光と闇の楔 ~大会終幕?と新たな問題?~
ギルド主催の大会の様子がほとんど明記されないままに、
とりあえず無難というか無事(?)に大会もこれにて完了v
…この程度のオブラート表現なら年齢規制は関係ない…とおもうんですけど、大丈夫かな?
次回にてさらっと優勝者のお祝いもどき?をやって学園生活に戻ります
まあ、この大会は一つのきっかけにすぎませんからね。このお話しの中では。
とりあえずギルド協会学校に様々な種族が入り乱れるきっかけとなる出来事のとっかかりなわけですし。
(優勝者がいることにより様々な種族がよってくる)
ただいま、またまたこっそりワールドゲームの別バージョン。
第三弾打ち込み中~。打ち込み終わったらまた投稿しますv
『我、世界を再構築するもの』
心のどこかで自分がそのようにいっている声を感じ取る。
何がおこったのか理解不能。
より強い力を感じ、自らその力の波にのってみた。
その直後、ものすごい苦しみと痛みとともにすべてが解放された。
しかし次に気がついたときには、自分であって自分でなく。
閉じ込められている場所から自分が起こしている行動を視ているような錯覚。
否、錯覚ではない。
自分の体が自分の意のままに動かせない。
口からもれるのは自分の声のはずなのに自分の声ではない、何か。
何がどうなっているのか。
さらに見知った者たちをも自らが傷つけていっている。
どうして…どうして、どうして?
わからない。
何がおこったのか。
異形のものと対峙していた自分。
そしてその戦いの最中、気がついた新たな力。
その力もまた異形の存在が植え付けた破滅の力だったのか?
判らない。
だけども…誰か、誰か自分を止めてほしい。
このまま自らの意思でなく誰かを傷つける様子など見たくはない。
誰か…誰か、助けて……
光と闇の楔 ~大会終幕?と新たな問題?~
この力は何なのか。
わからない。
だけども、とても気分がいい。
こんな気持ちは初めて。
力に酔うな。
かつて師がそのようなことをいっていた。
しかし自分はそんなことは決してない。
そのように戒めて今まで行動しそして今日に至っている。
そう、自分は…我は目の前の存在を喰らいつくすためにここにいる。
違う!
違わない。
自らの中でせめぎ合う何か。
だけども、とっても気持ちがいい。
だから、
『我、全てを破滅せたまわん』
力とは全てを破滅させるためのものだったではないか。
そう。
だから、自分は…この力を全て破滅にむけるのみ!
「あらあら……」
心の中で葛藤しているのは気づいていた。
いたがものの見事にそのまま力に呑みこまれてしまっている目の前にいる対戦相手。
「もう少し、抗うくらいの強い心くらいは持ち合わせてるとおもったんだけどね~」
彼女の心のありようによって、周囲の反応も違ったというのに。
だけども、選んだのは彼女。
そして…きっかけを与えたのも、また彼女。
だからこそ。
「その選択がどのような結末をもたらすのか、あなたはあなた自身で見届ける必要性がある」
一つの欠片が目覚めれば、それに連動するように目覚めるように【鍵】が掛けられているかの【欠片】。
彼女は自ら気づかないうちに、その【鍵】を開けてしまった。
それをどうこういうつもりはない。
ないが、人の心、というものがいかに欲望に弱いか、改めて認識させられてしまう。
ゆえにこそ、ため息をつかずにはいられないディア。
それとほぼ同時。
『が…ぐわぁぁっっっっっっっっっ!?』
刹那、会場内、いたるところにおいて何ともいえない叫びが周囲にと響き渡る。
種を持ちえる者たち全ての【闇】に呼応し発生した様々な形をもつ【ゾルディ】達。
それらはそのまま【種】を持ちえる器を呑みこみ、【堕烙者】と成り果ててゆく。
「な…何これ!?」
いきなりのことに思考がおいつかず、思わず叫ぶしかないケレス。
「何、って、ゾルディの大量発生?」
そんなケレスにのんびりと答えているヴリトラ。
「って、ヴーリちゃん、何のんびりといってるのよ!?どうなってるの!?」
この会場でこのようなモノが発生するなどありえない。
何かがおこっている。
それだけはわかる。
一瞬、ギルド側が用意した大会用のイベントとも思えたが、どうみてもそうではない。
伊達に、【呪】や【ゾルディ】に実際に出くわしてはいない。
それらがもつ独特の【気】はケレスは嫌でも理解している。
だからこそ…確信がもててしまう。
恐ろしいことに。
会場…自分達の周囲で発生しているこれが現実のものであり、
そして…人の器を得て【堕烙者】として誕生してしまった、というその事実に。
『な…こ、これはいったい!?
って、どうやらこの現象は全ての会場において…って、みなさん、早く避難を…うわぁぁっ!?』
さすがに進行役の係り員も突然のことに戸惑いを隠しきれない。
何よりも彼ら係り員に義務つけられている連絡用のバッチより、
全ての箇所において同じような現象がおこっている、と連絡がはいればなおさらに混乱せざるを得ない。
しかし彼らは大会運営者側として観客達をより安全に避難させる必要性がある。
ゆえにどうにか理性を総動員し、
『お、おちついてください!おちついて!
みなさん、すばやく【道】よりこの場から離れてくださいっ!』
ここから離れれば安全かどうかはわからない。
しかし、ゾルディの発生条件ならばわかっている。
【興奮】と【熱気】そして【闘気】が充実しているこの場では
より強い【ゾルディ】が発生する可能性がはるかに高い。
係り員の叫びと、観客たちの悲鳴が会場内にと響き渡ってゆく……
相手の意思がだんだんと侵食されてきているのがはっきりとわかる。
少し冷静になり、【ゾルディ】が発生してもその本質を見極めれば、
それに対処する方法はいくらでもある、というのに。
どうやら観客席側にしろ、その他の会場にいる存在達にしろ、そこまで気がまわっていないらしい。
ところどころそれに気づいて対処している場所もあるようではあるが。
繰り出される攻撃をかわしながら、無とするのもだんだんと飽きてくる。
全てを【視て】みるがどうやらどこの【場所】も同じような現象に陥っていたりする。
「…唯一、汚されなかったのが精霊界のみってどうなのかしら……」
思わず本音がぽつり、と漏れ出してしまうのは仕方ないであろう。
他の界においてもすくなからずとも、
相手の思惑どおりに発生している【欠片】の現状を【視て】しまえばなおさらに。
このまま放っておいてもいいのだが。
だがしかし。
「…とりあえず、とっとと仮初めではあるけど、収束させてもらいますか…ね」
いつ、なんどき、代替わりの予兆が現れるとも限らない。
強制的ではあるが、こればかりは仕方がない。
どちらにしても、どこで力を行使したのか、おそらく【彼ら】には理解できるはずもない。
少なくとも、自分がここにいる、ということを知らない限りは。
「ヴリトラの力を久しぶりに解放、といきますか」
会場内においては大混乱を極めているものの、闘技場の中において、
すでに数十体と成り果てた異形の存在。
それらと対峙しているディアはまったく動じることなくにこやかにそう言い放ち、にっこりと一瞬ほほ笑む。
そのまま、ちらり、と視線をヴリトラのほうにとむけるディア。
「~~~っ!?」
その視線に気づき、思わずその場に硬直する。
その視線がもつ意味。
それが判らないヴリトラ、ではない。
トッン。
ディアが異形の存在に触れると同時に霧散するかつて、【人であったはずの存在】。
しかしその姿は今は原型をとどめず、ただただどす黒い何かの塊のように垣間見える。
まるで舞うように、ディアがその体に触れるたびにそれらの体は霧散する。
その光景はかなり異様でしかないのだが、会場内における観客達は今やそれどころではない。
彼らはみな、自分達の身を守ることで精いっぱい。
何しろ、観客席のいたるところで【ゾルディ】に乗っ取られた…否、入りこまれた【堕烙者】は発生している。
それらから逃げることのみで彼らは必至。
だからこそ気づかない。
ディアの…闘技場の中にいるディアの雰囲気が完全に変わった、というその事実に。
『L'intention est mon intention tu』
――汝が意思は我が意思
ふわり。
ディアが言葉を紡ぐとともに、柔らかな空気が周囲を包み込む。
それまで騒ぎに翻弄されていた観客たちの行動も一瞬、その変化に気づき思わず立ち止まる。
あきらかに、自分達の周囲の空気が変わったことに戸惑いを隠しきれない観客たち。
しかも彼らの目の前に突如として出現した【ゾルディ】とおもわしき存在も戸惑っているように垣間見える。
『Le tu est ma partie, un fragment de mon battement』
――汝は我が一部、我が鼓動の欠片
全ては欠片であり、そして鼓動の欠片、ともいうべき存在。
その存在意義の力そのものに呼びかける旋律。
この旋律をもってその力を解放させるようにそのように創りだしている。
『C'est mon intention par pouvoir du tu j'ici maintenant』
――我今ここに汝の力を我が意思のままに
どくんっ。
久しぶりにきく旋律。
すべてにおける力が呼応し熱くなる。
「?ヴーリちゃん?!」
突如として横にいるヴーリの様子がおかしくなったことに戸惑いの声をあげるケレス。
それでなくても何がどうなっているのかわからない。
ディアと対峙していた相手がいきなり異形の存在へと変わり果てた。
それだけではない。
しばらくすると、観客席にいる観客達の間からもいきなり異形の存在が現れ始めた。
そしてそのまま攻撃を始めている異形のものたち。
周囲はもはや大会どころの騒ぎではなくなっている。
辺りかまわず聞こえてくる悲鳴と嗚咽。
嗚咽もまた悲鳴にかき消され、収拾のつかない騒ぎと成り果てている。
異形と化したものが誰かを傷つけると、その存在もまた異形の存在と化す。
そんな現実を目の前に突きつけられた存在達の精神はもはや限界に近い。
人が人を押しのけ、我先に助かろうとする輩の姿も多々とみえる。
まさに阿鼻叫喚、といって過言でない。
目の前で繰り広げられている現実が現実、と認識できない。
そんな中、ヴーリを守らないと、とその気合いのみで理性を保っていたケレス。
そんな背後でヴーリの様子がおかしくなり、悲鳴に近い声をあげてしまう。
ケレスは気付かない。
今、ディアが紡いだ言葉。
それこそがヴーリ…否、ヴリトラの力を完全に本当の意味で解放する、というその事実に。
そしてまた、ディアが何か言葉を紡ぎだしたと同時、あきらかに周囲の空気が一変する。
何が何だかわからない。
「…ディアの…言霊使いの…能力?」
ケレスからしてみれば、そうとしか思えない。
何といっているのかわからない。
悲鳴にかき消され、ディアの言葉は観客席にまでは聞こえてこない。
しかし、何か歌のような旋律を紡いでいるのは何となくなぜだか理解できる。
人々を襲っていた異形の存在もその異変に気がついたのか、ぴたり、とその動きをとめている。
それが余計に会場全体の不気味さを引き立てているのだが。
…人は、極限の状態に陥ったときにその心のありようをよりつよく発揮する。
そしてその心の醜さは、【欠片】の格好の糧となり【器】と成りえる。
【欠片】に対抗するのは至って単純。
ただ、【思いやりの心】を持てば自然とその【力】は【飽和】され浄化される。
この状況の中、そのような心をもつものはごくごくわずか。
逆に恐怖に支配されている存在達に迫害をうける始末。
…本当、人、というものは、
否、どうして知性をもった存在達はこのような心を持つようになってしまうのか。
その光景を呆れつつも視ているディア。
ただ、互いに協力する心、相手を思いやる心。
それらが強くあってほしい、それだけだ、というのに。
極限の状態に陥るとその心はいまだに完全に【人々】の心に思い浮かばない。
いつかはその心が常に表にでてくること。
それがディアの…否、【意思】の願い。
そうなればこの世界は自らの【理という名の楔】の檻に入れこむ必要性はなくなる。
一番いいのは【内部で鼓動する命】すべてが助け合いの心をもちあわせること。
そのための、理。
そのための楔。
かつてその制約を設けていなかったがゆえに他の命すらをも破滅に追いやろうとした種族達。
わざと新たな【理】を創りだし、監視するようにしたのは、彼らの心を鍛えたいがゆえ。
だけども…どうやら、なかなかそうはうまくいかないらしい。
ならば、自分にできることをするまで。
『Je l'aime et c'est des garçons』
――愛し子達よ
ディアの言葉とともに、瞬間的に会場全体が水をうったように静まり返る。
さきほどまで聞こえていた悲鳴も何もかもが嘘のように。
まるでその先の言葉を誰もがまっているかのように。
『Dans notre une facilité et reste』
――我が内にて安らぎと休息を
ディアが最後まで言葉を紡ぎ終えたその刹那。
会場……否、世界における全ての【場所】。
【惑星上に存在するすべて】の場において、漆黒の闇が広がってゆく……
闇はそのまま、そこそこにいるすべての存在を包み込み、そのまま生命全てを抱擁し呑みこんでゆく。
それはほんの一瞬の出来事。
抗うことも許されず、有無を言わさず呑みこまれてゆく存在達。
闇は安息であり、そして始まり。
今、ディアが行った行動。
それは……全ての【悪意の結晶】ともいえるヴリトラの力を解放し、
世界すべてに放たれていた【心】全てを一度【喰らわした】だけ。
ヴリトラの存在意義。
それは世界全ての存在達の悪意を管理し、その身をもって浄化すること。
それこそが彼女が生まれた存在意義。
彼女がいる限り、全てを破壊しくつすほどの【心】は基本、産まれることはない。
しかし、その【力】全てが発揮されることはまずない。
その力は強大すぎるがゆえに、基本、【意思】からの【解放の旋律】がなければ発揮されない。
自らの欠片の意思をも加えた旋律がもたらす意味。
それは、【意思】としての【力の欠片】の発動をも意味している。
全てを一度【内部】へと還りゆかせ、そこにて【心】を【喰らわせる】。
おそらく、呑みこまれた存在達は何がおこったのか理解不能、であろう。
その力に耐性がないものは、何がおこったか理解しないままに、一度、内部へと還りゆくしかない。
ある界においては、【光の王】の力として、ある界においては【闇の王】の力として認識されているその力。
しばし、世界は一度、一時、眠りの中に誘われてゆく……
「なんか今年の大会はいろいろと予想外なことが起こりまくりましたが……
とりあえず、他の参加者が戦闘不能となっていますので、必然的にあなたが優勝、ですね」
「……はぁ……」
こういう場合、喜んでいいのか呆れていいのかがよくわからない。
そもそも、あの程度の戦いでほとんどの参加者が戦闘不能になり果てるなど
一体どんな精神力をしているのやら。
ゆえにディアからすれば呆れるしかない。
気絶から解放された者たちはなぜかこぞって闘志を無くしている今現在。
中にはほとんど虚ろな状態になりはてているものも多々といる。
「…と、いうか。貴方様の気をうけて無事な存在のほうがあまりいない、とおもうのですが……」
横では騒ぎの原因、というかあの現象を起こした存在に思い当たり、
あわてて駆けつけてきたシアンが頭を抱えつつもぽそり、と呟いていたりするのだが。
同時期、すべての界において発生した、すべての存在を包み込むほどの圧倒的な【気】。
それは威圧感ともとれれば、安らぎともとられる不可思議なもの。
心のどこかで恐怖し畏怖しながらもその力…闇に包まれ安心したのも事実。
瞬く間に突如と出現した光に、そして闇にと全てのものが包まれていった。
そしてその闇や光が消え去った後にのこったのは、意識を失った多々とした存在達の姿のみ。
あれほどいたはずの異形の姿をした【ゾルディ】の痕跡はまったくもって見当たらなかった。
そんな途方もないことを成し遂げられる存在など、はっきりいって限られている。
それは、【王】とも【意思】とも呼ばれている存在の仕業に他ならない。
天界、そして魔界側は【王】の力が発動したのをうけ、おそらく今後騒ぎが再び大きくなるであろう。
それらは容易にシアンからしてみても予測はつく。
だからこそ頭を抱えずにはいられない。
「多少、【在り方】としての力を会場らに放っただけなんだけどね~」
「…十分すぎます」
そもそも、本当の意味での【王】としての力を発揮したのだからかなうものがいるはずもない。
【意思】は【王】であり、ただ、その形を明確にしていないだけに過ぎない。
その事実を竜の長となるべき存在は嫌でも学ぶ。
「ロキ君の思いの欠片はまだ残ってるみたいだけど。お姉様?」
かの【力】の発動は、ヴリトラにも関係がある。
そもそも、かの力はヴリトラの力というか存在を介して発せられたもの。
「まあ、一応、彼は耐性もってるからね~」
伊達にこの【場】における【意思】達により創られた魂というわけではない。
多少の抵抗力はその存在のあり方、誕生の仕方からしてついている。
「?…とりあえず、しばらくは混乱を鎮めるために大会側としても大変ですが。
あなたもギルドの一員として働いてもらうようにはなりますが」
ギルド協会学校の生徒は基本的に一時的とはいえギルドの一員、という扱いとなる。
しかもディアに至っては正式に一応ギルドに登録している。
ゆえにギルド本部からの依頼は基本的に断れない。
確かに今だに様々な場所で参加者、そして一般人達が倒れている現状では、
大会どころの騒ぎではないのであろう。
シアンやヴリトラの言葉の意味は、目の前にいるギルド職員には判らない。
そもそも、ギルド協会本部のほうで大会の会場で何かあったようなので緊急的に送り込まれた。
その先でみた光景は信じがたいもの。
なぜかほとんどの存在達が一斉に倒れているという不可思議な現象。
しかし、ギルド協会本部から出た直後からそのような光景は町のいたるところで垣間見ていた。
ゆえに嫌でも理解できた。
大会の会場においても襲撃があり、そして不可思議な力によってそれらの脅威が取り除かれた、ということが。
一番被害がひどいであろう…これは他界よりの報告ですでに明らかであったのだが、
とにかく他界の大会側においても一番襲撃がひどかったのは、戦闘部門における会場だったらしい。
ゆえに数名が戦闘部門の会場に派遣され…そしてそこで立っている参加者らしき人物をみつけ今に至る。
その場に立っていたのは四名。
正確にいうならば、一人は気絶しているらしく、青年の背に背負われている。
ギルドの参加証を見せてもらい、そのうちの一人が大会に勝ち進んでいることを確認した。
一人に関してはフリーパスを持っていることからどこかの種族の管理職か何かについている存在であろう。
そう判断した彼ら達。
「まあ、目がさめたら、何がおこったのかまず覚えてないでしょうし。ここにいる存在達は」
ディアの言い分は至極もっとも。
そもそもこの空間においてはそういったものはすべて【なかった】ことにできる一つの性質をもっている。
正確にいうならば、【なかった】という感覚をその身に記憶させることにより、
一部記憶を改竄することが可能。
彼らとて仲間であった存在たちを自らの手で傷つけた、という記憶を持っていたくはないであろう。
それでも心の奥底では自らが手にかけた、という記憶と後悔の念は残る。
その心をバネにして強くなるか、それとも歩みを止めるか、それは各個々の資質次第。
「ですねぇ。ここの場は特殊、ですから。しかしここにいた人々はまだいいですよ。
この会場は特殊な空間によってすべて【保護】されていますからね。
しかし、外はそうはいきません。現に……」
絶対に【死】ぬことがないこの空間においては何がおこってもさほど問題ではない。
しかし、ギルド側が主催している大会で騒ぎがおこったというのに何もギルド側が対策をとらなかった。
それが問題になってしまう。
ゆえに職員の一部をそれぞれの【界】において派遣しているギルド協会側。
ディアの言いたいことを察知し、派遣されてきたギルド職員の女性がしみじみうなづく。
予測していたとはいえ、やはりこの【会場】においては【外】の世界のような惨状となっていない。
ここでいう【外】とは普通に暮らしている大地を意味する。
この場では特殊な【理】と【約束と制約】の元、安全が保障されている生命。
しかし、普通はそういったことはあり得ない。
この空間のみが特殊、というだけに他ならない。
ゆえに、同じように攻撃をうけた各町や村などにおいてはこんな生易しい現状ではなく、
悲惨を通り越した惨状が広がっている。
ここから無事に帰路についたとしても、その故郷が無事、とは今の現状では保障できない。
それほどまでに情報は錯綜し混乱している。
とりあえず判っていることは、大きな主要都市や王都などといった場所は力ある守護精霊の力のもと、
どうにかそれらを撃退することができ、さほど被害はでていない。
しかし…守護のない小さな村や町に至ってはどうなっているのか連絡がまだ入らない以上、
確定したことは伝えられない。
「とりあえず、みなさんが目ざめたら、
大会開始のときと同じようにみなさんを集めて説明する必要があるとおうもんですけど?」
何の心構えもなく故郷に帰り、そこで絶望した人々が取る行動。
そして…ここでは【抑えられて】いるものの、それから【発芽】する可能性のある【種】達。
ディアが先ほど行ったものは完全に浄化させるものではない。
表に出てきているものは先ほどの【力】で浄化し【喰われ】たがゆえに問題はない。
しかしそれらはまだ発芽していない【種】に関しては作用していない。
種の状態となっている【欠片】はあくまでも睡眠状態であるがゆえに
外部からの干渉を一切受け付けない性質をもつ。
外部からの干渉の拒絶。
その根本的な元となっているのは、ほかならぬこの【惑星群】の元となるべき【意思】の欠片。
ゆえに小さな【第三の意思】程度の力では干渉することもできない代物。
そこまでロキに関して詳しく説明する必要もないし、またする気もない。
そもそも、彼を創りだしたときにはすでにヴリトラは存在していたので、彼女のみはその事実を知っている。
そんな思いを微塵も表にだすことなく、ギルド職員に淡々と意見を述べているディアをみつつ、
「そういえば、このたびの襲撃、全部の【界】において同時、だったみたいだね~。
シアンはどう思う?このたびの計画、これで全てだとおもう?それとも?」
にこり。
いまだに難しい顔をしているシアンに顔をむけつつも、にこやかにといかけているヴリトラ。
ヴリトラからしてみれば今はすこぶる機嫌がよい。
何しろ【同時】に【すべての界】における【悪意】を喰らうことが許された。
久方ぶりのまともな食事といっても過言でない。
やはりこう、【世界】全体における範囲で食事をする、というのはとても心地よい。
とはいえ、滅多とこういうことが許されるわけではない。
それらが許されるのは【意思】から許可がでるか、もしくは【命令】が下った場合のみ。
このたびは、【命令】という形ではあったが、ヴリトラとしてはしごくご機嫌。
久方ぶりに、本来の自分のあるべき【存在意義】を発揮できたことがとても誇らしい。
この問いかけはシアンを試すものでもある。
すべての表にでていた【悪意】を喰らったがゆえに彼らの計画は把握した。
どこまでシアンが把握しているか試すための問いかけ。
「…いえ、まだ何か裏がある、そう思います。何よりも襲撃があっさりしすぎています」
そう、あっさりしすぎている。
いきなり町や村の中に【ゾルディ】が発生し、さらには【堕烙者】も多々と発生した。
【ゾルディ】に攻撃をしかけると同時にそれらの欠片が攻撃を仕掛けた相手に入り込んだ。
これまでもそのようなことは時折あったと報告はうけている。
しかし、【人の心】とは弱いもの。
突如として目の前で今まで仲間であったモノが異形の存在と変わり果てたとき、
一体どれほどの存在が正気を保っていられるであろう。
その結果、このたびの襲撃は【ゾルディ】の攻撃以上に壊滅的な被害をもたらしている。
ざっとここに移動してくるまで【地上を視た】がゆえに簡単に状況は把握しているシアン。
【黄竜】。
それは地上界といわずすべての界におけるすべての属性ともいえる自然をその身に宿す存在。
その気になれば世界のすべてが【視通せる】。
その能力ゆえに滅多と産まれない種族でもあるのだが。
ようやく新たな誕生している後継者となるべき個体もいまだに幼い。
このまま世界全体が安定した状況にならなければ、かの個体の成長もかなり危うい。
下手をすれば【滅竜】に変化しかねない。
【滅竜】とは黄竜とはまったく対局に位置する存在。
すべての属性における自然界の力の具現化が黄竜ならば、それらを破壊、消失させる属性をもつもの。
それが滅竜。
存在達が創りだした【悪意ある心】の結晶ともいえるのがヴリトラならば、
【滅竜】はそんなヴリトラの姉妹のような関係となる存在でもある。
かの存在が誕生するきっかけは、【意思】の心一つ。
世界すべてを一度再び【無】にしようと決意したとき、その個体は生みだされる。
しかし【意思】により生み出される、という事実をシアンは知らない。
ゆえにどうしても懸念してしまう。
「とりあえず、ここの存在達を目覚めさせるのはシアンに任せるわね」
そんな二人の会話をさらっとさえぎり、にこやかにシアンに笑みを浮かべて話しかけるディア。
「…は…?あの?彼一人で目覚め…させる、ですか?」
何やら意味のわからないやり取りをしている彼らの会話にまったくついていけないギルド職員達。
ついていければそれはそれですごいものがあるのだが。
「ああ。彼は竜族なのでそれくらいはたやすいことのはずよ?
とりあえず、私たちは状況の説明をもう少し詳しく教えてもらわないと。
あ、ヴリちゃん、あなたもこっちで手伝ってね?」
「は~い!」
とりあえず面倒事…というか後始末はシアン一人でも十分に対応できる。
ゆえにそのまま、竜族、という言葉をきいて固まっている職員達を促しつつも
その場を後にしているディアとヴリトラ。
言っても無駄、というか逆らえないというのを十分に理解しているがゆえにため息一つ。
「…判りました。あ、すいません。この人間をおねがいします」
いいつつ、自らが背負っていたケレスを職員の一人にと手渡すシアン。
どちらにしろ、自分が今から行う行動を他者に見られるわけにはいかない。
もしも見られれば自らの存在がどのようなものか、嫌でも理解されてしまうであろう。
そして…自らが敬意を払っている【お二方】に関しても気づかれてしまう可能性が高い。
それだけは何としても防がねば。
ヴリトラ…まだ、神竜だけ、ならばまだいい。
しかし、しかしである。
【星の意思】であり、【光と闇の王】でもある【意思】の事が知られればおのずと混乱は必然。
この世界のありようすら問われる重要事項。
意思の本意は判らない。
しかし命じられればそれを実行するしかない。
そもそも、彼らにとって【意思】に逆らう、という考えは始めから持ち合わせてなどいないのだから――
ディア達がその場を離れてしばらく後。
会場、となっている【場】全体が今度は淡き金色の光にと包みこまれてゆく――
日々、お気に入り件数が減ったり増えたり…展開がのんびりすぎるのかな?
まあそのあたりの自覚はありますけどとりあえず、大会完了したら急激に話しは進む予定。
この大会はあるいみキッカケ、であるからして、学園生活が平和でなくなるキッカケでもあるわけで。
ともあれ、見てくださっている方々、ありがとうございます!