光と闇の楔 ~召喚授業~
ようやく本編?に近い授業内容。
主人公に仲良し?さんが加わります。いわば学園内部での仲間になる予定です
今日は久しぶりの召喚の儀式。
といっても毎度のことながらかなり暇。
そもそも【契約】上、本当の召喚、とは言い難い。
だけどときどき掘り出し物、ともいえる存在達もいるから面白い。
…だけど、ここ最近はちょっと上層部のほうが混乱してるから…おもいっきり楽しめないかな?
…そもそも、お母様は何を考えて何をしてるんだろう??
所詮、私たちのような下っ端がわかることではないにしろ。
だけども、少しでも役に立ちたい、というのは本音。
だって私たちがいるのはすべてはお母様あってなんだから。
――ティミ心の独白。
光と闇の楔 ~召喚授業~
広い球体のような何もない部屋。
周囲にあるのは球体状の部屋に合わせていくつか設置されている座席の数々。
その中央に刻まれている何かの模様。
「はい。それでは、これより召喚の授業を開始したいとおもいます」
午前中は世界の仕組みや地理、そして神々の定義などの授業。
そして昼休みを経過して連れてこられたのがこの空間。
どうやら学校の地下に位置しているらしく、
それでも空中に明るさを保つべく術がかかっているがゆえに暗くはない。
ざわざわ。
どうやらクラス共同授業らしい。
一学年二クラスによる共同授業。
「ここは仮そめの召喚の間です」
たしかに中央に描かれている模様は召喚の魔方陣のようではあるが。
そのことにこの場にいる幾人が気づいているであろう。
「ここではみなさんに召喚、という感覚を養っていただきたいとおもいます。
みなさんは、生まれながらに人には霊力と魔力、共にあることを御存じですね?」
こくっ。
何かあったときのためにこの場には二名の付き添い教員が出向いている。
それ以外に数名の教師の姿もちらりと目にはいるが生徒達のほうに近づいてくる気配はない。
この世界にいきているすべての生命体には二つの恩恵がかけられている。
すなわち、魔力。
それは自然界における力を自分のものとして借り受けることとして発動するにあたり必要な力。
霊力。
それは生まれながらの魂が用いる力。
霊力が強いものほど肉体における【気】の活用方法も広くなる。
気、とは魂と肉体が重なり合うことにより使うことができる力の一つ。
しかしほとんどのものは当然のことながらその力を使いこなせることはできはしない。
もっとも、修行の上、その使用方法を習得することは可能ではあるが。
それは人それぞれ。
修行しても習得できないものもいれば、あっさりと習得できるものもいる。
教師の言葉にその場にいるほぼ全員の生徒がうなづく。
魔力をもっていても普通はその肉体と魂の内部に封じられているがゆえに
まず滅多と暴走することはあり得ない。
基本、術を学ぼうとするものは体内にあるその【力】を認識することからはじめてゆく。
そしてゆっくりとそれを表にだすことにより、
そして初めて精霊達に願い請うことによって初めて術として形を成す。
その方法は産まれや育ちにもよるが
生まれによっては生まれながらにそれを無意識で行える種族も存在している。
「ここでは、みなさんに召喚魔法とはどういうものかを経験していただくために
仮初めの召喚をしてもらいます」
本格的な召喚はかなりの精神力と魔力を使う。
しかし、術者とそれに呼応する存在が始めから同意していれば
そういう仮そめの召喚、という方法も可能。
「あくまでも仮初めの召喚です。ゆえに召喚呪文は比較的単純です。
みなさん、これからいう言葉を暗記してください」
「Je parais avant d'apres le contrat du gardien de moi contractez」
一人の教員から聞きなれない旋律の言葉が発せられ、
「意味は、我、契約の代行者、契約に従い我が前に姿を現したまえとなります。
召喚の正式な言霊が覚えられないのであれば、意味を現す言葉でも結構です」
次にその意味を説明する。
この世界でこの言語を正確に発音できるものはごくわずか。
しかし正確に発音することによりその威力も増す。
この言語がかつては何語だったのか知っている存在は今ではごくごく限られている。
「はい。何か質問ありますか?」
簡単な説明をしたのちにいつものようにと生徒達に問いかける。
ぐるっと生徒達を見渡しても戸惑ったような感覚しかうけない。
まあそれもいつものこと。
いつも質問があるか、ときいても戸惑うばかりでいつもは挙手すらなかった。
「はい」
そんな中、一つの手を挙げられる。
「はい。そこのあなた」
しかし今回はどうやら勇気ある生徒がいるらしい。
それゆえにそんな挙手をした生徒へと視線をむける。
「ここにいる全員が召喚するとなると時間がかかるとおもうのですけど……」
今まで気づかなかったが挙手をした生徒の髪の色はとても変わっているのがみてとれる。
銀色のような灰色のようなそれでいて白色のような、そんな髪の色。
様々な種族を視てきたがこのような髪の色は初めて目にする。
エルフ…かな?
おそらく雰囲気的にエルフ族なのかもしれない。
その発せられる雰囲気というか空気が完全に周囲となじんでいる。
そこにいるのにそこにはいない、そんな錯覚すらうけてしまう。
「そうですね。ですけどこれは大切なことなので午後からの授業はこれ一本となります。
召喚の後、儀式の終わった生徒達は
あちらで様々な召喚に関しての注意事項をうけることになります」
みれば少し離れた位置に別の教師がきており、
いつでも行動できるように準備が整っているのがみてとれる。
今回のこの目的はあくまで召喚、というわけでなく。
各自に自らの力を認識してもらうこと。
召喚はまず二の次。
自分の力を認識しないままに力を行使することは後に悲劇をうむことがある。
そのための授業。
「それでは、今から名前をいいますので、呼ばれた生徒は前にでてきてくださいね」
ざわざわざわ。
そういう教師の言葉に生徒たちのざわめきがおおきくなってゆくが、
「……う~ん……時間切れになってほしいなぁ……私にまでまわってこなければいけど……」
先ほど質問した少女がおもわずぽそり、とつぶやいた台詞は、
ざわめく生徒達の声にかき消され、当然誰の耳にも届いてなどはいない……
「はいはい。それでは開始します。みなさん、とりあえずリラックスしてくださいね。
失敗しても問題はありませんから。何が問題なのかは後に教えていきますので」
ぱんぱん。
ざわめく生徒達をおちつかせるべく、手をたたいて整列させる。
「それでは、みなさん、列に並んでください」
いわれればそれに従うより他にはない。
興味ある生徒達はこぞって早くに示された場所に並んでゆくものの、
やはり中にはゆっくりと行動しているものもいる。
やはり誰もが一番目、というのは緊張するのかどうしても尻込みしがち。
数列に並びつつも授業の行く末を見守る生徒や教師達。
「それでは、始めの人、さきほどの言葉通りに行動してください」
今回、授業で行う召喚はあくまで仮召喚。
つまりは普通ならばそれに応じた精神力などが必要とされるが、
今回のような仮召喚においてはその意思のみが優先される。
「はい。それでは魔方陣の中にはいりましたね。
ではさきほどの言葉を反復してください。判らなければ確認してくださいね」
促され、異を決して一人の生徒が魔方陣の中にと足を踏み入れる。
おっかなぴっくりしてしまうのはしかたがない。
誰しも初めての経験は戸惑いがつきもの。
ゆっくりと足をふみしめ、床に書かれている模様…すなわち、魔方陣の中央にと移動する。
そして、ゆっくりと深呼吸し、
「我、契約の代行者、契約に従い我が前に姿を現したまえ」
意味不明な旋律の言葉よりも判りやすい言葉を選択し、ゆっくりと恐る恐る言葉を発する。
が。
しぃ~ん……
言葉を発しても何も起こらない。
一番目、ということもあり成功するとはおもってはいなかったが、
やはり反応がない、というのはどうしてもうなだれてしまう。
「はいはい。自身の中の魔力をまず引き出して、それから願うように。
あと、心をこめて言葉を紡ぐことを忘れずに」
そんな生徒に対して補足説明をしている教師。
しかし、心をこめて…といわれてもよくよく意味がわからない。
「とりあえず、もう一度」
「は、はいっ」
いわれてもう一度挑戦するがやはり反応はないまま。
「どうやら心をこめての言葉が苦手なようですね。そのあたりの説明はあちらにて説明がなされます。
とりあえずあなたはあちらに移動してください。それでは、次の人」
がくっと頭をさげつつも、とりあえずぺこり、と頭をさげて
部屋の端にいる別の教師の方にと足をむける一番目の生徒。
いわれるままにとそちらのほうにと移動する。
みれば、次の生徒が同じように言葉を唱え、何もおこらないのが見て取れる。
「とりあえず、ある程度人数がたまってから教えはじめるから。それまでは瞑想、してて?」
教師にいわれ、そのいわれるままにと瞑想を開始する。
この世界においておおまかな存在達がそれぞれ独自の瞑想の仕方をこなしている。
というのもいきていゆく上で
瞑想するのとしないの、とでは確実に『自然』との繋がりがかわってくる。
そしてそれは逆をいえば生活においても生活水準をあげることにもつながるのである。
たとえば水に対して相性がよく、瞑想し水にたいしてより近くその感覚を近づけることにより、
術などつかわなくてもその水が危険かどうか、というくらいは判断できるようになる。
町の中で住まう存在はそういった特技はあまり必要とはされないが、
小さな村などで生活している存在達にとってはそれは生きてゆくための必要事項。
頭の中をからっぽにし、自分の内部を見つめるように想像をめぐらせる。
どれくらいそのようにしていたかわからないが、
「はい。それではある程度人数がたまりましたので、説明を開始しますね。
まず、あなた方は言葉を発するとき、何を基準としていますか?」
まずはそこから。
言葉に心をこめて言葉を紡ぐ、というのは簡単なようで結構難しい。
言葉、というものは簡単でそれでいて奥深いもの。
特に人づきあいの中では時におうじて虚言もまた必要となる。
生徒が十五名程度集まったことをうけて言葉に関しての授業をはじめる教師の姿。
そんな彼らの姿を端目のほうでみつつも、
「はい。それでは、次」
魔方陣の授業のほうは相変わらずそのまま授業が継続して行われている。
今のところ挑戦した生徒達はほぼ達成できていない。
それでも根気よく教える教師もまた大変といえば大変。
しばしそんなことを繰り返すうちに数刻が嘘のようにと過ぎ去ってゆく……
いったい生徒達の何名が挑戦しているであろうか。
失敗した生徒達は魔方陣からでて魔力の流れの指導をうけている様子が目にとまる。
「はい。では次」
あ、この子は確実に召喚できるな。
そんなことをふとおもう。
何しろ格好からしてもどうみても術師に違いない。
教師やディアがそう確信している最中、指摘された生徒が魔方陣の中にとはいってゆく。
「我、契約の代行者、契約に従い我が前に姿を現したまえ」
ディアがそう思っているとやはり、というべきか対象の魔方陣が淡くひかり、
魔方陣の中央にたっている人物を中心に光の柱と化してゆく。
その中においてはおそらく確実に魔方陣による召喚が成功しているのであろう。
あろうがハタメからはその様子がみえなくなっているのはどうやら仕様らしい。
…この方がたしかに助かる…けどねぇ。
そんなことをおもいつつも、やがて魔方陣の光がおさまり、先ほど言霊を唱えた生徒が歩み出る。
「はい。それでは一人目の成功者、ですね。
あなたはあちらへいって召喚についての説明をうけてください」
「はい」
召喚が成功した生徒は基本的なことができている、とみなされ、
召喚に関しての細かな注意事項を習うことになっている。
細かな注意時点、などというのは召喚、というものはいろいろなものに応用ができる。
興味本位で様々な分野に手をだせば自分の命どころか周囲にも影響を及ぼすことがある。
下手をすれば一つの村などを壊滅させる場合もありえる。
それゆえにそのあたりの注意事項などをも教えるのが教師の役目。
しばしそんな授業の進行状態をみつつも、……何となくいやな予感がして仕方がないディア。
失敗した生徒達は自らの魔力の制御がいまだによくできてない模様。
どうやら召喚の儀式はおこないたくなかったのだがそうもいってられそうになさそうである。
ゆえにため息をつかざるをえない。
そんなディアの心情は何のその、
「はい。それでは、次」
やはり、というか当然のことながらディアの順番が回ってくる。
「……やらないと、だめですか?」
「当たり前ですっ」
ダメもとで棄権したい旨を伝えたのだがいともあっさりと却下されてしまう。
「…しょうがない」
ため息まじりに魔方陣のほうへと歩き出す。
できれば参加したくなかったのだがこればかりは仕方がない。
というか参加型にしてほしかった、本当に。
そんなことを思いつつもディアはため息とともに魔方陣の内部へと足を踏み出す。
できれば参加したくなかったのだがこればかりは仕方がない。
というか参加型にしてほしかった、本当に。
そんなことを思いつつもディアはため息とともに魔方陣の内部へと足を踏み出す。
魔方陣にはいると同時、淡く輝く光が周囲に立ち込める。
「…やっぱり気づくわよねぇ~……」
思わずため息とともにつぶやくその台詞は光の洪水にのまれて誰にも聞かれてはいない……
まず、驚いたのは光の洪水。
今まで魔方陣に足を踏み入れただけで光を発生させた生徒はまずいなかった。
何となく躊躇していた理由がわかったような気がする。
たしかに今まで確実に成功させている生徒がいない以上、目立つのが嫌な性格なのであろう。
「ふむ。あの子の雰囲気がなせる技、ですかね?」
無意識のうちに自然と同化しているような生徒である。
ゆえにこそこの反応はさほど珍しくはない。
しかしここまで光が強い、というのも今まで様々な生徒を教えてきたが初めて。
この光はいわば【力】の具現化、といったようなものであり、ゆえにあまりに光が強いと、
本来ならばわかるはずの内部の様子が視られない、という欠点をもっている。
「内部の様子が視れないのはもったいないですねぇ~」
こういった始めから反応を示す場合、もともと魔方陣の中にはいった対象者が、
精霊達と何らかの繋がりをもっていることを示している。
もしかしたら元々何かの精霊と契約を交わしているのかもしれない。
「ふむ。あとから聞いてみる必要性があります、かね?」
そんなことをおもっているうちに、さらに光の洪水が輝きを増してゆく。
その神秘的なまでの光景に、
その場にいる誰もがおもわずそちらのほうをぽかんとした表情でながめている様が見て取れる。
それは幻想的、といっても過言ではない。
光の洪水は魔方陣を中心として渦を描くように周囲を舞っている。
…ここまでの反応を示す可能性としては二つ。
魔方陣の中に入った少女が精霊としごく相性がいいか、
はたまたその相性がゆえにこの【地】の守護精霊を呼び出したか、そのどちらか。
普通の呼びかけでは、協会が契約している精霊が姿を現すことになっている。
しかしそれ以上の繋がりを持てた場合、
ごくまれにこの【地】…すなわち、王都の守護精霊が姿を現すことがある。
魔方陣召喚を担当している教師…召喚術担当教師、フィテア=ハルモニア。
彼女、フィテアがこの地に赴任してからそういった生徒をみた数は片手で足りるほど。
つまりはごく数名しか今までいなかったのも事実。
それらは大概血筋から王都の加護を得ていたがゆえに召喚されていたようではあるが……
ふむ。
あとであの子の入学許可証を確認してみますか。
もしもきちんと後ろ盾などがある場合ならば確実に書類でそのあたりのことはわかるはず。
そんなことを思っている最中、光が一気に部屋全体に広がってゆく。
あまりのまぶしさに思わず目をつむるり、次に目を開けたときには先ほどの光の洪水はどこへやら。
目の前には先ほど魔方陣の中にはいった生徒がゆっくりとでてくるのが見て取れる。
「あ、あの?とりあえず終わりましたけど……」
はっ。
出てきた生徒にいわれ、はっと意識を取り戻すフィテア。
「はい。お疲れさまでした。すばらしいですね。魔方陣があそこまで光輝くとは。
それだけ世界と意識を同調できている、という証でもあります」
いいつつもその場に残っている生徒達を見渡し、
「みなさんも今みて判りましたように。世界と意識を同調させる。
すなわち自然と心を通わせることにより小さな現象でも大きくなりえることがあります。
これらは自然とともに生活していくに従い自然と身についたりするものでもありますが……」
そこまでいって先ほどまで魔方陣の中にいた生徒にと視線をむけ、
「あれだけ光の渦ができていたのでありましたら召喚は成功した模様ですね。
中が視れなかったのが少し残念ではありますけど。
とりあえずあなたもあちらへといってください」
いいつつも、いまだに一人しかいない召喚成功者。
そんな生徒に注意事項を説明している教員のほうへと視線をむける。
「あちらで説明しているのは、予備知識担当のビブリス=ヘナメネ教師です」
「…先生。今まで先生、名前なのってませんでしたよね?」
目の前の生徒にいわれてみれば今さらながらに名乗っていなかったことを思い出す。
「そういわれればそうですね。
とりあえず教科書に書かれているので問題ない、とはおもっていましたが。
一応自己紹介しておきますね。私は召喚術を担当していますフィテア=ハルモニアといいます。
ほとんどの生徒が今教えをうけているのが、魔力霊力担当のティーケ=リューメン教師。
そして、召喚に関しての予備知識等を担当しているビブリス=ヘナメネ教師。
あと、こちらの補佐役として今回参加している教師がラケシス=パルテノーネ教師、です」
「?先生。パルテノーネ・・って、もしかしてあの、パルテノーネ家ですか!?」
そんな説明に一人の生徒が驚愕の声を漏らす。
「あの、とは何を示しているのかは大体予測はつきますが、そのおそらくはパルテノーネ家ですね」
だいたい何かしらに精通している場合、
その家名は聞かないことはまずない、というほどに有名な家名。
様々な分野に精通しており、何かあった場合、かの家系のものが出向くこともしばしば。
しかしほぼすべてにおいて一定の技能を治めていなければその家名を名乗ることはできはしない。
大体は才能がある場合、そのまま養子縁組されて家名を名乗ることになっている。
ゆえにいろいろな意味で憧れの家名、ともいえる名前である。
「今の光の洪水からしてどなたを召喚したかは予測がつきますけど。
しかし、あなた、エルフ族ですか?」
「まぁ、そんなものです。エルフ族ではないですが」
ラケシス、と紹介された教師が先ほどまで魔法陣の中にはいっていた生徒…ディアに問いかけるものの、
そんな彼の言葉に少し微笑みながら言葉を濁すディア。
確かにディアはどの種族にも属さない。
種族…という部類に入るのかすら不明である。
しかしそれをいう必要性はさらさらない。
ゆえにこそ言葉を濁す。
「とりあえずあなたは合格ですので、ビブリス教師のほうへいってください。
それでは、次なる生徒、前にでてください」
いろいろと聞きたいことはあれども今は授業の真っ最中。
ゆえに、その話しをうちきり、そのまま授業を再開する。
いまだに何やらざわめいているものの、どうやら教師の一人の家名により、
さきほどの現象はあまり詳しく触れられないことにほっとする。
そのまま、示されたとおり、
予備知識を担当している、という教師のほうへとディアは足を進めてゆく――
「ふむ。ひさしぶりに世界とのつながりが深い生徒が入ってきたようじゃな」
ディアが予備知識を担当している、という教師の元にいくと、
にっと笑みをうかべながらもそんなディアにとはなしかけてくる白いひげを生やしている一人の男性。
ぱっと見た目にもかなりの年齢を重ねているようにもみえなくもないが、
その体付をみてみればそこいらの軟弱な若者よりも引き締まっているのがみてとれる。
「あなた、すごいわね。術師希望なの?」
きらきらきら。
さきほど召喚を成功させた生徒がそんなディアに対して興味しんしんで問いかけてくる。
「いえ。違います。ただ私はちょっと精霊達とは相性がいいので……」
そんな生徒に対して苦笑しながらも否定の言葉を紡ぐディア。
そもそも何かを極めるためなどにここにはいったわけではない。
あくまでも旅をしていく上で
必要な身分証を必要としたためにはいっただけのディアにとってそのあたりは重要ではない。
「そっか。いいな~。私はケレス。ケレス=アストレア、よ。よろしく。あなたは?」
「私はディア。家名はないわ」
事実、家名、なんてものはない。
しいて言うならば昔呼ばれていた【アース】といった程度であろう。
もしくは、通称の【三の姉】もとい、【ブラット】。
数多な命がはぐくまれたことからつけられた名称。
しかしそれを説明する必要性はこの場においては全くない。
というかその他の存在に対しても説明する理由はさらさらない。
「アストレア家、といえばたしか精霊術で有名な、あの?」
たしか彼らは火の王と契約をしているともっぱら有名。
事実、彼らの家系は主に火の術を得意としているらしいが。
「まあね。ここを卒業したら私は火の精霊王様の試練をうけて儀式を行うことになってるの」
「ふ…ふ~ん……」
儀式、と聞いて思わずどう反応していいのか戸惑ってしまう。
…まあ、【人】相手にさほど無理難題はおしつけないとは思うが…かの性格はかなり気まぐれ。
それがわかっているからこそ戸惑わずにはいられない。
しかしそれを知っている、と知られてもまた面倒。
ゆえにこそ言葉を濁すしかない。
「まあ、同級生同士の交流は後からゆっくりとしてもらうとして。
とりあえず、ちょうどいい機会なので精霊達についての説明にはいりますぞ?」
そんなディアとケレスの会話を遮り、
にこやかに笑みを浮かべつつも教師であるビブリスが会話に割ってはいってくる。
「この王都の守護精霊のことは知っておるかの?お穣ちゃん達?」
「はい。この王都の守護精霊は、ティミ様です」
各、主要といえる王都にはそれぞれ守護精霊がついている。
ここ、テミスの王都の守護精霊は、ティミ。
その守護精霊の名前をもじり、王都の名前がつけてある。
それは精霊にたいして最大限の敬意を示しているのに他ならない。
ケレスの返答に満足しうなづきつつも、
「そう。そのティミ様は主神様の導きによってこの地をおさめられている。
ティミ様がた、守護精霊様がたの保護があるがゆえにこの地は安定している、ともいえる。
もっとも、ここに住まう存在達が間違った道を歩んだ場合、
彼らは時として我らを裁く立場でもある」
世界の理に従い、生きること。
それが盟約。
それに背いた先には破滅が待ち構えている。
各個人にむけられたものから、国全体にむけられたものまで範囲は幅広い。
もっとも、小さな反抗
…すなわち、ゾルディ程度の存在が生み出される結果の行動ならば精霊達は動くことはしない。
「この大陸を守護しているのが火の精霊王、サラマンダー様じゃな。
そこのケレス嬢ちゃんもよくご存じの火の精霊王様じゃ。
精霊様方の力は強大。とはいえ強大な力をもつ精霊達の存在はさほど多くはない。
先ほどの召喚術は仮契約をしているのが精霊であるがゆえに、
協会が契約している精霊がでてくるようになっておったが。
召喚には様々な応用が必要になってくる。今からこれを説明するからの」
いいつつもこの場にいるディアとケレスの顔をみつめてふむ、とうなづき説明を開始する。
「召喚。とは文字通り、自分とは異なる力をもつ存在を自らの意思と力にて呼び出す術じゃ。
心を正しくもっていればその心に応じて正しき存在が召喚されるが、
時としてそれは破壊をもたらすものを召喚してしまうこともある。
つまり、じゃ。
自分が正しい、とおもっていてもそれがたとえ邪悪にまみれた心だった、としよう。
人、とは周囲の環境によってその善悪が分かれてしまう。
他者を殺すのがいとわないのが正義とまかりとおっている場で育ったものにとっては、
それが正義、となる。
しかしその心はたしかに当人からしてみれば正しくはあっても、世界の理からすればかけ離れておる。
ゆえに、召喚されるものは【悪意】あるもの、になってしまう」
普通にそのあたりに生きている動植物などには当てはまらない。
知力をもっている種族にのみ当てはまることがら。
普通に生きている存在にとっての絶対は弱肉強食。
そしてその繋がりは世界の繋がりを維持している。
どの存在がかけても成り立たない、世界の【理】。
しかし、【知力】をもってしまったがために、その世界の【理】を無視してしまう存在も多々といる。
かつて、人類がその果てに一度、この地を滅ぼしてしまったように。
そのときのことは今の世において【科学滅亡】として歴史上示されている。
「つまりは自分がよかれ、とおもっていても逆によくない結果を生み出すこともある。
それが心というもの。そして召喚術というものはその術者の心が確実に反映される術でもある。
先ほどのような仮契約をすでにしている存在を呼び出す術ならば問題はない。
ないが自分の力で呼び出す場合には注意が何よりも必要じゃ。ここまではわかったかの?
お穣ちゃん達?」
強い力は時としてその存在の人格すらをもむしばんでゆく。
そして周りが見えなくなり取り返しがつかなくなってしまう。
かつてはそれをとめる術をもたなかったが、
今ではそれらを食い止めるための存在が生み出されている。
しかし彼らは確実に被害がでてからでなければ動くことはしない。
彼らが動くこと、それだけで【理】の波動が乱れてしまうがゆえの行動。
こくり。
相手の言いたいことを察してうなづくケレス。
ディアもとりあえず肯定の意味でうなづいておく。
それ以上、詳しく説明するならば天界と魔界も同じような仕組みで成り立っている、ともいえる。
光があれば闇があるように、心のありようも様々な形をもっている。
だからこそ、一定量に達した場合、その力を別なものに変換して生み出されるように、
新たに【生命体】は創りなおされた。
一度、自らの中で誕生した生命達の記憶は【意思】はすべて把握している。
だからこそ、それらを元にして新たに創りなおした。
ただ、それだけのことなのだが。
それをしっている存在はかぎりなく少ない。
「さてと。では次に妖精族の召喚方法…これはまあごくごく簡単、じゃな。
妖精達に関してはそのあたりよくいるからの。
一番簡単なのは近くにいる妖精に呼びかけ、そして目的の妖精に連絡をとってもらうことじゃ」
風の妖精、花の妖精、樹の妖精…視えない存在には視えないが、
視ることができる存在はこの世界は妖精や精霊、といった存在であふれかえっているのがみとてれる。
そして視えない存在達にとってもそれは常識中の常識。
だからこそ、授業の中でも、妖精達が一般になじみがある。
として紹介されている。
そしてまた、
召喚術をつかえるほどの存在になれば視えないにしろその存在を感じることくらいはできる。
…もっとも、そんな妖精の王達はいくら一般になじみがある、とはいえ
まずお目にかかれることなどないのではあるが……
しばしそんな召喚に関しての細かな注意点や問題点、
そして要領などがケレスとディアにと説明されてゆく。
そんな最中、他の生徒達はといえば魔力等を担当しているティーケ教師より説明をうけ、
あらたに召喚の儀を行うべく挑戦を再開しているのであるが……
そんなこんなで数刻が経過していき……
結局のところ、本日の授業中に召喚術を成功させたのは、ディアとケレスの二人のみであった……
今回でてきた人物名(教師名):
召喚術担当:召喚術担当教師、フィテア=ハルモニア
召喚予備知識担当:ビブリス=ヘナメネ
魔力霊力担当:ティーケ=リューメン
臨時担当:ラケシス=パルテノーテ
総合科Aクラス所属。ケレス。ケレス=アストレア
総合科Cクラス所属。ディア(一応主人公)
今後はあとがきにて教員、そして同級生などのクラスメートの名前をだしていきたいとおもいますv
それでは、また次回にてv