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光と闇の楔  作者:
53/74

光と闇の楔 ~真偽と邪神~

ふふふ。後半になり、一気に物語は進んでゆきます!(の予定

ちなみに、移動してきている女の子、

この作品自体が別に考えてるオリジナル話しの番外のようなものなので、

そちらの主人公になってたり(苦笑



「…あ…あぶなかったわね……」

思わずそんな声がもれたのは仕方がない。

「そもそも、亜次元起動装置なんて代物の発明。なんでほうっておいたのよ?」

しかも、その装置の原動力は、いまだに彼らの科学力では解析されていない、【真空素粒子】。

思考錯誤をしている最中、偶然にそれらを扱う術を発見した人類は、

まるで珍しいおもちゃを見つけたかのようにその効力に飛びついた。

それまでも多々と暗黒物質などといった代物は研究されていた。

宇宙の真理を突き止めるきっかけになるはずの代物。

不確定とはいえ多少扱えるようになった…かもしれないそれを利用しよう、という動きに至るまで、

さほど時間はかからなかった。

まだテスト段階であったそれは、ある人類達が数名で創り上げたプログラム。

彼らいわく【神々の悪戯】により、壊滅的な被害を受けてしまった。

あのままほうっておけば、まちがいなく、この惑星だけでなく、この太陽系、否、

この銀河そのものすらをも呑みこんでその装置は暴走してしまっていたであろう。

ゆえに、だした結論はそれらを含めて全てを【無】とすること。

彼らが粒子、と呼んでいたそれらが何たるかがわかっていたからこそできた技。

「私のところも同じようなの作りだして、文明といわずもののみごとに地上そのものが壊滅したからねぇ」

過去を思い出し、しみじみとつぶやく。

「誕生してたしか数億年経過したころだったっけ?二の姉様?」

「それをいうならこちらはこちらで大地を不毛の地にかえてしまったからねぇ。

  今のこっているのはその不毛の地で生き残った変異種達だし」

「ツァトゥグラだっけ?たしか生き残った生き物は?」

「それはその中の一つの生命体よ。生き残った種族の名称は、ツァト。

  三の姉様のところでいうならば種族は蛙?になるのかしら?」

地下に住まう性質であったがゆえか、唯一、その種族だけ生き残った。

かつての文明の名残はすでにない。

かろうじて荒廃した大地にかつて文明があった名残の遺跡が残るのみ。

「…なんで、ここ私たちのところはこうもきちんと育たないのかしら?私のせいなのかなぁ?」

こうもうまく生命が発展しないと自分の力がないのでは、と情けなくなってしまう。

「…それより。また新たな生命体の誕生を促す、としても。

  また同じようなことがおこったときのために、対処法を考えたほうがいい、とおもうの」

一番外に位置しているからこそ見えるものがある。

たしかに自主性にまかせているのもかまわない。

むしろそのほうが自然で問題はないであろう。

が、しかし、暴走を始めてしまった生命体を押しとどめることはいくら自分達とて出来ることと出来ないことがある。

「…なら、今いる私たちの力の一部を取り入れた魂を生みだして、

  いざとなったらその存在に動いてもらう、というのはどうかしら?

  三番目も面白いことをやろうとしているみたいだし」

今、三番め、もしくは三の姉、と呼ばれた女性はとある【理】を考えている。

それは自らともいえる【惑星】に関する新たな【理】であり【掟】。

「ああ、それはいいかもしれないわね。…とりあえず、その存在は私たち全員で面倒をしばらくみて、

  成長を促した後、それからどうする?」

「…う~ん、今私たちの場所にはほんと多種多様の生命体はいないし。

  そもそも、過去の記憶を元に再生させるほどの力ものこっていないし」

本来ならば自らのうちで誕生していた生命達の記憶は全て残っているがゆえに、

その気になれば同じ存在を創りだす、もしくは誕生させることは可能。

ちなみに過去、幾度か壊滅した文明を再生してみたところ同じような結果になってしまっている。

ゆえにこの方法はあまり滅多ととられることはない、あるいみ彼らにとっては最終手段。

「では、三番目に預けることにしましょう。どちらにしても多々といた生命体をひとまず保管、してるようですし」

中には他の場所に送り出した【精神体】もいるようだが。

それでも、基本的にそれまで生きていた【命】全ての【精神体】を自らのうちに保管しているのは事実。

「…大姉様、私の意見は無視、ですか?」

「当たり前です」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・了解しました」

どうやらこの決定はすでに覆らないらしい。

どちらにしても、全員を巻き込みかねなかったのは事実なので強く拒否もできない。

そもそもは自分があくまでも傍観の立場を貫いていたがゆえの結果なので文句もいえない。

「というか、それって面白そう、という思いがはいってません?」

「まあ、何ごとも挑戦よ。ね?みんな?」

『そうそう!』

「…みんなして、絶対に面白がってる……」

全員に同時にきっぱりいわれ脱力することこの上ない。


この日以後、ここ、太陽系、と呼ばれている全ての惑星群における力の一部をそそがれ、

一つの新たな【精神体】が誕生することとなる。


確かに何かあったときのため、という名目はあるが、一番の理由は、

やってみたら面白そう、という意思達の意見がまとまってしまったからに過ぎない。

――彼の本質。

そのときすでに生みだされていた一部の存在達とそして彼の魂の元ともなった【意思】達のみ……




                光と闇の楔 ~真偽と邪神~




「…これはまた、厄介だな……」

かつて、第一級神達を模倣して大騒ぎになったことがあった【神々の黄昏ラグナログ】。

効能はとても面白い、となぜか両の補佐官達が大絶賛し面白がっていたようだが。

しかし、面白いという理由で世界を大混乱に陥れたのはついこの間のように感じられる。

当時は、第一級神だけでなく第一級魔すら模倣して世界に放たれてしまった。

彼曰く、やってみたら出来た、というのだからタチがわるい。

創ってみたはいいものの、使い道がなかったので適当に世の中に放った行為は…まあ判らないくもない。

せっかく創りだしたのであり、行き場を失った幼子達の魂をそれらに組み入れたことにより、

新たな道を彼なりに迷い子達に示したかったのであろうことも何となくわかる。

が、しかし、与えた器の大きさが大きさ。

元々、迷子になっていたようなまだ自我もはっきりとしないような幼子達。

つまり…手に入れた力を面白半分に使い、それを悪い、とはおもわない存在が大多数を占めていた。

結局、あのときは【王】がそんな子供たちに新たな転生先を用意し、

確実に【家族のぬくもり】が持てるように采配し、模倣された【人造人間ホムンクルス】のようなそれらは、

それぞれの元となった存在達にと融合された。

その結果、力が元々一であったのが同じ力が加わり、倍の力を有することとなったりもしたが。

それは今ではいい思いで。

その後、あまり強い存在の【複製】をそうほいほいと創っては世界が乱れる、という補佐官の意見も手伝って、

さすがにその混乱以後、第一級の位置に所属している存在達の複製はできなくなった。

もっとも、二級以下の存在にはいまだにその効力は健在、なのだが。

「能力を四つにわけたことにより、精霊王達の実力的には第二級以下に分類されるからな……」

精霊神ならまだしも、各属性の精霊王達の存在的立場は、

彼…アスタロトのような第一級魔とは異なり、第二級精霊分野に当てはまる。

それは精霊神となった、否生みだされたユリアナが彼らの能力をさらに細かく分断し、

それぞれの眷属を創りだしたからに他ならない。

放っていた諜報によれば、精霊界では精霊王達がそんな自分達の姿を【模倣】された存在と戦い、

何やら苦戦しているらしい。

もっとも、それを乗り越えれば、彼らもまた今までもっている実力より二倍の力を得れるのだが。

自らと同じ能力、力をもつ存在と戦うことなど、彼らは滅多とない。

唯一、対抗できるとすれば、暇だから、といっては自身で分身を創りだし、

日々努力を怠っていなかった火の精霊王サラマンダーくらいであろう。

この地は自分とそしてアテナの張った結界により今のところ問題は起こっていない。

むしろ【欠片】、もしくは【ゾルディ】が発生しようとすればすぐさまその結界に反応がでる。

ふわふわと町の空中にと浮かびつつ、周囲を見渡しながらも報告をうけているアスタロト。

と。

「あれ~?なんでここにアスタロトがいるの~?」

何とも間の抜けた声がそんな彼の耳にととどいてくる。

何となく脱力しそうになるが、この声には覚えがある。

ゆえにため息ひとつつき、そちらのほうへと視線をむける。

黒い髪に紅き瞳。

少しばかりとがった耳。

背中に生えている羽は折りたためられており、服装についている飾り、とも見えなくもない。

「なんで、ではないだろう。というか、リュカ殿はどうしてこんなところへ?」

のほほんと、なぜか空をパタパタと飛んできたかとおもえば、

目の前で突如として人型になった【彼】にと問いかける。

ちなみに飛んできたときの姿は小さな羽の生えた動物のようなもの。

この世界においては一般的に【蝙蝠】と呼ばれている動物の姿だったりするのだが。

「なんでって~。主様からのお使い頼まれたんだよ~。

  とりあえず各国の代表者に伝達するように~って、

  あ、アスタロトから面倒だからここにはつたえてくれる?」

主、そう彼が呼ぶのは世界広し、といえども彼は二人…否、一人しか知らない。

彼の脳内においては確実に、光と闇の王は同一である、と認識されている。

それを確かめる手段がないだけで。

何よりも、この目の前の存在は、どちらの王も同じように呼んでいる。

さらに彼が【補佐官】と【王】が同一なのではないか、という疑念を抱きはじめたのは、

彼の言動にも由来する。

何しろ彼は、【王】のことも、【補佐官】のことも、どちらも【主】と呼んでいる。

物心ついたころから彼はすでにいたので彼もまた自分達と同じ、もしくは別な目的をもって生みだされた存在なのだろう。

そう彼なりに解釈しているのだが。

…よもや、【大異変】の最中、唯一、突然変異を起こし生き残った生命体だのどうして想像できようか。

彼が知っているだけで定期的にその器ともいえる体が変わっているようにも思えるが、

彼に以前聞けば、あきたら新たな【器】を【王】よりもらっているらしい。

…それだけでも、彼が特異な存在だ、というのが理解できる。

「…【王】より?一体……」

行方不明になってからこのかた、【王】の気配を実質感じたのは先日の【奇跡】が行使されたときのみ。

「んとね~。『今後のこともあるので、ラウフェイを目覚めさせます』だって~。

  僕としては、その名だと絶対に誰にもわからない、とはおもうんだけどね」

その名はたしか、邪神ロキの真名のはず。

ゆえにはっきりいってその名をしっているものはほぼいない。

むしろ初期に生み出された彼らくらいしか知らないであろう。

「…ロキを?」

確か、今の彼はその肉体と魂を分離して眠りについているはずである。

…もっとも、その魂が盗まれてしまい、このような事態に陥っているのだが……

「うん。『嘆きの女神』をも引きもどすから、欠片については問題なくなるっていってたよ?」

嘆きの女神。

その名がもつ意味を理解しているものもまたごくわずか。

空に浮かぶ白き月。

かつて、大異変のときに人類が起こした混乱により一時期は消滅してしまったかつての【月】。

しかしその【月】も【意思】の力により、再生を果たし、今では空に二つの月が浮かんでいる。

「…なるほど。【月の抱擁】を目覚めさせる…か。…わざわざ【王】が動いたわけは?」

わざわざそのようなことをしなくても、以前のようにその力を発揮すればあっさりと解決するであろうに。

わざわざ彼らを今まで自力で目覚めるのをまつ、といってほうっておいたその真意がわからない。

「それは僕の口からは何ともいえないよ~?んじゃ、そういうことなんで。

  あ、でも欠片のほうはどうにかなっても【悪夢】のほうはどうにもならないからね~」

悪夢。

それは今現在、じわじわと、しかし確実に世界に氾濫しつつある【ゾルディ】の事だと瞬時に理解する。

いいたいことだけいい、バイバイ、とばかりに軽く手を振り。

次の瞬間、ぽんっという音とともにその姿は突如として再び変化し。

そのままその場を飛び去ってゆく黒き影。

そんな彼の後ろ姿を見送りつつも、

「…どうやら、王が動いた、ということは、今回の組織以外にも何かおこっているのか?」

彼の本質をしっているがゆえにそう疑念を抱かずはおられない。

すなわち…この【世界】だけでは対処できない【何か】が起こっているのではないか。

未来予知をも得意とするアスタロトであるからして自分の直感にはかなりの自信をもっている。

「…なんか、ここ最近は、毎日が充実してるような気がするな……」

常に何ごともない日々が数百年以上続けば毎日が平凡で、少し休めばかるく千年経過していた。

ということもすくなくなかった。

しかし、最近はほんの数カ月に満たない間に様々なことがおこり、

何となくではあるが、自分は確かに生きている、というのをより強く実感する。

そしてふと、

「…そういえば、リュカ殿は王の命令でたしか反旗組織に間者としてはいりこんでたんじゃあ?」

…しまった。

詳しくあちら側の動向を聞けばよかった。

そうは思うが後の祭り。

どちらにしろ、

「…【月の抱擁】と【連立のラウフェイ】が目覚める…か。

  …あいつらの怒り、おさまってるのか?」

まずそこに疑問がいく。

自力で目覚めたのでないのならば、その怒りはいまだに健在、という可能性は高い。

「…ま、いざとなれば、ゼウスとオーディンのやつを生贄にさしだせばいいか」

そもそもの発端はあの二人なのだ。

自分達には関係ない。

当人達が聞けば薄情ともいえるような台詞をその場にてつぶやくアスタロト。

しかし彼は悪魔の中の悪魔、大侯爵アスタロト。

自分の犯した過ちは自分で償え。

それは悪魔全体におけるあるいみ共通した認識。

…その考えは、かつてのことを知っている存在からすれば、

まちがいなく、アスタロトの考えに同意するであろう。

時が経過しようと、いまだにあまり反省していない彼らにとっては自業自得、といえるのだから……




「母上!?」

目の前の光景が信じられない。

どくん、と確かに自らの体内にて鼓動を感じた。

次の瞬間、目の前の空間が歪んだかとおもうと、そこに現れた二つの影。

その一つの姿を目にして信じられないとばかりに驚愕の瞳を見開き思わず叫ぶ。

その巨大なる体もまた驚愕に震えているのが垣間見え、

巨大な体ゆえに震えに合わせて周囲の【海】もまた振動している。

「…ヨル?」

最後にあったのは自分が家を出かけていったあの日だったとおもう。

あの当時はかなり小さな子供だったというのに、目の前の彼の姿は見渡せど全体が見通せない。

だけども、子供を判らない親はいない。

記憶の中の愛し子よりも大きくなってはいるものの、我が子を見間違えるはずはない。

「ふ…ふええええっん」

今まで我慢していた心が、ぷつっと母の姿と、そして懐かしい声をきいたとたんにぷつり、と切れた。

鳴き声は超音波となり、周囲の空間をゆらしてゆく。

「え?え?ちょ、ちょっと、ヨルちゃん!?」

目の前でいきなり巨大な蛇が泣き始めれば動揺もする、というもの。

ましてやそれが記憶の中では一番甘えっ子だった末っ子ならばなおさらに。

さらりと伸びた身長よりも長い黒い髪。

金色の瞳が宿す光はどこまでも優しく温かい。

しかし、永きにわたり一人で母をまもっていた彼のうれし涙ともいえるその声はおさまる気配をまったくみせない。

「ごめん。ごめんなさいね。ヨルちゃん……」

そんな末っ子が泣く様子をただただなだめるしかできない自分がもどかしい。

しかしそれ以上どうすればいいのかもわからない。

子供たちを残して自らの心に閉じこもったのは間違いなく自分。

責められはすれども、泣かれる、というこの行為はさすがに精神上よろしくない。

「あ~。まあ、ヨルちゃんは図体は大きくなったけどいまだに甘えん坊のままで育ってるからねぇ」


基本的に、父と母が眠りについたあのときから、三兄弟の性格はさほどかわっていない。

強いていえばしたたかになったくらいであろう。

それぞれが話しあい、別々の場所で両親を守ることにきめた彼ら達。

あれからいったいどれくらいの時が経過したのかすでに彼らもよく覚えていない。

ただ、毎日、毎日、いつか両親が目覚め、かつての家族団らんを取り戻す。

それが彼らが頑張れた心の支え。

泣きやまない末っ子であるヨルムンガルド。

なぜかいまだに、長女と次男はどちらが姉か兄かでもめているようだが。

実際問題として、確かに同時に誕生したのは事実なのだがそれでもめる、というのも変わっている。

次男もまた姉と呼び、長女もまた兄と呼ぶ。

どちらでもいいじゃないか、とは長男談。

しばし界を隔てている【門】のある空間にて、何ともいえない悲鳴のようなそれでいて切ないような、

そんな【声】が響き渡ってゆく……




「……アル?」

永い夢をみていた。

自分が許せなくて、どうしようもなくて。

結果として世界を巻き込んだ戦いになってしまったが後悔はない。

後悔があるとすれば、残された子供たちと、眠りについてしまった愛する人のこと。

口元に温かな懐かしい感覚を感じ、意識が浮上した。

ゆっくりと分かれていた魂と肉体が融合するのを感じ、開いたその目に映ったのは、

何よりも愛しき存在。

「お…お父さん!?」

いきなり母が訪ねてきたのにも驚いた。

だけどもようやく目覚めてくれたのだ、と喜びのほうが強かった。

「父上!?」

「お父様っ!!」

目の前の出来事が信じられず、思わず目を丸くする。

それはその場にいる三人とて同じこと。

本来の姿だと移動に差し触りがある、というのでそれぞれが一応姿は変えている。

「…というか、我々がいくらやっても両親とも目覚めなかったのに……」

おもわず愚痴をぽそっとつぶやく目の前の小さな黒犬の言葉は何も責められるものではない。

何しろこれまで散々、三人で両親が目覚めないかいろいろと手をつくしたというのに。

まったくもって目覚める傾向はなかった。

それが母の接吻一つで目覚めるとは……

何となく脱力してしまう気持ちもわからなくもない。

目覚めた母とともに、この場にやってきたのは、その姿を小さな蛇にと変えたヨルムンガルドと、

そして母が目覚めた、という報告をうけここ、氷の大地にとやってきているヘル。

確かに欠片の回収も大事なれど、彼女達にとって最も大切なのは両親に他ならない。

しかも、自分達が集めていた欠片もまた、父が目覚めると同時に瞬く間に同化、吸収された。

元々、この地にて父の器である肉体をまもっていた長男であり巨狼であるフェンリルとすれば、

その思いもひとしお。

何しろずっとこの氷の大地で父の体を守っていた。

妹は冥界にて父の魂を、そして弟は母を。

いつかは目覚めるであろう、両親を協力してずっと守ってきていた。

その両親が今…ずっと願っていた何よりも愛する両親が今、目の前にたしかに存在している。

声にならない、とはこういうのをいうのであろう。

が、長男であるフェンリルからしてみれば、目覚めの方法も父らしいというか何というか。

昔から両親の仲の良さは嫌でも見知っていたが…久しぶりにみれば何となく脱力してしまう。

「…ごめんなさい。ごめんなさい。ラウ……」

「アル…僕のほうこそ、ごめん。君を守りきれなくて…」

「ううん、私のほうこそ……」

・・・・・・・・・・・・

何やら子供たちそっちのけで二人の世界に入り始めているこの二人。

永き時を眠りについていたとはいえどうやら基本的な性格はまったくもってかわっていないらしい。

「あ~。こほん。二人とも、とりあえず、二人の世界に入るのは後にしてくれるかしら?」

そんな二人に対し呆れた口調でいいつつも、その声そのものには優しさがにじみ出ている。

「…って、三の意思様!?」

「…あ、す、すいません……」

その場にいる人物が【誰】かに気づき、思わず叫ぶラウ、と呼ばれし男性とは対照的に、

顔を真っ赤にして謝っている女性。

「とりあえず、久しぶり。というべきかしら?ロキ。とりあえず緊急事態がおこったので、

  本当ならばあなた達の自主性にまかせて目覚めを待つつもりだったけど。

  そうはいっていられなくなったから、二人には強制的に目覚めてもらったわ」

そんな二人に対し、にこやかに語りかける。

「…緊急事態?…この恒星群に何かがあったんですか?」

というか、どうして各地で自分の波動を感じるのだろう。

それもまた気にかかる。

「?恒星?お父さん?」

きょん、とその意味がわからずに首をかしげる黒い子犬に、

「うっうっ。父上と母上が目覚めた…うわぁぁっん!」

「…ヨル。あなた、相変わらず泣き虫ね……」

小さなヘビの状態でその身をくねくねとくねらせて泣いている様はあるいみかわいらしい。

そんな【彼】にと冷静にそれでいて苦笑しつつもいっている少女。

「フェンリルに、ヘルにそれにヨルムンガルド?…どうして愛しいお前達三人が全員ここに?」

彼らがここにいるのがいまだによく理解できない。

というか多少いまだに頭の中にカスミがかかったような気がするのは、彼の気のせいか。

「フェイ。それは子供たちには酷、というものよ?この子達はあなた達のことをずっと心配していたんだから」

事実。

両親が眠りについてこのかた、彼らはひたすらに両親を守っていた。

それぞれが孤独になりながらも、両親を守ることを何よりも優先事項にし。

「…三の意思様。その…僕が眠ってからいったいどれほどの時が経過してるのでしょうか?」

「そんなことより。とりあえず今の現状を説明するわね」

地球時間の経過の説明よりも、今は何よりも現状を説明するのが先決。


しばし、三の意思とよばれし少女…ディアによる、フェイ、と呼ばれた青年。

災厄の三兄妹、と呼ばれし彼らの父であり、神界における立場は邪神ロキ。

そんな彼に対してしばし、現状の説明がディアによってなされてゆく……



「…さて。と」

今起こっている事情は全て、【三の意思】より伝え聞いた。

「…というか、ものすっごく危険な現状になってませんか?それって?」

目覚めて驚いたのが、目の前にいる愛する人と、愛する子供たち。

そしてその背後にいる【意思】の姿。

彼女に会うのは自分が魂と器を分離させたとき以来だとおもうので

かなりの年月がおそらくたっているのであろう。

それくらいは容易に予測がつく。

「だから、あなたを先に目覚めさせたのよ。

  本当は自力でゆっくりと養生して自ら復活してほしかったけどね」

それは本音。

他者が力を加えるのではなく、自分の意思で乗り越えてほしかったのもまた事実。

すくなくとも、

彼の力を考えればそのほうが今後もそのほうが彼にとっても最善の結果をもたらしたであろうに。

もっとも、世界の再生時からしばしして創られた身としては

時間の概念、というのもがだんだんとおぼろげになっているのも事実。

「しかし、アレを使っているとは…何でそんなものを渡したんですか?」

自分が確かにアレをつくったのには違いないが。

というかいまだにアレがここにあるとはおもっていなかった。

てっきり他の惑星に回されているとばかり思っていたのだが……

「代替わりが近づいている以上、のんびりとしてるわけにはいかなかったからね。

  なので【力ある道具】を欲望に満ちている彼らに渡せば絶対に行動起こすのは目に見えてたし」

そのついでに、ロキの魂を利用するであろうことは容易に予測がついたので

そのあたりの設定も多少いじっておいた。

「それにいい加減、アンにも目覚めてもらわないとそれぞれの進化がとまってるままになってるし」

月の抱擁、という別名は伊達ではない。

彼女は月の加護を司るもの。

彼女が眠りについている最中、月の加護が完全に発揮されず、

地上における生命体は最低限の加護のもと生活せざるをえなかった。

ゆえにあのときからさほど劇的な進化を遂げている生命はほぼいない。

「そ…それは……」

自分のことのみに頭がまわり、周囲のことまではおもっていなかった。

たしかに自分の存在意義は自分一人の問題ではないのは判っていた。

いたがあのときは、そこまで思考がまわらなかった。

それがわかっていたからこそ、ディアは彼女の意思にまかせることにした。

…当然、きっかけをつくった二人に対してはお灸をしっかりと据えはしたが……



「…?お母様達、何の話しをされてるのかしら?」

「父上も母上も、目覚められたばかりだ、というのにさすがです!」

「…ヨル。お前、両親至上主義なのはわかるが、もう少し周りに目をむけたほうがいいぞ?」

何やら話しこんでいる三人の会話の内容は子供たちにはさっぱりもって理解できない。

約一人、まったく違う場所で感動している者がいたりもするが。

少し離れた場所にてちょこん、とすわりトライアングルを描くように座っている彼ら三兄妹。

傍からみれば、美少女が一人と、小さな…といっても一メートル前後はあるであろう蛇と、

そして子供が抱っこできるほどの大きさの黒犬。

そんな彼らが会話している姿をみて、彼らが本当の兄妹である、と理解できる存在はさほどいない。

「でも、ようやく、また家族で過ごすことができますよね!」

「だな。ほんと、永かった……」

「結局、お父様達が目覚められるまでに私の体の腐食を直す方法は見つかってないけど……」

出来れば目覚めるまでに完全に治したかった。

こればかりはどうも肉体と魂の力の差がありすぎるがゆえになかなか改善されないらしい。

何やらいまだに会話をつつげる両親と補佐官とは別に、

こちらはこちらで兄妹達による会話が繰り広げられてゆく――





そろそろとラストに近づいてきたこともあり、前半部分?のフラグ?回収が目立ってきます。

神々の悪戯?何それ?それは番外編、もしくは伝道師の回を参考まで(初期の初期

しかも、二十話前後にでてきた複線?がようやくここで一つ回収ってなんなんだろう?

まあ、ラストの方で複線回収しまくり、というのはこの話しの特徴の一つでもあるんですが(自覚あり

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