At the Clock Tower
絶えず聞こえる歯車の音。
ときどき聞こえる鐘の音。
「この時計塔は、いつから動いているのかしらね」
彼女は楽しげに笑いながら首をかしげる。ここは時計塔。街の中心で、いつも時を刻んでる。
丁寧に整備しているから、時計塔の鼓動が途切れたことは一度だってない。
「そんなに昔のことじゃないわ」
わたしが答えると彼女は、そう、とだけ呟いて、大きくない窓から空を眺める。
その窓からは、雲ひとつない青空しか見えない。
上に行けば街を一望できるけれど、彼女には階段が辛いそうだ。
少し前まではなんでもないことと笑いながら駆け上っていたのに。
「私たちが初めて会った日も、こんな天気だったわね。なつかしいわ」
「なつかしがるほどのことじゃないでしょう、つい昨日のことのようだわ」
わたしが言うと、彼女は寂しげに微笑んだ。
ふいに、異音がきこえた。歯車がさびついてきたようだ。
ああ、はやく直さないと。この時計塔の時が止まってしまう。
「ちょっとおかしいところがあるみたい。直してくるわ」
「そう、いってらっしゃい」
寂しげに微笑んだまま手を振る彼女に見送られて、時計を直しにいく。
手早く歯車をきれいにして、あぶらを差す。
毎日こまめにやればいいだけなのだけれど、忘れてしまう。どうしてかしら。
終わったら、なにかおかしいことはないか見回りする。
「とくに異常はなさそうね」
確認して、上に向かう。
そういえば、さっきから彼女がいない。
いったいどこへ行ったのかしら。
そう思いながら階段を昇る。
「――きれいな夕焼け…」
ここからは太陽は見えないけれど、街が真っ赤に染まっている。
街のひとびとが大声を上げているのが聞こえた。
なにかのお祭りでもやっているのかしら。ここまで聞こえてくるなんて、とってもにぎやか。
ぼんやりとその様子を眺めて、下に戻る。
「…あら…?」
ふと気づけば、時計塔の鼓動が止まっていた。
どうしてかしら。はやく、はやく時計塔を直さないと。そう思ってすぐに道具を取りにいく。
この時計塔の命を守り続ける。それがわたしのなすべきことだから。
ほんとは、わかっていたの。
荒れ果てたこの街に、時を止めた時計塔を顧みるひとなんていない。
コンセプトは大人向けの童話…だったんですが、ただの意味がわからない話になってしまいました(汗
「彼女」はどうなったのか、街はいつから荒れ果てていたのか、この語り手は何者なのか。
私は私なりの答えでこの物語を書きましたが、それを説明するのはやめておきます。
読み終えた後にみなさんが感じたこと、想像したこと。それがきっと、この物語の答えです。
つたない作品ですが、最後まで読んでくださり、ありがとうございました。