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光と闇の楔  作者:
34/74

光と闇の楔 ~予想外の襲撃~

…何話でこれ、おわるんだろう?(脳内反復は約一時間ちょいで完結)

のんびりまったり続きです(読んでくださっている方々に感謝ですv)




「【Arrosez sinter(水華)】。【Un phénix chinois(火凰)】、はっ!」

リンクルがそう叫ぶとともに、その左肩上空に花の形をした水の塊。

そして右肩上空に炎を纏った鳥らしきものが出現する。

それらの熱気にあおられ、リンクルの髪がゆらゆらとたなびき、

その瞳は炎を映し出し、紅く染まっているように垣間見える。

「対消滅、か。だけど、甘いっ!」

まったく逆の性質をもつ属性を同時に放つことにより、それらが炸裂した刹那、

対象物に対消滅という現象がおこることがある。

しかし逆の性質をもっていれば火も水もどちらも消失するようにおもえなくもないが、

それぞれがまったく同じ質量等をもっていれば同時に発現することは可能。

つまり、水の中でも炎が燃え盛り、火の中でも水が存在しているように。

「…な!?」

目の前の少女がそう叫ぶと同時、

刹那、リンクルが出現させたそれぞれの術形式の真上。

そこに一つのちょっとした小さな『何か』が出現する。

「そんな……フェスグーン(炎喰樹)!?」

霊獣界に生息し、炎を主食としている樹の生命体。

かの樹には意思があり、ゆえにそれらを従えることも可能。

しかし一定以上の力がなければそれらを使役することなど絶対にできない。

しかも…その上空にあからさまに、何か開かれた扉、のようなものが垣間見える。

それが意味することは、すなわち……

「【次元の守護者】にまで自在に干渉できるなんて、あなたはいったい何ものなんですかっ!?」

各界を隔てる管理をかねている【門】。

普通はありえない。

たかが一つの生命体が【門】に、しかも詠唱も【楔の歌】すら放たずに一時的にでも門を開くなど。

「あら?ただ、【窓】を開いただけで【門】はあまりこれは関係ないけど」

そう、門が管理している窓の一つを開いて、

ここの空間と樹が生息している空間を一時ほど繋げただけ。

ヴリトラにとってはいともたやすい。

しかし…普通、そのようなことができる、とは誰も夢にもおもわない。

そもそも、【門】が無数に【窓】をも管理している、と知っているものなどごくわずか、なのだから……

「おおっと!?何やら両選手、いいあらそっております!これは期待できそうだぁぁっ!」

『わぁ~~~!!』

目の前で繰り広げられている異常性。

その事実に気づくことなく観客たちは進行係りの声をうけさらなる盛り上がりをみせてゆく。

…大会は、まだ始まったばかり……





                光と闇の楔 ~予想外の襲撃~





「あ~あ、ほんと、暇だな……」

毎年恒例の娯楽に参加できるものならばとっくにしている。

そもそも普通の一般人があの大会の予選に勝ち抜けるはずもない。

予選だけならばお祭り感覚で受けられることはうけられるが。

しかしそれでも参加費用はとられるわけで、結果として無駄な出費はしたくない。

というのが大概の一般人の感覚。

ある程度大きな町や村などでは集会場に大会の様子を閲覧するための大型水晶が設置されており、

そこにあつまって大会の様子を観戦することもできるらしいが。

しかし小さな村などではそういった資金があるはずもなく。

かといって各自で個人用観戦するために水晶珠を購入するにしても、その金額ははてしない。

金水晶貨ルドクリスタ一枚。

一番小さな水晶珠にすれば白水晶貨ホワクリスタ五枚で購入できるが、

やはり小さな画面でみるよりは大きな画面でみたほうがはるかによい。

そもそも小さな画面で大会の様子をみてもたしかに面白みがかけている。

大会における熱気というかそういったものが小さな映像ではなかなか伝わってこない。

大概は普通の水晶珠と同じ大きさの品が人気ではあるのだが。

それでも金額的に黒水晶貨ラクリスタ五枚、という大金をようする。

まあ、一度買えば毎年同じ水晶でことたりるのだから先行投資、といえばそれまでなのだが。

先日、村の近くに発生したらしきゾルディから逃れていた旅人を保護した。

その結果、またいつなんどき発生するともわからないということで急遽見張り番が増やされた。

「しかし、偶然もあるんだなぁ」

「だよなぁ」

いまだに襲われていた旅人は目をさまさないものの、

本日やってきた旅の商人がいうには、別の村でも旅人がゾルディに襲われ、保護されているとのこと。

同時期にそのような出来事が発生するなどいままではっきりいってきいたことがない。

それも近距離で。

この時期、完全に腕の覚えるあのものはみな大会本戦に参加している。

予選落ちしたつわもの達はたしかに残ってはいるものの、

彼らは自分達の技を磨くべく、より正確に映像が見れる場所へと移動している。

つまりは、巨大な水晶映像を擁している王都、もしくは大都市へ。

ゆえに小さな町や村には今現在、そこそこの実力をもつものしか滞在していないのも事実。

そんな中で同時にゾルディの被害が発生したのはこれは偶然なのか、それとも何かの意図があるのか。

それは見張りをしている彼ら村人にはわからない。

「ん?」

「どうかしたのか?」

そんな会話をしている最中、ふと何かに気付いたようにとある方向をみて首をかしげる見張りの一人。

「いや、何かひかったような…ちょっといってみる」

ふと視界の端に何かがひかったようにみえた。

位置的にはさほど離れていない。

ゆえにそちらのほうに足をむけ、光ったであろう場所をくまなくさがす。

「…なんだ?これ?」

ふとそこに、鈍く輝いているかのような石らしきものをみつけ思わずつぶやく。

手にしてみれば太陽の光に反射しきらきらと鈍くその石は輝きをます。

一種の宝石のようにもみえるがこのような宝石は見たこともきいたこともない。

そもそも、虹色の…しかも黒い虹色に光る石、などきいたこともない。

「…まあ、とりあえずひろっとくか」

見たことがないにしても、珍しい品には違いない。

もしかしたら高くうれるかもしれないし、売れなくても子供のお土産くらいにはなるであろう。

そう判断し、彼はその石をそのまま服のポケットの中にとしまいこむ。

「あ~あ。ほんと、何ごともないというのはいいが暇だな~」

いいつつ再び大きく背伸びをする見張り役の村人。

しかし、彼は知るよしもない。

今、彼が手にした【石】が今後、どういう結果をもたらすか、という残酷な事実を……



「……な!?」

おかしい。

戻ってすぐにその違和感に気がついた。

どうして…どうして、どうして、どうして!?

ここにはしっかりと結界をほどこしていた。

ここに入れるのは血の連なった兄弟、もしくはそれ以上の存在のみのはず。

なのに……

「お父様!どこっ!?」

悲鳴に近い声はただただ深遠たる闇の空間にと呑みこまれてゆく。

この中心に彼女がもっとも敬愛している父親が眠っていた。

怒りに染まったその魂をこの場で癒すために。

なのにその眠っていたはずの魂が保護されていたはずの水晶ごとなくなっている。

ありえない。

だけども…これが現実。

「…まさか…お兄様のほうは!?」

可能性として考えられること。

魂を手にし…そしてその魂のなくなった抜け殻の器を悪用しようとする輩がいる可能性。

その可能性におもいあたっていたからこそ、三人で話し合い、それぞれが両親を見守ることにした。

長男が魂の抜けた父親の肉体を、次男が傷つき心を閉じてしまった母親を。

そして末っ子であり長女である自分が父親の魂を。

ここで迷っていてもどうにもならない。

ここから父親の魂が持ち出された、これはこの場に魂がないことから紛れもない事実。

「お父様の目覚めはまだ感じられないもの……」

目覚めれば自分達三兄妹には絶対にわかる。

両親との繋がりは浅くない、と自覚している。

この地、否、この界の責任者でもあるが彼女とて一人の親を思う娘にすぎない。

「…ハデスにひとまずこの場を任せて、私はお父様の魂を絶対にみつけだすっ!」

彼女の側近をつとめており、またかの戦争の責任を感じ、彼女の側近を申し出たハデス。

まあ確かに、弟が見境なく女性に手をだしたせいで戦いになってしまったのだから

兄として申し訳ない気持ちになるもうなづける。

彼女の父親が完全に目をさますまで、彼女達家族が再び安心して暮らせるようになるまで。

それまで絶対的な忠誠を自らに誓っている冥界の統治者。

冥界での一番の権力をもっているのは他ならない冥界の監視者ヘル。

ヘルが監視者ならばハデスは冥界を統治している、といって過言でない。

冥界中心に位置する、ヘルの宮殿、エリューズニル。

その玉座たる間の奥にある特殊な空間。

そここそがヘルがすべてをかけても守りたい存在が安置されている場所。

しかしその場に今、もっとも愛する存在の魂はない。

透き通るまでの白さをもつ半身と青白く透き通った半身をもち、

やわらかな髪質をもつ見た目十代そこそこの少女。

「ヴァルトニルにいるリルお兄様に報告にいかないと…っ!」

深海の孤島にいるヨムお兄様に報告をしたらまちがいなく自分も探しに行く、といいかねない。

それでは困る。

兄には母をしっかりと守ってもらわなければならない。

もしも、父を悪用しようとしている輩がいるのならば、まちがいなく力のない母を狙ってくるのは明白。

だからこそ伝えない。

否、伝えられない。

そんなことをおもいつつも、きっと涙をふきつつもその場をあとにするヘル。

ヨムンガルドの傍にいれば【アングルホダ(母)】の安全は確実に保証される。

何しろヨムンガルドは母を守るためにその体内に母を保護し、見守っているのだから……



「…かんべんしてくれ……」

がくり。

おもわずその場にて目の前の執務用の机につっぷしてしまうのはおそらく仕方がない。

それでなくても終わらない書類の束。

この時期、ほとんどのものが大会観戦のためにほとんど有給休暇をとっている。

それでも世界運営と監視に支障をきたすので一応毎年ごとに区分けして休みがとれるようになっている。

そんな中、はいってきた報告、それはこの界においては滅多とないこと。

「…というか、何か?この神界でいきなりゾルディ襲撃が多発…というわけか?」

報告間違い、聞き間違いであったほしい。

切実に。

しかもある程度の力を擁していることから察するにまちがいなく、

この界の感情で誕生してしまった類のものらしい。

「…ハスター・ホテップか……」

それらを意図的に生み出せる勢力。

それはかの勢力しか思いつかない。

「どうなさいますか?ヴィシヌ様?」

秩序と繁栄を司る神であるヴィシヌ。

彼はまた男であり、女でもある。

どちらでもなれる神でもあり、またこの天界の秩序を守るべく警備隊の上司をもかねている。

先の一件といい、どうやら本格的に動き出しているらしき反組織。

大会が執り行われている空間まで入り込むことは絶対にできないであろうが、それでも油断は禁物。

「とにかく。今の時期が時期だ。この手薄な時期を狙って何かしかけている可能性がある。

  また、ゾルディに追われていたという天界人に対しても監視を強化するように」

何か話しができすぎている。

同時に、しかも同時期に幾多もの場所でゾルディが多発し、

さらにはそれに追われている天界人がいる、などと。

各町などにおいては追われていた天界人を保護したようであるが。

あまりにも話しがうますぎる。

下手をすればそれこそが敵の思うつぼ、という可能性もある。

「それと、何か不審な人物、もしくは不審な品があれば随時報告するように徹底づけるように!」

以前、ちょっとした小さな動物が実は敵の放った間者で大変な思いをしたことを思い出す。

まああのときばかりは敵にまわった仲間である彼にたいして心底同情したのだが。

まあ、彼曰くの腐りきったやつらを消滅させてやる!

という思いはヴィシヌとてわからなくもない。

ないが彼とて与えられている役目はそのまま彼の存在意義を指し示している。

だからこそ秩序を保つためにはときとして非情にならなければならないことも理解している。

「…は~……なんでこう次から次へとやっかいなことがおこるかな……」

それでなくても、つい先日、地上界に道が開いたのをうけてアテナが現状を確認しにいった。

そのときに界渡りのリュカにであったらしく、どうやら魔界側も何やら動きがあるらしい。

そう報告はうけていた。

その後、天界と魔界の勢力が結び付いた、という報告もうけている。

「…混合会議、テミス王国の提案通り、これは早めに開催したほうがいい…かもな」

もしも開催するのならば、意表をついて大会最中におこなったほうがいいであろう。

何しろ各界の代表者が一か所に集うというようなことは滅多とおこらない。

ゆえに混乱をきたしかねない。

しかし、この時期ならばほとんどの存在がギルド主催の大会に目をむけている。

目くらましにはちょうどいい。

お祭り騒ぎとただの会議。

どちらにしてもその興味はお祭り騒ぎのほうへとむけられる。

「とりあえずは、ゼウス様に相談…だな」

そもそも、ロキ様がいればこんな面倒なことにならないとおもうんだが。

というか、ゼウス様の女好きが全面的に悪いっ!

いくら年月がたとうともいまだにそのクセ…あの一件以後はかなりナリを潜めてはいるが。

どうしてもそうおもわずにはいられない。

そもそも、ロキが神界にいたときには、それぞれの部署にわたり気がむけば、

役にたつ魔法の品々を作り出してくれた。

それがどれほど貴重で重宝がられていたことか。

だからこそ、戦争のきっかけになったロキより、そのきっかけをつくりだしたゼウスを恨む声のほうが、

天界の中では圧倒的に多い。

というか百人にきけばまず百人とも悪いのはゼウス、と答えるであろう。

「本当ならばティアマト様がおられれば一番いいんだがなぁ~……」

しかし、当の補佐官は今現在、王とともに行方知れず。

おそらく王至上主義の補佐官のこと。

王とともに行動しているのだろう、というのは上層部達の一致した意見。

そしてどうやらそれは魔界においても同じことが起こっているらしい。

「ほんと、光と闇は表裏一体、というけど。

  ここまで同じようなことがおこっているとは…なんだかな…だよな……」

先ほどはいってきた報告によれば、

魔界も同じように悪意あるゾルディの被害をうけそうになった地域があるらしい。

とはいえ基本、魔界に住まう存在達はどちらかといえば戦闘好き。

中には違う考えの存在も多々といるが。

今の時期は大会によってお祭り騒ぎ状態になつているところのこの騒ぎ。

全体的になぜだかゾルディ誕生もイベントさながら状態で盛り上がっているらしい。

「…なんだかな~……」

ぽそり、とつぶやくヴィシヌの声はただただむなしく彼の執務室の中へと溶け消えてゆく……



「…なっ…!?」

そこで声をあげなかったことを自分自身でほめたい。

切実に。

そこで叫び声をあげずにとどまった彼を不審に思い視線をむけるものはこの場にはいない。

否、この場には彼しかいないがゆえに助かった、というべきか。

学校に通うことになった以上、おそらくどこかに参加している可能性は否定しきれなかったが。

しかし…しかしである。

こんな一般参加もありえる大会で、いきなり【窓】を開き、さらには霊獣界にしか生息していない、

捕食樹・【フェスグーン(炎喰樹)】を出現させるとは。

何をかんがえているんですか!?あのかたはっ!!

ゆえにその場で思わず頭をかかえてしまう。

映し出されている映像をみてみれば、樹から伸びた蔓によりエルフの少女はその霊力を吸い取られ…

正確にいうならば、樹がもつ特性からエルフの霊力がことごとく喰われているに過ぎない。

霊力は精霊力を駆使するのに必要な力であり、また精霊力の威力は霊力の威力と比例する。

そしてまた、フェスグーン(炎喰樹)の糧は【炎】。

そしてエルフの少女、リンクルはその火の属性と水の属性を持ち合わせていた。

はっきりいえば樹にとってはちょうどいい【餌】でしかない。

そのまま霊力を吸い取られ、その場にばたり、と倒れるエルフの参加者。

そして、

『おおっと!対戦相手がたおれたぁっ!これぞまさに番狂わせ!

  エルフ族にかったのはなんと学生の小さな少女だぁぁっ!』

『わぁぁぁっ!』

戦闘部門にとあたる、とあるエリアにてそんな会話がなされている光景が映し出されている。

「…ヴリトラ様…す…すこしは周りの目をきにしてくださいっ!!」

思わず誰にも気づかれないように、それでも心の底から叫ぶ青年…シアンは間違っていない。

絶対に。

そのまま倒れた参加者が回収保護され、次なる試合が始まる光景が映し出される。

「……参加者の控室にいくのは無理がありますし…かといって……」

かといって影を送り込むという真似をすればヴリトラの正体を周囲にばらしてしまうことに他ならない。

何しろ彼が動く、そのこと自体が彼以上の実力、もしくは地位にあるということを物語っている。

「…とりあえず、あちらからの転移道…SGエリア、だったか?そこの道にいくとするか……」

かの性格を考えればあのままあの場でおとなしくしておく、とはおもえない。

その気になればすべてを見通すことは可能であろうが、

おそらく【ここ】にやってくる可能性のほうが高い。

入れ違いにならないためにも、【道】がある場所にいたほうがいいであろう。

そもそも、ここで逃せばまたいつその姿を捉えることができるか判らない。

どこまでいっても気苦労を自らしょってしまうのは彼の性格ゆえ、というべきか。

そんなことをおもいつつも、足を戦闘部門エリアからの転移道がある方向へとむけてゆくシアン。

すれ違う存在達がシアンをしっているものはほとんどものが敬意を記し頭をさげていたりするのだが。

それはもういつものこと。

まったくいにかいすることなく、シアンはその場…【観戦広間】を後にしてゆく……

観戦広間。

それはこの空間においてすべての大会の様子を意識するだけで【特定の場】のみを視ることのできる空間。

意識すればすべての大会の様子を同時に虚空に映し出すことも可能。

しかしここでこの場を利用しているものは…あまりいない。

なぜならばこの場にいるのはほとんどここに勤めているものであり、

観戦する暇があれば仕事が優先となる。

そして…ここに入れる一般人ははっきりいってまずいない。

ゆえに、ここを利用できるのはごくごく限られた地位にいるものたちのみ。

そのこともあり、この場はあまり一般的にも知られていない……




「ふんっ!あまいっ!」

『おおお!でました!さすがです!やはり戦いはこうでなくてはっ!』

わっとした歓声が周囲にとコダマする。

無数に姿を現した対戦相手。

それらを手を一戦させ一撃のもとに撃退する。

周囲には肉の欠片と血が飛び散っているものの、それらはまたたくまに会場の中に溶け消える。

「下らん技をつかいおって。もっと我をたのしませんか!」

せっかく目を盗んで大会予選、そして本戦にまでやってきたのである。

楽しめなければ意味がない。

魔神シトリー。

魔界における【地獄部】を管理している、魔界における権力者の一人。

よもやそんな高位なる存在が一般参加に交じって参加しているなど誰がそうぞうできようか。

しかし、ここ魔界に関してはこういうことはよくあること。

つまりつわもの、もしくは暇つぶしで戦いたい。

とおもっている魔人、魔王や公爵達は数知れず。

ゆえにギルド協会が主催するこの大会は毎回、毎回ものすごいことになっている。

当然、魔界に位置しているギルド協会学校に所属している生徒も

世間の厳しさを身をもって経験するハメになっている。

しかしさすがに本名での参加は周囲に畏縮させたり畏怖させたりする可能性があることから、

実力あるものたちは大概偽名、もしくは別名をもちいて参加している。

彼らのような実力のある存在はそれぞれいくつも名前を擁している。

それらは勝手につけられたものもあれば、その役目柄つけられたものもある。

彼の登録している名前は【ビトル】。

ちなみに彼は【獄主十二位階】という地位にあり、

一般的には地獄をおさめる君主の一人、ともいわれている。

彼が擁している軍団はおよそ六十ほど。

先ほど脳裏に念派にて報告がのぼってきたがそれはさほど重要なことではない。

そもそも、地獄でゾルディが多発するのは日常的なこと。

だから気にしない。

今はただ、

「目の前の遊戯をたのしむのみっ!」

きっぱりといいきり、そのまま大会遊戯に身をまかせる。

…彼の部下からしてはそれはそれでたまったものではないのであろう。

…が、それが魔界における今現在の現実…もとい、現状。

何しろ仕事を部下に押し付けて参加している魔王、

もしくは公爵にいたる存在は多々といるのだから……




「う…あ、あれ?ここは……」

ぼんやりと意識が浮上する。

「あ、気がつかれましたか?」

どうやらどこかに寝かされているらしい。

目にはいるのはどこまでも真っ白い無機質な空間。

そこにいくつも並んでいる真っ白いベット。

どこまでもつづくのではないか、とおもわれるそのベットにはほぼ誰かが寝ているようにも垣間見える。

「あなたは試合にまけて死に…もとい、気絶してここに運び込まれました」

いや、今、死にました、っていいかけたよね?この目の前にいる人。

そう思わず内心おもうがしかしそのことに対して突っ込みする気力もない。

その背に二枚の真っ白い鳥のような羽をはやしていることから、鳳翼族なのか、

はたまた天使の一人なのかそれはよくわからない。

どちらにしても天界、そして精霊界関係の種族であることは間違いない。

「そっか…やっぱり負けたのかぁ~……」

そもそも初戦からあんな強い相手とあたるとはおもわなかった。

それでも最後の記憶は炎に包まれて何か一撃を叩き込まれたところでおわっている。

おそらくはどうにかかの炎による攻撃は耐えきったのであろう。

それだけでも今現在の水の加護がどこまでいきるのか、という目安になった、とおもうしかない。

「…あんな対戦相手だったから、お母様…お仕置きしてこないわよ…ね?」

負けた、というのにさほど悔しくはないが、というかあんな相手に勝てたらそれこそすごい。

寝ている少女…ケレスが気になるのは、彼女の母の反応。

「…どうにか、お仕置きだけはありませんように……」

そう願いつつも、ふとディア達の結果もきになってくる。

まあ、ディアもそしてヴーリも絶対に負ける、とは到底思えない。

しかしディアに関してはこの場でどこまで【精霊に願う】という行為が通用するのかケレスとて不明。

しかし、なぜだか絶対に負けるわけがない。

というどこか不思議な確信がある。

「…SGエリアの勝敗結果…あとでみにいこっと……」

対戦相手がわかればそれを調べる手段はある。

それはサービスカウンター、というところで調べてもらうことは可能。

起き上がろうとするものの、体の節々がいたくておもうようにはおきあがれない。

「あ、無理しないでくださいね。一応、あばら骨がほとんど折れてましたから」

「あ…あはは……」

なんだかその怪我具合は教えてほしくなかった。

ゆえにおもわずその場でから笑いを上げるケレス。

この大会で怪我、もしくは再起不能状態に陥った存在、もしくは一度死んだものは必ずしも、

今のケレスと同じような感情を抱くことになる。


それらの感情を糧により強くなること、それはこの大会のもつ目的の中の一つ……






今回はようやくだせた、邪神ロキ&アングルホダの三兄妹さんたちv

  名前のみは神話をもとに伝道師達がつくったり、家族設定とかもそのように意思がしてはいます

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