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自作小説倶楽部 第5冊/2012年下半期(第25-30集)  作者: 自作小説倶楽部
第27集(2012年9月)/「○○の秋」&「夜」
13/38

2 パールくん 著  秋 『干支露天風呂の秋』

1月/「干支『年越し露天風呂』」の続編っぽいものになりましたw



ここは干支の露天風呂。

いちねんの幸を願い、干支の神が湯に浸かる。


秋の夕焼けは、まだ熱さを残し、木々や岩の影を強くする。


いちばん影の濃い岩の間から、みいは静かに湯に足をいれた。

ゆっくり、ゆっくり。

湯の波紋が龍五郎に届かぬように。


(ほんとうは、年越しまで来ちゃいけないけど・・・)


墨のついた筆を洗ったような黒い湯は、底が見えず、ぐるりと風呂を囲んだ灰色の岩を肉色に染めている。

みいは、足で風呂の底を確かめながら、大岩の奥に静かに身を沈めた。


――きゃっきゃっ

――コラ!てめぇら静かにしやがれっ


河童の子等が騒いでいる。

龍五郎の声に、みいの胸が跳ねる。

みいは膝をかかえたまま、そっと様子を伺う。


――そこで手ぬぐいを振り回すなっ!


手ぬぐいでチャンバラする河童の子等は、龍五郎が怒るのを面白がる。


――もう怒った!


ざばっと立ち上げる龍五郎の体は引き締まり、瑞々しい。

きゃあきゃあと、河童の子等は風呂から出ると、川へ逃げた。


静けさ。


湯面にうつるのは、木の梢。

像が結ばれるまえに、また風に揺らぐ。

名前のわからない草の穂がそよぎ、枝の葉がすこし揺れる。

みいは、鼓動を抑えるように、呼吸を抑えた。

龍五郎の鼻歌が聞こえる。


ツツジの枝葉の隙間から、夕日がチラチラと輝く。

龍五郎の肩から腕が逞しく輝く。


(あの腕に抱かれたら、どんなだろう・・・)


思うとみいは、顔を赤く伏せた。

黒く細い腕で、ぎゅっと膝を寄せるが、小さな乳房はまだ固い。


(きっと、龍五郎さんは卯佐姐みたいな柔らかい女が好きだ)




みいは、そっと湯から出た。

のぼせた。

十二支でいちばん、湯に弱い。

ふらふらと、打たせ湯の東屋までくると、腰掛けた。

屋根から竹の筒がのび、紐がさがっている。

紐を引くと、湯がぼたりぼたりと落ちてくる。

はじめは冷たいから、思わず声が出た。

ぴったり閉じた太ももにたまる湯は、温泉の色。

みいには、打たせ湯が丁度いい。


(もっと長く、龍五郎さんと同じ湯に浸かっていられたらなあ)


ぼたりぼたりと、湯はみいを優しく叩く。

頭も、肩も、背も、腰も、心地良い。




露天風呂では、また河童の子等が、騒いでる。


――手ぬぐいを振り回しちゃいかん。

――きゃっきゃ・・・あれ?

――どうした?


河童の子が見ている先には

夕焼けの飛沫を纏いながら

しなやかな白い体が、ぬらぬらと輝いていた。


みいは、龍五郎と河童の子に見られたと気づき

ちろりと赤く細い舌をだすと、打たせ湯の脇の茂みに消えた。


――どうやら、一皮むけたようだな。今度の年越しが楽しみだ。



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