26.
吉鷹は弁当をひらいたが、檀は無言で首をふるだけである。吉鷹は箸をわろうとしていた手を止めた。
檀のあごをつかんで、顔をあげさせる。
はだは土色、目も充血している。一睡もしていないらしい。
「食べたくない」
乾いて、皮のめくれたくちびるで、高遠檀がつげた。
「そうか」
吉鷹は開いた自分の弁当のふたをもどすと立ち上がった。檀の襟首をつかんで、ひっぱりあげる。
なにするの、人権侵害だ、暴力で訴えてやる、と抵抗してみせるものの、声は昨日にくらべてかくだんに弱くなっている。飲まず食わずで寝ていないのだから、当然だろう。
道場につれていくと、署長が地元の少年たちをあいてに剣道の朝稽古をやっていた。
吉鷹たちをみて、すこしばかり驚いた顔をしたが、なにかを察したらしく少年たちを追い立てて道場をあけてくれた。
「精曄は文武両道がモットーだろ、武道も必須科目って聞いている。柔道、剣道、空手、なんでもいいぞ、かかってこい」
「武道の名のもとにリンチするっての、あとでマスコミにばらすから」道場の真ん中につれてこられた檀は、うでをくみ、小ばかにしきった顔でせせら笑った。顔は疲れ切っているが、それでも強気の攻撃的な姿勢は変わらないようだ。
「体動かせば、腹もすくだろう」
「前時代的な発想、野蛮だね」
「そういう家の育ちなんでね。
なんだ、しゃべってごまかして逃げる気か。あんな兄の血を引いているなら当然だな、みるからに社会からの落伍者で」
高遠檀が吉鷹につかみかかってきた。憔悴しきった顔で、目だけをぎらつかせている。やはり兄がポイントらしい。身長差にひるむことなく、吉鷹の襟をつかんで足払いをかけようとする。反撃はせずにあしらっていると、がむしゃらに足をさしこんで投げ技にもっていこうとした。予想通り柔道の基礎は習っているようだ。受け身もとれると判断して、一本背負いで床にたたきつけた。
大の字に手足をひろげ、床にのびた檀の腹がおおきく鳴った。
吉鷹はにっと笑ったが、檀は天井をみつめたまま涙を噴出させた。
「なんで泣くんだ。腹が減るのは生きているなら当然だろ。
いいかげん、意地を張らずにメシを食え。家からの差し入れが嫌なら、なにかコンビニで買ってきてやるぞ」
「いい。オレ、一生なにも食べない」
「死ぬ気か、ふざけるな。
おい、大人を困らせるのもたいがいに――」
高遠檀はこぶしを握りしめていた。顔の上で交差させ目を覆っている。かたく握られて色の変わった両手をだまって見下ろしていると、
「刑事さんのいちばん古い記憶ってなに」と唐突に檀がたずねた。




