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光と闇の楔  作者:
49/74

光と闇の楔 ~恐怖の発生源と原因と~

ラストのほうでディアによる爆弾発言あり(笑

次回でようやく今まで裏で暗躍してた彼らの登場にいけるかな?

何はともあれ、今回もあまりすすんでいませんがいくので



「あなたもそう思われますか?」


たまたま代表会議に出向いてきていた。

そこで同じ能力をもつ女神と出会い、意気投合している彼ら達。


「…あそこまで同じ気配の方は普通はおられないでしょう?」


話しにはきいたことのあった天界の補佐官ティアマト。

彼ら上位の神や悪魔といった魔王を育てたのはほとんどが【伝道師】達。

時折、神竜なども間にはいってはきたが、そのとき補佐官、という存在にはあっていない。

【王】は彼らに心の中に語りかけ、常にその気配を感じさせていたにすぎない。

実際に姿をみたことはない。

それでもその強大な力に守られている、と感じていて幼き日々。

魔界、天界、という場所がつくられ、それぞれの場所に自分達が移動した先で出会った補佐官。

その補佐官から王の気配の片鱗を無意識のうちに感じ取っていたのも事実。

それが意味することは当時の彼らにはわからなかった。

そういうものだ、と幼いながらに認識してしまい、今に至る。

それから長い年月とともに魔界の住人も天界の住人も充実していった。


「わたくしも以前、魔界に出向いていったときに拝顔する機会がありまして……

  その気配の類似性、というかまったく同一のものに驚きましたわ」


どんな存在でも同じ気配のものは二つとありえない。

それが複製、とかいう自身の影ですらどこかしらにそれなりに判るものがある。

しかし、しかしである。

複製という感じもうけなければ、影という感じもうけない。

まるでそこにいることが当たり前であり、常にその内部にいるようなそんな感覚を抱かせる存在。

そんな存在がおいそれと幾人もいてはたまったものではない。

感じた気配は聖なるものなれど、光と闇は表裏一体。

そのことを初期に生み出された彼らはよく理解している。


「…では、やはり?」

「…伝道師様方が、王のことを【意思様】と呼ばれていたのもありますし……」


それは彼とてきいている。

魔界の王と、天界の王。

どちらにたいしても、伝道師達は、【意思】とそう呼び称している。

それが何を示すのかはいまだによく理解してはいないが、

おそらくこの大地…否、自分達が住まうこの惑星、と呼ばれている存在に関係しているのであろう。

惑星云々、の知識は伝道師達から生み出されたばかりの彼らに教えられている。

この惑星が太陽の周囲を廻っている、ということも。

始めは理解できなかったが、そのまま宇宙空間に飛んで連れていかれてやっと理解できた幼き日。

奇麗な球体。

そのとき、初めて奇麗、という言葉がすんなりと理解できたような気がしなくもない。

それほどまでに、真っ暗な空間に浮かぶ青き球は印象深かった。


「…私は、伝道師達が補佐官様のことをそのように呼ぶのをきいたことがあります……」


それはほんの偶然であったが。

どこかにずっとひっかかっていた。

他の存在の先は視通せるのにまったく先のよめない伝道師と、そして補佐官。

神竜に関しても然り。

【門】であるソトホースに関しては先を視る必要性を感じないので試したことは一度もない。


「…では、やはり……」

「…これは、我々の胸にだけ秘めておいたほうがいいのですかね?」

「…でしょうね……」


それは、ある日の会話。

運命を司る女神ノルンと、審問王アスタロトの間で交わされた、秘密裏の会話……





         光と闇の楔 ~恐怖の発生源と原因と~




「え?」


一歩足を踏み出しただけのはずなのに。

今自分がどこにいるのかがわからない。

先ほど紹介をうけ、ひとまず職員室へと戻り、校長室へと出向いていた。

校長室から一歩外にでた直後。

周囲の景色が一変し、思わずその場にて硬直してしまう。


「…あ~、まあ、あの場でいきなり叫んだのはちょっとまずかったな。アテナ」

「って、アスタロト様!?」


ふと背後から聞き覚えのある声がきこえ、思わずふりむけば、そこには案の定、

同じく臨時教師としてこの学校に勤め始めている魔界の大侯爵アスタロトの姿が。

彼としても先ほどのアテナの台詞の意図をきちんと把握すべくこうして会いにやってきていたのだが。

まさかここで自分もこの空間に巻き込まれるとは思ってもみなかった。

周囲はただひたすらに、白い、白い、どこまでも白い何もない空間。

全てが白で塗りつぶされている中で自分達の姿のみが異様に浮かび上がっている。


「あらあら。アスタロトもあの場にいたみたいね」


そんな彼らの耳にくすくすと笑いを含んだ声が届いてくる。

声はすれども姿はみえず。

その直後。

彼らの目の前の空間より一つの人影が突如として出現する。

ふわり、とまるで重さを感じさせない長い漆黒の髪。

全てを視通すかのような透き通った漆黒の瞳。

そこにいるだけで、全てを包み込み、また呑みこんでしまいそうな圧倒的な存在感。


「「……ティアマト様(!?)」」


その姿は間違えようがない。

ゆえにそこにいるはずのない存在の姿をみて驚愕の声をあげているアテナ。

先刻から、講堂で垣間見た生徒のことを聞こうとしてもなぜか声がでなかった。

それ以外のこと、関係ないことならば声にも念波も使えた、というのに。

では、やはり、先ほどみた、髪と瞳の色が違うあの人間の姿をしていたあの方が?

しかし、天界の補佐官ともあろうものがどうして地上界のしかも学校にいるのかが判らない。

ゆえにアテナの思考は混乱を極めている。

対するアスタロトのほうはすでに心の中ではあるいみ確信をもっていたがゆえにさほど驚いてはいない。


「あら。さすがにアスタロトは驚かないのかしら?」

「…わかってていわれてます?」


おそらくこの姿ででてきたのは、自分が疑っているのを知っていてのことなのであろう。

その表情が面白がっているかのようにくすくすと笑っていることから用意に予測はつく。


「まあ、とりあえず。ようこそ、地上界へ。というところかしら?…二人とも、座って」


言葉と同時に、いつのまにか出現したのか、目の前には真っ白い机と椅子が現れていたりする。


「は…ははははははいっ!」


もっとも尊敬し憧れている補佐官が目の前にいる。

それゆえにどうしてこんな場所に?という疑念よりも直接声をかけてもらえた、という興奮で、

もののみごとに疑念は奇麗さっぱりと消え去っているアテナ。


「…天界の補佐官、ティアマト様。私にも用事があるとみましたが、何の御用ですか?」


大方わかってはいるが念のためにと問い返す。

すでに心構えができているがゆえに内心多少の動揺はあるものの、それほど混乱することはない。


「そうね。とりあえず、今後の話しあい…かしら、ね?」


くすくすと悪戯が成功したかのようにほほ笑む目の前の女性からは何の意図も感じられない。

しかし油断をしていればその心の奥底まで何かに塗りつぶされてしまいかねない圧倒的な力は感じる。

カチコチに固まるアテナとは対照的に、自分が何をすべきなのか必死で思考を巡らせているアスタロト。

この空間においてはそんな彼らの思考は全て目の前の女性に筒抜けであるのは何となくだが理解できる。


「さて…アスタロト。あなたは何か我に聞きたいことがあるのでは?」


くすり。

相手が疑念をもっているのは先刻承知。

ゆえに思考を巡らせているアスタロトにとくすりと笑い語りかける。


「…では、無礼を承知でお聞きいたします。補佐官様。

  …貴方様は、王、そのものではないのですか?」


何か聞きたいことがあるのではないか。

そういわれ、意を決して問いかけた。


「…え……」


アスタロトのいっている意味がアテナにはわからない。

だからこそ唖然としてしまうアテナであるが。

そんなアスタロトの問いかけに平然と、ただくすくすと笑いつつ、


「ほぅ。そうおもった理由は何ぞや?アスタロト」


どくん。


ディア、としての口調ではない。

常にいつも補佐官、として存在していたときの口調であり、その声には力がこもっている。

常に気を強くもっていなければこの場に意識を保つことすらできないほどの圧倒的な【力】。


「気配。です。あなた方の気配はあまりにもこの【惑星】と同一すぎる」


そう。

かつて【外】よりみた青き惑星。

その気配とまったく同一なのが王と、そして補佐官。

この場で答えてもらえるなどとは思ってはいない。

しかし聞かずにはおられない。


「ほぅ。…ならば……」


刹那、アスタロトとアテナの周囲の景色が変わりゆく。


次の瞬間。

彼らの視界に突如として入ってきた光景。


それは真っ暗な空間に浮かぶ、青き球体……








「う~…何か頭に靄がかかったような……」

何か決定的な事実をつかんだというか知らされたはずなのに、それが思い出せない。

「?アスタロト様も?私も……」


ふと気付けば、アテナとアスタロトがたっているのは校長室の前。

思わず顔を見合わせ、頭を抱える。

何かがあったはずなのに思い出せない。

それがどうにももどかしい。

アスタロトの頭のどこかで何となく補佐官ルシファーに関することだ、とは理解しているような気もするが、

思いだそうとすればするほど思考に霧がかかったかのようにまったくもって思い出せない。


「そういえば、

  ゾルディが発生する条件をしっかりと伝えるように、と言われたような気もするのですが……

  私、お父様からそんな命令、うけていたかしら?」


受けていないとおもうが、だがしかし、

なぜかそれは絶対にしなければならないことなのだ、と全身全霊をもってして魂が訴えている。

ゆえに戸惑い気味ながらも、ふと今頭に浮かんだ、絶対に優先的にしなければならないこと。

その行動を口にしているアテナ。

しかしどこでそのような命令をうけたのかまったくもって覚えていない。

だからこそ戸惑いを隠しきれない。

何だか生徒達の前で演説をしてからの記憶があいまいで完全に思いだせない。


「私のほうもそのように命令はうけていますからね」


やはり、先ほど補佐官様が絶対に何かしたに違いない。

自分もまた教師になったその日に、ディアと名乗っている補佐官ルシファーからそういう命令をうけている。

いわく、何でも今の地上界は発生源がきちんと把握できていないゆえに、

逆に彼らを増殖する悪循環に陥っているから、とのこと。

確かに言われてみればその通り。

幾度も地上界、特に人間達には発生理由の原因などを伝えているような気もしなくもないが、

なぜかいつのまにかその原因は闇の中にと葬り去られ、

ゾルディがなぜ発生するのか、という疑念をもつものはほぼいない。


様々な生命体が抱く【強い思い】が一定以上になると生み出される存在。

それが【ゾルディ】。

そこそこに存在する生命体達がその強い思いに呑みこまれないように、との配慮で考えだされた存在。

それぞれが抱いた強い思いと、それらが抱く【偶像】を得て様々な形として生み出される存在。

毎回、毎回伝えたはずの真実がいつのまにか消されている事実。

それは人がもつ【嫌悪】という感情に左右されている。

誰しも、自分が抱いた悪意が形となり他者を襲うような存在になるなど信じたくはない。

心の奥底で誰かを強く憎んでいたとしても、所詮は心の中だけでのこと。

その思いが強ければ形をなしてその対象を害するなどと知らされて、誰が真実を認めようとするだろうか。

ゆえに、毎回、人間達の中ではその真実を伝えられてもまず真相が伝わらない。

伝わらないがゆえに、目の前で【異形】の存在を生み出した存在は【堕ちた存在】と認識され、

今まで幾度も関係ない人々が真実から目をそむけた人々によって排除されている。

人という種族はなかなか自分達とはことなるモノを認めようとしない。

それが異質であるならばなおさらに。

それらを全て認めることができ、はじめて【人】として本当に生きている、といえるのだが。

どうしてもそう思えない人々が多いのもまた事実。

そしてそれは、人類だけにおよばず、知性をもった存在達全てに当てはまる。

すべてに生きる存在達がその心をみとめ、自分の中でその負の心を浄化し認めることができたとき。

始めてこの地の命は新たな段階に進むことができる。

かつては自主性にまかせていたがそれから目をそむけた結果、

周囲すら巻き込む破滅へと突き進んでいったかつての人類達。

一度ならず二度までも。

だからこそこのたび、【意思】はこの方法をとっている。

三度目の間違いを起こさせないために【意思】が思慮した結果とった措置。


「ゾルディの定義…ですか。天界でもたびたび議論にのぼる真理ですね。

  たしかに地上界はそのあたりの知識が乏しすぎるのは前々から感じてはいましたが」


だけどどうして強くそのあたりの概念を伝えなければならない、とおもうのかアテナは判らない。

それは覚えていないだけで、かの空間にて【王】に言われたからなのだが。

覚えていない以上、

漠然と強くそれを実行しなければいけない、ということ以外、アテナには判らない。


天界側でもその思いが突発的に膨れ上がり、

相手がいきなり【ゾルディ】を生み出す、ということは時々おこる。

それでもその認識がしっかりしているがゆえに、

【ゾルディ】を生み出してしまったものは自己嫌悪に陥り、また周囲もそんな当人を責めはしない。

が、地上界においては話しは別。

あくまでも【ゾルディ】は悪意ある魔獣、と認識されており、

生みだす結果となってしまった存在にも容赦はしない。

容赦しない、というよりは、その当人そのものが諸悪の根源。

とばかりにてってい的に排除しようと集団で行動してしまう。

不思議なことに一人では冷静な判断がとれるであろうに、

集団ならばどんな非道なこどても平気でやる。

人族などといった知性ある存在達が陥る最悪な行動。

あまりの悲惨さに幾度か天界、魔界、そして精霊界側から説明がなされたことはある。

あるがその説明をうけいれないのもまた地上界に住まう存在達。

もっとも、その真実の受け入れをしないのは他界のものにも多々とみうけられている。

つまり、自分達は悪くない、悪いのは相手、という認識が根強く、他者を思いやる心、

というのがどこか欠如しているように思えなくもない。

実際、欠如している輩がそのような行動に陥るのだが。

あまりに自己中心的な考えの持ち主はやがて幾度も生みだした自らの【ゾルディ】の意思に呑みこまれ、

やがて堕ちた存在、として魂ごと呑みこまれてしまう。

真実から目をそむけているがゆえの定説。

…それこそが、まさに【ゾルディ】と【ロア】という呼び分けに現れている、といえよう。

そもそも、別の呼び名をしているが基本、それぞれの存在は同じような形で生み出される。

その生み出される感情の元、が異なる、ただそれだけの理由なのだから。


「まあ、私のほうに命じられた意味はわかりますけどね。

  そもそも、今の状態では互いに疑心暗鬼が募っていますでしょうし。

  それらの感情の乱れも我々にとっては好ましいですが。

  ともあれ、そんな中で誰もが異形の存在を生み出した…となれば、自然と暴動になりかねません。

  実際、すでにいくつかの村などでそのようなことが起こっている、と報告はありますしね」


魔界側においてはそのようなものが生み出される場合…すくなくとも、

真っ先に攻撃をうけた相手が周囲からあまりよく思われていない存在、ということが圧倒的に多い。

ゆえに逆に、裁きが下った、といって達観しているものもすくなくない。

天界においても然り。

しかし様々な種族が乱れて生活しているこの地上界においては話しが別。

いきなり理不尽なことが起これば誰かに罪を着せて心の安定を計ろうとする愚か者はどこにでもいる。

そして…それは混乱のきっかけともなりえる。


「反旗組織メンバーもおそらくそれらを狙っての行動をしてくるでしょう」


周囲から埋めてゆく。

その混乱の隙に乗じて事を達成する。

それはいつの時代においても誰もが考える全うな戦術の一つ。


「しかし、いきなり真実を伝えても、人々が納得してくれるでしょうか?」


今の今まで納得してくれず、その意味を解釈することなくここに至っている。

しかし、今の現状でそれらをきちんと正確に伝えなければ、

まちがいなく地上界は大混乱に陥るであろうことは用意に予測がつく。


「では、こうしませんか?私とあなたが【影】をいくつも作りだし、

  主要な村や町などに語りかけてゆく、というのは。

  当然、本来、地上界の存在達が認識している姿で、になりますが」


魔界の大侯爵と天界の女神。

その両人がそろって伝えていけば嫌でも一時だけでも信じる気にはなるであろう。

まあ彼らの気に充てられて気が狂う存在がでてくるかもしれないが、それはまあそのときのこと。

そのときになって対処してゆけばよい。


「あ、それはいいかもしれませんね。神気と魔力に充てられて相手も表にでてくるかもしれませんし」


今だに【種】をばらまいている存在の特定はできない。

しかし表だって行動していればおのずと相手側から接触なり、隠れるなりしてくるはず。

彼らにとって自らの【影】をいくつも作りだすことはたやすいこと。

様々な場所に知識を伝えてゆくだけならば簡単な【影】で事足りる。


いまだに頭に靄がかかったかのような錯覚には陥ってはいるが、

今すべき優先事項は、ゾルディの真意の伝承。

なぜかそう確信しているがゆえに、

しばしアテナとアスタロトはその場を後にしつつ話しを敷き詰めてゆく……



「ねえねえ!すごかったわね!というか、戦女神さまっ!?すごすぎるっ!」


きゃいきゃい。

すでにもう話題は今朝の集会のことで持ちきり。

天界からおそらく誰か使者として地上界につかわされ、ここギルド協会学校の教師になるのでは?

という噂は数日前からまことしやかにささやかれていた。

そこに今朝の朝礼という名の集会である。

生徒達の好奇心と噂話しに火を付けたも同然。

お伽噺でしか知りえない、雲の上の存在ともいえる愛の女神であり戦女神アテナ。

まさか生きているうちにその姿を目にすることができるとは。

しかも、しかもである。

その女神に直々に教えを乞えるのである。

これで興奮しないほうがどうかしている。

そう、普通なら。


「?ディア?ディアは興奮しないの?」


ただ一人、教室の中で静かに窓際の席に座り、のんびりと外を眺めているディアの姿をみとめ、

ふと不思議におもいつつも話しかけてくるクラスメートの一人。


「シェン達は肝心なこと忘れてない?今現在、外でおこっている事情。

  ここに力あるものが集えば、確実にここも襲撃対象にされるわよ?きっと?」


ディアの言い分は至極もっとも。

すでに様々な主要都市などが襲われかけた、という報告はここ、ギルド協会にも伝わってきている。

協会が運営している学校にも当然その事実は伝わっている。

どうもこの王都は実力もある守護精霊ティミに守られている、という安心感からか、

どうもそのあたりの危機感が薄いように感じられるのはおそらくディアの気のせいではないであろう。


「え?」


まったくその可能性には考えていなかったのか、

その両脇についている茶色い耳がおもわずしゅん、と下にと下がる。

シェン、と呼ばれた彼は犬狼けんろう族、といわれている種族の一員。

この学校には様々な種族のものが共同で学んでいる。

当然、ディアのいるクラスにも様々な種族のものが共学している。

シェンの容姿はふわふわの茶色い毛並みをもったピン、と伸びた左右の耳に、

その手にはぷにぶにのニクキュウと四本の指。

狼を先祖にもつ彼らは独自に進化し、その容姿は人のそれと変わりがない。

お尻についたふさふさのシッポと耳とニクキュウ。

体全身が柔らかな毛で覆われている。

かの一族は仲間意識が強く、また機敏性も高い。

大概は一族の特性を生かした職につく存在が大半ではあるが、

職につくためにはギルド協会発行の資格を取らなくてはならない。

ゆえに手っ取り早くこのギルド協会学校にかよってくる存在は多々といる。

彼もまたそんな一人。

元来が人懐っこい性格のシェンであるがゆえ、耳をしゅん、とさせた様は、

どこかの子犬がうなだれたような雰囲気でもあり、

逆にこちら側が悪いことをしたような気持ちになってしまう。

…もっとも、そんな感覚に陥るのは普通の存在達限定、だが。


「…そういえば、叔父様から連絡があったわ。

  何でも今回の戦闘部門予選参加していた知り合いが、いきなりゾルディ複数に襲われたって……」


ふとディアとシェンの会話を小耳にはさみ、先日、手紙で注意を促されたことを思い出し、

顔色もわるくつぶやいている別のクラスメート。

ここ最近、今まであまり群れをなして誰かを襲うようなことはしなかったはずのゾルディ達が、

まるで何かの意思に操られているかのように特定の村や人物を襲う現象が多発している。

しかもそれがほとんどにおいて、

今年の大会、もしくはこれまでの大会ですなくかなずとも功績をあげた存在ばかりが襲われている。

彼女の叔父もまた、学生である姪が大会に参加していたのをしっているがゆえに、

心配して忠告をかねて手紙をよこしてきたのだが。


「魔界の使者に天界の使者、ついでに竜族のヴリちゃんもいるし。

  ちなみにここの守護精霊の力ではある程度の実力ある輩がきたら防ぎきれないわよ?」


事実、ディアのいうとおり、

いくら実力があるといわれている守護精霊ティミとて、反旗組織の上層部の存在達の力にはかなわない。

もっとも、この場にディアがいる以上、滅多なことにはならない、とわかってはいるが。

しかし役目は役目。

彼女は彼女なりにこの地を守る必要性がある。

強いていうならば、ヴリトラ達が起こすであろう被害を最小限にどうにか食い止める。

それに尽力をつくすことぐらいしかできないであろうが。


「で…でも、ほら。戦女神さまもこられたし。いくら襲撃があっても、ね?」


お伽噺や物語で語られる戦女神はとても強く、それでいて慈悲深い存在。

もっともそれはかなり誇張されて伝わっている物語、といっても過言でないが。


「そりゃ、確実に勝てるでしょうけど。周囲における被害も洒落にならないとおもうわよ?」

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』


たしかにディアの言い分は至極もっとも。

戦女神がやってきた、というのがあり、

かなり浮かれていた生徒達はその意見をきき、その場にて一瞬静まり返る。

力のある存在がいることにより、襲われる可能性。

それをまったくもって認識していなかったクラスメート達。

しかし、それは認識しなければならないこと。

世の中に出ても、どうしても実力あるものはその能力や力を妬まれ疎まれることがある。

それらとうまく付き合い、さらにはそれを払拭するのも生きてゆく上でのあるいみ修業といえるであろう。


「まあ、まずは、自分の身は自分で守る。これは一番大事だろうけど。

  あとは個々との連携、かしらね?

  おそらく他人の不安要素に付け込んでくるような襲撃者達なんでしょうし」


今、協会側に伝えられている内容からしてみればそのように襲撃者の概要が捉えられなくもない。

ゆえに、無難な言い方でクラスの皆に語りかけているディア。

疑心暗鬼になることは、相手に付け入る隙をおもいっきりあたえる口実になる。


「う…。そういうディアは…って、ディアにきくのは無駄かぁ。

   そういえば、言霊使いって襲撃とかも無効化できるの?」


たしか大会の最中、相手の攻撃を無効化していたような気もしなくもない。

よく見えなかったがおそらくそうなのだとおもう。

すでにディアが言霊使い、というのは暗黙の了解となっており、

勘違いしている、とわかっているディアもわざわざ訂正する必要性も感じないのでそのままにしている。

結果として、ディアは言霊使いである、と教師達にすら認識されているこの実情。

もっとも別に勘違いされていようがディアにとってはどうでもいいこと。

そもそも、言霊使い、と勘違いしその能力が持ちえる可能性がまだ確実にあかされていない以上、

様々な事をおこなっても、そのひとことでごまかしがきく。


「一応、ね。まあ、時と場合によるかも、だけど」


実際はどんな攻撃も瞬く間に無効化できる、それはディアが【意思】なればこそ。

しかしこの場にいるクラスメートは当然そんなことを知るよしもない。


「まずは、とりあえず。アテナちゃんがどんな授業をしてくれるのか、楽しみよね。ふふ」

「……女神様をちゃんづけするのってたぶん、ディアくらいじゃないの?」


しかも相手は戦女神という役職についている上位神である。

その女神をいくら何でも『ちゃん』づけはないように思う。


「あ~。彼女とは昔ちょっとした縁で知り合ってるから」


縁、というよりはそもそも彼女、もとい補佐官の親衛隊にこっそりと入隊しているアテナである。

さらにいえば、天界の神々は全て補佐官ティアマトの配下、といっても過言でない。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


『えええええええええええええええええええええええええええええええ!?』


さらり、と何やら爆弾発言したディアの言葉に一瞬、教室全体が静まり返り、

次の瞬間、鼓膜を突き破らんばかりの生徒達の叫び声が響き渡ってゆく……



アテナの暴走、いれようかどうしようか迷ったけど、とりあえずさくっとカット。

  どちらにしても後半に出てくるし、ここでだす必要性はあまり感じなかったので。

  自ら(ディア)の正体暴露した話しの内容は、

  アスタロトとアテナ、二人とも完全に記憶の奥底に封じられてます。

  それでも奥底に記憶があるのは事実なわけで、

  そのことが今後結構便利?になってくるのはお約束

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