表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/36

32.

 氷賀香葉は道場のなかほどで内またに座ったまま、おおきく瞳をひらいて吉鷹を凝視している。

 道場にいるのがひどく似合わない、色白の華奢な姿だ。

 吉鷹はひと呼吸、間を開けた。


「辛そう? オレが?」世間一般では、むしろねたまれ、羨ましがられるほうが多い。すべてに恵まれた、と誰もが吉鷹のことを言う。

「だって昔はしーちゃんもっと楽しそうだったじゃない。たくさん友だちもいて、こんな無表情じゃなかった。

 やっぱりオレ、しーちゃんの助けになってあげたい」


 やわらかそうな唇をつきだして、長いまつげをかるく伏せる。囁く声に吸い込まれそうになり、あわてて飛び下がった。


「いや、いい。

 気持ちだけで十分。なにもしないでくれ。ぜったいに」

「そっか」


 香葉はすこしばかり気落ちしたように肩を落としたが、不意ににぱっと笑顔をつくった。

 ずり下がったコートを肩にかけなおして、「じゃあね」と大きく腕をふり、去っていく。


 たぶん、これが見納めだ。

 安堵しながらも、すこしばかりさみしさも感じる。


 吉鷹は両手でほおをたたいて、気を引き締めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ