光と闇の楔 ~混合会議と襲撃と~
なんか最近、仕事終わって打ち込みしてても疲れからか眠くなる・・・
とにかくひとまず頑張って毎日更新続けようとはおもってますが・・・
いつまでつづくかな?
「ええ。みなさん、
本日より、魔界特別講師としてしばらく臨時教員をしていただくことになりました。
アシュタロス様です」
ぶっ!
思わず紹介されて噴き出しそうになってしまったヴリトラは間違っていないであろう。
横をみればおもいっきりあきれ果てたディアの姿が見て取れる。
何を考えているのやら。
いや、その考えはやすやすと想像はつく。
つくがあっさりと許可をだす協会側も協会側である。
『……タロちゃん、先生達おどしたのかなぁ……』
『それか精神感応操作、でしょうね……』
目の前にいる青年の姿をみつつもこっそりと念波で会話をしているヴリトラとディア。
そんな二人の目の前には、臨時教師、と紹介されている、
昨日わざわざ協会学校にとでむいてきた魔界の大侯爵アスタロトが
なぜか教壇の横にたっていたりする。
「先生!質問です!魔界の大侯爵様の名前に近い、ということは関係者ですか!?」
一人の生徒が担任の説明に手をあげ素朴な疑問を投げかける。
魔界において主に近しい名前をもつ、ということはその実力を認められている。
ということに他ならない。
ゆえに、名前の一部や似通った名をもらった悪魔などはより主に忠誠を誓う。
まさか、その当人です、というわけにもいかず、
「まあ、そのあたりはあなた達の想像にお任せします。
とりあえず、魔界からの臨時出向教師、という立場になられます。
しばらくこの学校で魔界学などといった知識の臨時教師をしていただくことになりました」
総合科C組A担任教師、ヘスティア=アルクメーネ。
淡い金色の髪と緑の瞳をしている見た目二十歳代にみえるものの、
その実はゆうに百歳をこえているという女性教師。
その容姿の特徴をあげるならば、人族とは異なる形の耳が真っ先にあげられるであろう。
常にいつもバンダナをしており隠しているのでわからないが、
そこにはかわいらしい猫耳が存在していたりする。
彼女はいわゆる獣人族、といわれている種族の一員。
いつもは服に隠れてみえないが、そのお尻にはかわいらしいシッポが生えていたりする。
そんな彼女は教室全体を見渡しつつも、横にたっている歳若い青年について紹介していたりする。
学校長やギルド長、そして理事長などから厳重に注意された点。
それは、彼が魔界の大侯爵その人であることを知られないようにするように、との注意事項。
かといって、関係あるのか、と問われて違う、ともいえない。
ゆえに、そのあたりのことをぼかして生徒達をみていっているヘスティアの姿。
軽く百歳はこえているヘスティアですら、彼、アスタロトの美貌には一瞬呆けてしまう。
それほどまでに彼の容姿は整っている。
「ただいまご紹介にあずかりました。
短い期間ですが、みなさんに魔界学を教えることになりました。
短い間ではありますが、よろしくおねがいします」
『きゃ~~~!!』
『うぉ~~~!!』
アスタロト…否、アシュタロス、と名乗った彼がそうにこやかに言い放ったその刹那、
教室中に男女問わず驚喜に近い歓声のような叫びが響き渡る。
「……声に【魅惑】の効果があるの、ロトちゃん…忘れてない?」
「…忘れてるっぽいですよ?お姉様……」
無意識のうちにその声に含まれる魅惑効果にかかり、興奮しているクラスメート達。
そんな中、そんな生徒達とは打って変わってあきれた表情をしているディアとヴリトラ。
彼女達にはどんな術とて通用しない。
しかし、人、という種族はいともたやすく術に陥ってしまう種族でもある。
「…なんだかな~……」
…どうやら、ディアの学生生活は、これまで以上にのんびりとはいかないようである……
光と闇の楔 ~混合会議と襲撃と~
「しかし、オーディン、スレイプニルに乗ってこなくてもいいのでは?」
思わず呆れて問いかける。
というか、周囲を行き交う存在達が怪訝な表情でみているのに気付かないのであろうか。
この男は。
そんなことを内心おもいつつも、
傍らで馬の手綱を握っている年配の、片目に眼帯をしている男性にと話しかける。
何しろ彼が乗っている馬は普通のうまではない。
八本も足がある馬、などこの地上界でははっきりいって異形、もいいところ。
下手をすれば魔獣か何かか、と捉えられても不思議ではない。
「こやつに乗らずに何にのれ、と?ノルンよ」
自らに何やら意味不明なことを問いかけてきている横を進む女性。
見た目はおそらく二十歳前後。
全身を包み込むような真っ白いワンピースを着ながらも、こちらはこちらで、
どうみても頭はライオン、体は鷲、その尾は蛇、という
こちらも地上界では滅多におめにかかれない生物。
それに乗っているその様は
はっきりいって、オーディン、と呼ばれた男性と違った意味でかなり目立つ。
「あ、あの。お二方様、とりあえず、みえてきましたよ?」
【門】である【ソトホース】の許可を得て、天界より地上界へとやってきた。
門を通過し、彼女達が降り立ったのは王都から少し離れた位置にとある聖なる泉。
かの泉は天界にもっとも近い場所、ともいわれており、
聖なる場所、として地上界では神聖視されている。
そういった泉は地上界において大陸全てに何箇所か存在し、
大概、天界から突発的に【門】を通じて移動する場合には必ずその場に降り立つこととなる。
緊急の場合は、各王宮やそこそこに建造されている神殿に設けられている、
【聖なる導き】とも呼ばれている【道】を通じて移動することも可能。
自分が護衛に選ばれたのはとても誇らしくもあるが、この二人をうまく扱わなければいけない。
そう思うとどうしても緊張してしまう。
何やら言い争いを始めそうな気配の二人にはらはらしつつも、ほっとした表情で、
そんな二人に話しかけている一人の少女。
服装からしてどこかに所属している軍人のように見えなくもないが、
見た目はどうみても十代後半の少女にしかみえないのに、その服を着こなしている、
というのをみれば少女が普通の存在ではないことをうかがわせる。
長い金色の髪はみつあみにたばねられておりより表情をきりっと引き締めているようにも垣間見える。
パサッッ。
そういいつつも、手綱をもつ手を一時緩め、背後にいる二人に話しかける。
彼女の乗っているのは真っ白い馬。
が、その背に二枚の翼がついていたりする。
つまり、彼女達一行はそれぞれがそれぞれに
どうみても通常ありえない動物に乗って移動している状態。
これで目立たない、というほうがどうかしている。
まあ、空を飛んでいる、というので十分かなり目立った一行、といえばそれまでなのだが……
「そろそろ降りて歩きに変えたほうがよさそうですね。このままではかなり目立ちますし」
そもそも、ここにくるまでもかなり目立っている。
存在そのものを認識できなくさせる不可視の術でもかければすむことなのに、
彼らはそんな簡単なことすらやっていない。
もっとも、する必要性がないというのもある。
何しろ見た目どうみても、
天界にしか生息していないような生き物にまたがっているような者たちである。
どうみても天界人、とわかるのにちょっかいをかけようとする馬鹿はいない。
逆に不可視の術をかけていたとすると、
わからないままに攻撃をしかけようとする愚か者はどこにでも存在する。
あえて姿を見せることで実力を示し、余分な争いを避ける彼らの行為はあながち間違ってはいない。
「ああ。ほんと、ほら。オーディン。おりましょ。アテナちゃんもいってることだし。
あと!そのぶっちょう面どうにかしなさい!
そんな怖い顔してたら町にはいる前に追い返されるわよ?」
いまだに憮然としているオーディン、と呼んだ男性に言い放つ。
「そんな失礼な輩は排除するまでだ」
「・・・・・・・・・・・・ああもう!そんなことしたら問題になるでしょうがっ!
まったく、いつまでたっても子供なんだから。
これはやはり、ティアマト様にもう一度教育しなおしてもらったほうがいいのかしら?」
ずざっ。
その台詞に今まで能面のようにこわばっていたオーディンの表情があからさまに真っ青に変化する。
見ているものがみればおもいっきり血の気が引いた、とはまさにこういうのをいうのであろう。
とつくづく思ってしまうほどの変化。
「い、いや。補佐官様のアレは我とて遠慮……」
圧倒的な力の前に自分は無力なのだ、と昔も今もその思いは変わらない。
「なら、もうすこしちゃんとしなさいよね。この私ですら、王都テミスは視通せないのよ?
とすれば、可能性として、ティアマト様が潜伏してる可能性が十分にあるんだから」
「…え゛!?そうなのですか!?ノルン様!?」
何やらとてつもない重要機密を今、さらっといわなかったであろうか。
目の前のこの女神は。
ゆえに思わず驚愕の声を出す。
「あら?アテナちゃん、いってなかったかしら?
そもそも、今、地上界における【先見】はこの私や、アスちゃんことアスタロトちゃん。
それにユミルの水鏡でも視通せなくなるってるのよ。
となれば、私たちが視通せない存在なんて普通はありえないんだから。
可能性として、そこに補佐官様、もしくは王がいる、と考えるのは当たり前でしょ?」
運命を司るノルンや、未来を視通す力をもつアスタロト。
そして全てを視通す力をもつ、といわれている魔界のユミルの水鏡。
それら三つの力をもってしても、未来が視えない、というのである。
この運命を司る女神であるノルンは。
だからこそアテナは驚愕せざるを得ない。
そして、未来が視えない
または、まったく視通すことができない存在、といえば存在は限られてくる。
それは魔界、天界の王とその二人を補佐している補佐官のみ。
かの存在に限っては今まで誰もが試してみたがどうしても実力、本質、力の属性。
それらもろもろのことですらまったくわからない。
だからこそ、天界人にしろ、魔界人にしろ、彼らは王に畏怖し、そして敬う。
補佐官にしても然り。
「たぶん、王と補佐官様が消えたのは、何か意味があるとはおもうんだけどね。
それに、昨日、アスちゃんから連絡がはいってね。テミスで落ち合うことになってるの」
同じ能力をもっている者同士、アスタロトとノルンはよく連絡を密に取り合っている。
以前、互いに直接連絡する術はないか、と補佐官に相談したところ、
直接連絡するための道具をアスタロトとノルンは与えられている。
「…アスタロト殿がいるのか……」
昔、魔族は敵、とばかりに挑んでいき、
こっぴどくやられた経験を思い出し思わず顔をしかめるオーディン。
なら、神でない存在になってみて相手の気持ちを知ってきなさい。
とばかりに一万年ばかり力の本質を全部かえられて別の場所に放り出されたのは記憶に新しい。
それでもすでに凝り固まった性格はそう簡単にかわるものではない。
心のどこかで間違っている、とはわかっていても、行動するには自分のプライドが認めない。
そんな不安定な状態なまま、今までオーディンは過ごしている。
こればかりは自分で乗り切るしか方法はないのだが。
それを乗り切ろうと彼はまったく努力していない。
力さえあれば問題がない、そう割り切っているところがある。
世の中、力だけでは渡っていけない、というのに、である。
ゆえに、力はあれどもその性格上、重要な部署に彼をつけることはできない。
それは上層部すべての存在達が一致団結して決断している事柄。
「あんまり自分勝手な行動するようだと、カーリーの実験台に差しだすからね?」
「…ぐっ。わ、わかった……」
それが口先だけではない、と実際に以前にも幾度かあったがゆえに理解してしまう。
ゆえにこそ言葉につまるしかないオーディン。
カーリー、とは魔界に存在している魔王の一人であり、別名、残虐王。
様々な殺し方を楽しむ性格をしており、ゆえに死なない検体を常に欲している。
その点、ある程度実力のある、魔界人、そして天界人などはもっともほどよい実験体。
「とりあえずこの子達を道具の形に還しましょう」
何やらとてつもない会話をしながらも、さらっと話題をかえ、
王都から少しはなれた草原にと降り立ち、そっと自らが乗っていたキマイラに手を添える。
ノルンがキマイラに手を添えたその直後、キマイラの体全身が淡い光につつまれ、
その光はやがて一つの輪となり、そのままノルンの左手首にとすっぽり収まる。
何のことはない、ノルンがのっていた生き物は、ノルンの力によって腕輪に姿を変えたに他ならない。
天界に属している生き物は基本、その姿はあれども、地上界においては実質、その器はなきに等しい。
ゆえにこうして器である形を自由にかえることはいともたやすい。
「そう、ですね。では、私も」
もしかしたら尊敬してやまない補佐官様に会えるかもしれない。
そんな淡い期待を少しばかりいだきつつも、
アテナもまたその手を自らが乗っていた翼ある馬、ペガサスにとかざす。
それと同時、アテナのかざした手の先で淡くペガサスの全身が光輝き、
次の瞬間、小さな首飾りへとその姿を変化させる。
そんな二人の行動をみつつ、やがて溜息をひとつつき、オーディンもまた同じように行動する。
彼が手をかざすと同時、光につつまれたその生き物は、やがて小さな鳥の姿へと変化する。
その鳥はそのままオーディンの肩にちょこん、とのっかるようにして止まっていたりするのだが。
「さて、それじゃ、王都テミスにむけていきますかっ!」
ノルンとしても、何がおこっているのは知り得たい。
アスタロトから緊急的に連絡があった以上、おそらく王、もしくは補佐官のことで何かわかったのであろう。
自分達が魔界、天界をすべている王が同一である、と疑っているとしっている存在は他にはいない。
否、いるはずがない、そうノルンは思っている。
実際には、ヴリトラにも、竜王にも、ディアこと【意思】にもその考えは突き抜けなのだが。
しばしたわいのないやり取りをしつつ、彼ら…天界よりの使者である彼らはそのまま、
普通の旅人の雰囲気を纏いつつも、王都へむかって足を進めてゆく――
多世界混合会議。
世界混合会議の招集をかけたのは他ならないテミス王国側。
日程も話しあった末にようやくきまった。
しかしおおごとにしないために、それぞれがこっそりと入国する、という話しにもなっていた。
「妖精界からはこのたびは参加はなし…ですか」
「しかし、それは仕方ないでしょう。彼らはあの【欠片】を対処するので精いっぱいでしょうから」
いいつつも、自身の界においてもゆっくりとその【毒】をまき散らしている【欠片】のことを思う。
「精霊達は基本、純粋ですから、悪意といった感情には敏感なんですよ。
しかも、アレは手にしたものが心の奥底で臨む形になりますから。厄介きわまりないのです」
いいつつも、ふ~とため息をついているのは水色の髪をしている少女。
好奇心旺盛なまだ歳若い精霊達がそれを手にし…堕ちた存在になってしまった精霊もすくなくない。
そう、たった一月にも満たない間に、である。
クロノスが強制的に代表者達をあの時の狭間の空間に呼び出ししていなければ、
おそらくいまごろはもっと被害は拡大していたであろう。
…だからこそ、忌々しい。
自分達のような精霊がそういう感情を抱くのはよくない、とはわかっている。
いるがどうしてもそう思えてしまう。
「そもそも、どうしてあのとき、オーディン、あなたは何も考えずに行動するからしかたないとして。
ノルンのほうからもロキと接触、
もしくはアングルホダ様と絶対にゼウスをあわせないようにできなかったのですか?」
今さらそれをいっても仕方がない。
ないが、そもそものきっかけはかの戦いの始まりともいえる事件。
今さら蒸し返してもどうにもならない。
すでにあれは起こってしまった過去。
しかしこうなっては愚痴の一つもいいたくなってしまう。
「ウィン殿。それをいっても無駄だ。そもそも、ノルンと私たちは散々忠告した。
にもかかわらず、
その忠告を無視してアングルホダ殿とゼウスを引き合わせたのはそこのオーディンだ」
未来が【視えた】ゆえの忠告。
しかし、まったく聞く耳持たずに行動したオーディン。
少し考えれば、女性に節操がない、というか女癖の悪い彼に引き合わせればどうなるのか。
判りそうなものだ、というのに。
「まあまあ、アスタロト殿、それにウィン殿。今さらそれをいっても仕方ないでしょう。
それより、問題はかの襲撃に便乗してかなりの数の器を持ちえない輩が、
こともあろうに地上界に漏れ出していることではないでしょうか?」
混乱に乗じてしかも【窓】を使っての移動。
確かに様々な場所にて襲撃などが多発している中で【窓】を利用してもおそらく誰も気づかないであろう。
そんな神々、さらには魔界の大侯爵、ついでに精霊王の代理という存在。
彼らの会話をききつつも、招集をかけたテミスの国の王はといえばただただ黙っているしかできない。
というか彼らの会話の内容は途方もなく話しが大きすぎる。
たかが一介の人間の国でしかない自分が口をはさめる内容ではない。
「まあ、シアン殿のいうとおり、ではあるけどね。それより、シアン。
あちら側のほうはどうなっているのかしら?」
あちら側。
というのは他でもない、【意思】と【神竜】達のこと。
しかしこの場で彼女達がこの国にいる、と人間の国の王に知らせるわけにはいかない。
知ってしまえばおそらく大混乱に陥ることは必然。
「…私に聞かないでください。…ん?」
「王!た…大変です!またまたいきなり村や町の中に異形の存在が現れ、
突如として暴れ始めたそうですっ!しかもこの王都の中においてもっ!!」
バッン!
完全に人払いをしていたはずの空間。
今、彼らがいるのは、王城の地下にとある巨大な魔方陣の上に設置されているとある会場。
大概、多世界からの使者などがきたときにはこの場にて会議を行う。
この場に設置されている魔方陣は世界の力を現している、ともいわれ、
この魔方陣の上にいるかぎり、どの界のものでも力が完全に発揮されることはない。
逆をいえば全ての界のものが皆平等の力になり果てる、という効力をもつ。
そんな特別会議室の中、切羽つまったような声とともに一人の老人が駆け込んでくる。
この場に、このたびの会議に参加するものが全員そろい、話題を話しあおうか。
といった矢先の出来事。
見張りをしていた存在達もいきなりのことでどう対処していいのかわからない。
そもそも、どうして先ほどまで談笑していた相手が苦しみ出し、そのまま姿を変えなければならないのか。
悪夢の再現、といっても過言でないその光景。
一月がたち、その悪夢もようやく過去のこと、
と区切りつをつけて前向きに生きていこうとしていた人々。
その矢先といえば矢先の同じような出来事に、全ての存在達は一月前の悲劇を瞬時に思い出し、
そしてあまり前回の悲劇から時がたっていないこともあり・・・
『うわぁぁっ!!!!』
混乱は…瞬く間に誰が騒ぎだすまでもなく、誰もが騒ぎ、しずかに確実に一気に広まってゆく。
守護精霊がいるはずの町や村、さらには王都、といった場所においても、
その異形のものは瞬間的にその場にと出現し、周囲にあるもの全てを破壊しはじめる。
多の界ともまったく同時刻、同じようにして計画が動き出す。
その騒動に準じて…もう一つの作戦を反旗組織のメンバーは行うことにしている。
このたびの騒動はまさにその注意を別の場所にむけることといって過言でない。
どちらにしても、
「と、とにかく、民間人の安全が第一だ!」
しばし、どこの町や村ともなく、
誰ともいえない怒声と叫びと指示する声が空気を伝わり全世界に広がってゆく……
「…ほう。面白いことになってるなぁ~……」
思わずその様子を視てにやり、と笑う。
しかし、すぐさまに気を引き締める。
「まったく。ちょうど会議の時期にあわせて…か。あの国の王も何を考えているのだか……」
眼下にみえる地上界において、今、一つの国が他国にむけて侵攻を開始した。
その兆候は以前から垣間見えていた。
ゆえに注意深く監視していた。
「しかし…これは、虚をついているというか……」
そう、まさに虚をついている。
まさか、先の襲撃で避難民、として逃げてきていた民がよもや刺客や諜報員だなど、
一体誰が想像していたであろうか。
「やはり、あの国の後ろには反旗組織がついてるのは間違いない、な」
天界においても同じような行動が多々ある町で起こりえている。
いくら【欠片】に取り込まれてしまったとはいえ、普通ならばそれらの統制がとれるはずもない。
だが、だがしかし、【神々の黄昏】において複製した魂の欠片に特殊な規定を設けたとすれば?
そう考えるとすべてつじつまがあう。
「何しろあの道具の作り手はあのロキ、だからな……」
面白そう、という理由でどんな手のこんだ代物をつくっているとも限らない。
というか手のこんでいない代物をつくっていないほうがおかしい。
「おそらく、彼らの目的はそれぞれの場所に入り込ませている【種】を一斉に目覚めさせること」
今までの調べから、ほとんどの【欠片】は【種】と呼ばれる状態でその反応すらつかむことができない。
そこまではわかっている。
しかもその種の姿は様々で、そのあたりにころがっている石ということもありえる。
より、自らが【寄生】するにふさわしい、心、もしくは力か器、
それらを持ち合わせたものが傍にきたとき、
種はその器が心の底で今一番ほしいものへと姿を変える。
ひどいものだと、種が人型をとった、という報告すらきいている。
その場合はあくまでも、それを手にした存在の心の奥底の理想像のままに。
性質が悪いにもほどがある。
バッン!
「大変です!ヘイムダル様!各町や村でなぜか一斉に【堕ちた存在】達が発生しました!
ヴィシヌ様よりの要望により、急ぎ作戦会議室までご足労くださいっ!」
外界を眺めつつそんなことをおもっていた彼…ヘイムダルの元へと
あわてた様子の人物が一人駆け込んでくる。
その背に真っ白な翼が生えているが基本姿は人のそれとかわりがない。
外界の様子を視ることができる、【水鏡】。
魔界にあるといわれている【ユミルの水鏡】とはまた異なるが、
この【水鏡】は今現在のどの界の様子をただ、写し視ることが出来る。
それを通じて視神ヘイムダルともよばれる彼は、各界を常に監視し、
何か異常が起こった場合、そく各界に伝達を飛ばすように心掛けている。
「やれやれ…残虐王カーリーのやつが、数多のヤツラにその力を魅入らせたわけではないだろうに」
時折、たわむれにちょっかいをだし、それゆえに残虐性をもつ存在がでることはある。
しかしこのたびの一件はカーリーの干渉はごくわずかだ、と彼とて理解している。
だからこそため息をつかずにはいられない。
「…はぁ。はやくアングルホダが目覚めて、あの馬鹿を止めてくれないかな……」
それは本音。
おそらく、欠片とはいえ完全に【ロキ】を止められる存在は世界広し、といえども、
彼の妻であるアングルホダ以外にいないであろう。
「……ヨムンガルドに誰かお願いにいってもらうかな……」
そのとき、すくなくともトールにだけはお願いできない。
何しろその姿が悪、と決めつけて幾度かトールはヨムンガルドに攻撃をしかけたことがある。
オーディンがオーディンならばその息子も息子、といったところなのだが。
そもそも、自身が親友、といってはばからないその親友の息子を攻撃するなどどうか、ともおもうのだが。
まあ、彼ら神々にとってそういったことは日常的な出来事なのであまり深く考えていないのかもしれない。
そうつぶやきつつも、ふと。
「…そういえば、ロキの魂を探しにいったはずのヘルはいったいどこにいるんだろう?」
いくら探しても、あれからの足取りがつかめない。
それが…こわい。
彼女はあるいみ純真。
ゆえに逆に反旗組織に丸めこまれない、ともいいきれない。
そうなれば…冥界側全体が少なくとも、反旗組織側に人質にとられた、といっても過言でない。
そう簡単にいうことをきく、とはおもえないが、父親の魂をダシにつかわれればどうなるのか。
それはヘイムダルとて予測不可能。
「とりあえず、今はこの事態の収拾に動くとしますか」
どうぼやこうとも、愚痴をいおうと今の状況が改善されるわけではない。
ならば出来ることからしてゆくしかない。
ゆえに、
「今いきます」
水鏡のある間から立ち上がり、作戦会議室がある建物へとヘイムダルは足をむけてゆく――
会議の内容もこれまたさらり、とながしつつ。
さんざん含みをもたせておいてさらっと流す、これぞダイゴミ
コンセプトは人間の国王の前でさらりと天界側における現状を暴露している神々だったり。
次回で襲撃の様子にいけるので、ようやくヘルちゃんがだせるv
フェンリルがでるところまで20K以内でいけるかな?
ともあれ、今回もあまり話しがすすんでおりません。