表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
光と闇の楔  作者:
47/74

光と闇の楔 ~破格待遇!?ギルド学園~



「よっし!これで終わり~!」

せっかくお姉様と一緒にいたのに、それを邪魔するなんて!

滅多に傍にいられることが少ないのに、地上界で共に過ごせる時間がどれだけ貴重なものか。

そんな時間を邪魔してくれる結果となった彼らには手加減という言葉は必要ない。

よもや彼らとて見た目どうみても七歳にしかみえない人間の女の子にしかみえない輩に、

いきなり手も足もでずにあっさりと倒されてゆくのはおそらく屈辱以外の何ものでもないであろう。

「……ヴリトラ様。もう少し手加減いたしませんか?」

霊獣界に連れてもどるときに、ぶつぶつと文句をいっていたがゆえに理由はわかる。

わかるが、だからといって、反旗組織に操られている駒でしかない、

種を植え付けられている霊獣、と呼ばれし存在達にその怒りの矛先を向けてほしくないものである。

「してるよ~?だって誰も殺してないし」

そう、一応手加減はしている。

というか手加減しなければ確実に相手の魂ごと消滅させてしまう。

そもそも、本気をだしてしまえばこんな霊獣界一つ程度あっさりと壊滅してしまう。

「……はぁ~……」

神竜であるヴリトラの気持ちはわからなくもない。

ないがこればかりは仕方がない。

霊獣界の神、としての役目をきちんと果たしてもらわなければ示しがつかない。


神が出向いた。

その事実だけで、馬鹿な考えを抱こうとした輩のけん制にはなりえるのだからして――





               光と闇の楔 ~破格待遇!?ギルド学園~





「協力要請?」

思わず聞き返す。

珍しい要請もあるものだ、とおもってしまう。

「ギルド協会から、地上界におけるギルド協会側から要請があった、とのことで。

  一応、ご報告を、とおもいまして。何しろ今の時期が時期ですし」

事実、今現在、

魔界をあげて、【神々の黄昏】にて複製された【魂の欠片】の回収に全力をあげている。

何しろここ、魔界は力が全て、とおもっているものが大多数。

中には他の力をかりてでも自らの力をさらに強くしたい、とおもっているものも多々といる。

そんな輩がどういうルートで手にしたのかはわからないが、

ここしばらく、【種】と呼び称している【魂の欠片】を手にし騒ぎを起こしている。

この現象は、魔界にとどまらず、他の界においても共通している、とは報告はうけている。

いるが……

「なるほど。たしかに。ヤツラはこのたびの大会参加者、特に実戦に通用しうるもの。

  もしくは武器関連に通用しそうな輩を狙いはじめているのは事実だな」

被害をうけた一覧を確認してみれば、

このたびの【大会】において参加していた存在達がかなり含まれている。

それもほぼ、百%の確率で。


漆黒の十二枚の翼は今はしまわれており、その場に座っているのは、女性と見まごうばかりの麗人。

彼らはその時々の気分によりその容姿は簡単に変化させることが可能。

中には男性、女性といった性別すら関係ないものが大多数。

それが、彼ら魔界人の特徴の一つでもある。

とはいえ、全ての魔界人がその特徴をもっているわけでなく、

実力があるものは自在にその姿も性も変化させることは可能なれど、

あまり力のないものたちは、それぞれが生まれもった種族の特性しか持ち合わせていない。


「いかがなさいますか?サタン様?」

今現在、補佐官がいない以上、どうしても側近であるサタンに指示をしてもらうより他にない。

「まあ、これのほうはこちら側からすればもう役目は果たしていることになるだろう。

  …アスタロト殿が気まぐれでかの地に出向いているからな」

先日、かの学校に臨時教師、として入り込んだ、という報告はうけている。

一瞬、何を考えているのか、ともおもったが、彼の気まぐれは今にはじまったことではない。

それに何より、かの学校に神竜ヴリトラがいる、と判った以上、

魔界側からも監視の目を光らす意味でたしかにそれは最善の方法、ともいえなくもない。

…どうして神竜ともいうべき存在がわざわざ学校に入り込んだのかは不明だが。

まあ、彼女もまたかなり気まぐれ。

可能性として、かの地に補佐官に連なるものがいるか、

もしくはようやく産まれた時期竜王の様子をみるためか。


かのテミス王国の首都近くに、あらたな黄竜が生まれた、という報告はうけている。

ゆえに神竜が出向く理由とすれば一応筋がとおっている。

かの幼き黄竜はいまだに竜の里には引っ越しておらず、産まれた森にて生活しているらしい。


幼き黄竜を心配して近くからしばらく見守るために潜入したのでは?

というのが下層部のもっぱらの意見であり、竜族にしてもその意見が大半らしい。

…が、彼女…神竜ヴリトラのことをよく知っている上層部の一部のものは絶対に違う。

とそれは声を高らかにきっぱりとそれだけは断言できる。

あの神竜が気をかける、なとどいう優しいことをするはずがない。

むしろ、面白がって事態をひっかきまわし混乱する周囲を視て楽しむ性格である。

しかし、それがわかっていてもいえないのは、一重に、神竜、という立場は表向きには神聖なる存在。

故に表だって抗議の声をあげるわけにはいかないのも事実。

足かせにもならないのはわかりきってはいるが、

近くに監視している存在がいるのといないのとでは分けがちがう。


「大侯爵様が、ですか?でしたら、かの生徒の護衛、という立場もそのまま任せられますね」


どちらかといえばこれ以上、魔界側から戦力を減らしたくないのが本音である。

たかが、反旗組織の一員とて、魔界の実力者たるアスタロトに簡単にかなうはずもない。

【魂の欠片】にどこまで通用するかは不明だが、そう遅れをとることもまずないはずである。


「そういえば、ベルセブブの奴は何をしている?」

「最近は、死体の処理に走り回っているようです。常に眷属を各界に飛ばしておられるようです」


一度【種】に穢された器はそう簡単に元にはもどらない。

そのままその精神ごと呑みこまれ、抜け殻となってしまう存在は大多数。

しかし、仮にも種に呑みこまれていた器。

普通の死体処理を施そうにもそれらをまったく受け付けないものもいる。

大概は、種が取り出された直後、器はその力に耐えられなくて消滅してしまうのだが……

問題は、その影響をうけた周囲の生命体。

そのままほうっておけばまちがいなく周囲に【負の気】をまき散らす結果となってしまう。

【気】にあてられた生命は一度命をおとし、新たな【ゾルディ】としてよみがえる。


「なるほど。まあ、彼の能力ならば死体の浄化にふさわしい、といえるか?」

何しろかの能力の一つが【蠅】。

文字通り、死肉を喰らい力となす能力をもっている。

ゆえにこういったときには便利、といえば便利な力であるのだが……

「まあ、アスタロト殿には私からはなしておこう」

「はっ!」

まずは、ギルド協会側にこちらの旨をつたえるとして。

ギルド協会とコトを荒立てては意味がない。

かの協会は今では全ての界においてなくてはならない存在となっている。

だからこそ協力体制はしっかりと強固なものにしておきたい。

「…しかし、毎回おもうが、補佐官様がいなくなるとつくづくおもうよ……

  いつも、補佐官様はおひとりでよくもまあ、

  あっさりとこれだけの膨大な執務をこなしていたものだ……」

今まで頼り切っていたのが嫌でもつきつけられる現実。

しかし、ここで泣きごとをいっていても仕方がない。

おそらく姿をけしたのは、自分達に喝をいれるタメでもあるのであろうから。

これでできませんでした、といったら戻ってきたときにどんな目にあわされるか。

…それは避けたい。

絶対に。

補佐官ルシファーのお仕置きははっきりいって死んだ方がまし、といえるほどの代物。

だからこそ手をぬけない。


しばし、とある執務室において、

補佐官と王の側近であり補佐代理をかねている暁の王サタンの嘆きともいえるつぶやきが響き渡ってゆく……




「わ…私がですか!?お父さまっ!!」

思わず声が歓喜に彩られる。

「…あ~、こほん」

常々公私の区別はつけるように、といっているのに、何をかんがえているのか、この娘は。

ゆえにその台詞に少しばかり大げさにせき込むように息を吐きだす。

「はっ!す、いすません。ゼウス様。そんな大切なお役目、私に任せていただけるのですか!?」


呼び出され、何ごとか、とおもっていたら、目の前にいる父、

雷神ゼウスから告げられたのは、地上界のギルド協会側から協力の要請。

しかも、反旗組織のメンバーがこぞってこのたびの大会参加者を狙っているのもあり、

突発的な襲撃者などといった不確定要素もともなって偶然に優勝という立場になってしまった学生。

その生徒の護衛を頼みたい、との要請らしい。

しかも、その学校にはなぜかかの神竜ヴリトラが今現在、留学生、として滞在している学校らしく、

ゆえに滅多な存在を送り込むことができない現状。


「うむ。今説明したとおり、今あの場所には神竜ヴリトラ様が滞在しておられる。

  滅多とした輩を使者として向かわすこともできぬしな。

  そもそも、かのかたの機嫌をそこねたりでもしたら、反旗組織どころではなくなる」

それは本音。

というかこれ以上、厄介事を増やしたくはない。

「その点、お前はリュカ殿に育てられている上で、神竜殿達とは交流があったからな。

  つまり、まったく知らないものをよこして警戒されるより、見知ったものを遣わしたほうがいい。

  これが会議の決定だ」

彼としては大切な娘を危険とおもわしき場所に向かわしたくないのが本音。

しかし、立場がそうはいってはいられない。

「黄竜の幼子のほうはいかがなさるのですか?」

テミス王国の近くに、若き黄竜が誕生した、という報告はここ、天界にも伝わってきている。

おそらく反組織のメンバーもその報告はつかんでいるはず。

ならば行動を起こさないはずがない。

「それは、竜王シアン殿より、心配はいらぬ、と連絡があった。

  ともかく、アテナ。お前は立場上は出向教師、としてかの学校に潜入してもらうこととなる。

  むろん、表向きは、だか。本来の目的は戦闘部門で優勝した、という生徒と。

  それと反旗組織の存在達が襲ってきたときのための護衛となる」

「は!その役目、この戦女神、アテナ。つつしんでお受けします!」


強さからすれば三番目にあこがれている神竜ヴリトラの傍にいられる。

しかも護衛もかねて。

これほど重大で、なおかつやりがいのある役目はない。

ちなみに、彼女が尊敬しているのは

一番目が補佐官ティアマト、二番目が養父リュカ、三番目が神竜ヴリトラ、の順である。


役職についている神が地上界に降りるなど滅多とないことではあるが、

今は事態が事態。

「他の国にもそれなりの存在を派遣するように手はずはしている」

しかし、いくら協会側からの要請だ、とはいえ、

一国のみに実力者を手配しては、今後、地上界における勢力のバランスが崩れかねない。

ゆえに、均等にそれぞれの国に天界側から護衛の派遣員を動員する予定ではある。

万が一、彼らの目的が世界の統一や破滅だとすれば、

まちがいなく、国、という立場そのものを狙ってくる。

つまりは、国の要ともなる王家を狙う確率が非常に高い。

それゆえの処置。

運命を司る神ノルンもこのたびの戦いの行方は視えない、といっていた。

おそらくどこかに、補佐官、もしくは王の意思が加わっているのであろう、

というのが自らを含めた上層部会議の結論。

「わかりました!…でも、あのテミス王国、いろいろと厄介なことに巻き込まれてますね?」

たしかつい先日も堕ちたキマイラが近くに現れた、というので大騒動になったはず。

そもそもその調査に自分が出向いたのだから記憶に新しい。

「…だな。近くに新たな黄竜が生まれた、というのにも関係してるのだろう」

力は力を呼び込む。

当人に自覚がなくても、無意識に力は力を引きつけるもの。

ゆえに、その近くに黄竜が誕生していることをうけても、ありえないことではない。

むしろ、こういった現象が起こっても不思議でなはない状況にかの辺りはなっている。

「では、任務のほうはまかせたぞ。我が娘、戦女神アテナよ!」

「はっ!!」


天界において、しばし父と娘のあるいみ公私混同、ともいえる会話が繰り広げられてゆく……





「…い、いやあの……」

たしかに、要請はした。

したが、だがしかし、しかしである。

「…なぜに、愛の女神であり、戦女神であるアテナ様がわざわざご降臨を……」


頭をかかえるには十分すぎる。

というか、さくっと上位神である存在が簡単に地上界に降りてくるなど聞いたことがない。

実際、霊獣界側からの協力は、ちょうどヴリトラ…もとい、ヴーリが滞在している、

というのもあり、彼女がその役目を果たします、となぜか竜王シアンより報告があったばかり。

そもそもどうして

竜王、などというこれまたかなり上位神ともいえる存在がうごいているのかがわからない。

わからないがこのたびの【神々の黄昏】によりばらまかれている【邪神ロキ】の魂の力がどれほど強いのか。

そのことを逆に強調しているようにもみえなくもない。

実際、上位の神々などが動いている、

というのを考えれば一般のただの一存在ごときがどうにかできる問題ではないのであろう。

しかし、しかしである。

人生、いきていてまず絶対にお目にかかることすらない、ともいわれている上位神。

その神の一人がよもやこうして、しかも学校を守る、という名目の上で降臨してくるなど。

一体だれが想像できようか。

いくら天界人などと渡り合っている理事長達とてこればかりは思考が追いつかない。

テミス王国首都、王都テミス。

そこに存在するギルド協会学校、その総本山。

学校支部のほうに反旗組織が手をだしてくる可能性はあるにしろ、

しかしおそらく彼らとて馬鹿ではない。

保護すべき対象はかならず本部に可まくっている、と見抜くはず。

その裏をかき、支部に生徒を移している、とも考えるかもしれないが。


「くくく。しかし、よもやアテナがくるとはな」

そんな横では面白くてしかたがない、とばかりに笑っている青年が一人。

「それは私の台詞です。というかどうして大侯爵さまがこのような場所に?」


学校に来てみてまずびっくりした。

正確にいうならば、王都にはいったとたんに、アスタロトに出迎えられたのだが。

天界より実力あるものが降りてきたことなどアスタロトには簡単に視通せる。

何より彼女は彼女がまだ幼きころ、

いきなりリュカが用事ができたからお願い、といっておしつけていったことのある女神。

その波動を覚えていないはずがない。


「何。ほんの退屈しのぎでな。何より優勝した、という生徒が気になって。

  もっとも、先日、魔界よりの要請で我もまたここに残ることになったがな」

というか、補佐官様に護衛など絶対必要がない。

それはもう確信をもっていえる。

どちらかといえば後始末要員が必要であろう。

そうはおもうがそれは口にはださず、目の前にいる女神、アテナにと話しかけているアスタロト。

「なるほど。とりあえず、天界側からは私がここに使わされることになりました。

  アテナと申します。表向きには出向教師、として滞在させていただきたく存じます」

「こ、こちらこそ。…しかし、どうしましょう?

  まさかあなた様のような上位神が来られるとはおもいませんで。

  …住み家を用意してはいましたが、ギルド寮を用意していたのですが……」

さすがに上位神である女神をそのような場に住まわすわけにはいかないであろう。


ちなみに、アスタロトはといえば町はずれにあるとある廃墟を魔法で直し、

そこを拠点として滞在している。

その廃墟、とはかつてディアが【呪】を浄化した建物だったりするのだが。


ギルド協会側としては、護衛をかねているというのもあり、同じ住み家のほうがいいだろう。

という判断で寮の部屋を確保していたにすぎない。

よもや戦女神当人が降りてくるなど予想だにしていなかった。

「いえ、それでかまいません。あくまでも私はここでは一教師。

  それに一応、家事なども得意ですし」

母であるヘラ、そして何より、育てられたリュカにかなり鍛えられている。

リュカともに過ごしていて、家事の大切さは嫌でも身にしみている。

伊達にアテナの育ての親ともいえるリュカは界渡り、という二つ名をもっているわけではない。

幼きアテナをつれてよく他界にでむき、野宿などはざらであり、

その界にしばらく滞在していたこともざら。

その都度、その場においては自給自足が当たり前。

…ゆえに自然とそういったモノが身についてしまったのは…自然の流れ、といえよう。

「…そ、そうですか。しかし…ほんと、ありえないことになっていますね…

  わが協会学校、はじまって以来、ではないでしょうか?

  臨時教師とはいえ、教師に魔界の大侯爵様に天界の戦女神さまを迎えるなどとは……」

そんな学校理事長の言葉におもわず、きょん、と首をかしげ、視線を横にいるアスタロトにと移し、


「……Est-ce que vous ne les connaissez pas, Tatsu Dieu Vritra?」

(もしかして、彼ら、神竜ヴリトラ様のことを知らないのですか)


自分達よりもどう考えても、神竜であるヴリトラが留学生、として通っている。

そのほうがかなり重大な出来事のような気がする。

というかそれに比べれば自分達などは些細なことのようにも感じる。

しかしどうもこの口ぶりから目の前のギルド協会側の人間はそれをしっているそぶりはない。

ゆえに、おもわず横にいるアスタロトにと問いかけているアテナ。


「À la princesse n'est pas a Ce monsieur?」

(あのおかたは教えておられないぞ)


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


そう。

ヴリトラにしろ、ディアにしろ自分達の正体をギルド協会側に伝えてなどはいない。

だから彼らは知らない。

否、知るよしもない。

すでにとんでもない存在を抱え込んでいる、というその事実を。

きっぱりといわれ、思わず無言になりつつ、目の前の彼らにと同情の視線をむけるアテナ。

いっていない、ということはおそらくそういうことなのであろう。

よく昔、一緒にいたずらを考えていた彼女だからこそヴリトラの思考はある程度は理解できる。

そもそも、彼女にいたずらなどを教えたのは他ならないヴリトラである。

ゆえにそのあたりの思考が同じになってしまっているのはいうまでもない。


「?何を話されて?…と、ともあれ。しかし、女神さまをそのような場所に住まわすのは……」

「かまいません。それに寮、とおっしやいましたよね?

  ギルド寮、ということは周囲の状況把握にとても役立ちます」


ギルド寮は基本、ギルドに所属しているのものみが使用できる寮。

ゆえに、様々な情報がうまくすれば手にはいる。

おそらく寮だけをざっと視てまわるだけでもかなりの量の情報収集ができるであろう。

この際、許可があるだの何だのという個人の思想は関係ない。

少しでもあやしい動きがあれば対処しなければ、【種】に対抗などできはしない。

発動する前の状態ならば回収は楽に行える。

ゆえにどんな形に変化したかわからないが、持ち主がソレを発動させる前に回収すること。

それもまた、与えらた役目のひとつ。

おそらくは、王都にはすくなからずかなりの量の種が持ち込まれるはず。

それが父たるゼウスたち、役職についている神々の意見。


「…あ~…寮、か。…ま、がんばれ」

「?」

アスタロトの頑張れ、という台詞の意味はアテナには判らない。

しかし、これで自分の仮説の一つがはっきりする可能性がでてきたな。

そんなことをアスタロトはふとおもう。

アテナの補佐官に対する尊敬度は果てしない。

たしか補佐官親衛隊や、ファンクラブなるものに入っているほどの熱狂ぶりだと聞いている。

…実際、魔界にも補佐官ルシファーに対するそういう組織はあったりしたのだが、

あるとき、その活動がばれて、こっぴどくものすごいほどの笑顔でお礼を言われたことがあるらしく、

それ以後、裏でこそこそとナリをひそめてかの親衛隊達は活動しているらしい。

…そのお礼、というのが文字通りのお礼、というわけでなく、どうみてもお灸を据えた。

としかいいようのない出来事だったりしたらしいのだが。

それは今では魔界の暗黒歴史の一つ、として数えられているほど。

ちなみに、天界でも同じようなことがあり、そちらもまた黒歴史、とまでいわれている。

気配をまったく変えずに、ただ髪と瞳の色を変えただけの姿をみて、

それでアテナが彼女を補佐官ティアマトだ、と断言すれば自分達の仮説が正しかった。

と正真正銘に立証できる。

もっとも、立証できたとして、かの【補佐官】がそれを公表するのを許す、とは到底思えないが。

幾度かあったことのある、天界側の補佐官ティアマトの纏う雰囲気は、

魔界側の補佐官ルシファーとまったく同一のもの。

それを知っているのは直接補佐官にお目見えしたことのある存在達のみ。

しかし両方の補佐官に面識がある存在などそうそう数は存在しない。

ゆえに今までそのような意見がでなかったのか、あるいは外見にだまされているのか。

もしくは考えられないように仕向けられて…操作されているのか、それは判らない。


「今は竜族の子供も通っていますからね。それを気にかけて竜王様がよくこられていますが。

  竜王様は自分が保護すべき一族のものに対しては子供にまで気を配られるのですね。

  感激しております」


ギルド協会がわの認識として、

ヴーリが竜族の子供なので、それをきにかけて竜王シアンがうごいている。

ということになっている。

事実を知らないものからみればたしかにそうみえるかもしれない。

何しろヴリトラの人の姿をとっているときの外見はどうみても七歳程度の子供。

対するシアンはどうみても大人。

大人が子供をきにかけている、と捕えられても不思議でなはい。

人、とは不思議な種族なものでいともたやすく外見にだまされ、その思考をひきずられる傾向がある。

ゆえにこそ、外見のみで判断し差別などをおこし迫害も起こす。

それが人、という種族。

しかし、人という特性はそれだけではないのも事実。

全てを認め、全てと共にあるべき能力をももっている。

常に取り込み成長する力。

それが人に与えられているもっとも基本となる力の一つ。


「「……Ce que je ne sais pas d'existence terrible」」


本気でいっているらしきその台詞に思わず、アテナとアスタロトの声が重なる。

知らなき事は恐ろしき事。

彼らのつぶやきも至極もっとも。

知らないからこそそんな勘違いもいえるのであり、あるいみ平和でいられるのであろう。

それはわかる。

わかるが…知っている身としてはどうしてもいいたくなってしまう。

しかし、ここで自分達が口を滑らせたりすれば…ヴリトラにどんな目にあわされるかわからない。

にこやかな笑みをうかべたままで、お仕置きしてくる可能性もなきにあらず。

ゆえに、ぽそり、と【戒めの旋律】と呼ばれし言葉で口ずさむ。

「そ、そうですか?とりあえず寮のほうにご案内いたします。

  もしお気に入らなければすぐにいっていだけましたたら別の場所を用意しますので」

すぐのすぐに用意するわけにはいかないが、すくなくともどこかの貴族達の別荘、という手もある。

相手が女神である以上、どうしても緊張しつつも言葉をはっしているギルド協会学校の理事長。

「まあ、寮が嫌なら我の屋敷にくるがいい。我の別荘もそこそこ問題ないぞ?」

かの屋敷はかつてアスタロトが自身の別荘として使ってはいたが、

あきてしまったので空き家にしておいた。

その間、別の所有者ができ、結果として【呪】の屋敷となってしまったのだが。

数百年から数千年単位で地上界に出向くことはないといわれている上級悪魔にとって、

地上界や他の界の拠点は仮初めのものにすぎない。

ゆえにまっくたもって執着はない。

「遠慮しておきます。

  いくらあなた様の屋敷とはいえ、魔の気を常にあびているのはさすがに疲れます」

基本、天界の空気と魔界の空気は光と闇との対局のごとくにまったく異なる。

ゆえに互いの空気はそれぞれの界の存在達には普通はあわない。

が、ある程度の実力をもつ存在達はそういったことはまったくもって気にもとめない。

すこしばかり気分が悪くなる程度でさほど問題はない。

アテナからすれば、アスタロトは悪魔とはいえかなり格上の存在。

話しにきくところによれば、父であるゼウスと同時期に誕生したとも聞き及んでいる。

それが真実かどうか、まではアテナは詳しくしらないが。

おそらく、彼に【魅惑】でもかけられでもすれば、自分程度の実力では絶対にあらがえない。

自分の実力がわかっているからこそ確信がもてる。

「そうか。まあ気がむいたら訪れればいい」

別に強制はしない。

もっとも、間近にて補佐官の傍にいられるか、といえば

おそらく彼女は、はい、とこたえるのであろう。

そうなると、我の呼び出し頻度も少しは減るか、もしくは増えるか…これは、カケ、だな…

自分の予測があたっていたとして、天界、魔界の補佐官が同一の存在だとする。

とすれば、魔界側と天界側、どちら側からもある程度の実力者が傍にいることで、

何かしらの行動、もしくは呼び出しが増える可能性もあれば、

逆に魔界側の補佐官とはいえルシファーも尊敬しているらしきアテナのこと。

彼女に何か頼まれれば嫌とはいわないであろう。


ギルド協会本部の一室において、そんな彼らの邂逅がしばしの間繰り広げられてゆく……






ようやく、学校に駐在?する先生達がそろいました!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ