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自作小説倶楽部 第5冊/2012年下半期(第25-30集)  作者: 自作小説倶楽部
第28集(2012年10月)/「温泉」&「寄り道」
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6 パールくん 著  温泉  『干支が露天風呂じゃないし』

ここは、南国リゾートホテルのプール。


その年の干支の神が、いちねん浸かって世の幸せを願う・・・


って、違う違う!


それは、干支の露天風呂のほう。


今回は、まだ順番が巡っていない干支の神の休日のはなし・・・






満天の星の下、昼間あんなに熱かった木のデッキは、しっとりと冷たい。


戌之介はビーチサンダルを脱ぎ捨てると、ガーデンプールのプールサイドに裸足で降りた。


先程から不愉快な声をたてる携帯を耳にあて、眉間にシワを寄せながら。


このホテルは【くつろぎの四次元空間】というキャッチフレーズで宣伝されている。


しかし、本当に異次元世界と繋がっていることは、人間は知らない。


全室オーシャンビューの豪華な作りで、1階ロビーからテラスにでると、青い正方形のプールが見え、椰子の並木のむこうには、真っ白い砂のプライベートビーチがある。


プールサイドへ降り、手前の低い位置からビーチを見ると、まるでプールと海がつながっているような開放感と壮大さが味わえる。


夜になると、プールまわりに等間隔に配置された篝火が、同じ数用意されたラウンジャーのフランス製の白い生地を艶やかに染める。


「ええ、わかりましたから。なんとかします」


携帯を切り軽く溜息をつきながら、戌之介は近くのラウンジャーに腰をおろし、リクライニングを倒すと空を見上げた。


篝火とホテルの照明で星が見えない。


両手を双眼鏡のように顔に当て、星空を覗きこむ。


途端に星の数は増え、戌之介は上よりも、もっと上の空を見ようと反り返る。


「くすくすくす」


双眼鏡の中に、グリーンのハイビスカスが入ってきた。


「アナタ、面白い格好よ」


グリーンのハイビスカスは、妻のパレオの柄だった。


色の白い長身に、長い黒髪と印象的な青い瞳は、故郷の寒い国のように閉じた印象だが、今夜の妻は違っていた。


これでもか、というくらいのリゾートファッション。


夜でも、ビキニに上からパレオを纏った姿だ。


「もう、お電話終わったの?はい、これ。そこのバーで、部屋付けで頼んじゃったわ」


妻はホテル1階のプールサイドに面しているバーを振り返り、肩をすくめた。


戌之介は、彼女が持ってきたコッテコテの南国カクテルを受け取ると、ありがとうと苦笑した。


「子供たちは?」


「ベッドに入るなり、爆睡よ。昼間、あんなに暴れてたんだから」


「はは。だろうな」


三つ子の息子たちは、昼間のほとんどの時間をプールとビーチの往復に費やしていた。


じゃれあい、喧嘩し、大暴れだ。


やっと訪れた、大人の時間。


妻も隣のラウンジャーでくつろぎながら、甘いカクテルを堪能している。


祝言をあげて以来、一番はしゃいだ姿だろう。


なんせ、彼女にとって、生まれて初めての南国のバカンスなのだから。


先程からバーの金髪のバーテンダーが、チラチラ妻を盗み見ているが、戌之介が一瞥すると、彼は奥に引っ込んだようだ。


他に人気はない。


「さっきの電話は、巳妃のばあさんからだ」


「巳年の娘さんだっけ」


「ああ、孫が龍五郎にたぶらかされてるとか言っててな。次の交代がちょっと厄介だ」


まだ若い巳年の娘が、辰年の大男に片思いしているだけのようだが、最近妙に色気づいたと、ばあさんが騒ぎ、気をもんでいるという。


戌年の戌之介には本来関係のない話だが、干支の神は順番に世話役をしている。


今回のひとまわりは、戌之介の順だ。


支障なく交代できるように。


争いのないように。


そして、交わりのないように。


「やっぱり、家柄が違うと、惚れた腫れたはご法度?」


「ああ、種族が違う」


「かわいそう・・・」


プールの水面は動かない。


しかし、水が動いているのがわかるのは、篝火の光が映る上を泡がゆっくりと通り過ぎるから。


ふたりは黙って、夜の風を味わう。


遠くの海、水平線にひとつの光。


漆黒のビーチは、光が届かず、それは、存在しないのと同じ事。


椰子の並木の狭間から刺す、異形の視線。


存在しない場所からは、存在しないはずのイキモノが湧く。


途切れない弦の音色にヤモリの声、カチャカチャと食器を片付ける音が、ここを人の世に保っている。


真夜中になれば、異界の宴が始まるのだろう。


「アナタ・・・ねぇ、しよ?」


「え?だって、子供が寝てるじゃないか」


「ううん、お部屋じゃなくって・・・ほら」


妻が指差すのは、椰子の並木の向こう。


「あっちでか・・・よし」


戌之介はストローでカクテルを吸い上げると、グラスに引っかかっていっるパイナップルを齧り、立ち上がった。





「ああああ!店長っ!あそこにシベリアン・ハスキーがいます!!」


金髪のバーテンダーがカウンター横のガラスの壁面にへばりつきながら叫んだ。


「・・・うるさいですよ。お客様がペットを散歩させているんでしょう」


眼鏡をかけた神経質そうなもうひとりのバーテンダーが言った。


「えー、南国なのにぃー。珍しいのにー」


店長の反応の悪さに金髪はぶつぶつとしつこい。


「テラスの食器、お下げして」


「はーい。あ、もう一匹いる!ちっさ・・・豆柴・・?」


2匹の犬は、椰子の並木の奥へ消えていった。


ラウンジャーの上には、グリーンハイビスカスのパレオと男の服が、微かに夜風に揺れていた。





1月/「干支『年越し露天風呂』」9月/「秋 『干支露天風呂の秋』」の続編っぽいものになりましたw





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