光と闇の楔 ~踊らされし存在(もの)~
ひっぱるだけ引っ張って、さくっと収束する不可思議な襲撃回
まあ、彼らは所詮、あて馬、なのですよ。ええ(始めからそのつもりだし
ククル?あれ?どこかできいた?とおもったひとは、初回の初回。
ククル村での依頼、にでてきたあのククル村、です。
「…襲撃もいきなりだったが、収束もまたいきなり…としかいいようがないな……」
おもわずぽそり、と本音がもれる。
このたびのきっかけは、一体何が原因だったのか。
おそらくは、反旗組織のものたちが、表だって動き始めたのが原因なのはわかる。
しかし、彼らの組織の工作は今に始まったことではない。
むしろ世界が新たに構築された直後から彼らの組織は存在している、そうきかされている。
手元に届いた報告によれば、妖精界、精霊界共、落ち着きを見せ始めているらしい。
何でも、ロキ神の子供たちが遣わされそこに存在している【念】の全てを喰らったらしい。
シアンとて念の浄化ができないわけではない。
むしろ、黄竜にしかできない、といっても過言でない。
彼の能力は基本、悪意に染まった念を浄化し、新たな道をつなげること。
それらを核として様々な力が使えるように創られている。
それが、全ての自然を従えし黄竜、という存在の定義。
心に感情があるかぎり、どうしても、負の念、というものは発生する。
かつての地上においてはそれらの念が勝手に暴走し、
能力あるものたちにより、その念は消滅させられるか、もしくは封じられるか。
そのどちらかの道をたどっていた。
しかし、今の地上というかこの惑星においては、それらの念は一度【ゾルディ】という器を得る。
器をえることにより、それらの念の感情をよりすばやく浄化することができる。
もっとも、浄化を願う念は簡単に自らを昇華するが、
そうでないものは仲間を増やそうとする性質をもつ。
【黄竜】という存在はそういった輩の安定を保つ役割をももつ。
気になるのは、地上界において【王】の気配が完全に察知されるように解放されたこと。
その結果、どうやらハスターとショゴリそのものがかの地に降臨したらしい。
その気配をうけて、後は任せた。
とばかりに、彼らの神であるヴリトラもまたこの場からいきなりかききえたのではあるが……
「…いつになったら我は静かに休息がとれるのだろうか……」
ようやく産まれた次なる黄竜もいまだ幼い。
どうやらこの気苦労は当分続きそうである。
それをおもうと気が思い。
されど。
「…さて、意識を界の全てに溶け込ませて一気に【念】の浄化をはかるとするか……」
もしも彼らにこの地に攻め込まれでもしたら、自分はともかく、
力のない存在達はことごとく彼らに取り込まれてしまうであろう。
それは避けなければならない。
だとすれば、彼らの力の源となる【念】は今ここで完全に駆除しておいたほうが能率がよい。
あまりこの能力は自身の力の大半を使うので使いたくはないが今はそうはいってはいられない。
「しかし…生きとしいけるものに心があるかぎり、【念】は必ず絶えず発生するからな……」
そうつぶやく黄竜、シアンの声はただただ霊獣界の空気の中にとかき消えてゆく……
光と闇の楔 ~踊らされし存在~
「…って、先生!?」
バタバタと廊下に響く足音と、そしてまた、手前の扉が開く音。
向かい側の部屋の借主がもどってきたのかとおもい、部屋の扉をいきおいよくあける。
しかし、目にはいったのは総合科C組Aの担任であり、混合科目の担当でありヘスティアの姿。
混合科目、とは様々な知識をよりよく上手に組み合わせるすべを教える学科。
「たしか、ケレス=アストレアさん、でしたね。
あなた達A組は確かククル村に出向いていたのでは……」
たしか、ヘスティアの記憶では、A組の生徒達は、ククル村付近に派遣されていたはずである。
ゆえに今ここにいること…すなわち、寮にもどってきていること自体がありえないと思うのだが……
自分がディアを呼んだときにはまだ彼女達は出発していなかったとはおもう。
ゆえに、学校に伝達してディアを呼んでもらうようにいったのはほかならぬ自分。
「それが、黒い十二枚の翼をもった男性が、私たち全員をここに飛ばしたみたいなんです。
そうこうしていたら、何か外のほうで大きな音がしはじめますし……
何より、ここから出ようとしても出られないんです」
ディアに伝言をした後に、クラス全体でククル村へと移動した。
何でもその付近にゾルディが大量発生した、とのこと。
到着してすぐに、黒き服装に身をつつんだ美青年がやってきた。
いまだに何が何だかわからない。
わからないが、判っていることはただ一つ。
この寮から外にでようとしても外にでられない状態が続いている。
それは、この場にいる寮に住まう存在達の安全を考えて、ティミが施している措置なのであるが。
説明もされずにそのような状態になれば、ここにすまう存在達は不安を募らせる他はない。
この場においては、入ることは可能でも、
ティミの許可がなければ外に出ることは不可能、という状態となっている。
それゆえに、ここに入るときすんなりとヘスティアを含む、
美希、サクラ、ヘスティア、そして護衛の兵士一人とサクラが背負っているリュカ。
その五人はすんなりとこの寮の中にはいることができている。
「黒い?ああ、サタンがきてるんだ。まあ、当然といえば当然かな?」
何しろ三の意思様、アスタロト達に自身の力を込めた珠を渡してたし。
その波動を感知してやってきても不思議ではないわね。
そんなことをふとおもい、おもわずつぶやくサクラ。
「…え?あ、あの?…サタン?…それって、暁の魔王…のことではないですよね?」
何となくものすごく聞きたくはないが確認せざるをえないような気がして恐る恐る問いかける。
そんなヘスティアに対し、
「そうですけど?まあ、サタンがきたならゼウスもくるだろうし。
あ、ゼウスがくるなら、ロキ達の相手はまあ彼一人で十分か」
彼女とて、かつてのゼウスの所業を許しているわけではない。
むしろ同じ女として徹底的に処罰を!と思っている一人でもある。
「…あの?先生?というか、先生がどうしてここに?ディアに何か用ですか?
ディアはまだかえってないみたいですけど……」
どこにいっているのか、ケレスは把握していない。
たしかヘスティアが呼んで呼ばれていった、ということは知っている。
しかしあれから後、姿をみていないのが気にかかって仕方がない。
何かがあったのでは、と内心危惧しているものの、ディアに限ってそれはない。
とおもう自分もあって、常にディアが帰ってくるかどうか気にかけていたケレス。
「いえ、それは判ってるんですけど……」
ヘスティアとしても何といっていいのかわからない。
攻防、といえば攻防。
一寸先すら見えない闇の中、黒き光と白い光が交錯する。
バリバリとした音のみが真っ暗な空間の中に響き渡る。
そんな中。
ふっと突如として深遠の空間が一瞬のうちにと解除される。
自らの術の中で最高峰ともいえるその術を無とできる存在など限られている。
それゆえに。
「「…って、補佐官様!?」」
その声はほぼ同時。
予測していたその姿を視界の先にと認め、思わずさけんでいるサタン。
その姿を認め、同時に叫んでいる一人の少女と巨狼と巨蛇の三人組。
そしてまた、ある物体に対し攻撃をしばし繰り出していたロキもまたその声に気づき思わず振り向く。
なぜかぼろ布のようになっている物体はともかくとして、
その場にてハスターとショゴスと対峙していた彼らの声が思わず重なる。
今の【ディア】の姿は、いつもの認識誤差を起こすものではなく、
むしろ認識誤認がおこりうる気配となっている。
つまりは、視る存在にとってもっともありえる姿にその様子は写り込む。
それが意味すること、それすなわち……
「ロキ達だけでなく、アスタロトはまあいいとして。わざわざゼウスとサタンまでやってきてるの?
とりあえず、さて。と、久しぶり、というべきかしら?ふたりとも」
攻撃をうけ空中に浮かんでいたその体は大地にその一部をつけている状態となっている。
そんな彼ら、ハスターとショゴスにむかって話しかけるディア。
『お…おまえは…っ!?』
その気配は忘れようがない。
ゆえにディアの姿を認識し同時に叫ぶハスターとショゴス。
どうしてこのような存在がここに器という仮初めの形をえて姿を現しているのかがわからない。
しかし、自分達の力では、この存在に勝てない、ということも理解している。
彼らの心の目に移りこんだその姿は、人間の少女、の姿ではなく、
宇宙空間に浮かぶ真っ青な惑星、そのものの姿。
「アスタロト。例の珠を」
「は、はっ!」
いきなり名前を言われて、先ほど預かっていた品をディアにと手渡すアスタロト。
サタンとしては何がどうなっているのかいまだに現状についていかれない。
そもそも、どうしてここに補佐官ルシファーがいるのか、という疑問もある。
聞きたいことは多々とあるのに、
その独特の雰囲気と威圧感に圧倒されうまく言葉にならないのも事実。
「さて…と。本来ならあなた達にはもうすこし泳いでいてもらいたかったんだけど。
そうもいってはいられない状態になりかけてるから、一度また眠りについてもらうわ」
アスタロトから受け取った珠を、ふわり、とその片手のうちにとふわふわ浮かべ、
そして、次の瞬間。
「Faites un sommeil dans mon corps; un coeur de la tristesse
Il n'est pas enveloppé dans un adoucissez maintenant」
――我が体内に眠りし嘆きの心 今ひとたびの安らぎにつつまれん
ディアが周囲の空間すらをも震わせるごとくの言葉を紡いだかと思ったその刹那。
目の前にて驚愕しているのか身動きとれなくなっている二つの物体の周囲の空間がゆらり、と歪む。
『…なっ!これは…また我らを閉じ込めるというのか!?母なる意思よっ!!』
自分達の意思を残していたのもかの意思であり、そして封じたのもまたかの意思。
その本意がわからない。
だからこそ思わず叫ばずにはいられない。
「本当ならばゆっくりと、不安要素を全部吐き出させたかったんだけどね……」
それは本音。
しかし、今はそなん悠長なことはいってはいられない。
とりあえず、この太陽系内にむかってきていた偵察隊は駆逐した。
しかし、しかしである。
今、この場に次代の器がやってきているのもまた事実、なのである。
余計な不安要素はないほうがいい、というのはいくらディアとて理解している。
万が一、彼女が無意識のうちに、この地の消滅を願えばその願いどおり、
有無を言わさず、この太陽系といわず銀河系そのものは瞬く間に消滅するであろう。
それがわかっているからこその、仮初めの処置。
彼らを新たな使うにしろ、解き放つにしろ、今この問題を解決してからでも問題はない。
時がたとうとも、心ある存在達がその心に野心のような感情を抱くかぎり、
彼らのような存在はどうしても必要となってくる。
いつの日か、
まったく【ゾルディ】たる念が発生することなく日々を過ごすように生命体が発展すれば、
そのときこそ、彼らは本当の意味でその存在ごと昇華されることとなる。
しかし、今の現状はそうは問屋がおろさない。
むしろ、彼らの力をより強大にする【心】…すなわち【念】が世界には渦巻いている。
急激にその存在のありようが、何かに吸収されるごとくに奪われてゆく。
傍から見れば、それらの体が小さな粒子の光と成り果て、
ディアが手にする球体にまるで吸い込まれるかのごとくに
それらの粒子が吸い込まれていっているように垣間見える。
事実、彼らのもつ力、存在のありよう。
それらの全てが形をかえ、ディアの手にしている球体にと取り込まれていっているのだが。
『…なっ!ま…また、我らを封じ…ぁぁぁぁっっっ』
以前も目覚めたとき、このようにして封じられた。
いつも気がついたときにはいつのまにか封印から解き放たれていた。
そのときは、外部からの干渉があり解き放たれたのだ、と把握するが。
彼らを解放するためには、彼らの血族の力、その意思を引き継ぐ輩達の力が必要となる。
彼らにとってこの休息は安らぎとなるのか、それとも苦痛となるのか。
それすら今の彼らの【心】ではわからない。
ゆっくりと、だが確実に目の前の二つの物体の姿がかすんでゆき、
その姿はやがて半透明となりはて、
最後のあがきのような、それでいて哀れさを誘う悲鳴のような声をあげつつも、
やがて彼らの存在そもものが、全て球体の中にと吸い込まれてゆく。
いきなりのことで何がおこったのか理解不能。
自分達が毎回、毎回、苦労していたのが何だったのか。
とおもう光景。
「…そういえば、以前、ヤツラが表にでてきたとも、補佐官様が球体に封印していたな……」
今の今まで忘れていた。
というか、毎回、毎回、封印後、彼らがどうやって封印されたのか、
どん存在もその事実を覚えておらず、不思議にはおもってはいたが、そんなものだ。
とどこか心の中で納得しており、誰も調べようともしなかったことに思い当たる。
それらは全て【意思】より干渉をうけているがゆえのことなのだが。
彼らからしてみればそのような事実をしるはずもない。
ふとみれば、互いの組織を率いていた頭首達、であろう。
おそらくそう、と思われる物体が二つ、その場に転がっているのがみてとれる。
どうやら意識はないらしく、ぴくり、とも動かない。
しかし、その体から発している生命力からみるにあたり、どうやら死んではいないらしい。
ぽそり、とつぶやくサタンに対し、
「ルシファー様。それで、こいつらはどうしますか?」
伊達にしばらく教師と生徒、という立場でこの地で過ごしていたわけではない。
慣れ、とは怖いもので、
今、ディアから発せられている威圧感を多少のものともせずに問いかけるアスタロト。
この地にいるのは、天界と魔界の関係者のみ。
ゆえに別にその名を呼んでも差し支えはないであろう。
もっとも、王国の中においては、この名は滅多と呼ぶことはまかりならなくなっているが……
「審問官であるロトちゃん、あなたがきちんとした裁きを受けさしなさい。
このまま彼らを拘束して連れてもどってしかるべき処置を」
「はっ!」
天界においても、魔界においても、罪を犯せば必ず、審問員を通すこととなる。
その罪の大きさにより、魔界、天界とわず裁くこととなるが、
魔界の審問部はより大きな罪を裁く場でもある。
大概小さな罪などは天界でも裁かれることはあるが、ほとんどの犯罪者は魔界に送られ、
そこにて裁きをうけることとなる。
もっとも、それらの裁きを嬉々として行うとある悪魔、暗黒大公メフィストフェレスがいるのだが。
彼女自身も犯罪者を自ら死をもって裁く位置に所属している女性形体の悪魔。
彼女が主に裁くのは、なにかしらの罪を犯していたり、悪い考えを持つ者ばかり。
これまでの反旗組織のメンバーもまた、彼女の手にかかり命を落としたものも少なくない。
もっともそれらは今この場ではあまり関係ない、といえば関係ないのだが。
アシュタロスがうやうやしくお辞儀をしたその刹那、パチン、と指をならす。
それと同時、彼の足元にと今までなかった彼の影が浮かび上がり、
その影が瞬く間にと形をなす。
そこから現れる一つの人影。
「およびですか?大侯爵様」
その影は瞬く間に女性の姿を形どり、その場に膝をついて頭をたれる。
「うむ。我はこの罪人達をつれ魔界に戻る。お前はこの場のあとのことを任せる」
彼女ならば補佐官の傍にいても違和感はないであろう。
というかむしろ、彼女もまた補佐官親衛隊の一人である。
それをしっているからこその召喚。
「…はっ!…って、サタン様!?…って、えええ!?ルシファー様!?どうしてこのような場所に!?
はっ!?私、まだ今日はお風呂にはいっていませんのにっ!」
アスタロトの言葉をうけて、さらに深く頭をさげたのち、
この場に彼以外の人物がいるのに気付き、そちらに視線を向けた後、
一瞬硬直したのち、その直後おもいっきり叫ぶその女性。
どこか叫ぶ内容がずれているような気もしなくもないが、それはまあいつものこと。
「……メフィ。毎回いうけど、
召喚される前にいつもお風呂にはいろうとするのはどうか、とおもうわよ?」
おもわずそんな現れた女性…メフィストフェレスに対し苦笑まじりにいっているディア。
すでに先ほどまでこの場に満ちていた圧倒的なまでの圧迫感はどこにも感じられない。
とはいえ、いまだに全身を押しつぶすような圧迫感が周囲に満ち溢れている。
おそらく今、この場に普通の存在が介入したとすれば、その気に耐えられず、
まちがいなく気絶するか、下手をすれば死にいたるであろう。
それほどまでの威圧感。
ちなみに、彼女の基準からして、
上司であるアスタロトに呼び出しをうけるときには、身だしなみを整える程度。
さらにその上の存在、特に補佐官や側近であるサタンに呼び出されるときには、
なぜかその前に必ず全身を清めるといって長い風呂にはいって召喚に応じていたりする。
以前もアスタロトが召喚するたびにその都度風呂にはいっていたのだが、
延々としたアスタロトの説教…というか説得によりどうにかそれはやめたらしい。
ちなみに、理由は簡単。
しばらくの間、風呂にはいっても無駄だ、とおもわせるほどの仕事内容を押し付けたからに他ならない。
その結果、仕事の後に風呂にはいればいい、という考えに落ち着いた。
「では。ルシファー様、私はこの者たちを連れて尋問するために一度もどりますゆえ」
「お願いね。さて。と、サタン」
「…は、はっ!!」
いきなり名前を呼ばれ、はっと我にと戻るサタン。
聞きたいことは山とあるのに名前を言われれば言葉にならない。
というか意見することすらおこがましいほどの、圧倒的な存在感がそこにある。
「とりあえず、ここにて立ち話も何だから、町の中にはいるわよ。メフィもいらっしゃい。
それと…いまだにあのぼろ布を相手に攻撃してるあの子供たちとめてきて」
いいつつも、ちらり、といまだにころがっている何かに攻撃をしかけている三つの影。
とはいえ、元々の姿ではその巨体だけで周囲を覆い尽くしてしまいかねないがゆえに、
どうやらその姿を多少なりとも小さくしているようではあるが。
その影を視界にいれつつも、サタンにいっているディア。
「はっ!どこまでもおともいたしますっ!」
一方においては、
補佐官ルシファーに直接命令をうけた、というのもあり感極まっているメフィストフェレス。
「…あの御子様達を止められると思うのですか……」
「…どちらかといえば、私も彼らに参加したいのですけど……」
「それは好きにしていいよ?メフィ。久しぶり」
「ロキ様!相変わらずお目麗しき。お目にかかれて光栄です」
三者三様。
おもわず本音をぽそり、とつぶやくサタンに、三兄妹達に参加したい、と本音をいっているメフィスト。
そしてまた、ディアがこの場に戻ってきたことをうけいつのまにか近くによってきているロキ。
何やら多少、【混沌】、ともよべる光景がこの場においてしばし見受けられてゆく……
ざわざわ。
突如として町の周囲が暗闇にと包まれた。
しばらく真っ暗闇に包まれ、何がおこったのかわからずに混乱していた。
明るい最中、突如として真っ暗になれば人といわず誰しも不安になる、というもの。
それまで見えていたはずの空も何もみえなくなり、見上げる空はひたすらに真っ暗という現象。
街並みはかろうじて不思議と光っているのか確認することはできたものの、
町から外にでることもかなわずに、何がおこっているのか説明もされず人々の不安は増すばかり。
そんな暗闇の中で垣間見える、黒き稲妻と白き稲妻の光。
雷を扱える存在など限られている。
精霊や妖精といった存在は、雷、という属性は扱えない。
扱うことが許されているのは、悪魔、そして神々といった存在達のみ。
ありえない真っ暗な空。
そして、ありえない黒い雷。
つまり、町の外で悪魔、もしくは神々が何かしらの攻撃を仕掛けている、
というのは何となくだが理解できる。
さらにきこえてくる爆音のようなもの。
町にいつ被害が及ぶか判らない中で、人々は不安に包まれていた。
それがいつまでつづくのか。
ひたすらに暗闇の中、稲妻が光輝いていたかとおもいと、突如としてさぁっと、
まるで霧がはれるかのごとくに暗闇であったはずの空が元通りの姿にもどり、
それまで空を裂かんばかりの雷鳴もまたぴたり、と収まりをみせた。
「一体……」
茫然とししつも、町の出口を守る門番がそっと一歩そとに足を踏み出してみると、
それまで何か見えない壁に阻まれていたはずの町の外にと出ることができた。
ふと気がつけば、何やら数名の話し声が空気にのって聞こえてくる。
その内容は何をいっているのかはわからないが、
すくなくとも、数名、どうやら町の近くにいるらしい。
声のするほうへいって状況を確認したいのは山々なれど、
自分はここの門を守る役目がある。
ゆえに自らの役目と状況把握との狭間に揺れ、しばしその場にて苦悶する一人の男性。
彼がしばらく悩んでいる最中。
やがて門に近づいてくる数名の人影が目に入る。
一人はかなりの美少女、年のころは十代そこそこ、であろうか。
一人は二十代前半とみうけられる、なぜか執事服のようなものを着込んだ青年。
少女の手の中には小さな黒い犬が抱かれている。
その姿をみれば、子犬をだいた美少女であり、はっきりいってみる人がみればかなり癒される。
そしてスタイルもこれでもか!というばかりの胸とくびれた腰をもつ
なぜか露出度の高い服の上に軽く前で止める形式のローブを纏っている女性。
その横には、男女とも見惚れてしまうかのごとくの美貌をもつ青年が二人。
そしてそんな彼らの前をあるく少女の姿に見覚えが。
「…あれ?ディアちゃんじゃないかい?」
すでに幾度も町からでるたびに顔見知りなっているがゆえにその姿を見間違えるはずもない。
背後の人物達については見た記憶がさらさらないが、ディアの姿のみならば彼とて把握は可能。
「こんにちわ。マティルドさん。お仕事お疲れさまです」
見慣れた門番の姿を目にし、ぺこっと頭を軽く下げて挨拶しているディア。
そんなディアの姿をみて、背後のほうでは約二名、なぜか硬直していたりするのだが。
「まあ、仕事だからね。って町の外からやってきたってことは、さっきの異変。
ディアちゃん、何かしらないかい?いきなり町が暗闇に覆われたかとおもったら、
暗闇の中で稲妻が鳴り響くし。というかよく無事にここにまでこれたね。
後ろの人達に護衛…というか、彼らもどこからかの難民か誰かかい?」
どうみても強そうにはみえない。
見た限り、どこかの村からの避難民をディアが誘導してきた、と考えるのが無難であろう。
よもや目の前にいる人物達が、暁の魔王や邪神とよばれている存在であるなどわかるはずもない。
「そういえば、先ほどアテナが町に入っていったとおもいますけど」
とりあえずそんなマティルド、と呼んだ門番の問いかけはさらっと流し、話題を変えてといかけるディア。
「ん?ああ。彼女ならギルド学校にいくとかいってたよ?」
彼女の正体は国のもの全てに教えられていない。
彼女が女神である、としっているのは国の上層部の一部のもの、そして学校関係者のみ。
ゆえに、この門番もよもやあのアテナが戦女神その当人だとは夢にも思っていない。
「そうですか。とりあえずもう外は安全のようですよ?」
「そうなのかい?」
「ええ。ここにくるまで別に問題ありませんでしたし」
というかさくっとディアが瞬く間にカタをつけた。
それまで苦労していたアスタロト達の行動が一体何だったのか、とおもうほどに。
「まあ、あとで周辺の捜索は警備隊達にでもたのんで安全を確認してもらうとして。
それはそうと、その後ろの人達はどうするんだい?」
「とりあえず、彼らも疲れてるでしょうから、いちど私の部屋につれていって。
それから後のことはまた後のこと、ですね」
難民にしろ今後のことは国の指示を仰ぐことになるであろう。
それゆえに、ディアの言葉に納得しつつ、
「まあ、さっきまでの異変で人々も不安になって何があるかわからないからね。
あまり刺激しないようにね」
ディアならばそのあたりのことはここに住み始めてある程度はたつので理解しているであろうが、
背後の数名はおそらくこの地にくるのも初めてであろう。
ゆえに、彼らの身の安全性を高めるためにもひとまず忠告を促すマティルド。
…もっとも、彼らに対し、何かしでかそうとした者のほうが身の危険を感じるであろう。
「とりあえず、はいってもいいですか?」
「…そういえば、あの愚か者はどうします?」
「ほうっとけばいいわよ」
いまだに地面につっぷしているある存在はほうっておくことにし、さくっとサタンの言葉を返すディア。
その言葉にその場にいる他のものがうんうんと同意をみせる。
まあ、彼とてまがりなりにも雷神。
自己修復機能はついている。
あまりに目覚めないようならば、彼の妻が回収にくるであろう。
そう判断してのディアの意見。
何だかなくとなく聞くのがはばかられるような内容のような気がしつつも、
しかしここはたぶんあまり深く追求しない方がいいであろう。
そう判断し、
「ああ。かまわないよ。…さて。と、仕事にうつらせてもらおうか。
ようこそ!我がテミス王国の首都、テミスへ!」
いつものごとくに元気よく、門番の役目である歓迎の言葉をはっするマティルド。
門番とヤケに親しそうな補佐官の姿に戸惑いつつも、
とりあえず、ついてくるように、といわれた以上、それに従うより他にない。
ゆえに、いらないことはいわずにそのままディアの後についてきているサタン達。
そのまま、彼らはディアとともに、首都テミスの中へと入ってゆく――
思わせぶりにでてきた、ハスターとショゴス。
さくっとディアにより、いつものように水晶の球体の中に封印です。
ちなみに、彼らは毎回、毎回このようにして現れてはディアによって封印されてたりv
彼らが王を取り込みたい、とおもっているのもその運命から逃れたい、という思いもあるんですけどね。
まさか、意思が王だなのと彼らはいまだに理解してませんので。
まあ、自分達の器をあたえた惑星の意思がよもや王なんてものをやってる、
とは普通はおもいませんよ…ええ、普通は……
しかし、容量的にアテナの暴走、にまでいけなかったなぁ……
ちなみに、アテナとメフィスト。
んでもってリュカがでてきましたけど、彼女達のやり取りが次回に入ります。が。
ようやくここで!初回にでてきた「ロッコリ」伏線回収がっ!
な…長かったなぁ…アレを詳しく表記したのは、あのためでもあったんですけどね……
ロッコリ?何それ?ほんとのほんとの三話以内にでてきた食材さんのことですよ~