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光と闇の楔  作者:
38/74

光と闇の楔 ~混乱は静かにゆっくりと……~

前回、襲撃、といったのにほとんど襲撃になってない…ラストにちらり、とのみ……




「今年はなんかかわった存在がおおいわね~」

日を追うごとに、異様にハイテンション、とでもいうべきか。

周りがおもわず引くほどの興奮状態になるものが日々増えてきているような気がする。

時にはどうやったのかはしらないが、大会会場の中に乱入した観戦者達もいるほど。

しかし、本来、会場となっている闘技場等と観客席側は結界で区切られており、

また、出入りするためにも【参加証】を持っていない存在は通ることのできない【道】のみで区切られている。

にもかかわらず、乱入した、という話しをここしばらくよく聞きだした。

まあ、毎年何かしら゛かおこるこの大会。

ゆえに参加者、そして観客たちもいつものこと、としてあまり気にはとめていない。

そもそも、何かがあれば運営側が何か対処するであろうし、

またこの空間が何かしらの反応を示すはず。

それがない、ということはいつものちょとした出来事なのだろう、そう簡単に切り捨てる。

しかし、彼らは知らない。

その事実が運営側にも、この空間にも認識されていない、というその事実を……





           光と闇の楔 ~混乱は静かにゆっくりと……~





ざわざわざわ。

いたるところから人のざわめきが聞こえてくる。

大会が始まり、すでに会場の外では半月、という時間が経過している。

それにあわせ、そろそろ始まるであろう決勝戦にむけた様々な取り組み。

そしてまた、すでに点数があまり入らずに脱落した料理部門や美術建築部門等。

つまりは脱落した参加者達がそれぞれの町にと戻り、

大会で使用した作品の数々を実力者の許可のもと、それぞれ販売、展示しはじめるこの時期。

大会となっている会場も、そしてまた会場に行かれない存在達も一番盛り上がりをみせる時期でもある。

第二月【アイヤル】。

そろそろ月も半ば、ということもあり、咲き乱れていた花のいくつかは散り始めているのが見て取れる。

第三月【シマヌ】に入れば場所によっては雨が多発しはじめ、場所によっては暑さが厳しくなってくる。

ギルド主催の大会が行われている最中では、各国ごとの移動もあまり制限されておらず、

ゆえにこの時期に今のうちに他の大陸や、もしくは大陸の別の場所に移動する存在も多々といる。

同じ大陸内においても場所によってはまったくもって気候が異なる。

それがこの世界のありよう。

一年中寒い地域もあれば、一年中、熱い地域もある。

テミス王国はその中間に位置している王国であり、一年を通じて基本、四季は存在している。

海からも多少離れているものの、海上で毎年のように発生する嵐の直撃を受ける国の一つ。

それでも精霊達の力の加護により被害はほぼなきに等しい。

ふわり、ふわりと淡く桃色の花びらが周囲を舞う。

桜、と呼ばれるこの花は季節ごとに淡い桃色の花をつけ、ほんのひと時咲き乱れ、

はかなくそのまま散ってゆく。

かつてこの種類の樹木は自ら子孫を残すことはできなかったが、

今の地上にある樹木達は自ら子孫を残すことができる。

淡い桃色の花をつける樹が雌、そして赤い花をつける樹が雄。

受粉した花はやがて実をつけたねを成す。

種から成木になるまで長い年月を必要とするがその花の特性と色合い。

そして匂いから各界の存在達に好まれている花の一つ。

当然、このテミス王国にもこの木々は至るところに植えられており、

この時期、ちょっとした淡い花びらの絨毯を歩いているような錯覚におちいるほど。

花に覆われていた木々はゆっくりとではあるが緑に変化してゆき、

いずれはやがて今度は緑の木々が町中を覆い尽くすであろう。

町の至るところに甘酸っぱいような匂いが漂うそんな中、

路上には大会にて結果を残せずに舞い戻った参加者達がそれぞれ思うがままに露店を開いており、

行き交う人々が物珍しさにそれらの品にいろいろと手をだしている様子がいたるところで見て取れる。

「しかし、今回の学生さん、頑張るね~」

唯一、一名のみいまだに勝ち進んでいる生徒がいる。

その噂で町中はもはやもちきり。

何しろエリア別の大会を得て本当の意味での実力戦に勝ち進んだ生徒など今までほんの一握り。

それも大概は特階位と呼ばれている学校の中でも最高峰にいる存在達のみ。

しかし今回勝ち進んでいる生徒はといえば、噂では普通の学生に過ぎないとのこと。

何階位の生徒かまでの情報は流れてきていないが、すなくなくとも、

十二階位以上、一階位以下、ということは判っている。

ゆえに盛り上がらずにはいられない。

やれどこかの王国の関係者だの、やれ実は別の界のものが留学してきているだの。

噂は噂をよび、大会における賭け事をさらに盛り上げている。

事実、ギルド協会学校…通称、学園から参加した生徒で今のところ勝ち残っているのはその一名のみ。

しかもエリア別の大会を突破しただけでなく、これまで二度行われた戦いにも勝ち進んでいたりする。

大会を実際に見に行った存在がいうには、まだ歳ははもいかない少女だ、ということ。

それらの事実もあり、このたびの大会における盛り上がりは異常なほど高まっている。

「魔界においての本戦はビトルという青年が戦闘部門を勝ち進んでいるらしいな」

並みいる魔族を押しのけて、今のところ連勝中、らしい。

対峙する相手はもののみごとにほぼ一瞬のうちに決着がつくと噂をきいた。

しかし魔界に住まう存在達の容姿は実年齢とは全く異なる。

それは周知の事実。

たとえば子供の姿をしていても、かるく齢一万年以上生きている存在も多々といる。

見た目にほぼだまされる人間達からしてみれば予測不可能であるからこそ逆に楽しめる。

ギルド協会本部にいけば各界における大会の様子を視せてもらうことは可能ではあるが、

それにはかなりの大金を擁する。

各界混合大会が執り行われ、それぞれの分野における決勝戦については、

各界の【空】がそれぞれの決勝戦光景に移り変わり、誰もが【視れる】仕組みとなっている。

さすがに料理部門の決勝戦などに関しては、映像はながれるものの自分達では食べられない。

という無念さと理不尽な怒りが視ている存在達の心を占め尽くす。

ゆえに、新たに作られた【規定】にて、料理部門に関しては、見たいものは先にギルドに申請する。

という形をとることでどうにかそれらの不満を解消するに至っている。

つまり、見たい存在達には視れるとある特殊道具を授けることにより、

それを通じて決勝戦の様子を垣間見ることができるような仕組みとなっている。


「魔界の戦闘部門はそのビトル選手で優秀は決まりかねぇ~」

「地上界の優勝者はこのたびは誰になるのかね?」

「前回は竜の一族がこっそりと紛れててその竜族が優勝したよな?」


それは去年のこと。

自分の力が人間達の間でどこまで通用するか試したい、といいだした若い竜がおり、

そのままこっそりと人間界の予選に参加し、そのまま決勝に勝ち進み、結果優勝を果たした。

優勝した後に、優勝者がじつは竜族であったとわかりちょっとした騒ぎになったのは記憶に新しい。

予想外の出来事がおこる。

それがこのギルド協会主催の大会のダイゴミともいえる。

少なくとも毎年、どこかの界においてそういった予測不能な出来事が少なからず起こっている。

噂ではかつて魔界においてそれぞれの魔王達がこぞって実力戦!とばかりに参加し、

とんでもない結果になった大会もあったらしい。

また、地上界においても各国の国王達が自分達の国の戦力が一番!

とばかりに腕利きの存在達を大会に送り込み、結果として大会の場が各国対抗戦力大会になり果てたこともある。

予想外のハプニング。

それらもまた大会の楽しみ方の一つ。

ゆえにこの大会の中で何が起こってもあまり人々は動じない。

むしろ何かあって当たり前、という感性がヘタに根付いていたりする。


だからこそ…といえるのかもしれない。

その異変に対して、すぐさまに反応できなかったのは……




「き…きゃぁぁっっっっっ!」

周囲の空気を響かせるほどの悲鳴が周囲に響き渡る。

しかしその悲鳴に気付いたものはまったくいない。

「…な…どうし…て……」


迂闊だった、としかいいようがない。

よもや守るべき民がきっかけとなる品を持ち込むなど。

夢にもおもわなかった。

気がついたときにはすでに自らの存在は完全に包囲されており、

何重にも張られている結界。

周囲からの力の補充もままならない。

そんな状況で攻撃されれば、いくら自らが精霊だ、とはいえ……


「安心しなさい。あなたのかわりは我々が仮初めではありますが勤めてあげますよ?」

目の前にてにこやかに黒い、しかも自分と全く同じ容姿をしている存在がそんなことをいってくる。

何が目的なのか。

自分のフリをして、民に何を求めるつもりなのか。

自分はこの地にいきる存在達を守る役目があるのに。

だけども、力は急激にと失われてゆく。

そのままその場から先ほどまで悲鳴を上げていたはずの人影ははじけるように書き消える。

まるで光りがはじけ、周囲に溶け込んでしまったかのごとくに。

「さて…しばらく、我々が代理を務める、としますかね?

  愚かなものたちは、自分達を守護しているべきものがすり替わった、といつ気づくでしょうか?」


人々は今行われている大会のことで盛り上がっている。

その結果、感化されて騒ぎだす存在も多々といる。

ゆえに多少の悲鳴などがあがっても、誰もがこの時期のみはあまり関心をむけない、という側面がある。

何しろ【水晶珠】を覗いている【観客】達が思わず叫ぶ、という光景はこの時期よく見受けられるもの。

ゆえに、本当の意味での悲鳴や叫びは実際、見落とされがちになってしまう。

それを考慮して自衛団といった組織もそこそこの村や町などでは構成されてはいるが。

しかし、よもやその被害が自分達の住まう地を守っている【守護精霊】に向かうなど。

一体誰が想像できたであろう。

まさに盲点といえば盲点をついた攻撃。

しかしそこに住まう存在達は気付かない。

襲撃した存在がその【守護精霊】のフリをして存在している以上、彼らにはその違いがわからない。

コロリ、とその場に転がる小さな虹色の球体。

【精霊珠】、とも呼ばれているそれは、

精霊が力を失い実体化はともかくその存在すら保てなくなったときにあらわれる。

精霊そのものが珠の状態と化したもの。

基本、虹色の淡い光を放つ珠であり、物珍しさからとある販売経路などでは非常に高く取引される。

精霊を糧とする悪魔などにこの珠を奉納することにより、より強い力を借りうけることもできる。

ともいわれている品。

しかし、噂、とは恐ろしいものでこの珠のもつ本当の意味を確実に見知っているものはほぼいない。

それでも精霊界や天上界、そして魔界といった界においてはまだよい。

彼らは精霊達の存在を肌で感じることができるのだから、視ただけでその本質がわかる。

しかし、地上界に住まう、特に人間達はそんなことは判らない。

ゆえに、願いのかなう珠だのという噂がいつのまにやら一人歩きし、

一つの珠だけでかなり高値で取引されている現状がある。

そして、人、とは欲にかられると何をするかわからない。

真実を知っていてもおそらくは同じ行動をしでかすのかもしれないが。

知らないことは罪、無知であることは罪である、というまさに典型的な例。


「ん?なんだ?この珠?おお!こりゃ、高くうれそうだな!」

ころり、と町はずれに転がる小さな珠を見つけて通行人がそれを拾い顔をにやけさせる。

彼は知らない。

その珠が自分達の町を守護しているはずの守護精霊の仮そめの姿であることを。

そして…自分が行おうとしようとしていること。

すなわち、守護精霊をよそに売り飛ばそうとしている、というその事実を。

本来、簡単に守護精霊の役目を担っている精霊達はそう簡単にやられるような輩ではない。

しかし、このたびにおいては、自らが守護している地に住まう存在達が、

なぜか神気を帯びた、しかも悪意ある念すら纏っている品を多数もちこんでしまった。

悪意の念には精霊達は極端に弱くなる。

その身をもってして浄化を図ろうとするがゆえに、どうしても力が一時的にそがれてしまう。

その悪意の念が人あらざる、しかも神のものとなればその力のそがれようは並大抵のものではない。

そんなときに攻撃をうければどうなるか…結界はいうまでもなく。

「ふふ。愚かな人間よ。自分達の守りとなるべきものを自らの手で手放すがよい」


自分達が手を下すまでもなく、精霊たちが守っていた生命に自らの身を売られる。

その悲嘆はおそらく果てしない。

うまくすれば堕ちた精霊すら手にはいる可能性もある。

精霊がその心を負の心で染め上げ、あるべき姿が堕ちる。

その精霊は強力なる【災厄】として一つの存在のみで簡単に一つの国程度ならばかるく壊滅させられる。

堕ちた精霊…【堕落精霊】が作れればよし、そうでなければ守護者がいなくなるだけでもよし。

守護者がいないだけで彼らの計画はすんなりと事を進めることができる。

何ものにも邪魔されず。

仮初めに存在しているように見せかければすぐには本来の存在がいなくなったと気づかれないであろう。

どちらにしても、決行まであとわずかな期間。

それまでにいくつもの町、そして主要都市を落とせばよい。


「天界のほうはなかなか手こずっているようだが、さすがに人間界はちょろいな」

あちら側は例の品をなかなか上手に配りおえていない。

無料で配ったとしても、その力に勘づかれては兵士を呼ばれその場から退散せざるをえなくなる。

できうれば天界、魔界、そして地上界においてすべての種をまき終えて行動を起こしたかったが。

とりあえず地上界だけでも先に制圧しておいたほうが今後のためにはいいのかもしれない。

そう上層部の存在達は判断した。

そして、今のこの時期がその計画を発動するのに最もふさわしい、と。

「さて…しかし、王都、とよばれている地の精霊達は手ごわいから…な……」

王都を守護している力ある精霊達をも精霊珠に封じることができれば、計画は成功したようなもの。

もっとも、それ以外の精霊などは力があってなきがごとし。

彼ら、天界人、そして魔界人にとっては精霊と対峙するなど赤子の手をひねるより簡単。

精霊達と互角、それ以上にコトを構えることができるものがこの計画に参加している。

そして、精霊達とコトをまじえることのできない力のないものたちはといえば、

種をまく陽動員として行動してもらっている。

すでに、布石はまかれた。

あとは、ただゆっくりと、ゆっくりと包囲網を狭めてゆくのみ……




「こ…こんなのが、出回っている…というの…か?」

先日の会議から戻り、時間が動き出し、その場でうけた報告。

それはまさに、さきほど時の狭間にて聞かれた事実を裏付けるもの。

あの場に長くはいられないことから、とりあえず後日、改めて代表者達が話しあう。

という約束をとりつけた。

会議が行われるのは、大会が一番盛り上がる【アイヤル】の最終日近く。

ヴルド国王は早々に退去してしまったので合意は得られなかったものの、

その他の存在達の合意はどうにか取り付けられた。

そして時の狭間から戻り、それぞれの場において止まった、否、止められた時は動き出す。

時空神クロノスが時を止めていたのは、彼らに関する周囲のみ。

とはいえあの場の時間率を少しばかり操っていたので時間をとめていてもさほど問題はおこっていない。

目の前にもってこられたのは、小さな石のはいった小さな袋の数々。

何でも天界の中に位置する町の中において突如として【堕烙者】が発生した。

ゾルディとなるべき気配はまったく周囲に視えなかった、というのに。

取り込まれてしまった天界人はそのままゾルディの贄となってしまったらしく、

堕落者を倒しても、その命が戻ることはなく、そのまま体ごと霧散し消滅した。

「…この石には、神の力により不可視結界、それだけではない……

   【悪意】を増幅する力と、そして【憎悪】をあおる力……

   さらには、【ゾルディ】を創りだせる力までもが組み込まれている…?」

このような代物ができる存在は一人しか思いつかない。

かつての戦いにおいて、彼はその能力を発揮して天界中、はては他界までをも恐怖に陥れた。

「…ロキの魂の…欠片…かっ!!」

そう理解するのにさほど時間はかからない。

欠片、というよりはどちらかといえばそれらいくつかの能力のみの複製の欠片、といっていいであろう。

しかし、ロキという神そのものが、自分達神々とは少し違った位置にいたことを彼らはなんとなく知っている。

一度、補佐官に聞いたことがあったのだが、彼の神格は他の神々とはまた異なって誕生している。

そう説明された。

その異なっている、という部分がどこまで異なっているのかわからないが。

目の前に持ってこられた品からは、かなり注意しないとそれに含まれている力は読み取れない。

ただの石、としか視えないのがまた怖い。

つまり、かなり実力のあると自負している自分ですら見分けることがかなり困難。

とすれば他の神々、しいては力のない存在達が手にしても見分けることはまず不可能。

そして…この品の恐ろしい所はもうひとつ。

ざっとみたところ、身に着けているものに対して知らず知らずのうちに力が染み込むよう設定されている。

つまりは手にしているだけで【堕ちる】ように仕組まれている。

そんなものが多数、出回っている、という報告は驚愕以外の何ものでもない。

「ど…どこから、この品がでまわっている!?」

「それが、わからないんです。買った存在達はほとんど、正気を失っておりまして……

  元にもどっても全員、それらに関してのことは覚えておりません」

彼らがどうやってこの品を手にいれたのか。

どうにか正気にもどった存在達から聞きだそうにも、彼らはまったくその間のことを覚えていない。

正気を取り戻せ、まだ普通に戻れた存在達はまだいい。

しかし、そのまま力に呑まれ、消滅していったものも多々といる。

「…ほ…他の界とも緊急に連絡を!これらの品が他の界にも出回っているとコトだ!」

まだ天界などにおいてはそこに住まう存在達が力があるからいい。

しかし、あまり力のない存在達が住まう地にこれらが出回ったらどうなるのか…

考えただけでも恐ろしい。

顔面蒼白になりながらも、ゼウスの悲鳴に近い声が響き渡る。

「オーディン。お前にも悪いがしばらく働いてもらうぞ!」

すべてを見通す目。

目の前のぱっとみため無愛想な隻眼の持ち主にと声をかけるゼウス。

その片目には眼帯がしてあり、常にその瞳を覆っている。

そのいつもは眼帯に覆われている中の眼には力があり、

すべての真実を見通す力を持っている。

ゆえにいつもは眼帯でその瞳を覆っている。

この力は、持ち主たるオーディンでもいまだにコントロールが正確にできず、ゆえに封印している現状。

すべてを見通すことができるがゆえに、万能の神、ともいわれている神、それがオーディン。

ゼウスの次に実力がある神といわれているが、その性格はかなり頑固。

はっきりいってまったく融通のきかない性格の持ち主。

つまり、一度きめられたら、何があっても決められたまま突き進む。

ゆえに柔軟性を伴う責任者にあたる役目はあまり彼には向いてない。

何しろ自らの過ちや間違いなどといったモノですら彼は認めない。

否、認められない。

自分に絶対的な自信があるがゆえに、そういった類のものを一切受け付けない。

かつてその信念から他界に侵攻していき、こっぴどく【王】から叱咤されたことがあるほど。

「なぜに我が?」

そんなゼウスの言葉に半ば心外、とばかりにいってくるオーディン。

呼びだされ、何ごとかとおもえば何かよくわからない役目を押し付けられようとしている。

「お主のその瞳と、それと魔術、それはロキに通じるものがあるからな」

「というか、ロキ?あやつは今は冥界でその魂を眠りにつかせているのではなかったか?」

ゼウスはロキの説明をクロノスからうけたが、オーディン達はまだその説明をうけてはいない。

ゆえにオーディンの言い分も至極もっとも。

「…あ?…あ、ああ。そうか。…まずは、状況を説明すべく、ユグラシドル神議を提示する」

ユグラシドル神儀。

それは主要なる地位についている神々を召喚する世界に何事かおこったときに行われる会議。

ちなみに、会議の種類によってまた重要性が異なっており、

一番、会議の招集意義が高い会議が【ユグラシドル神議】。

次に【アスガルズ神議】、そして【オリュポス神議】。

この三つの順番において重要性が位置付けられている。

本来、ユグラシドル神議の招集は、【王の補佐官】、もしくは【王】自らが招集するものなのだが、

今現在、【王】、そして【補佐官】が行方不明である以上、その権限は仮初めではあるものの、

側近であるゼウスが一応その権限を握っている。

このまま自分だけの心に止め置いてどうこうなる問題ではない。

むしろ問題の種はすでにまかれている。

ならばみなと意見を出し合い、よりよい解決方法を見出す以外に他はない。

そう判断し、ゼウスが発した言葉は、何ごとか確実におこった、としかいいようのない会議の提案。

先ほどロキの名前がでてきたことといい、何かがおこっている。

それはわかる。

わかるが、ただしばしその場にて顔をしかめるオーディンの姿が見受けられてゆく……




『おおっとぉぉぉぉ!?これは以外、以外すぎる!!二百あるエリアから勝ち進んできた挑戦者達!

  しかぁぁっし!突如乱入してきたたった一人に手も足もでないでいる!これぞ番狂わせだぁっ!』

『わ~~!!』

会場にざわめきが響き渡る。

GSエリア、戦闘部門。

その場にてすでに二度勝ち進んでいる参加者達の戦いが繰り広げられていた。

しかし突如として闘技場に乱入してきたのは獣のような姿をしている存在。

どこから乱入してきたのかはわからない。

わからないが、いきなり本当に突如として闘技場の中心にまるで湧き上がってくるかのごとくに現れた。

全身を真っ黒い煙なのか、毛なのかよくわからないもので覆い尽くし、

その姿は巨大な熊のようであり、それでいて猿のようでもある不可思議な姿。

通常ならばこんな存在、この場にいるはずがない、とわかるであろうが。

そもそも、ここは【地上界】における会場。

こういった輩は他の界にならば多々といれどもこの地上界の大会において出てくるべき存在ではない。

観客たちはといえば、おそらく幻影か何かを身にまとった大会主催者側が容易したイベント。

もしくはおふざけがすぎた客の一人、そう捉えているがゆえに驚くことなく逆に盛り上がりをみせている。

だからこそ、進行役の係り員もそのノリでそんな言葉を発していたりするのだが。

だがしかし、

「……ぐっ…な、なんだ!?こいつは!?」

「…って、うわぁぁっ!?」

戦いの最中、割り込まれた大会参加者達からすればたまったものではない。

術を放ってもことごとくその身にまとっているであろう、黒い何に吸い込まれる。

攻撃をしかけようにも、まるでその手ごたえは煙のごとく。

しかも、黒き何かに触れると同時、瞬間的ではあるものの、生気を吸い取られたような感覚に陥ってしまう。

そしてその感覚はそのまま体内にも侵食してくるかのごとくに、彼ら自身でもわからない不安が襲いかかる。

係り員の口調から、運営側がときおりときたま参加者に内緒で容易している大戦相手、ではなさそうである。

ならば、目の前のコレは?

この場にて戦っていたのは青年二人。

しかし今はその戦いの手を止め、二人同時に乱入者に対して攻撃をしかけている。

ソレが動くたびに足元が真っ黒く塗りつぶされていっているように見えるのはどういうわけか。

気のせい、ではすませない、何か。

しかし本能がこれは危険、と告げている。

何がどう、というわけではないが。

とにかく、このままコレを放っておいたら危険だ、と。

その思いは互いに同じ。

ゆえに互いに顔を見合わせ、

「まず、私があれを術で足止めしますから、あなたは攻撃を!」

「わかった!おそらくアレは闇。ならば剣技に光を乗せてやってやろうじゃないかっ!」

光の術を用いた攻防。

これが通用しなければ、彼らに打つ手は残されていない。

『おお!どうやら二選手とも何かしかけるようです!

  これはおもしろくなってきました!運営側からサプライズ攻撃者の報告はうけていませんが!

  こういうこともありえるのでしょぅ!さあ、運営側が用意した敵に彼らはかなうか!?』

完全に自分達、運営側が容易した仮初めの敵、と思い込み、そのような説明を述べている進行係り。


しかし、彼は知らない。

この【敵】はギルド側が用意したものではない、ということを。

そしてまた…同じような光景が、すべての二百あるエリアで同時に起こっている、

というその事実を……






今回の重要用語?

※精霊珠

精霊が一時的に力を失い、珠状になったもの。

この状態になった精霊は外部からの干渉をまったくうけつけず、

また力を行使することもできない。

力が満ちるまでは基本、この状態のままである。

珠状となり、周囲よりゆっくりと力を吸収して回復を図るための措置。

なお、周囲の状況によっては、堕ちた…すなわち、元の精霊でなくなることもあり

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