28.
「理由は? さっきの質問とつながっているのか。お前のいちばん古い記憶はなんなんだ」
「お腹すいた……って」
「なんだ、腹がへったなら弁当を」
「ちがう。オレが覚えているのが――オレのいちばん古い記憶が、オレがお腹すいたって言って、兄さんが食べ物をもってきてくれた。オレがたべているあいだ、兄さんがずっとオレを撫でていた。
やさしい手で――、オレはガキだったからなにもわからなかった。
知らなかったんだ、どうやって兄さんが食べ物を手に入れてたかなんて」
吉鷹は言葉がのどに詰まった。香葉は幼いころから巷では有名な美少年だった、という結香の声がよみがえる。
結香が氷賀香葉の生い立ちを言っていた。母親は未婚で生活能力がなく、香葉の妹である真弓は餓死している。次の弟の檀は虐待は受けていた。だが、餓死はしていない。
いちど妹の真弓が餓死するのを目の当たりにした香葉が、弟の檀にはどうにかして食べさせていた、と容易に想像がつく。そしてその手段は――その後、香葉は保護された養護施設で性的虐待を受けて脱走後、同性愛者の氷賀香葉に買われていることから、嫌な想像がすぐ浮かぶ。
思春期まっさかりの少年には、酷すぎる記憶だ。しかも自分は高遠ファイナンスの跡取り息子で、一流進学校に通っているのに、兄のほうは小学校も卒業せずに無職のままだ。
もうオレ、一生なにも食べない、とぼろぼろと泣く檀を見下ろしながら、説得するのは無理だとあきらめた。とりあえず気絶させて病院につれていき、当人の意識がないうちに点滴を打つのが手っ取り早いと算段していると、道場に氷賀香葉がはいってきた。
ほっそりとした体にサマーコートを着、片手におおきな風呂敷包みをさげている。
正座してぼろぼろと泣いている弟を見下ろすと、その背を蹴り、「宿直室に行ったらこっちにいるって聞いたんだけど。コイツ、迷惑かけた?」と吉鷹にたずねた。




