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光と闇の楔  作者:
42/74

光と闇の楔 ~大侯爵とディアの正体?~

ようやく、学園生活、のログ?の意味が生きてきます!

…ここまでくるのに約40話・・ってどうだろう?

まあここまでくれば展開はかなり早い、と自覚してますけどね(いやほんと

ようやく学園を巻き込んだ騒乱?の開始です♪

※ちなみに、水晶さんの定義については、「授業と侵入者」ですでに説明してあります。

「…は?」

思わず耳を疑った。

「いや、今、何と?」

問い返すその声はおそらく自分でもはっきりとわかるほどに間抜けであろう。

「地上界側のこのたびの大会は形を変えて継続しているようではありますが、

  とりあえず天界側のほうは問題なく進行しています。

  こちら側のほうはさほど被害はなかったのですけど……

  そもそも、あの【力】は紛れもなく【王】のもの。

  気になるのがあの竜王シアン殿が人間界のために動かれているようなのです」

王が姿を消している、というのは上層部の者のみが知る事実。

しかし、たしかに全ての場所においてあのようなことができるのは【王】以外の誰もありえない。

一瞬のうちに、多々と発生したゾルディを消し去る技など、神々の誰も持ち合わせてなどいない。

しかも、全てにおける発生源となるべき心すらをも浄化して。

「視神ヘイムダル殿よりの報告ですので、間違いはないとおもわれます」

各世界を監視する立場にある神であるヘイムダルがそういっているのならば間違いないのであろう。

そして、さらに。

「…この報告も間違いない、のか?」

とある報告に目をやり思わずもう一度確認する。

「はい。ヘイムダル殿も叫んでおりました。…神竜様は何を考えておられるのでしょうか…?」

「…我に聞くな……」

久方ぶりに大人しくしていたはずの、あのじゃじゃ馬姫が動き出した可能性がある。

それだけに頭を抱えずにはいられない。

確かに、反組織が動き出したとなれば、面白いことが好きなかの神のこと。

率先してかかわろうとするのは判らなくもないが…

「……で、その神竜様に勝った人間がいる…と」

さらに何かがあるかもしれない、と詳しく調べてみたところ、神竜ヴリトラは、ヴーリと名を名乗り、

何と地上界側のギルド協会学校から生徒、として大会に参加していたらしい。

問題は、その生徒として参加していた彼女に勝ったものがいる、という報告である。

さらに調べてみれば、唯一、戦闘部門でゾルディの脅威に打ち勝ち正気を保っていたままの生徒らしい。

ゆえに、必然的に戦闘部門の優勝者になってしまったらしいのだが……

「……もしかしたら、補佐官様かもしれないな。可能性としてはありえる。

  ならば、我らが【王】もまた、地上におられるやもしれん。

  …急ぎ捕獲隊…もとい、捜索隊を組織したほうがよいか?」

可能性は遥かに高い。

というか、天界にも魔界にもその存在が感じられない以上、

比較的可能性が高い界は地上界、という意見はでていた。

「どちらにしても、今後のこともある。常にこちら側からも地上界に派遣員を選ばなくては。

  地上界の存在達は、かの欠片を見つけ出すことはまず困難であろうしな」

何しろ欠片、とはいえ神の力をもつ代物。

それがどんな形をしているのか、手にしてみなければ判らない、というおまけつき。

魔界においては、かの力はその気になれば判りやすいほどに見つかるであろう。

魔の力が満ちている中に、神の力はひときわ目立つ。

その波動の形式さえつかめれば、という注釈はつくが。

「オーディン様を会議に参加させるという話しがありましたし。

  とりあえず、先を見通す力をもつノルン様を推薦してはいかがでしょう?」

運命を司る神、ノルン。

その彼女を推薦してくるあたり、伊達に秩序と繁栄を司っているわけではない。

そのあたりの人選もこなれたもの。

「そうだな。ヴィシュヌ。ではそのようにまずは表向きの訪問目的を作らねば……」

運命を司る神であるノルンでもおそらく、【王】や【補佐官】のいる場所はわからないであろう。

が、しかし、何かの参考になるかもしれない出来事は起こった。

神竜ヴリトラに勝ったという生徒。

おそらく全てはその生徒が鍵を握っている。


しばし、天界において今後の対策と、行動が秘密裏に話しあわれてゆく……




           光と闇の楔 ~大侯爵とディアの正体?~





「ようやく落ち着いてきたわね~」


第二月ロイヤルから月がかわりめまぐるしく月日は過ぎていった。

その間、各界においてそれぞれ混合会議を行おう、という話しがまとまったらしく、

第4月ドゥドズの最中に会議が行われることに決定した。

本来ならば、第二月の最中に混合会議を開きたかったらしいが、ゾルディ達による大襲撃。

それにより計画はかなりずれこんだらしい。

第三月は日々発生するゾルディの残党狩りであった、といっても過言でない。

ようやく、一月が経過し、街道なども落ち着きを取り戻しはじめている。

破壊された村々や町も一月経過し、順調に復興をみせている。

それでも、いまだに大きな首都や王都、それに町などには避難民が身を寄せていたりするが。

第三月シマヌから第四月ドゥドズへ。

明日よりその第四月にと突入する。

そしてまた、ようやく協会側から明日より通常学習に戻る、と報告があった。

第四月は場所にもよるが、基本、地上界における、半球においては雨が多い。

これよりのち、赤道、ともよばれている太陽の通り道である【光の道】より北にある大地は基本、

嵐や雨といった自然現象に多々と見舞われることとなる。

赤道、と呼んでいるのは基本、伝道師達や神々、といった存在達のみ。

普通の存在達は、太陽の通り道を畏怖の念と敬意の念をもって【光の道】と呼び称している。

文字通り、その道ぞいにいれば、太陽は沈むことがない。

それはこの地…否、惑星が太陽の周りを自転しながら回っているからに他ならない。


「ほんと、何かいろいろとあったものね~」


ようやく教師達も落ち着きを見せ始めている。


「ほんと。ようやく私もゆっくりできる~!!」

しみじみと語る生徒の横で、おもいっきり共感しつつ叫んでいるヴリトラ。

「…ヴリちゃん。きちんと役目は終えてきたんでしょうね~?」

そんなヴリトラをじと目でみつつもいっているディア。

「うっ!と、とりあえず私がいなくても大丈夫そうっぽいし!

  それに、ここで会議が行われる以上、私もここにいたほうがいいかもしれないって意見でたし!」

そもそもその意見をだしたのはヴリトラ本人。

それに何よりも。

「それに、学校って楽しいんだもん!口うるさい頭でっかちの輩達だけでなく、いろんな人がいるし」


霊獣界において自分にいろいろと口をだしてきていた輩は多々といた。

といっても名目上は教育係だの何だのといった名目をもっていたが。

…とくに、立ち振る舞いについての教育係とはヴリトラは相性が悪い。

自由が好きなヴリトラと、神として型にはめようとする教育係り。

それで衝突しないほうがどうかしている。


「まあ、本来の真実と伝わっている物事の誤差もわかっていいのはいいけどね」


事実、学校で教えている出来事は、実はまったく異なっている者も多々とある。

たとえば、世界に対する伝承や、そして自然界における定義等。

真実がどのように歪んで伝わっているのか知るにはよい機会。

もっとも、全て真実を話しても、今まで同様に都合のいいように人々は解釈し伝えてゆくのであろう。


「ま、いいけどね。とりあえず私は第六月ウルルで受ける資格、何にしようかな?」

年に二度ほどしかない資格試験。

すでに第一月ニサンにおいて薬学免許試験、C級を所得しているディア。

「医学試験にしてみるかな?」

とりあえず薬学はすでにC級を所得しているので受けるのに問題はない。


医学試験をうけるにあたり、最低でも薬学免許C級は必要とされている。

今後これから起こることを考えれば、その資格をとっておいたほうが便利といえば便利。

何しろいろいろと応用がきく。


何もなければ旅の商人の資格を取りたいところだが、それはまあ次の機会にするとして。

…そもそも、いつ代替わりの影響が強くなるかわからない時期にそんなのんきなことをしている場合でない。

というのはいくらディアとてよく判っている。

「…大姉様から連絡があったけど、おそらくこの百年、早くて五十年以内にありそう、という話しだしな~」


昨夜、大姉たる、この太陽系の主体ともいえる【恒星】とも呼ばれる【意思】より連絡が入った。

今、出ている案はいくつかある。

とりあえず馬鹿ばっかりやっている魂達を壁に加工して影響がでないように、

自分達の重力の範囲外に設置するという案。

そしてまた、それぞれの惑星や衛星のみに保護を重ねかけする案。

一番いいのは、この太陽系全体を完全に隔離してしまうように結界を施すことなのだが、

そこまでの力は今の意思達はもちえていない。

【意思】達の力は、基本、そこそこの【惑星】に生きる者たちの力を糧とする。

一つ一つの惑星ならばいざしらず、広範囲を取り囲めるほどの生命力は今現在、この太陽系には存在していない。

だからこそ、自分達の力をも分け与えて誕生した魂であるロキの協力が必要不可欠となってくる。

彼が目覚めてどのような行動を起こすかはわからない。

まあ、話しあいの結果、ここにいたくない、というのであれば別の場所に移動することも視野にはいれている。


彼の望みは家族との団らん。

それが全てであったというのをディアはより理解している。

ただ、今は悲しみゆえに周りがみえなくなっているだけ、ということも。

「…げっ!?そんなに早いの!?お姉様!?」

そんなディアのつぶやきに思わず驚愕の声をあげるヴリトラ。

今一度、完全に全ての原因となるものを浄化したとして、

それほど早くに代替わりの災害が訪れるのならば、逆に【惑星】そのものの力が低下しかねない。

「だからちまちまとしてるんじゃないの。そうでなかったらさくっと面倒なのでいってるわよ」

それは本音。

そもそもこんなまどろっこしいことをせずに、

さくっと全てを一度完全に【昇華】し【浄化】してしまえばよいだけのこと。

それをしないのは、いつ訪れるかもしれない【災害】に備えているがゆえ。


「?ディアさん?それにヴーリちゃんも何はなしてるの?」


見た目が七歳程度、ということもあり、ヴリトラの愛称は、すでに【ちゃん】で位置づけられているこのクラス。

他のクラスの存在達からも、おおむねその人懐っこさからヴリトラはかなりかわいがられていたりする。

何しろお菓子をあげたりすれば満面の笑みで喜びを表すのだから、はたからみていてもかなりほほえましい。

もっとも、お菓子をあげるからついてきて、といわれてほいほいとついて行くこともたびたびおこっている。

なぜか邪な考えを抱いてそのような行動をしたものたちは

こぞって一時的な記憶喪失と成り果てていたりするのだが。

あまり力をもたないただの存在が、神竜、ともよばれている存在にかなうはずもない。

そういったことも時々あるものの、おおむねギルド協会学校自体は平和そのもの。

この一月はほとんど生徒達もいろいろな行事や復興などにあてがわれて勉強どころではなかったが。

ようやく日常がもどってくると連絡があったのは今朝がたのこと。


「こっちの話し。そういえば、皆は第六月の試験、どうするの?」

とりあえずさらっと話題を変換するのはいかにもディアらしい。

そんな話題変換に気づくことなく、

「前回はうけなかったからな~。私たち。とりあえず何かうける予定ではあるけど。

  今のところだとどの試験がいいかもよくわからないのよね~」

「でもさ。どちらにしても、卒業までにそれぞれの分野において最低C級はとらないと卒業認められないしね」

特にここは総合科。

そういったことはかなり厳しい。


ギルド協会学校の基本的な卒業資格を取るためには、

資格試験のそれぞれの分野において最低でもC級所得をすることがあげられる。

ゆえに、学校を卒業した生徒はどこにでても恥ずかしくない知識と経験を持ち合わせている。

だからこそ、ギルド協会学校の評価は果てしなく高い。

技術や知識等に関しては絶対に妥協を許さない。

それがギルド協会が徹底して守っている事柄。


たわいのない学生らしいやり取り。

と。

『総合科C組A在籍のディアさん。理事長室までお越しください』

クラスの教壇の横にある水晶珠が淡く光り、そこから声が教室中にと響き渡る。


緊急連絡用の通信をも兼ねている水晶。

そこから放送が入る、ということは何か急ぎの用事がある、ということに他ならない。

「ディアさん、なんかよんでるわよ?」

「みたいね」

「この前の大会のことかしら?」

何しろ学生でありながら優勝した、というのはかなり珍しいらしく、

様々な国などからも落ち着きはじめて問い合わせがきているらしい。

もっとも、状況が状況であったがゆえに、協会側も上手にあしらっているらしいが。

「?お姉様に用事?もしかしてア~ちゃん関係?」

「まさか~。いくらあの子でもここまではこないでしょ…いや、でも、まさか……」

ヴリトラに指摘され、思わずその可能性に思い当たり。

「・・・・・・・・・うん、やりかねない、わね。とりあえず気をつけておくわ」

下手に探りをいれれば確実に気づかれる。

この国に入ってきているのは知ってはいた。

ギルド協会の本部に出向いていたことも。

しかし今日の行動まできちんと把握していなかったのも事実。

二人のやり取りに首をかしげるクラスメート達をそのままに、教室を後にしてゆくディア。

彼の性格上、ありえないことはありえない。

その可能性に思い当たり、とりあえず万全の態勢にて理事長室へとディアは向かってゆくことに。



「失礼しま…す」

がらり。

とりあえず呼ばれたゆえにやってきた。

一瞬そこにいるはずのない…否、来ていたのは知ってはいたが、まさかここで出くわすとは。

しかしこちらが気づいている、と知られてもおかしくもあり、また理事長達に気取られるわけにはいかない。

理事長室の扉を開くと、そこにいるはずのない、黒髪の美青年、

といって過言でない男性が座っているのが見て取れる。

気配を普通の人のそれとあまり変わりなくしておいて正解。

思わず心の中でそう突っ込みをいれつつも、

「総合科C組Aのディア。ただいま到着いたしました。何か御用でしょうか?」

声のもつ雰囲気もいつもと多少変えているので気づかれていない、そう思いたい。

部屋にはいるとそこには、理事長と学校長、そして目の前にはディアはよく見知っている、

しかし表向きは絶対に知っているはずのない美青年が応接間のソファーに座っていたりする。

「ああ、来ましたね。ディアさん。とりあえずそちらにおかけください」

「え?あ、あの、授業がありますけど……」

というか、彼の横には座りたくない。

断じて。

少しの気配でもおそらく彼は気づきかねない。

それほどよく彼は自分の元によく意見を請いにきたり、もしくは知識を学びにやってきていた。

だからこそ次に行われる授業をダシにしてこの場から立ち去る機会をうかがっているディア。

「かまいませんよ。すでに次の授業担当の教師には話しをつけてありますから」

…話しはつけなくてもいいですっ!

思わずそんな理事長の台詞に内心突っ込みをいれるディア。

それでなくても、部屋に入ってきたときからこちらを探る視線がとても痛い。

というか思いっきり内部を視通そうとしているのがありありとわかる。

簡単に精霊術のように見せかけて内部が視えないように装っているのでそうは目立たない、とはおもうのだが。

「とにかく、お座りなさい」

「は…はぁ。では、失礼します」

いいつつも、真横、ではなくなるべく端のほうにちょこん、と促されるままに腰かける。

「あの?ところで?こちらの方は?」

とりあえず聞かないとおかしいであろう。

ゆえにソファーの端っこのほうにと腰かけ、目の前の理事長達にと問いかける。

同じソファーに腰かけている青年。

その整った顔立ちに長く漆黒の黒髪。

見る存在を思わず見とれさすほどの容姿と美貌の持ち主。

彼が何ものなのか、知ってはいるが知らないフリをしつつも戸惑ったフリをして問いかけるディア。

おそらく、第三者がみてもディアがただただ戸惑っているようにしか見えないであろう。

そう、表面上、においては。


部屋にはいってきた少女。

大会で優勝したという少女に会いたい、と面会を申し込んだのは先刻。

普通の面会では断られたがゆえに、仕方がないので身分を出した。

その結果、とりあえずは取り繕ってくれることが決まったらしく、その生徒をわざわざ呼び出したらしい。

ギルド協会側にとって、魔界の仮にも大侯爵、という立場にある彼の願いをないがしろにはできはしない。

それゆえの行動。

その姿を視た時に一瞬、目を思わず見開いてしまったのはおそらく誰にも気づかれなかったであろう。

世の中、似た存在は三人はいる、とはいうが、ここまで似すぎている、というのはありえるのか。

否、ありえない。

そもそも、天界側の補佐官と、

魔界側の補佐官がまったくほぼ髪と瞳の色だけ異なり同じ容姿をしているように、

人間界側にも髪と瞳とがことなるだけのまったく同じ容姿のものがいる、などと信じられない。

というかありえたら怖い。

そんな考えが一瞬のうちに彼の脳裏を駆け巡る。

そんな彼の思惑を知ってか知らずか、

「え…あ、あの、授業がありますけど……」

言葉を濁しつつも、この場から立ち去りたい感をひしひし感じる台詞を発するその少女。

確か名前をディア、といったが。

名前からもあやしすぎる。

そもそも、ティアマト様に似通った名前というのも気にかかる。

「かまいませんよ。すでに次の授業担当の教師には話しをつけてありますから」

目の前の少女にそんなことをいっているギルド協会の理事長、となのった人物。

正体を見極めようと内部を透視しようとしてみても、まったくもって視通せない。

よくよく視てみれば、精霊術か何かで全身を覆っているらしい。

当人が意図してやっているのか、それとも精霊達が率先してやっているのか。

そこまではわからないが、すくなくとも、精霊達が率先して協力しているように感じられなくもない。

もしも報告にあったとおり、目の前の少女が【言霊使い】であるならばその可能性もありえるかもしれない。

が、どうしても別の可能性が頭から離れないのはこれいかに。

「とにかく、お座りなさい」

「は…はぁ。では、失礼します」

いいつつも、真横、ではなくなるべく端のほうにちょこん、と促されるままに腰かけてくる。

「あの?ところで?こちらの方は?」

戸惑いを隠しきれずに彼のほうをみつつも問いかけてくるそんな台詞に対し、

「ああ。そういえば説明がまだだした、ね。彼があなたをここに呼んだ理由です。ディアさん。

  何でもあの大会で何があったのか、あの場で残っていた貴方に聞きたいことがあるそうです。

  この御方の名前はアスタロト様。…ここまでいえば、この御方がどなたか、あなたにはわかりますか?」

戸惑い気味な表情を浮かべているディアにと、それとなく遠慮気味に問いかけている学校長。


判るも何も、おもいっきり知っているにきまっている。

しかし、それを口にだすわけにはいかない。

それゆえに。


「アスタロト?…あれ?それってたしか、魔界の大侯爵の一人の名前ではなかったですか?

  まさか、ですよね。そんな身分ある人がこんな人間界の、

  しかも学校の一介の学生にしかすぎない生徒に用事があるなんてありえませんし」

ディアの言い分は至極もっとも。

そもそも彼のような立場にあるものならばどこからでも情報は手にいれることができる。

ここにくる理由として考えられるのは、たった一つ。

すなわち……疑われている、これにつきる。

「ええ。そのまさか、のようなのですよ。我々としても大侯爵様の願いを無下にはできませんしね。

  それで、彼曰く、後学のためにも学校を見物してみたい、と申し出されまして……」

そんな厄介な申し出しないで!ロトちゃんっ!

思わず内心ディアは叫びをあげるものの、その動揺を表にだすことなく、

「…あ、あの?まさか…その、私に案内を…とか、いいませんよ…ね?」

恐る恐る、ものすごく厄介な可能性にと思い当たり、おずおずとといかけるディア。

「はい。あなたに案内を頼みたい、とおもいまして。

  大会の様子を話しながらだと時間も短縮できるでしょう?」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

なんで変なところで気をまわすの!?

この人間!?

にこやかにいいきる理事長の言葉に思わず無言となってしまうディアは間違っていない。

絶対に。

「というわけですので、よろしくお願いしますね」

いいつつもにこやかに手を差しだしてくるアスタロト。

「私のようなものが手に触れるのは畏れ多いですから。

  あ、先生、私より先生のほうが案内をするならば……」

「いえ、彼のたっての願いでして。そもそも通っている学生に説明してもらったほうが、

  いろいろと庶民の考えもわかるのでそのほうがよい、とのことです」

・・・・・・・・・・・・・いらない知恵をもってきて言いくるめてるし……

彼の性格はディアとて十分承知している。

いるがゆえに、おそらくこちらを疑って逃げ道のないようにしているのが嫌でも理解できる。

できるからこそ、その罠にたやすくひっかかりここで正体をさらしたくはない。

「…あの、私に拒否権は……」

「ありません。魔界との平和な付き合いのためにも頑張ってくださいね」

にこやかにそういわれれば、これ以上拒否をする理由がない。

そもそも、魔界の大侯爵の申し出を一介の学生が拒否できるはずもない。

「…わかり…ました…」

とにかく無難にここをやり過ごすことを考えましょう。

そう考えを切り替え、がくり、とその場にうなだれるディアの姿が

その場においてしばし見受けられてゆくのであった……


「…ティアマト、様?それとも、ルシファー様、ですか?」

とりあえず、というのでひとまず校舎の説明をしながらも

前後にわかれて説明がてらに校舎内を進む二つの人影。

そんな中、突如としていきなりそんなことを投げかけるアスタロト。

人はフイをつかれればどうしてもどこかで隙ができる。

それゆえの問いかけ。

「…?どなたかと間違えていませんか?」

おもいっきり確信をついて歩きながら話しかけてくるアスタロトの台詞に一瞬立ち止まりつつも、

にこやかに、勘違いです、とばかりに言い放つ。

そもそもそんな陽動作戦にひっかかるようなディアではない。

彼らを育てたのもまた【意思】なのだから彼らの性格は嫌でも理解しつくしている。

「いや、私の知っている方々にあなたはよく似ていらっしゃるんですよ。

  その方々は自分で自らの雰囲気を変えるのが得意でしてねぇ」

ここまで似ていて、他人のそら似、とはありえない。

伊達にどちらの界にも様々な知識を学ぶためにおしかけていたわけではない。

それはまるでキツネとタヌキのばかし合い。

しばし互いによるそんな互いを探りつつ、ごまかしあう光景が、校舎内において見受けられてゆく……


「お姉様~~!!」

ディア一人だといろいろと大変かもしれないので、竜族である貴方もいったほうがいいでしょう。

そんな余計な気遣いにより、教室からだされ、ディアを探していたヴリトラ。

その視線の先に探していた人影をみつけて思わず叫びつつも駆けりよる。

今の彼女の頭の中には先刻ディアと交わしたやり取りは奇麗さっぱり消えている。

つまり、完全に失念しているがゆえにいつものようにぶんぶん手をふりつつも近寄ってゆく。

「…げっ!?」

間が悪い、といえば間が悪すぎる。

案内をしている中、どうして授業中のはずの彼女がやってきているのかがわからない。

ゆえに思わず声をもらすディア。

そんなディアとは対照的に、走ってくるその少女の姿には見覚えがあるアスタロト。

というか彼のような立場のものならば誰でもその人間形体の姿は見知っている。

それゆえに、一瞬、口元に笑みを浮かべつつ、

「おや?これはお久しぶりです。ヴリトラ様。…で?まだシラをキリ通されるおつもりですか?

  ヴリトラ様がそのようにおよびするのは、世界広しとはいえ、決まっていますよね?」

にこやかにその場にて礼をとりながらも、目の前にいるディアにむけてにこにこと問いかけるアスタロト。

そう。

神竜ヴリトラが姉、と呼び称す存在。

それは彼が知っているうちではたったの二人。

天空神の補佐官ティアマトと、魔神の補佐官ルシファー。

しかも、様づけをしていることからしてアスタロトの中の疑念が確信にと変化する。

「あれ?って、あ~。タロちゃんだ~!ひさしぶり~!」

がくっ。

何とも間のぬけたその呼び方に思わずその場にて脱力しそうになってしまう。

ヴリトラにとっては久しぶりの邂逅、といえるのでそう呼んでしまうのは仕方がない。

タロ、とはアスタロトの幼名であり、

ゆえに犬みたいな名前だ、と散々からかわれるきっかけとなったあだ名の一つ。

そんな二人のやり取りを一瞬ほほえましく思うものの、

しかしもう少し空気をよんでほしいと願うディアの心はおそらく間違ってはいないであろう。

「ヴリちゃ~ん?もう少し、空気を読む、というのを覚えましょうね~?」

「え?え?あ…あああ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイぃぃっ!」

それでなくても先ほど会話していて判っていたのに、一緒にいるところでそう呼んだらどうなるのか。

それが判らないヴリトラではない。

ただ、きれいさっぱり失念していた、というだけなのだが。


「…さて、『Terrain Asta。Je donne tu un ordre。Gardez-le secret』

―― アスタロト。汝に命ず。他言は無用。


ヴリトラの登場により、確実にこのままごまかすことは不可能、ともいえる。

ゆえにこその先制攻撃。

ズッン。

ディアの言葉とともに、周囲の空気が瞬く間に凍りついたように重くなり、

アスタロトに至ってはそのまま硬直してしまう。

刹那。

周囲の空間が奇麗に切断され、彼らと【学校空間】は確実に隔離される。

今、ディアが放ったのは、魔と聖の力を加えた力ある言葉。


まるでその場から切り取られたように、彼らの周囲は瞬く間に漆黒の闇へと変化してゆく……






…しかし、恐ろしいことに、WG・・・すでに80K超えました…あはは(汗

…よく短編、としてあげてた100K以上、200Kの未満になるかな?ううむむ……

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