光と闇の楔 ~時の狭間での緊急会議~
今回は、ほとんど会話?のようなもの。
ちなみに会場となっているのはほんっと~~に何もない空間ですよ?
「いやぁ、今年の大会は見ごたえあるねぇ」
「いや、ほんと。きいたか?SGエリアでは結界をも揺るがした攻撃がくりひろげられたらしいぜ?」
「まじか!?よっし!なら俺は今回はそのエリアの優勝者がいいところまでいくのにかけるぞ!」
「でもな~。その子って学生だろ?
そこそこ上位に組み込めても、おそらく五十番以内にはいるのは無理だろ?」
この大会でいいところまで進む。
というのは五十位迄にはいる、ということを意味している。
すなわち、地上界において五十人というごくごく少数ではあるがそれなりの能力をもっている。
と地上界限定でいえば認められたこととなる。
さらにいえば上位十人、ともなれば国などがほうってはおかない。
すなくとも自らの国のお抱えにしようと動き出す。
中には国に所属して毎年のように大会に参加し、界対抗の大会に参加しようと狙っているものも多々といる。
ちなみにそれぞれの分野において優勝者をみごと的中させたものにはかなりの大金が舞い込むこととなる。
ちなみにこの大会の賭け事において的中させた金額はそれぞれの国問わず、無課税、となっている。
ゆえに庶民の娯楽としてもかなり人気が高い。
そもそも、年に一度の一攫千金を狙える場でもあるのだ。
人気がでないほうがどうかしている。
そしてそういった賭け事の収入もまたこの大会の運営費の一部として見込まれている。
世の中、うまくお金は廻っている、といういい例だといえばいえるのであろう……
光と闇の楔 ~時の狭間での緊急会議~
ざわざわ……
どうしてもざわめいてしまうのは仕方がない。
それぞれいつものように過ごしていた。
中には会議の最中で、中には執務の途中で。
いきなり周囲の時間が止まったかのようにぴたり、と景色ごと停止した。
そして現れたのは全身黒づくめの服装をしている男女。
正確にいうならば場所により、男であったり、女であったり、出現した容姿は様々。
しかしそのようなコトを起こせるもの。
それらは一つの存在しかあり得ない。
そもそも、周囲の【時】を停止させるなど。
普通の存在にできるはずもない。
そして現れた案内役、という存在につれられてここまでやってきた。
否、そのまま連れてこられた、というほうが正しいが。
この場には彼らだけでなく、様々な種族のものがどうやらやってきているらしい。
どうみても人あらざる種族の存在達の姿も垣間見える。
「…な…ヴルド国王!?」
そこに先日、胡散臭い動きをしていると報告のあった王国の国王の姿をみとめ思わず叫ぶテミス国王。
それに応じて、一部の視線がいっせいに二人のほうにと向けられる。
「人間達よ。いろいろと気持ちはわからなくもないが。今は俗世のことはひとまずおいておけ」
そんな中、少し深みのある声がその場にと響き渡る。
声の主のほうをみてみれば歳のころは見た目ではよくわからないが美丈夫な男性がその場に座っていたりする。
よくよくみれば何もなかったはずの真っ暗な空間に
いつのまにか机といくつかの椅子が出現しているのが見て取れる。
その場にいつのまにかいなかったはずの様々な男性、女性が座っているのも気にかかる。
それらの人々から感じる気配は常人の比ではない。
「ほう。天界のほうからはゼウスが連れ出されたか」
そんな声を発した人物にむかい、面白そうに話しかけている青年が一人。
ぱっとみため、思わず見惚れてしまうほどの容姿の持ち主ではあるが、
あまりの整った顔立ちから逆に人ではない、と断言できる。
「そういうキサマもな。久しぶりだな。サタン。しかしお主まで連れ出されている…となると。
これはかなりのおおごとか?精霊界からは精霊王ユリアナが連れてこられているようだしな」
少し先にすわっているおっとりした雰囲気をもつ白き髪をもつ女性をみつつ爆弾発言。
ともいえる言語を発しているゼウス、と呼ばれた人物。
いやあの、ゼウス?サタン?それに…ユリアナ?
人間界に属している各国の王達、そしてまた各種族の代表者達はその言葉に思わず黙り込む。
真実なのか嘘なのか。
しかしこの空間と、そして自分達が連れてこられた経緯。
周囲の時間を完全に止めて自分達をここまで連れてきた【力ある存在】。
もしも彼らの想像がただしければそのようなことができる存在…否、神は一人しかいない。
それらの名前は彼らにとって有名すぎる御名。
ゆえにこそ戸惑わずにはいられない。
もしも真実だとすれば自分達はいったいどのような崇高な存在の前にいる、というのだろう。
まったくもって意味がわからない。
しかし人間、いきなり突拍子もないことに直面するとその思考力は一時的にマヒし、
正確な判断ができなくなる。
そして例外にもれずこの場にいる人々もまたそのような現象に陥っていたりする。
「しょうがないじゃない。クロちゃんから連絡がはいったんだし。
本当は意思様の一件でそれどころではないような気もするんだけどね~。
だけどクロちゃんが臨時招集をかけたってことはかなりの大問題がおこったってことだし」
事実。
かの存在がすべての代表者に対して臨時招集をかけるなど普通はありえない。
とすればそれをせざるを得ない何かがおこった、とおもうしかない。
「反旗組織達の繋がりのことか?」
「それくらいの些細なことでは招集かけないでしょ。普通。
それより、クロちゃん、いつまで黙ってるの?
いい加減にこのたびの招集のいみ、教えてくれないかしら?」
いまだにその場に達すくしている人々、そして各種族の代表者達をそのままに、
何やら話しをすすめている三人の姿。
ユリアナ、と呼ばれた女性の言葉と同時。
ぐにゃり、と彼らのいる闇の空間が一瞬揺らぐ。
そして次の瞬間。
闇の中から一つの人影らしきものが出現する。
文字通り、闇の人影、といっても過言でないその姿。
しかしその姿は視る者によってその姿は人それぞれ。
中には美青年にみえるものもいれば、羽をはやした生き物にみえるもの、
または獣の姿にみえるもの、など、視えている容姿も人様々。
「あいかわずだな。【定まらぬ存在】」
目の前の存在の別名。
その呼び名を知っているものはほんのごくわずか。
「サタン、か。その呼び名をしてくるとはひさしぶりだな。
さて、みなさま、突然の召喚、まことに申し訳ない。しかし事は急を要する事態がおこった」
定まらぬ存在。
その呼び名通り、彼には決まった姿、というものは存在しない。
しいていうならば相手の望み通りの姿に見え、そして形をとれる、という特性をもっている。
「…時、を管理している貴殿が、急を要する…とは……」
目の前にいる【定まらぬ存在】の正式な役職は、【時空神】。
つまり、時間を管理している神であり、
神々や魔王の中で唯一、過去、そして未来に干渉することが許されている存在。
過去とは【意思】の記憶の中に存在しており、
その記憶の中に入り込むことが特定の条件のもと許されている。
そしてまた、今現在においての出来事から導き出される【未来】。
これもまた【意思】の中で夢の状態で万全と確定されている。
しかしそれはあくまでも現段階においては意思の夢にすぎず、未来を変えることは可能。
運命神ノルンは未来を予知することはできても、介入することはできない。
そして、時空神クロノス。
彼は唯一、その手段をもちいている神の一人、といって過言でない。
しかし常に時の狭間にその身をおいており、滅多と表にでてくることは絶対にない。
時の狭間、とは【意思】の記憶領域であり、深層領域の一部。
どの界にも属さず、一番【世界】に近い場所、ともいえる場所。
それが【時の狭間】。
「わざわざ、時空神クロノスが呼び出しをした、となると。
このままでは未来において何かよくないこと、
もしくは破滅的な何かがおこる、ということでいいのかしら?」
しかもこの場にはどうやら各種族の代表者もいるようである。
このようにほとんどの種族を呼び出す、などと今までにありえなかった。
しかしこのたびはどうやらそうはいってはいられないらしい。
自分達が誕生してからのち四億年、一度たりとてこのような現象はなかった、というのに。
「ユリアナ。そうあせるな。まずは、初めてのものもいよう。
そこにいるゼウス、サタン、ユリアナは我のことを見知ってはいるが。
初めてのものたちにまず挨拶をしておこう。我はクロノス。
時空神クロノス。今回、各種族の代表者に集まってもらったのは他でもない。
未来においてこの地といわず世界各地において壊滅的な出来事がおこりかねない。
その対策のためにみなを呼寄せた。我はうごけぬ。対策は各自がそれぞれに頼るしかないのだ」
彼の名前は今、名乗ったとおり、クロノス。
文字通り、彼が管理しているのは、【時間】。
時間とは流れる川のように果てしなく終わりがみえないもの。
その川の流れの横からそれらを管理している存在。
それが【クロノス】。
しかし、いくら彼が時を管理しているとはいえども彼は直接動けない。
否。
動くことを許されていない。
そのように創られている。
万が一、その存在意義を揺るがすことをしようとするならば、
そのまま動くこともままらなずその場にて彼の精神そのものから石と化す。
一定時間そのままの状態で、許しがない限りは文字通り動くこともできない【石】のまま。
彼ができるのは、せいぜい特定の時を操作するか、もしくは過去、未来に特定の存在を送り込むことのみ。
未来を変えるためには、すでに動かすことのできない過去でなく、
今、をかえる必要がある。
かえる必要のある過去の場合、さくっと【意思】がそれなりの対応を施している。
それでも基本、【意思】は過ぎ去った出来事に関して干渉することは滅多とない。
それはその時をいきる命がそれぞれに最善を尽くした結果だ、とわりきっており、
自らが干渉するものではない、とおもっているがゆえ。
ゆえに、いくどかの文明や生命の滅亡に関しても【意思】は直接干渉することはなかった。
そして、今に関してもその基本はかわっていない。
しかし今から起こるであろう【未来】に関してならば話しは別。
今のままならばおこりえる未来と、防ぐことのできる未来。
そのきっかけを話すことでその場にいきる存在達にて未来をつかみ取ってほしい。
そう願う【意思】の心は【母】なればこそ。
ざわっ。
クロノスが正式に名乗ったをうけて、
さらに人間界から参加というか連れてこられている代表者達のざわめきが大きくなる。
この場にいる代表者は地上界の存在達が最も多い。
魔界に関しては代表者は【暁の王】と呼ばれているサタンのみで、
精霊界からは精霊王であるユリアナ。
そして天界からは【雷神ゼウス】。
霊獣界からは【竜王シアン】。
地上界においては地上に住まうすべての種族の代表者。
そして国等がある場合はそこの最高責任者がこの場に呼ばれていたりする。
そもそも、各界において一番統制がとれていないのは地上界であり、
他の界は一つの統制のもと基本は統治されている。
地上界は様々な種族が混合しているせいなのか、文字通り多種多様な存在達がいる。
そしてその多種多様な種類の数だけ代表者がいるのも事実。
ゆえに一番悲惨な争いがおこるのもまた地上界が最も多い。
それを意識していない地上界の存在達はあるいみ強いともいえなくもないのだが……
「…時空…神!?あのやはり伝説の!?」
「いや、でもそんなことが…!?」
「馬鹿な!神は我らがヴルトゥーム様のみ!」
何やらそんな叫びをあげている各国の代表者達。
ちなみに、いうまでもなく、一つの神の名前を挙げている国王こそが、
他国に侵攻をしかけようとしているヴルド王国の国王だったりするのだが。
かの国王にとって神、とはヴルトームのみ。
他の神は神にあらず、という思想の持ち主。
ゆえにこの場においてもそんな馬鹿なことを叫んでいたりする。
いくら信仰心が自由とはいえこの場に他の神々などがいる、と理解していての発言か。
それとも、まったくもって気づいていないのか。
その事実は当人のみぞしる。
「で?わざわざ、我ら天界、魔界、そして精霊界。あげくは霊獣界だけではあきたらず。
他の界、そして地上界における各種族の代表者達まで呼びだして。
…いたい、何があった、というのだ?」
ゼウスの疑念も至極もっとも。
まあ天界においてはクロノスが時を止めている以上、戻っても仕事にまったく差し支えはないであろう。
ここでいくら過ごそうとも、元の場所にもどればその一瞬後にもどされるのは目にみえている。
「……ゼウス。キサマにはすっごく関連の深いこと、ではあるがな。
先日、冥界の王ハデスより連絡が入った。
冥界の管理人ヘルの父君、ロキの魂が何ものかに盗まれた、らしい」
「「「なっ!?」」」
その言葉の意味を悟り、思わず短い叫びをあげているゼウス、サタン、そしてユリアナ。
「…ロキ?たしか以前、天界大戦争を引き起こしたとかいう…邪神…ロキ様…ですか?」
記憶のスミにある知識をたぐりよせ、顔をしかめつつも、クロノスにといかけているのはシアン。
彼もまたこの場に呼ばれている種族の代表者の一人。
天界大戦争、と呼ばれている大戦の後、冥界、という魂の管理場所が創られた、そう伝え聞いている。
それは竜族であるからこそ、そしてまた当時から存在していた神竜ヴリトラがいたからこそ、
その事実をシアン達は知っているだけ。
普通の存在達はそんな事実などまったくしらなければ、伝承ものこされていない。
彼らの認識は、冥界、というものがそこにあり、そして死んだ者の魂はそこにいく、というくらいである。
「馬鹿な!?ロキの魂は娘であるヘルがしっかりと守っているはず!?ありえないっ!」
「…そう。きさまの女好きのせいで反逆したロキの娘が、な」
「ほんと、あなたの女好きにはあきれかえったわよね…まだ完全になおってないし……
…いっそ、意思様にお願いしてその魂ごと全部【浄化】していただいたらどうかしら?」
強い口調でしっかりといいきるゼウスに対し、
何やら冷めた視線でそんなゼウスをみつつもつぶやいているサタンに、
同じく、呆れたようにそれでいてゼウスを非難するようにつぶやいているユリアナ。
「ぐっ…っ!」
事実なだけに言い返せない。
そもそも、彼がロキの妻であるアングルホダにいいよらなければそのようなことはおこりえなかったのだから。
「ゼウスの女好きはもはや病気だろう。いっても無駄だ。娘にすら色目つかいそうになってたこの馬鹿は。
ともかく。ロキの魂が盗まれたというのは事実らしい。
どうやら族はかつてロキの創った【魔法の品】を所有しているらしい。
…我が時空を覗いて確認してみたところ、【神々の黄昏】すらももっておった……」
神々の黄昏。
それは神にとってはもっとも便利な品であり、そしてもっとも危険な品の一つ。
「な!?黄昏を!?」
「…と、なると、魂をわけているか、それとも複製したか…かなり、やっかい、ね」
魂の力だけでも邪神、と呼ばれたほどの実力をもった神の一人。
しかもその知恵においては右にでるものはいない、とまで当時いわれていた神。
絶句するゼウスとは対照的に、冷静に事態を分析しようとしているユリアナ。
伊達に精霊達の王を務めているわけではない。
常に自然と一体化しているべき存在であるがゆえに物事を広い目でみることが基本となっている。
その神具の特性は、今まさに、精霊王ユリアナが示したとおり。
神の力を複製することもできれば、そしてその魂すらを分離、分断することも可能。
自身の力をまったく使うことなく、自らの分身がつくりだせれる神具。
ゆえにかつては神々、そして魔王達などにかなり重宝されていた。
しかしそれをあまりに多様し仕事をさぼる存在がでてきてしまったがゆえに、
【王】に命じられ、封印されていたはずの品。
それが【神々の黄昏】。
しかし、先の天界大戦においてその神具はいつのまにか行方不明になっていた。
その神具の名前が、今ここでだされるとは……
ゆえにゼウスは信じらない気持ちでいっぱいとなり、
ユリアナはただ事でないことを瞬時にさっし、一番いい解決方法に思案をめぐらせる。
「…それだけではない。
ヤツラは、力の波動を複製し、各世界におとしたようなのだ。
ヘル達はその波動をおって回収しに出向いたらしいが……。問題は、その先だ。
盗みを働いた存在達は、天・魔に所属している反組織メンバーの存在達。
そして…厄介なことにそれぞれの【複製】はすべて形を初めてみたものが違和感のないようなもの。
にかえられるように設定してあるようなのだ……」
そして、それらを拾った様々な生命体が、そしてそれらを食べた生き物達が。
このまま突き進む未来は力に呑まれ、そしてまた力を求める輩達の血で血を洗う争い。
そこに父を求める冥界の管理人ヘルや、そして二人の兄達も加わり、
すべての界において戦争といっても過言でない状況となる。
…そう、今のまま何の手をうたずに、対策も何もほどこさなければ。
確実に今のままでは起こりえる未来。
「【テケリ、ショゴス】と【ハスター・ホテップ】が手を結んだ、とはきいていたが……」
頭を抱えたくなってしまう。
というか頭を抱えてもおそらく誰も文句はいないであろう。
かつての大戦のときにも最凶の三兄妹、ともいわれたロキの子供たち。
彼らが参戦したらどうなるのか…それはおそらくこの場にいる誰にもわからない。
否、それがわかったからこそクロノスはこの場に代表者達を呼寄せた。
「…クロノス様?その、初めてみたものが望む形…とは?」
「…うむ。今のところ確認できたのは。果物。石。子供の姿。そして……」
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・・・・・・・・・・・・・・・
シアンの問いかけに今のところクロノスが確認した【欠片】の特徴をつらつらと述べ始める。
その直後。
その場に何ともいえない静寂が満ち溢れる。
石や果物、というのはわかる。
しかし、子供の姿などといったものは…簡単にどんな種族にもその欠片が入り込める、ということではないか。
「欠片には意思はない。文字通り、かつての思いのままの欠片、で間違いないだろう。
ゆえに、すべてを破壊する、という消滅させる、という思いはまだ生きているはずだ。
…そこの誰かのおかげで、な」
「…く…くどいぞ!クロノス!!」
くどくもいいたくなるというもの。
あと文句をいいたい存在はもう一人いる、が。
未来が視えていたがゆえに、ゼウスには近づけさせるな、そういっておいたのに。
いつのまにやらその忠告をきれいさっぱりと失念していたらしい。
誰でも愛するものを傷つけられそうになれば逆上してしまう。
事実、アングルホダがその力のすべてをもってしてその肉体ごと自らを封じなければ、
文字通り、悲劇はそのままおこっていたのだから。
それを知ったロキの怒りは…いうまでもなく。
ゆえに、いまだにどの界においてもロキに同情する声はあれども、非難する声はまったくない。
むしろゼウスを非難する声のほうがはるかに高い。
一部からはゼウスよりも側近の役目をオーディンに任せよう、という話しすら持ち上がっている。
まあ、身持ちも堅く、融通の利かないオーディンと、女癖は悪いものの仕事はしっかりするゼウス。
どちらがいい、といわれればどっちもどっち、といえるのかもしれないが。
ゼウスに関しては彼の妻であるヘラがしっかりと手綱を握っているかぎり、
彼は言葉通りのよき神、なのだが……
「あ…あのぉ?すいません?わたくしたちには、まったく話しがつかめないのですが……」
何やら自分達には信じられないような雲の上の会話がなされていないか?
そんな思いがぬぐいきれない。
最後のほうの欠片が各界にばらまかれた、そのことばの意味はよくわからないが。
すくなくとも、何かそれがとてつもない危険なことだ、とは判断できる。
ゆえにおそら神々本人達…であろう、彼らにむかって声を発するのは勇気がいること。
しかし話しをきかなければ先にすすめない。
ゆえに勇気をふりしぼり、といかけているテミス国王。
「…そういえば、我らだけで話しをすすめていたな。
他の存在達にもわかるように説明しよう。とりあえずみなのもの、それぞれ話しは長くなる。
そのまま座ってくれたまえ」
その言葉とともにその場にいるすべての存在達の背後に突如として黒い椅子が出現する。
まったくもって意味がわからない。
というか、目の前にいる彼らは本当に伝説の神々なのか?
そんな疑問が集められた存在達の脳裏によぎる。
しかし、現実、とは時として残酷。
周囲の時を止められてこの場に連れてこられた。
それこそがその現実を指し示している。
心ではわかっていても理性でそれをみとめたくない。
それはまあ、平穏を求める心理からしてみれば当然、といえば当然の反応なのかもしれない……
しばし、時の狭間、とよばれる空間にて、クロノスによる世界滅亡につながりかねない重要事項が、
この場に集められた存在達へと伝えられてゆく……
「うう。まったく容赦なし……」
いまだに体全体がずきずきとする。
ゆえにおもわず泣きごとをもらす。
「?そんなにはげしかったの?あの戦い?」
観客席でみている限り、そうはおもわなかったが。
しかし結界を揺るがすほどの攻撃をしていたのは確かなわけで、
術の大きさの影響で体にも負担がかかっているのかな?
そういえば、竜族って人の姿をしていてもその防御力とかは竜形態のままなのかしら?
そんなことを思いつつも、ディアにむけて泣きごとをいっているヴーリにといかけているケレス。
エリアの決勝戦も無事終わり、とりあえず観客席にいるケレスと合流したディアとヴリトラ。
そこにシアンの姿がみえないことにヴリトラは首をかしげたものの、そんなヴリトラにきづき、
「ああ、何か急用ができたからって。どこかにいかれたわよ?
あと、二人にくれぐれも無理はしないようにっていってたわ」
みたところ、かなりぐったり疲れているように見えるヴーリとは対照的に、
ディアはまったくもって疲れた様子の欠片も視えない。
それは表情にださないだけなのか、本当に疲れていないのか。
ケレスではまったくもって読み取り不可能。
「あ~。ク~ちゃんからの臨時招集がかかったみたいね。これから忙しくなりそうね~」
まあ、面倒なのであの品をリュカを通じてかの組織に渡したのはほかならぬディア自身。
いつ、代替わりが起こるかわからない今。
少しでもはやく不安要素は一時的にでもとり除いておきたい。
おそらく、代替わりは早くてここ数年、もしくは遅くても百年以内には起こるであろう。
微量ではあるが【宇宙】より伝わる感覚でそれは何となく判断できる。
一時反感をもつ心をつぶしておけば、百年と少しくらいは確実にもつ。
そして今までもその方法でそうすれば百年くらいは彼らは大人しく一時なる、というのを理解している。
それゆえのこのたびの行動。
巻き込まれる他の存在に対しては気の毒とはおもうが、しかし本当に代替わりの余波が及べば、
自分ごときの力ではこの地上、否、自らの【内】にいるすべての存在を守りきる自信がない。
下手をすれば大姉様ですらも消滅してしまう可能性があるのだ。
たかが小さな惑星に過ぎない自分がどうこうできる問題ではない。
だからこそ打てる手はとことんうっておく。
そして準備は万全に。
それがディアのだしている結論。
すでに伝道師達にもその【連絡】はつけている。
彼らにもまた、かの欠片の回収の役目を一応はわりふっている。
あのまま、ゆっくりとロキの目覚めをまっていてはあと数億年は目覚めない。
彼の創る品は時として大姉様にも発揮する効力をもつものがある。
彼はいわゆるディア自身が創りだした神、ではない。
面白そうなことをしている、というので他の存在達も一緒になり【魂】を創りだした特別の神。
ゆえに特殊な力を魂そのものに持ち合わせている。
当人はその事実をまったく知らない。
知っているのは、ディアと伝道師、そしてディアに連なる存在達のみ。
このたびの代替わりにおける被害状況は、すべてある意味、ロキにかかっている。
といっても過言でないのかもしれないのだから
無理をしてでも起こそうとするディアの気持ちは判らなくもないのかもしれない。
…そのまま何もせずに【太陽系】そのものの消滅をまつか、
それとも、何か手をほどこして被害を最小限に食い止める努力をするか。
どちらかを選べ…といわれれば、まちがいなく誰もが後者、を選ぶであろう。
【心】とはそういうもの、なのだから……