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光と闇の楔  作者:
33/74

光と闇の楔 ~大会開催最中の暗躍~

襲撃、までいきたかったけど容量的に次回に回します。

ちなみに副題の暗躍はラストのほうにちらっといれてみたり。


「なんか暇だな~」

「まあ、この時期は仕方ないだろ?」

「たしか水晶を買ったやつがいたよな?いいな~。俺も仕事さぼってみにいきて~!」

毎年恒例の娯楽。

しかし一月も仕事をさぼるわけにはいかない。

ゆえにそれぞれ交代せいでこの時期はそれぞれ仕事をもつものたちはこなしている。

その取り決めをきめたのは誰だったのか今では誰も覚えていないが。

「…ん?あれ?…おい、あれは!?」

いつもの暇でしかない見張り。

ふと視界の先に何やら土煙りのようなものが垣間見える。

そしてまた、必死に馬らしきものにしがみついている何かの影。

「ちっ!おい!ゾルディに誰かがおいかけられてるぞ!」

「あれは獣型!いそげっ!」

真っ黒い獣の形をした、どうみても狼のようなそうでないような、とにかく異形のもの。

姿形は狼なれど、その顔が前後についており、さらには足は八本ほど生えている。

この世界にそのような姿のものは本来存在していない。

そしてまた、そのような存在は大概、忌まわしい存在、【ゾルディ】と相場がきまっている。

そのような獣に追いかけられている馬にのっている人影。

こうしてはいられない。

「前方に獣型ゾルディ発見!被災者あり!要救護者の要請もとむ!」

ばたばたばた。

町の入口をまもっている警備隊員達。

彼らは町から少し離れた場所でおいかけられている人物を救助するためにと駆け出してゆく……


   



          光と闇の楔 ~大会開催最中の暗躍~





ふわり。

槍がつかれるたびに虚空を舞う。

まるであらかじめそこに攻撃がくるのがわかっているかのごとくに。

その姿はまるで舞いをまっているかのようにかろやかで、戦っているようには到底みえない。

おもわず観客席からも感嘆の声があがっており、その優雅さに見惚れているものも数知れず。

「殺気というか攻撃のときにでる気がまったく消されていないから。

  だから相手からしたらすぐさまに見極められるのは簡単なのよ?」

攻撃してきている相手ににこやかにそんな指摘をしているディア。

完全にかろやかにあしらわれている。

それが嫌でも身にしみる。

たしかにサガの対している少女はその気配すら周囲に溶け消えている。

気をぬけばその姿すら認識できなくなってしまうであろうほどに。

人族でここまで周囲に気配を同化できるものがいるなどと。

やはり世界は広い。

そう強くおもわずにはいられない。

自分よりもどうみても年下の少女にあっさりと攻撃をかわされ、

あまつさえ戦いの仕方の指導をうけていればなおさらに。

まるで赤子の手のひらをかえすがごとくにことごとくに攻撃が受け流されている。

さらには自分が発した衝撃派がそのまま観客席との結界である壁につっこんでゆくこともしばしば。

術を放てばそれらの術ももののみごとに対消滅するかのごとくにかきけされる。

この場においては精霊に願いをこう必要はない。

この場のみ限定ですべての術にかんする約束事が一時解除となっている。

術を使用するのは個人の自己責任。

たとえそれが自分の分不相応である術だとしてもこの場においては発動する。

それで当人が倒れたり、もしくは精神に異常をきたしたりしても大会開催側としては責任を問わない。

そのように参加するにあたり契約をひとまず交わしている。

それらを納得のうえに各自こういった戦闘がある場に参加しているのだから。

「さて…と。そろそろ決着をつけましょうか…ね?これに耐えられる、かしら?」

どうやら気配を読むことが苦手なのか目測だけで動いている節がある。

ディアのほうから攻撃をしかけるつもりはさらさらない。

ないがその本能の中にある感覚を引き出すことくらいならばこの場でしても問題ないであろう。

魂事態がもっている本能をただ引き出すだけなのだから別に何の問題もない。

時としてその魂がもっている本能に翻弄される輩もいるにはいるが。

しかし引き出す存在がディアである以上、そのようなことには絶対にならない。

何よりも自分自身の【母】に逆らえる魂など本質的にいないのだから。


ふわり、と五体に感じるこの場においてはあるべきはずではない風。

そしてまた、

「な…こ…これは…!?」

自分は一体何をみているのか。

まったくもって理解不能。

何しろサガが今、目にしているのは自分が戦っている様子。

自分はたしかにそこにいるのに自分はここにいる、という不可解な現象。

眼下にみえているのも自分ならば、今ここ、戦いの場の上空にいるのもまた自分。

そのままぐいっとまるで見えない何かにひっぱられるようにどんどんと視界が遠ざかる。

ある程度まで達した時に周囲の景色が一瞬変化する。

さきほどまで無機質なまでの空間がひろがっていたのに今、目にはいるのは緑豊かな大地。

そして眼下にみえるのは……

「…な…父上…達?」

どうして自分達の一族が視えるのだろう。

しかも自分は上空からその様子を眺めている形になっている。

やがて再び体がどんどんと上空へとひっばられていき、視界にやがて地平線がみえてくる。

眼下にみえるめまぐるしく変化してゆく生命の営み。

そして、地平線から立ち昇る太陽。

どれだけ自分達が何かをしようと、所詮は大地の一部にすぎない。

この光景をみていればその事実を嫌でもつきつけられる。

巨大な何かに対抗するのは、まるで広い海に小さな砂を投げいるかのような行動だ、

と意味もなく理解する。

そう、なぜか漠然とストン、と理解したその刹那。

再び精神がぐっと引っ張られる感覚に陥り、

「…は!?」

次に気付いたときは先ほどまでの試合会場。

目の前にはにこやかな笑みをうかべているギルド協会学校の生徒がたたずんでいる。

「さてと。一番の基礎は漠然とだけど理解できたようだけど。

  なら、これが仕上げ、かしら…ね?」

くすり。

意味のわからないことをつぶやくとどうじ、その手をすっと上空にと掲げるディア。

次の瞬間。

何もなかったはずの試合会場の上空に無数の燃え盛る何か、が出現する。

それはまるで岩のようでありそうでないようであり。

炎らしきものをそれぞれがそれぞれに引き連れている。

「La mémoire de  a genèse(原初の記憶)」

サガの対戦相手であるディアがそうつぶやいたその刹那。

無数の炎の塊がそのまま上空よりいたるところへと降り注いでゆく。

次の瞬間。

サガの視界は再び切り替わり、その視界にはいるのは無数の燃え盛る何か、が

大地に絶えず降り注ぐ景色。

しかしこの大地には緑はなく、殺伐とした何もないまるで死した大地にしかみえないのはどういうわけか。

そしてそれらは地下より炎を誘発し…

「…噴火…?」

そうとしか視えない光景がサガの視界に飛び込んでくる。

これが意味することはサガはわからない。

そしてまた、再び視界が切り替わる。

次の視界においては緑豊かな大地に巨大な生物が闊歩している様子。

しかし再び空より燃え盛る巨大な岩が舞いおり、その衝撃により生物のことごとくがけちらされる。

そして、もう一つ、大地にむけて堕ちてくる巨大な塊。

その塊はまるでサガがそこにいるのをわかっているのかそのままサガのほうへむかっておちてくる。

「…なっ…う…うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

そのまま、サガはそのおちてきた【隕石】の衝突へと巻き込まれてゆく……


「え…ええと…何がおこったのでしょぅか?と、とりあえず、勝者、学園生徒!」

『わ~~~!!』

サガからしてみれば様々な様子を魅せられていたのだが、実際はそれらを視て感じていたのはサガのみ。

会場においては無数の光の塊が会場となっている試合場に降り注いでいたにすぎない。

それはまるで幻想的な光景で、そんな中、立ちすくんでいた対戦相手の堅竜族。

そしてひときわ光る大きな粒がはじけたとおもうと、次の瞬間。

立ちすくんでいた堅竜族の青年はその場に倒れこんだ。

観客達からすれば何がおこったのか理解不能。

しかし青年はぴくり、ともうごく気配がない。

そのまま、茫然としつつも、そのプロ根性をみせ、勝者をつげる進行係り。

しばし、会場内に何ともいえない歓声が広がってゆく……


もしも、精神感応ができるものがこの場にいたならば、堅竜族バルドが見られていた光景を知ることができたであろう。

彼がみていたのは惑星がかつて経験したことのある記憶。

【外】よりの脅威に耐えられる力をもっていなかったころの原初たる記憶。

無数に降り注いだ隕石はこの大地に様々な物質をもたらした。

それらは降り注いだ雨にまじり、やがて生命を生み出した。

そしてそれらの生命が進化し…そして再び、隕石によりその当時反映していた一つの種族を滅ぼした。

その壮大なる星の記憶。

その記憶の一部分。

そして、その記憶を垣間見れたのは、この会場においてはごくわずか。

数百人以上いるであろう観客席の中でその光景を精神感応で視れたものの魂は、

よりその身を自然と共有している存在達。

…つまり、エルフ族、といった自然にもっとも近しい存在達のみ……


今のは確かに星の記憶。

しかしどうしてそれがこの場で視えたのか。

それが彼らにはわからない。

この空間が星の記憶を共有している、とはおもえない。

かといって堅竜族がそのような記憶を持っている、とも言い難い。

ならば対していた少女が何らかの方法をとったことになる。

しかし、人が星の記憶をみせることができる、などきいたことがない。

自分達ですら自然と意識を一体化する成人の儀にてそのことを知りえるのだから。

「…あの少女に関しては調べてみる必要性があるのかもしれない……」

人がそのような力を擁したのならば問題が起こってくる。

もしかしたらかつてあったという悲劇すらおこしかねない。

そして何より、星の記憶は人の身にはあまりに大きすぎる。

その魂からして消滅するか呑まれかねない代物。

だからこそきにかかる。

そんな代物をたかが一人の少女が第三者にも視せられることができるのか…と。


「お姉様、なんだってあのひとにあの記憶みせたの?」

控室にもどってまっさきにヴリトラがディアにと問いかける。

わざわざ過去の記憶をみせる必要性はなかったとおもう。

しかもあの記憶は彼女、ヴリトラがまだ誕生する前。

たしか以前に見せてもらった記憶では【意思】の意識が意識として固定しかけたときの記憶だったはず。

その後にみえた、恐竜達と呼ばれていたらしい生物の絶滅時にはすでに意思は意思として固定されていたらしいが。

「ヴリちゃん。彼らの種族が何かわかってるわよね?」

そのことをきちんと理解していればあの光景もすぐに理解できるであろうに。

どうもこの子はそのあたりの臨機応変がいまだによく生かされていない。

だからこそ苦笑せずにはいられない。

そんなことを思いつつも、ヴリトラに対し苦笑しつつも問いかける。

「うん。堅竜族、でしょ?」

「そう、そして彼らの種族は何を元にして創った生命体?」

ディアの質問にようやくはっととある事実に気づいて目をまるくする。

そう。

かれら堅竜族はたしかにこの世界においてある生物が進化を遂げた種族ではあるが、

その種族事態はかつてこの大地にいきていた生物を【意思】がその記憶のままに再生させたにすぎない。

つまり……

「…あの隕石で絶滅した種族の実質的には子孫…?」

「正解」

だからこそあの光景をディアは視せた。

遺伝子とそして血に刻まれた絶滅の記憶はいまでも彼らの血に根強くのこっている。

そしてそれは彼らの本能をさらに強く呼び醒ますきっかけとなる。

きっかけとなった人類の愚かさによる地上における生命の死滅。

それまで人類が絶滅においやった種族だけでなくそれまで絶滅したすべての種族を【意思】はよみがえらせた。

元々、【意思】より誕生した種族である。

意思の記憶の中にはどのようにして誕生したのか、という記憶はしっかりとのこっている。

ゆえに…それらをすべて復元、した。

他の場所に移動させ自分達の罪とそして課せられた役目をある程度理解した【伝道師】達。

彼らを呼び戻し、それらを【管理】させ、そして神々など、新たな【理】を創りだしていった。

あるものはその時代のことをこう呼ぶ。

神話創世期、と。

「血の記憶を思い出すだけでも少しはかわってくるからね。

  …さて、と。ヴリちゃんの番まで屋台でものぞきにいく?」

「いくっ!」

どちらにしても今この場にいる参加者をざっとみてもさほど期待した戦いは見られないのは確実。

ならばせっかくなので参加者達がこぞって出している店を覗いてみるのも悪くない。

そんなことを思いつつも、いまだに何が起こったのか理解できずに唖然としている他の参加者をそのままに、

控室を後にしてゆくディアとヴリトラの姿がその場において見受けられてゆくのであった……



「……こ…こんなのないぃっ!」

こんなのどう対処しろ、というのだろうか。

母の言いつけなので仕方なしくこの部門にでることにした。

したが、本戦、しかもいきなり一回戦でかなり強い対戦相手にあたらなくてもいいであろうに。

「あらあら。火の気配を感じたわりには大したことないのねぇ?

  まあまだ学生らしいし、仕方ないのかしら?ほら、次いくわよ?」

「って、まってくださいいっ!というか大陸屈指の火の支配者イフリーさんに私なんかが勝てるとでも!?」

ケレスの叫びは至極もっとも。

何しろ今、ケレスの相手をしているのは大陸全体に名をとどろかしている、別名、火の支配者。

噂では他の属性も使えるらしいが大概は火のみで何ゴトも切り抜けている屈指の実力の持ち主。

そんな彼女がどうしてこんな大会に参加しているかといえば理由は至って単純明快。

「だけど防ぐことくらいはできないと?あなたからはサラ様の気配もしてることだから。

  おそらくサラ様の加護をうけているんでしょう?」

相手の纏っている気配でどの精霊の加護をうけているのか瞬時に把握する。

それこそが彼女が支配者、とも呼ばれているゆえん。

よりその感性を自然に近づけさせ相手の気配にも同調させる。

それが彼女の特性。

橙色の髪に水色の瞳。

術を放つたびにその長い髪が爆風になびきふわり、とたなびく。

「ただうけてるだけですっ!実戦経験なんてありません~~!!」

ただ、加護をうけているからといっていきなり攻撃魔法。

しかも【二重円舞(ダ~ルロンド)】を放ってくるとは信じられない。

炎がいくつもの円舞を描くようにそれらが二重に重なり、しかもそれが複数同時に対象者に炸裂する、という代物。

どう考えてもたかが学生にかける術ではない。

それでもどうにかケレスが無事なのは咄嗟に水の結界を張ったからに他ならない。

こればかりは、湖の精霊というかなり力のある精霊の加護であることに感謝してもしきれない。

おそらくそのあたりにいる普通の水の精霊だと瞬く間にこの術の力に結界は破壊されてしまっていたであろう。

それを防いだことからも、あの精霊がかなり実力のある精霊であった、といまさらながらに納得してしまう。

まあ、固有名詞がある精霊、ということでかなりの実力のある精霊だ、というのは精霊界においては常識なのだが。

そのあたりの常識は人間界などではあまり知られていない。

「さ。私をたのしませてね?界対抗戦になるまで私、暇なのよ~」

「暇だからってただの生徒にそんな技つかってこないでくださいいっ~!!」

そんな光景をただただ観客達はといえば、

「やれ、姉ちゃんがんばれ~!」

「お~!支配者なんかにまけるな~!」

「姉ちゃんの大穴に俺はかけたんだっ!」

何とも無責任極まりない歓声がケレスにむけて放たれていたりする。

この大会での観客たちの何よりの娯楽。

それは、対戦者達がどちらが勝つか、という掛けごと。

うまくすればこの場にて一攫千金。

ちなみにこの掛け、ギルドが主催しているのできちんと配分などもなされることから便利性が高い。

戦いをみて楽しめ、さらには一攫千金がねらえるというこの大会。

…ゆえに、毎年毎年、人気が陰るどころか、年に一度だけでなく数回やってはどうか?

という話題がでているのもまた事実……

戦闘部門、GXエリアにおいて、しばしケレスの何ともいえない悲鳴が響き渡ってゆく……



「それでは、SGエリア、二十五戦目、開始ですっ!」

いまだに一回戦の中の二十五回目。

ちなみに一回戦の戦いの総数はこのエリアのみで二百組にあたる。

そして勝ち抜いた百組が二回戦に勝ちのぼり、さらに人数がしぼられてゆき、

最終的にエリアごとの優勝者がきまり、そして各エリア対抗の戦いとなる。

「おおっと!これまた学生参加だぁ!対するは、なぁぁんとエルフ族っ!」

『わっ!』

その言葉にこの場にいる全員の観客たちが一斉に歓喜の声をだす。

エルフ族といえばほぼすべての属性に通じており、また個人個人もかなりの力を有している、ときく。

もともと戦闘に関しては静かな種族であるものの、中にはやはり戦いをこのむものもいる。

そういう存在達はこういう大会にときたま参加してくる。

ゆえに、この大会の優勝決定戦は

毎年かなり一般人の目からしてまったく付いて行かれない状況になることもしばしば。

その時には、時空の神クロノスの力を借りて、その様子をゆっくりと再生することにより、

試合の様子を他の存在達にもわかるようにしているのだが。

エルフ族がその特性における長寿であり再生能力がたかく魔力容量も多いことから術が豊富。

という特性を踏まえて、ときおり彼らと戦うためにこっそりと【深界】のものがこの大会に参加することもある。

もっともこの大会における基本事項はすべての界における存在はみな平等。

ということなのでどの界にぞくしていても大会中はまったくもって問題ない。

ときおり大会参加者達が試合をすることにより会場そのものが消失、もしくは消し飛ぶこともしばしば。

しかしそれでも誰も死ぬことがない、死ねないのだから誰も問題視などしていない。

生きているかぎり、様々なストレスなどもある。

ここはそういうストレス発散の場にもかなり最適な場、ともいえよう。

何しろどんなことをしても相手も、また自分も絶対に死ねない、のだから。

そしてまた、新しい術を試そうとしている存在にとってもかなり貴重な場。

その威力を実際に試すことができる。

その術の力に自分の肉体がたえられるかどうか、この場ならば死を恐れずに実験することも可能。

「へ~。人間界の修学過程検証実技大会にしては、少しは私も楽しめる、かな?」

相手がエルフ族。

しかも視た限りどうやら百年やそこらの若いエルフではなく二、三百歳程度といったところか。

ゆえに少しばかり楽しめそう、と相手を確認したヴリトラの顔におもわず笑みが漏れる。

「先ほどの控室から感じていた、あなた方の気配の違和感。今ここではっきりとさせてもらいますっ!」

あの場においてあれほど完全に周囲の気配と同化していた目の前の少女ともう一人の少女。

エルフである自分にすらその気配を感じ取ることができなかった。

水の集落において次期長といわれている自分が感じ取れない、などと信じられない。

ゆえに対戦相手がその問題の人物の一人であることをしったときにはこれぞ神の恵み、そうおもった。

おそらくは目の前の人物は天界関係者かその系統のはず。

エルフ族である自分の目をごまかせるのはそれくらいしかおもいつかない。

よもや魔界の存在がたかが人間界の大会に参加している、とは到底思えない。

…中には人が血を流して騒ぎ立てる様子が好きなのでときおり参加する悪魔はいるらしいが。

「うん。水の集落の後継者、か。うん、相手はわるくない。なら少しばかり楽しませてもらいましょうか?」

自らどの集落出身、とは名乗っていない。

しかし目の前の対峙している少女は自分をみただけでそう即座に判断したようである。

エルフ族の集落に関しては見た目では絶対にわからない。

よくいえばその身にまとっている加護の違い、といったところであろう。

加護の属性により、様々な集落が存在している。

一つの属性の集落もあれば複数の加護の集落もある。

それはその集落が存在している場所の自然状態にもよる事情。


「La cause de mon nom C'est un tu souhait……」

――我が名の元、汝望みのままに


ヴリトラがそうつぶやいたその刹那。

一瞬会場とそして観客席の間に展開されている結界がぶれる。

しかしそのブレは一瞬のことでその場にいた誰も…約一名を除き誰も気づかない。

「さて。楽しみましょうか?どこまで私をたのしませてくれる?水の民?」

ふふ。

最近まったく相手にしてくれる輩がすくなくなってきていた。

少しは楽しませてもらえそう。

水の民ならば応用はかなりきくはず。

しかもみたところ、時期集落の頭首のよう。

「……あなた、やはり普通の人間、ではありませんね?…何もの、です?」

「さあ?それもあててみるのも、長の役割、じゃないのかしら?ね?」

見た目は十歳程度の女の子。

しかし本能が告げている。

人間ではない、別の何かだ、と。

それが何か、はわからない。

気配が完全にごまかされている。

このようなことができるのは、一部の一族、もしくは天界においても特定の地位にあるものたちから。

しかも、自分をみただけで、時期長、と見抜いている。

つまりは纏っている加護とその力の濃さを瞬時に見抜いていることになる。

油断はできない。

「では…始めから、全力でいかせていただきますっ!」

このままじっとしていても相手の正体も何もわからない。

何よりも、自分を認めてもらうためには他界にも実力を示す必要性がある。

そのためにこの大会に参加した。

今の自分のこの地上界においての力を試す場、として。

初回戦から正体不明の、しかもかなりの実力者とおもわしき存在にあたったのは不運なのかそれとも幸運なのか。


水の民の種族、時期長となる少女の名は【リンクル】。

彼女は知らない。

目の前の少女が神竜ヴリトラである、ということを。

エルフ族にとって、竜族は自然にもっとも近しいというか自然そのものたる存在。

ゆえに竜族は神にも等しきもの。

そんな竜族の頂点にたつ存在が相手であるなど…当然、夢にもおもっていない……





「……まさか、ここまですんなりとうまくいく、とは」

かつて手にいれた品がこうもうまく起動するとは。

ゆえにおもらず口元に笑みがこぼれる。

始めてこの品を手にいれたときにはその効果が信じられなかった。

強制的に門を通らずに【神力】のみで他界を渡る品。

その作成者の性格をあらわしているのか、それを使用してもその波動に気づかれることはない。

否、気づかれないような仕組みになっている、というべきか。

門番であるケルベロスは眠らせた。

かの存在は歌に弱い。

ゆえにあの場にセイレーンをつれていっている。

なのでしばらくはまったくもって問題はない。

そして、管理人はといえば今はおそらく兄達と連絡をとるために監視塔にはいない。

「さて……例の魂をはやく見つけてここからでないと…自分の命も危険、だな」

この場に長居すればそのまま肉体はもとより魂も朽ち果ててしまう。

それほどまでにこの場は本来ならばとても危険な場所。

しかし目的のためにはこれはどうしても必要不可欠。

なぜならば……

「……みつけた。…これが、邪神、ロキの魂……」

この冥界の王であるヘルが大切に守りぬいているもの。

それは彼女の父である邪神ロキの魂。

彼女が冥界の主になったのはひとえに父親のため、といっても過言でない。

これをこの場から奪い去る。

そのことで彼女は自ら動くであろう。

その身がうごくたびに周囲に腐敗をまき散らすこととなっても。

それこそが自分達のもくろみ。

てれきれば三兄弟達も自分達の思惑通りにうごいてくれればなお成功したも同然。

一番いいのは思惑通りに三兄弟が動いてくれることだが、それ以外でも冥界の番人が動く。

それだけでも他界には十分な脅威となる。

「…よもや大会中にこのようなことをしでかすものがいる、とは到底おもえまい……」

冥界にもギルド協会による大会はある。

そして主であるからこそその役割を冥界の王はになっている。

その隙をついたこの作戦。

この作戦が凶とでるか、吉、とでるかそれは今は誰にもわからない――





  ちなみに、水の民の時期長の名前は、

  水星に存在しているリンクルリッジ断崖(線構造)を元にしています。


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