表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/36

29.

「迷惑というほどではないが、食事をしたくないらしい」

「聞いた。高遠の母さんから預かってきた」


 風呂敷をひらくと、重箱と魔法瓶がはいっていた。箱の中身は握り飯に、卵焼き、煮しめ、から揚げ、果物とありきたりだが旨そうなものばかりである。魔法瓶の中身は味噌汁だ。食欲をそそる匂いが立ち上る。


「いい、食べない」とあらがう檀のあたまを香葉は殴りつけ、強引に卵焼きをくちにおしこんだ。檀が吐き出すと、いちど自分で咀嚼して口移しでたべさせる。ごくりと喉をうごかしてのみこむまで、背をやさしい手で撫で続けていた。

 檀が握り飯を持ったまま、体をふるわせ泣きじゃくるのを、いつまでも撫でている。

 香葉に抱かれて、ようやく檀はおとなしく食事を始めた。


 あァ、そうか、と高遠檀の思考回路がおぼろげながら読めてくる。


 こんな男でも、高遠檀にとっては絶対的なヒーローだったのだ。


 香葉は檀を撫でながら口を開いた。


「高遠の母さんがお前の着替えと鞄をもって、下で待っている。結香さんが学校に連絡して、昨日の無断欠席は病欠にかえてもらった。食べたらすぐに着替えて、学校に行くんだ」

「でも」

「一彦の原稿が見つかったんだ。もうなにも心配いらない。

 お前の家はむこう。オレにはオレの人生がある」


 高遠檀は涙でぐしゃぐしゃになった顔で兄をみあげていたが、いきなり立ち上がるとひとこともしゃべらず、すべてを振り切るように道場から走って去った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ