4 レーグル 著 秋 「作戦名『爆発の秋』」
担当編集様へ。
私が二十一世紀に来て、半年が過ぎました。そちらとは違って、季節の移り変わりが目を、耳を、肌を楽しませてくれるこの時代は、すでに私にとって日常になりつつあります。今は夏が終わりに近づき、鳴く虫の声も変わり、少し肌寒くなってきましたが、なんでも新しいことを始めるには丁度良い時期ということで、こうしてあらためて、情報端末ではありますが、手紙を書こうとした次第です。
まずは、折角多くの候補者の中から私を選び、時空間移動の申請をして頂いたにも関わらず、原稿の一行もお送り出来なかったことについて謝罪いたします。しかし、こちらにも色々と問題がありまして、言い訳では無いのですが、添付した資料等とご一緒にご覧になって頂きたいと願います。また、具体例として、先日あった『問題』の一部始終を文章にまとめましたので、こちらもご一読していただけましたら幸いです。
資料にある通り、高畑願望は自宅を兼ねたマンション型の集合住宅の一室を拠点にして、毎日研究に勤しんでいます。はじめは私も「個人で研究所を開くなんてエリートなんだな。でも、考えてみれば世界を救う偉人なわけだし、当然か」と、その偉業を伝記に出来る喜びにうち震えていました。しかし、
「ついに、完成だ。これで世界征服に確実に一歩近付いたぞ」
「やりましたね。ノゾミさん」
「ヤマモト君。今はドクターガンボーと呼びたまえ」
という、いつものやり取りを眺める私には、当時の自分の浅はかさを恥じることしかできません。ちなみに、「ヤマモト君」と呼ばれた青年は、超高性能の人型ロボットです。詳しくは添付した資料に。
「なんなんですか。それ」
私は助手と言う立ち場から、恭しく未来の偉人に尋ねます。
「よくぞ聞いてくれた。秋と言えば芸術の秋。そしてこれが怪人『爆発太郎』だ」
願望のネーミングセンスはゼロです。詳しくは資料に。
「まさか『芸術は爆発だ』なんて言いませんよね。その怪人」
怪人は真っ白な体に翼のような両手を持っていて、頭の先がとんがり、さらにその先端に金色のアンテナのようなものが付いていました。詳しくは資料に。
「服を征するものは世界を征服する。爆発太郎はこのアンテナで芸術センスの無い服装を感知し、『爆発ビーム』を照射するのだ。すると、爆発ビームを浴びた人間の衣服は爆発し、分子レベルで分解された後、芸術性の高い服へと再構成される。なに、人体への影響は無い。次の連休には、実際に街に出て、芸術性の無い者たちを一掃してやるぞ」
これが九ヶ月後に世界を救うはずの偉人の真の姿だったのです。
特に義務はありませんが、世界を救うはずの偉人が犯罪者になっては困るので、『規則』に抵触しない形でこういった企みを潰すのが今の私の仕事になりかけています。もう一度確認したいのですが、本当にこの人物が世界を救う偉人なんでしょうか。確かに高い技術を持ってはいますが、私にはとてもそうは思えません。
「街行く一般市民よ。恐怖するがいい」
願望とアンドロイドは覆面を付けただけという、かなり雑な変装で街に出ました。詳資料。
逆に私は、容姿変換装置で完全に姿形を変え、また、次元間エネルギー活用装置の機能をオンにして、二人と対峙しました。どちらも時空間移動をする人間のみが使える機器なので簡単に説明すると、一時、私はどんな攻撃も効かず、また無限に近いエネルギーを使用できるスーパーヒーローのような存在になったわけです。どんな格好をしていたのかは、残念ながら記録していません。
「そこまでだー。ドクターガンボー」
私は願望たちを遠巻きに囲んでいた野次馬の群れをかき分け、二人の正面に出ました。
「また来たな。ジャスティストラベラー」
咄嗟に名乗ってしまっただけです。
「どこにでも現れるな。まさに正義の旅人というわけか。爆発太郎よ。ジャスティストラベラーの、あのダサい服を消し飛ばしてしまえ」
現代のスーパーヒーロー像を私なりに研究した結果です。
『スゴイ芸術性。勝テナイ。勝テナイ』
嫌味かと思うような言葉を発しながら爆発太郎は異音を発し、そして爆発しました。被害はヤマモト君のマスクが少し破けてしまったことだけ。私が爆煙でむせていた二人を殴り飛ばすと、漫画のように空へと消えて行きました。力を上手く調整したので、着地さえきちんとすれば怪我もしないはずです。事実、次の日に会った時は、怪我一つ無く、作戦失敗を嘆いていました。
ほとんど毎日このような事の繰り返しで、とても伝記なんて書けません。草々。




