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これはなにかの値踏みか罠か、ふかく勘ぐっても仕方がないので、「今の家にきたときだ。だからお前の兄と暮らしていた記憶はまったくない」と答えた。
「え、なに、刑事さん、兄さんと暮らしていたの」檀がさけんで、飛び起きた。涙でぐちゃぐちゃになった顔で、吉鷹を凝視する。「志摩津警部補、しまず……、って、ひょっとして鞍馬山のしーちゃん…………?」
どうやら余計なことを言ってしまったらしい。そういえば、結香になにか注意されていたっけ。結香を本気で怒らせたら、かなり面倒だ。吉鷹が失職くらいのことは平然と仕掛けてくるだろう。
表面上は無表情をとりつくろいながら、吉鷹が内心動揺しまくっているのに反比例して、檀は興奮しきってほおを赤くした。
「そっか、兄さんの友だちなんだ。だからそんなにカッコいいんだ。すごいよねえ、キャリアでイケメンでけんかも強くて、でき過ぎだと思っていたけど、兄さんの友だちなら納得だ」
「いや、それはちょっと」
「そんな謙遜しないでください。本当に志摩津警部補はすごくカッコいいです」檀はいきなり道場の床に正座をすると、体を半分に折って頭を下げた。「京都では襲撃してごめんなさい。鞍馬山のしーちゃんと知っていたら、そんなことしなかったんですけど、兄さんの過去をほじくりかえしているのかと思って。
でもぜんぜん歯が立たなかったと報告をうけています。そうですよね、さすが、鞍馬山のしーちゃんだ」
吉鷹は重い息をはいた。こいつの頭の中身はどうなっているのだろう。なぜあの兄の友人ならばカッコよくて当然なんだ? 舌先はよく回るが、もしかしたらすごい勉強馬鹿で、脳のねじがどこか歪んでいるのかもしれない。
「その件はもういいから。
とりあえずなにか食べてくれ。警察にいて衰弱されたんじゃ、大問題になる」
高遠檀は正座したまま首を振った。ひざの上でにぎりしめているこぶしに、ぼたぼたと涙をおとす。




