光と闇の楔 ~部門別優勝者と勧誘者達~
今回もあまり話はすすんでません・・・
とりあえず、大会関係はある程度終息・・かな?
ざわざわざわ。
いったい何がどうなった、というのだろう。
各国より正式に発せられた表明は、何でも『反逆者』と呼ばれる存在達がいるらしい。
その存在達は天界、魔界において長年、上層部とやり合ってきたらしいが、
近日、どうも互いに手を結び、その魔の手をここ、地上界にむけてきた、とのことらしい。
先日の一斉襲撃は彼らの侵攻行為である、と正式に発表された。
天界側と魔界側から正式に通達が出た以上、地上界側としても隠し通しておくわけにもいかない。
天上界側の反組織の名前を【ハスター・ホテップ】
魔界側の反組織の名前を【テケリ・ショゴス】
その二大勢力の名前が今さら、といえば今さならがら全世界にと伝達された。
どうにか襲撃を逃れた人々は大きな町や王都にと身を寄せている。
そもそも、かの襲撃で家家なども壊された。
いまだに街道にでる【ゾルディ】達はいまだに類を見ないほどに増えている。
人々の心が不安になればなるほど、それらの数は増えてゆく。
まさに出口のない迷路に入り込んだかのような現状。
しかし、それでも日々は過ぎてゆく。
これからどう動くのか、何があるのか、先を見通せるものは…いない……
光と闇の楔 ~部門別優勝者と勧誘者達~
人、というものは弱いようでいてとことん強い。
いつまでも悲観にくれているばかりの種族ではなく、前をむいて歩くこともできる種族である。
確かに、いまだに各地を襲った襲撃の痕跡は残っている。
それでも、助かった存在達は多々といる。
少なくとも、もうダメかもしれない。
そうおもったときに、神の加護が確かに発生したのだから。
世界全てを覆い尽くした不思議な力。
一瞬、気がとおくなったとおもうと、次に気がついたときには全ての異形の存在達が消滅していた。
しかも、体を乗っ取られていたはずの知り合い達もまた元の姿にもどっていた。
これぞ奇跡、といわず何というのであろうか。
「しかし…ディア、あれでいいの?」
「だって面倒だし」
そういう問題だろうか?
思わず頭をかかえるケレス。
その場にいるギルド職員とて同じこと。
たしかにあの場において最後までディアのみが残っていた以上、
必然的にディアの優勝が決まってしまったのは事実。
なぜかあの後、目覚めた参加者達はこぞって戦う意思を消失していた。
新たに優勝者を決めようとしても、自分達はまだまだ戦うに値しない、とみな謙遜なのか本気なのか、
とにかく全ての参加者達が辞退した。
戦闘部門だけでなくほとんどの部門でそのような出来事が今回は重なり、
仕方なく、それまでの総合結果のみでそれぞれの部門の優勝者を決めることとなったこのたびの大会。
本来ならば毎年、優勝者はギルドを挙げて祝うことにしているのだが、今の状況が状況。
今は少しでも動力があるならば、町などの復興に力をそそがなければならない、と皆が皆、理解している。
だからといって、一応、仮にも優勝者。
ギルド協会としても面子もある。
しかし学生なので辞退させてください、そういっても一応、形だけでも、というのでしぶしぶ了解したのだが。
「で、仮そめの代役をシアンさんにお願いした…と……」
何だかものすごく同情してしまう。
短い付き合いとはいえディアの正確はケレスなりに把握したつもりではある。
そんなディアの昔からの知り合い、という彼はおそらくこのようなことは幾度も経験したことがあるのであろう。
いつからの知り合いなのかディアに聞いても昔から、としかいわないので
そのあたりの付き合いはよくわからない。
よくよく考えれば自分はディアのことをまったく知らない、ということにいまさらながらに思い知る。
同じ寮に入っているとはいえ、そもそも出会いは学校の授業中。
たまたまあのとき自分と同じように召喚術が使えたのがほかならぬディアのみであった、というのもある。
「まあ、シアンはああいった類のものは扱い上手だからね」
そもそも、そうでなければ長、という立場は務まらない。
様々な問題などを解決するのもまた長の手腕一つとなる。
基本的に、竜族にも階級があり、それぞれの得意分野においてそれぞれ階級が決まっている。
それら全ての重鎮を取りまとめているのが長であり、
そして彼らの神である神竜と繋がりをもつことが許されるもの。
それから竜族の長たる、【黄竜】。
竜を神聖視している大陸においては、かの存在のことを【麒麟】とも呼ぶ。
「だからって人にマルナゲ、というのはどうかとおもうんだけど……」
大会が執り行われている会場から戻ってきたのはつい先日。
戻ってみるとその惨状におもわず唖然としてしまった。
王都テミスはまだ守護精霊の力が強かったためか、はたまた心強い兵士達がいたためか。
とにかく害はさほどなかったらしいが周辺の村や町はそうではなかったらしい。
今はとにかく、人手が何よりも足りないらしく、ギルド協会学校生徒全員が、いわばボランティア同然に、
それぞれの町や村などの復興人員にと回されている。
そしてまた、ギルドに登録している生徒達は、そのランク別に役目が割り当てられ、
そこそこ実力があるものたちは野外にぼっ発している魔獣たちの討伐を命じられているこの現状。
【奇跡】の後に一時ナリを潜めていた魔獣たちだが、時間とともに再びその姿を現しはじめている。
魔獣達…ゾルディ達の元となるのは、人の【念】。
強き思いがその形をなす。
ゆえに人々の中から不安要素が消えないかぎり、それらが少なくなることはまずあり得ない。
そして、それらの発生はより人々により不安な心を掻き立てている。
「よし…これで、ここは完了…っと」
ザッン。
ディアの言葉と同時、目の前で対峙していた見た目は猫。
しかしその大きさはちょっとした家程度よりもかなり大きい。
ついでにいえば大きく裂けた口からは絶えず牙がのぞいており、
真っ赤に裂けた口は思わずそれだけで免疫のない存在ならばまちがいなく硬直する。
ディアが手にしている剣…これもまたケレスには不思議でたまらないのだが、
どこからともなく剣をとりだしたディアが【ゾルディ】と呼ばれている魔獣に切りつけただけで、
なぜにこうまでしていともたやすく対象者が【霧散】するのか。
文字通りの【霧散】。
ディアが相手を貫くと同時、周囲に黒い霧のような存在がその対峙している体から発生し、
それらは周囲の空気に溶け消えるようにと霧散し風の中にと溶け消える。
討伐においてはヴリトラも参加したがっていたのだが、
霊獣界の混乱も地上界ほどではないにしろ多少はある。
何ものとて心の休息というか平穏はほしい。
そのときに、自分達の【神】がいるべき場所にいる、というのは少なからず力となる。
…もっとも、ディアからすれば、魔界、天界どちらにも顔を見せる気はさらさらないのだが。
そもそも、便宜上、【王】として存在するように設定していたものの、
自ら行動していたのは、【補佐官】という立場でのみ。
いずれは全てを任せてかつてのように自主性に任せたいディアからすればこれはまさによい機会。
ゆえにしばらくは様子をみるためにあえて力を貸すきも、もしくは口出しする気もまったくない。
そのせいで、今現在、魔界、天界における側近の役目を担わされている存在達や、
それに準ずる役職の存在達はかなり大変な目にあっていたりするのだが。
もっとも、魔界においてはカーリーがその性質を生かせて嬉々として狩りを楽しんでいるようではあるが……
カーリー。
それは残虐王、ともいわれている魔界の王の一人。
彼はもっぱら戦闘を好み、そしてまた戦乱を好む。
時折、誰かまわず気にいった存在に干渉し、その力を与えることにより世界を混乱に導こうとする、
少し変わった性格の持ち主。
彼に魅入られてしまうと、種族、界を問わずに必ず残虐性が増してしまう。
むしろ理性がことごとく押し殺され、その方面のみ目立ってしまう。
もっとも、かの存在よりも力ある存在ならばその干渉をあっさりとはじくことは可能だが。
どうやらこの事態を面白がって多々とした世界の様々な存在達に干渉しているっぽいが、
とりあえず魔界の幹部達が放っている以上、別段、ディアとしても口をはさむ気はさらさらない。
「剣一つでゾルディを消し去る実力っていったい……」
目の前でいくらその現実をみせられたとしても、いまだに理解がおいつかない。
ゆえにぽそり、とつぶやいているケレス。
それぞれにギルドのランクからしてみれば中盤に位置している色をもっている二人に与えられているのは、
王都から少し離れた裏街道に出没するゾルディ達の駆逐。
いまだにギルドランクが最下位のものたちは主に町の中で復興の手伝いなどを行っている。
戦えるものはひとまず街道の安全を確保するためにギルド協会、そして王国をあげて活動している今現在。
「ゾルディを構成している核をつけば誰にでもできるんだけどね」
そもそも、ゾルディはいくら強い念から生まれる、とはいえ、基本、それらには核、というものが存在する。
それらをはじめにつぶす、もしくは破壊、浄化することにより個体を保っていた力は瞬く間に解消される。
つまり…核を失えばどのようなゾルディでも瞬く間に形を失い、自然に還るしかない。
それは周囲の【気】の流れ、自然界にあるべき力の流れを見極められる存在であれば誰にでもできること。
しかしその誰にでもできることが今の世ではほとんどできない存在が増えているのも事実。
「そもそも、核云々っていうのがよくわからないし…というか、何でディアはそこまで詳しいわけ?」
幾度ともなくきいている素朴な疑問。
「私としたらむしろ判らないほうが不思議なんだけどね」
それに戻ってくる返答はいつも同じ。
ゆえにケレスとしてはため息をつかざるを得ない。
この手の質問はいつも堂々巡りになってしまう。
だからといって疑問が解消されるわけではない。
「さて。と、このあたりの浄化はすんだし。ひとまず町にもどりましょ?」
今の一体において、どうやら確実にこの周囲の【負の気配】は解決したらしい。
ざっと周囲を【視て】みても、そのような気配は今のところ発生していない。
周囲を見渡してざっと目につくのは、鬱蒼とした木々のみ。
ここにくるまで一つの宿を経由していることもあり、
周囲に旅人や商人、といった姿はまったくもって見受けられない。
街道の途中にあった宿においても、先日の襲撃の被害はあったらしい。
が、当時たまたまその場にやってきていた旅人のおかげでどうにか難を逃れたらしい。
そのときに追った怪我を甲斐甲斐しく宿の娘が手当をかねて世話をしているらしいが、
どちらをみてもどうやら双方ともまんざらではないらしく、
おそらくあのまま付き合いが始まりそうな雰囲気ではあった。
ふとここにくるまでに立ち寄った宿のことを思い出しそんなことを思うケレス。
そういった余計なことを思い出す余裕が生まれたのもまた、周囲から感じる何ともいえない圧迫した雰囲気が消滅したからであろう。
ゾルディが発生しているときは、すくなからずとも周囲の雰囲気、そして大気に影響を及ぼす。
どんな鈍いものでもその変化はわかる、とまでいわれているほどの変化。
不思議なことに浄化された後には、それらの空気が嘘であったかのように静まり返る。
「…というか、ほとんどディア一人で片づけたわよね……」
自分も強くならなければ、と自ら心に決めて、あえて外にでることを選んだ。
というかディア一人でいかせるのが心配だった、というのもある。
学校側としても生徒一人をいくらギルドに所属しており、大会優勝したとはいえゾルディ討伐。
などというかなり厄介極まりないことに向かわせることは忍びない。
ゆえに、町からでるときには最低限二人以上で、という制約をもうけているのも事実。
その結果、ディアとケレスがコンビをくみ、こうして目撃が報告されたこの場にやってきているのだが。
ディアにいろいろとアドバイスをもらいつつ、どうにか火の加護の名も伊達ではないよう、
多少は火の扱いができてきだしているここ最近。
それでもディアの説明は完全にケレスはよく理解できないのだが。
タマゴだの何だのといわけてもピンとこず、
ならば、原子だの元素だのといわれてもさらに意味がわからずに。
そしていまに至っている。
しいていえるとすれば、水の加護の影響で回復術が扱えるようになった、ということくらいであろう。
そんなケレスの心情を知ってか知らずか、
「とりあえず、町にもどりましょ。それとも、風竜でもよぶ?」
「…遠慮させてもらいます」
さらっと竜族を呼ぶ、などといわないでほしい。
切実に。
しかもそれが洒落ではなく実際にできるのだからさらに恐ろしい。
そもそもディアの交流関係というか交友関係はどこまで深いのか。
気になっているのは他にもある。
ディアの知り合いというあのシアン。
なぜかどうみてもお偉いさんとしか思えないようなギルド協会の存在達が頭をさげていたのが気にかかる。
もしかしてもしかしなくても、
あのシアンはかなり竜族の中でもそこそこの地位についている竜なのかもしれない。
どうしてもそんな思いが頭から離れない。
事実は、そこそこどころか竜族の中では長、という立場にあるシアン。
いまだにケレスはその事実を知らされてはいない。
ゆえに自分の思いこみだけで様々葛藤を繰り返していたりする。
たわいのないやりとり。
しかしこれが大会後、ほぼ毎日のように続いていれば嫌でも慣れてしまう、というか慣れてくる。
それが逆に…ケレスからしてみれば怖い。
今まで恐怖の対象でしかなかった【ゾルディ】がいともあっさりと倒される様を目の当たりにし、
今までそれに抱いていた恐怖が薄れているのを自分でもはっきりと感じ取れる。
だからこそ怖くもある。
今までの自分の価値観、というものがことごとく壊れてしまいそうで。
人は、意識しないままでもどこか保守的な立場というか保守的な思考を守ろうとする傾向がある。
今のケレスはむしろその方向がよくでている思考性があらわれている、といってよい。
しかし当の当人はそれは無自覚であり、だからこそ漠然とした不安が募る。
何かのきっかけさえあればそういったことはすべて無意味だ、とわかるのであろうが、
そのキッカケをいまだにケレスはまだつかめないでいる。
「せっかくきたからこのあたりの薬草とか採取していきましょ」
一人戸惑うケレスをそのままに、にこやかに現状においてできることを提案しているディア。
生きる、という意味でいうならばディアの提案はもっとも適切なもの、ともいえる。
いえるが…その行動はディアにとって意味をなさないものであり、ケレスを思いやってのこと。
その事実にいまだケレスは気がついてはいない。
「え~。今年の大会は何か大変なことになりましたが。
とりあえず、戦闘部門に関してはひとまず区切りがついた、ということになりました。
まだ料理部門などにおいては集計結果がでていません。
むしろ芸術・美術・建造部門などに出店されていた作品の数々は復興にだいぶ役だっていますが」
実際に使用する際よりも小さく創られているとはいえ、簡易的に元の大きさ。
つまりは実際に使用する大きさまでに形を戻せばどこにでも移動が可能。
ゆえに家などを失った町や村などではそれらの出展作品が今回に限ってはかなり重宝していたりする。
創作料理などに関しても、基本、あまり材料費などを使わないものが多々とあったがゆえに、
復興作業を行う村などにおいてはすぐに簡単につくれる料理、としてかなり評価が高い。
その点でいけばこのたびの大会に参加していた参加者達は
あるいみ高評価を得た、といっても過言でないであろう。
もっとも、その前提に村などが襲われて壊滅的な被害があったがゆえ、という注釈がつくものの。
いまだに基本的には大会期間中、ということもあり、それらの評価は、各村などに存在している、
ギルド支部に評価を投票してもらうことにより、順位をきめることにして
そのあたりの部門優勝者を決定する。
ということでギルド上層部の判断はまとまったらしい。
あくまでも大会を貫こう、とするその気概はさすが、としかいいようがないが。
伊達に全ての界においてギルド協会、という組織を普及させているわけではない、ということなのであろう。
世の中全体がいまだに落ち着いていないものの、それでもやはり日々は過ぎてゆく。
とりあえず今現在の現状を伝えるためにと本日は生徒全員がギルド協会学校にと集められている。
そもそも、この時期、第二月は大会があることもあり、基本、学生が学校にくることは滅多とない。
しかし今回、不確定要素である襲撃、という出来事が起こったがゆえに、いつものように異空間、
ともいえる場所での大会続行は不可能に近くなってきた。
そもそも、他の場所が大混乱に陥っている最中、何をのんびり大会なんて遊びをしているのか、
と批難を受けかねない。
ゆえに形式的に、しかも世間に貢献しつつ、それぞれの分野において臨機応変の措置が施された。
例をあげれば、美術建造部門や、創作料理部門等。
話しをきけば、他の界もさほど地上界とあまり変わらない現状と成り果てているらしい。
そんな最中、学生達にと説明しているのは、この学園の一応管理者であり、校長を務めている人物。
「まあ、そんな現状の中、不確定要素が加わりはしましたが、
ひとまず戦闘部門において我がギルド協会側よりこのたび優勝者が決定いたしました。
本来ならば正気を取り戻した参加者の皆様方にきちんと決勝として戦ってほしかったのですが、
みなさんどういうわけかこぞって参戦を事態されたがゆえにそのような結果になりました」
正気を取り戻した参加者達は、運営側から他の場所も同じようなことがおこっている、ときき。
ほとんどの参加者が故郷、
つまりは残してきた家族や友人を心配してそのままそれぞれの場所にと戻って行った。
戻ってゆく彼らを引きとめることなど運営側としてもできるはずもなく。
何かがあればギルド協会の支部によるように、とそれぞれに伝達してそれぞれを送り返した。
結果として、最後まで実質的に参加者、として残っていた形となったディアに優勝が回ってきたのは、
それは結果論、ともいえるべきこと。
…もっとも、かの襲撃がなくてもディアは確実に優秀できるほどの腕前はかるくもっていたりするのだが……
「それでは、大会に貢献した、ディアさん、前へ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え゛?」
さすがにこのことは伝えられていなかったがゆえに思わずその場にて硬直するディア。
そもそも、自分は目立つ気などはさらさらない。
ないのにこの現状はどうにかしてほしい。
しかも、名指しをされた以上、校長が熱演している舞台の上の教壇にいかなければならないっぽい。
「…とことん、不可視認証ほどこしときましょ……」
今後、自分の容姿が目立つことになれば、面倒なことこの上ない。
ゆえに、呼ばれた以上、しかたないにしろ。
この場にいる全体に自分の容姿が認識できないようにこっそりと細工しておく。
その細工の方法は至って簡単。
自分の気配を周囲の気配と全く同じにすればよいだけのこと。
それだけで、そこにいるのにそこにいない、という認識にと嫌でも陥ることとなる。
いきなり名前を呼ばれ、しぶしぶながらもディアはため息をつきつつも、
そのまま並んでいた生徒達の間をすり抜けて舞台上にとあがってゆく……
「へ~。あの襲撃の中でも普通に動いていた参加者、ねぇ」
その報告におもわず笑みが漏れる。
予測外の襲撃ではあったがそれはそれなりに楽しめた。
そもそも、魔界において戦闘が嫌い、という存在はあまり存在しない。
ゆえに魔界側としては逆にかの襲撃は盛り上がるイベントの一つとして捉えられていたりする。
もっとも、そのイベント云々で実際に負傷者がでてしまっている以上、こうしてせっかく楽しんでいた、
というのにずるずると執務に引き戻されてしまったのもまた事実なのだが。
日々あがってくる襲撃の被害報告。
部下達がこぞってきちんとある程度報告をまとめてはいるが
それらに目を通すのは審問官の王としての役目があるからに他ならない。
何しろ被害などに関する苦情や訴えなども日々増えてきている、ときく。
面倒なことは全て部下達に任せたいのは山々なれど、しかし仕事は仕事。
そんな中、人間界での大会での出来事で興味をひかれることを聞いた。
日々仕事、ほとんどが書類作成などに追われていた彼が興味を引くのはごく当然の結果、といえよう。
さらに興味をひかれてよく調べてみれば、
その人間の代理を務めているのが、かの【シアン】というのだから余計に興味がわくというもの。
「ふむ。一度、あちらの実情を詳しく知る、という名目をもって、いってみるのも面白いかもな」
そもそも、大会優勝者に他界の存在が接触するのは多々とあること。
ゆえに自分が動いてもさほど違和感は感じさせないはず。
あのお堅いイメージの強い竜王シアンが動くほどの人物。
それだけでも動く価値は十分にある。
「よし。我は今から地上界にいって、ことの次第を自ら確かめてくる。後はまかせたぞ」
『はっ!』
尊敬する上司に信頼を向けられる。
それが彼らにとっては何よりの誇り。
魔界において全てが実力主義の中、彼らの上司たる人物は彼らの個性をかなり重視してくれ、
その能力も高くかってくれている。
他の魔王達や大侯爵、といった存在達は自分達のような下っ端はただの使い捨ての駒にすぎない。
そう捉えている輩も多々といる、というのに。
彼はそんなことはなく、自らの内部に抱え込んだ全ての存在を等しく大切にする。
ゆえに彼の部下となった存在達は主のためならば命も問わない、というような存在達ばかりとなっている。
時折、オチャメないたずらなどをしたり、いきなり行方不明になったりすることはある上司ではあるが、
彼らにとっては尊敬する主には変わりがない。
大侯爵アスタロト。
彼は40の悪魔軍団をその内にと擁しており、いわば魔界の実力者の中で五本の指に入るほど。
その能力も希少性が高く、過去と未来を見通す力をも持ち合わせている。
運命を司る神、ノルンとは古くからの知り合いであり、それぞれが情報を用いて、
確実なる未来を予測、予見することもしばしば。
魔界においては基本、力が全て、という考えの持ち主が多々といる中、
教養や個々の知識が何よりも必要、と現実的な考えを持ち合わせている魔王の一人。
ある存在などは、彼を知識の神などと呼び称すほどもいるほど。
それほどまでに彼の学問などに対する執念は果てしない。
それらの能力などもあり彼がついている役職は、魔界の中でもかなり重要な部署である、審問官、という地位。
その審問官の中でも一番高位である、第八位階という位をもち、別名、審問王、ともいわれているほど。
彼は優秀なものであれば種族を問わずに仲間に引き入れようとする。
それがたとえ一部では貧弱で使い道があまりない、といわれている人であろうとも例外ではない。
彼のような考えをしている魔界における実力者はあまりおらず、
ゆえに一部の他界のものたちからはかなり信頼が厚い。
「最後までのこっていて、しかもシアンを動かせるほどの人間。もしかして【言霊使い】…か。
それとも……」
竜王ともあろうものを扱える人間の存在など限られている。
かなり情報が隠されているがその人物の傍にはなんとあの神竜すらも一時傍にいたらしい。
留学生としてその人間がいるギルド協会学校へ入学しているという報告をうけたときには思わず目を丸くした。
彼がそのように驚愕の表情をするのは滅多とないこと。
ゆえにこそ、シアンを動かし、さらには神竜をも動かしたとおもわれる人間に興味がわく。
「…それに、もしかしたら……」
もしかしたら、いまだに上層部でもつかめない、【王】の行方がわかるかもしれない。
何しろユミルの水鏡ですら【王】達の行方はわからなかった。
【水鏡】いわく、かの存在達は世界そのものといっても過言でないので自分の力では到底見通せない、とのことらしい。
それは能力を多少なりとももっているアスタロトは詳しく説明されなかっが何となく理解できる。
そもそも、彼の能力、そして運命を司る神であるノルンの力をもってしても、
王、そして補佐官達の運命はまったくもって読めない、のである。
魔界の王、そして神々の王とも同じ状況であるがゆえに、ノルンとアスタロトはあり得ないけども、
あり得るかもしれない一つの結論、というか思いを互いに抱いている。
その考えはあまりにも突拍子もないので他のものに話したことはないのだが。
すなわち。
同じような【世界そのものといえる存在】が複数同時期に存在することはまずあり得ない。
ありえるとするならば、それは一つの存在の影、もしくは分身、ということになりえる。
それから導きだされる答えは…もしかすると、光と闇。
その二つを束ねる王とは、実は同一なのではないか…という、何とも聞く存在がいれば卒倒しかねない結論。
もっとも、それらが全て事実であることを、アスタロト達は知りえない。
否、知らされてなどはいない。
予測だけでそこまでの結論にたどり着けているアスタロト達はあるいみ異端、といえなくもないであろう。
「まずは、直接あってみての話し、だな」
いいつつも、そのまま地上界に出向くためにと【門】へと移動する。
かの先で彼にとっては驚愕すべきほどの出会いと。
それに伴う驚愕の真実が待っているなど…
当然、今のアスタロトは知るよしもない……今は、まだ……
そろそろ本編で主人公たちとともに活躍する悪魔さんが出張ってきました
・・・天界側からはおそらく次の次くらいかな?
しかし、ワールドゲーム、うちこみしてるのはいいんですが、
きがついたら50K超え・・あれ?
・・・文字数制限上、短編ではむりそうな気配になってます(汗