では、兎と虎がポーズをとっている。お宝ショットを撮影したのはママだった。


「変、うちの家族絶対変」女子高生の長女はつぶやいた。


 同家の外の路上には、白いリムージンが停まっていた。運転している耳の尖った青年が携帯にむかって怒鳴っている。


「召喚管理局長をだせ。有栖川姫奪取のため、魔王召喚を要請したはずだ」


(王子、『第六天魔王(信長)』を送り届けたはずですよ」


「ふざけるな。しかもむこうについてしまった」


(それはしょうがない。時空警察が介入したんだから――)


「罷免だ。クビだ。おまえなんか天国送りだ!」


(お、おやめください。そればかりは――)


 王子の携帯電話にはXボタンがついている。そこを押す。受話器のむこうから、ポム、と小さな爆発音がした。魔界王子ダリウスの野望、またしても、失敗。



 (了)


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