光と闇の楔 ~実技大会開幕~
ようやく動乱のフラグ?にはいりはじめしたよ…
しかし、この動乱…これ第一フラグ…まだまだ先は長いです……
「ふ……ふふふ……」
この日をまっていた。
しかしまだ初日に行動するのは馬鹿らしい。
「観戦用の品は用意できたか?」
「はっ!」
『こちらのほうも準備は万全だ』
すべての平和ぼけしているものたちよ。
今はただ、大会を満喫するがいい。
そして大会がもりあがったそのときこそ、貴様らは真実をしるであろう。
世界のあるべき本当の姿を。
本当の支配者を!
『テケリ・ショゴス万歳!』『ハスター・ホテップ万歳!』
周囲に組織をたたえる歓声が二界において響き渡る。
さあ…宴の始まりだ。
光と闇の楔 ~実技大会開幕~
新緑もすがすがしい、第二月・アイヤル。
すでにディアが学校に入学してはや二月を経過している。
ディアがこの学校に入学したのは第十二月のアダル。
そして第一月のニサンにおいて薬学免許試験、C級を所得した。
ちまちまとした依頼をこなしつつも、今のディアのギルドランクは青。
一月ニサンにて資格を有したことにより、紫から青に引きあげられたのだが、
それからギルドのランクは変わっていない。
ディアが入学してからめまぐるしく様々な出来事が続けざまにおこっているのだが。
ある教師いわく、『言霊使いは厄介事までひきつけるんじゃないだろうな?』
などといっていたりするのはここだけの話し。
「さあさあ!毎年恒例!ついにやってきました実技大会!!」
「「わ~~~!!」」
誰ともなく叫んだその言葉にその場にいる全員が熱狂的な声をあげる。
今、ディア達がいるのは、王都にある【転移の扉】と呼ばれるものを抜けた先にある広い空間。
空間、と称したのはそうとしかいいようがないからなのだが。
何しろ見渡すかぎりの真っ白い床と地平線すら見えない平らな大地。
そこにこれでもか!という様々な種族の存在達がひしめきあって集まっている。
はっきりいってここで人ごみにまぎれたら絶対に二度と連れとは出会えないであろう。
それほどまでの人の海。
この大会は約一月の間行われる。
ゆえにもはや各界に住まう存在達においては欠かせない娯楽の一つとなっている。
「ほへ~。お姉様。活気がありますね~。霊獣界はここまで熱気につつまれてませんよ~」
その様子をみつつもどこか感心した声をだしている一人の少女。
「ああ。たしかあの界は参加者がそのまま乱闘はじめるのが当たり前、だからねぇ。
精霊界においてはそのまま力比べをかねての開会式になってるし」
そんな中、何やら第三者が聞けば卒倒するような会話をしているのはいうまでもなくディアとヴリトラ。
「?ディア?それにヴーリちゃん?何をはなしているの?」
周囲の歓声に二人の会話は横にいるケレスには届いてはいない。
「こっちの話し。そういえば、ケレスも戦闘部門に参加なんですって?」
希望箇所がどうやら同じらしく、ならば知り合いと一緒に行動したほうがいい、とはケレス談。
ゆえにこうしてディア達とともにケレスは行動を共にしているのだが。
「ええ。…お母様が、精霊の加護も儀式もおわったのだから実戦で経験をつちかいなさいって……」
その声にどこかあきらめとおびえがはいっているのはおそらく気のせいではないのであろう。
「あ~…なるほど。ま、死なないようにがんばって」
この空間内においてはたとえ一度志望しようとも復活することが可能。
この空間内においてはすべての界から遮断されており、
ゆえに肉体から魂が離れても絶対にこの場からははなれられない。
つまり、万が一、肉体から魂がはなれるようにことになったとしても、
近くを浮遊している魂を再び肉体につなぎとめればいいのである。
それでも一時は肉体と魂の繋がりが断たれた存在は再びなじむのにかなりの時間を要することとなる。
もっとも、それがきっかけで新たな力に目覚めるものもすくなくはないのだが。
「一度死ぬってどんなものなのかしらね…あ・・あはは……」
話しにきくのはものすごい激痛が走るらしい。
肉体においても精神体…つまり魂においても。
ゆえに虚ろな目でこたえるしかないケレス。
彼女とて自分に実力がないことはわかっている。
いくら母達の特訓をうけていようとも、まだケレスは何の実戦経験はないのである。
それがいきなり、生死を問わない戦闘部門参加(強制)である。
どこか虚ろな表情をしていたとしても仕方がないといえよう。
「さて。と、あ。開会式の宣言おわったみたい。とりあえず私たちは受付にいきましょ」
各自それぞれが参加する項目の大会会場にむけて移動をはじめてゆく。
この場からはそれぞれの場所に通じる【道】が存在しており、
そして今ここの空間はこれより、観戦広場となり果てる。
それぞれの場所において各会場の映像が上空にと映し出されることとなり、
実際に会場内にはいれなくても映像として視ることが可能。
…もっとも、この空間自体が広いので迷子にならないように気をつけなければならないが。
それはこの場にいるそれぞれの自己責任、となっている。
…それでも一応は迷子案内係は存在しており、毎年、毎年かなり重労働となっている。
この空間で騒ぎをおこそうとするならば、
空間のセキュリティが反応しその存在の周囲の重力をあっというまに変化させる。
それこそ立っていられなくほどに。
もしくは周囲の生存に必要不可欠な物質が瞬く間に消失されてゆくか、のどちらか。
その結果、治安的にはまったくもって問題はおこっていない。
誰しも自らの命は大切で、命をかけてまで騒ぎをおこそう、という輩などいないのだから。
…もっとも、一部にはその命をかけてででも自分自身の理想を掲げて周囲をまきこもう。
とする輩もいるにはいるが……
ざわめく人ごみとともに、目的の【道】へと到着する。
この道にも数種類あり、観戦用の道と大会参加者用、そして控室用、看護室用、となっている。
ディア達はまだ登録を済ましていないのでそのまま参加者用の道へと足を進めてゆく。
それぞれの道に関しても一つしかないわけでなく、同じ用途の道がいくつも存在している。
ゆえにそれぞれ目的の場所に向かうための道に続いているとおもわれる行列へと参加する。
ちなみに、それぞれの道からはきちんと誘導するために柵がほどこされており、
割り込みやそしてまた、間違った道へ迷いこまないように工夫がなされていたりする。
この空間には地上界すべてからギルド協会学校、そしてまた一般参加者などがはいりこんできている。
ゆえにその人口密度はかなりのもの。
この空間の広さというか大きさは、地上、つまりは惑星とほぼ同じ。
つまり海などがある空間もすべて足場るあの空間として存在しているのである。
そんな場所であるからこそ、人があふれてどうにかなる、というようなことは絶対にない。
ちなみに特殊な道も存在し、そこを抜ければこの空間で唯一の建物にたどり着き、
そこから他の【界】に設けられている大会会場へ赴くことも可能。
しかしその場合はきちんと審査をうけることになるのだが。
そもそも、大会に参加、もしくは観戦するにしてもそれなりの証が必要となる。
つまり、他界にいくためにはそれぞれの【界】における参加証、もしくは観戦証が必要となる。
ちなみにこの制度、相手がどのような位の高い存在だとて例外は一切認めてはいない。
「さて、と、いきますか」
とりあえず道に足を踏み入れると同時に、横にいるヴリトラにもかるく認識不可を仕掛けておく。
本来この道の使い道は、この地上にいきるすべての存在に対して起動するもの。
道の反応具合によっては相手の力、そして種族すら認識することも可能。
ディアの場合はどちらかといえば、地上そのもの、といっても過言でないので道が反応しないこともある。
ゆえに認識付加をかるくかけ、その自身の認識が人のそれであるようにごまかしておく。
そして同じような仕掛けをヴリトラにもかるくしかけておく。
これはあくまでも【道】対策なので本質的にはまったくもっ何の問題もない。
柵に区切られた道沿いをすすみ、陣にと入りその先へと移動する。
ざわざわとしたざわめきが移動したディア達の耳にととどいてくる。
そこは建物の中であることを示す如く見上げればそこに真っ白い天上が存在している。
そして視界の先にはずらり、と長くのびているカウンター。
そしてその背後に多数の人影らしきものがみてとれる。
その机の上にはちょっとした大きさの水晶が設置されており
受付をするために並んでいるものたちは、自分達の参加証をその水晶にとかざしてゆく。
それと同時、水晶から彼らのもとに大会会場の番号札が取り出される。
性格にいうならば浮かび上がってくる、といったほうが正しいのだが。
そしてその浮かび上がった必要事項は参加者がかざした参加証にと吸い込まれ、
参加証がそのまま受付終了証兼会場案内書と変化する。
会場はいくつものエリアに別れており、そこでそれぞれが勝ち抜き、
最終的にそこで勝ち抜いたもの達が戦い、そして優勝者をきめる。
エリアごとに優勝した存在にも当然特典はつものの、
優勝、となればそれはもうものすごい特典がつくこととなる。
中にはその特典を用いてかつてなどは自分達の国をつくったものもいたほど。
何しろこの大会のダイゴミは、精霊王達の加護のもと一つだけどんな要望も通る、という代物。
それが優勝者に与えられる特典。
「さてと、会場エリアはわかったから…あとは、各自の順番の把握ね」
すでに登録者はわかっているので予め対戦相手は組まれている。
ゆえに参加者は自分が登録しその自分に課せられた番号を知ることにより、
それを照らし合わすことにより自分がどのエリアでどの順番で戦うか、ということを知ることとなる。
もっとも、これらの仕組みは戦闘部門とよばれているこの場や、
武術部門といった戦いを特化した部門に用いられている仕組みであり、
技術的な面を表にだした場所はさらに違う仕組みとなっている。
「でも結局、ヴーリちゃんも戦闘部門に登録したのか~。武術部門にも登録したんでしょ?」
とりあえずそれぞれが登録を済まし、ヴリトラにといかけているケレス。
いまだにケレスはヴリトラをヴーリという名前だ、と信じている。
まあ、本名をいえばいくらケレスとてヴリトラの正体が神竜であると判ってしまうであろうが。
「まあ、ヴリちゃんの力は今は人のそれとかわりなくしてるからね」
「…人のそれとかわりなくって…そんなこと、できるの?」
さらっといわれたディアの言葉におもわず問いかけるケレスは間違っていないであろう。
何しろヴーリはそれでなくても人型をとれる竜族、そうきいている。
その人型をとれる竜族の力の制限が人の手で簡単にできるなど信じられない。
というかそんな報告きいたこともない。
「力の制限ってけっこう簡単なのよ?」
「いや、それ絶対にお姉様だからだとおもう。他はむりだよ~」
そんなさらっといいきるディアの台詞に横から不満そうにこたえているヴリトラ。
まあ、たしかに彼女以外、ヴリトラの力を制御できるものはこの惑星上にはいないであろう。
「…ディアってどこまでも規格外……」
そんな二人の会話をきいていたら何だか自分までおかしくなってしまいそう。
しかし何かそれに慣れてきている自分もあるいみ怖くなってしまう。
そのうちにそれらが当たり前になり何も感じなくなってしまうことが何よりも恐ろしい。
つまりそれは感覚がマヒしてきている、ということに他ならないのだから……
色とりどり。
まさにそう表現するのがふさわしい。
「魂の色も色とりどりね~」
この熱気はとてもここちよい。
純粋なまでの好奇心と向上心がこの場には満ち溢れている。
この感情のみで向上してゆくならば大地を踏みつける行為には至らないであろうに。
どうしてもどこかで間違った道を歩んでしまう存在達。
だけども基本はこれほどまでに純粋なのだ、とこの場から発せられる気で毎年確認できていた。
さらにいうなら種族も様々。
何しろこの場は文字通り、地上界におけるギルド協会の総合大会でもある。
ゆえに地上におけるすべての種族が参加している、といっても過言でない。
まあ、竜族などといった存在達は人間達に交じって大会に参加するよりは、
本来あるべき霊獣界に出向いていきそちらで参加するようにしていたりする。
理由は簡単。
竜族と他の種族の力の差は圧倒的であり、やはり大会をするかぎりは実力が拮抗しているものと争ったほうがいい。
というのが主な理由。
中には技術面などの部門に参加する竜族などはあえて地上界側の大会に参加し、
自分の技術や表現力がどこまで他の種族に通用するのか、と見極めするために参加していたりする。
ちなみに、建造物部門で優勝したものは、名誉とそして自ら新たに会社を立ち上げることが許されている。
あとこの大会の特質すべきところは、各界においてそれぞれの部門で優勝したものたちが、
一堂に介し、各界最高能力者決定、という名誉ある大会に参加することができる、ということであろう。
それに優勝することは文字通り、どの界においても認められた実力を誇る、といっているようなもの。
今のところ地上界からその部門で優勝した存在は人類がたったの一人。
ちなみに建設建造部門において数百年前に誕生した。
彼は今では神界にその身をおき、依頼に応じてそれぞれの界の建造物を気の向く間まに手掛けている。
「SGエリアか~。とりあえずヴリちゃんも同じみたいでよかったわ」
「…いや。ぜったいにお姉様、ちょっとばかり干渉したでしょ?したんでしょう!?」
同じエリアに選ばれる、しかも知り合いが。
これほどまでに参加者がいるのに知り合いが同じエリアで戦い確率などゼロに等しい。
「あら?だってあなた、目を話したら何するかわからないじゃない」
ディアの確かにいうとおり。
彼女はたしかに熱中すると周りをみずにそのまま心のままに行動することがある。
いくらここでは死ぬことがない、とはいえ神竜としての力を発揮すれば、
この場にいる存在達は一瞬にて一度死に絶える。
そうならないようにするためには近くで見守っているのが一番手っとり早い。
「ケレスはGXエリアね」
かなり距離は離れているが【エリア別への道】を移動すればすぐにその場に移動はできる。
【道】とは一瞬の、転移、もしくは転送装置のようなものであり、対象物を特定の場所に瞬時に移動させる。
「とりあえず、順番は私が十番め。ヴリちゃんが二十五番目だから。
それがおわったらしばらく第一試合をのんびりと観戦してましょ?」
第一試合、とよばれる大会もかなりの数にのぼる。
いくらエリアごとに別れていても参加者は膨大。
ゆえに少なくとも第一次試合だけでかるく一エリアで五百は超えている。
その中で、ディアとヴリトラは比較的始めのほうに試合がくまれているというべきか。
「さ、ヴリちゃん。控室にいくわよ?」
「…姉様の対戦者…気の毒……」
どんな攻撃をしかけようとも、目の前のディアにはまったくもって傷をつけることができない。
そうわかっているがゆえにぽつり、と対戦相手に同情の言葉をはっしているヴリトラ。
しかし、それはヴリトラの相手にもいえるであろう。
しかし、この大会に参加しているものでこの場にいる存在達にとってはその事実を知るよしもない……
何やらびりびりとした緊張感がただよってくる。
そもそもこの場にきてまで緊張していったい何になるというのだろうか。
それよりもまだ自分自身の能力をたかめるために瞑想、
もしくはイメージトレーニングをしたほうがよほど力になるであろうに。
「とりあえずここで他の人達の観戦みてから、私たちのがすんだら観客席に移りましょうか?」
このままここにずっといても意味がない。
「は~い!」
ディアのいう観客席、とはこのエリアの観客席ではない。
ディア独自の観戦場、とでもいうべきか。
すべてのエリアの様子が見えるように映し出した空間のことを指し示す。
そこはこの空間の中心地帯である他界への道がある建物の中に存在する。
しかしディアもヴリトラも当然そこにはいるための証はすでに手にいれてある。
たとえ偽造が困難、といわれていても基本は精霊達の力を借りてつくる以上、
それらがディアに創れない道理はない。
ゆえに、ディアにはそれらの定義はまったくもって通用しないのだから……
ぴりびりした選手の控えの間。
しばし何やら場違いともいえるディアとヴリトラの会話がその場において繰り広げられてゆくものの、
その様子に気づいた選手達は一人もいない。
なぜならば、彼女達の気配は完全の空気と同化しており、
ゆえに、空気がいくら騒いでいたとしても誰もきづくものなどいない――
「あら?堅竜族?珍しい」
ディアの番となり、大会の会場である広場にと足を踏み入れる。
目の前にと転移されてきたのは、体の一部を鱗でおおったとある青年。
青白く輝くその鱗が普通の人間ではない、とものがたっている。
「ほう。この私の相手はお前か。ざんねんだったな。人間の娘よ」
自分の実力をためすために参加した。
予選もうまく勝ち抜いたが前回のように集落のあるギルドで参加せず、
他の場所から参加したのが功を奏しようやく今年は本戦にまでこぎつけた。
その手にもたれているのは長すぎるほどの槍。
竜、とついているが彼らの先祖は基本はトカゲ。
つまりは蜥蜴が進化して治世をもった種族、それが堅竜族。
特徴はその背後にあるシッポとすこし眺めの前にでている顔。
そして何よりも全身を覆っている鱗、といったところであろう。
この鱗、堅竜族の中でも種族の違いによりそれぞれ色が異なる。
鱗の色とそして固さが個性とそしてその力を現している、ともいわれている。
この種族はどこにでもいる、というわけでなくとある特定の場所にのみ存在している。
理由は彼らの適応能力にあるのだが。
他の地域において彼らの先祖は生き延びれなかったというだけのこと。
数もそれほど多くはなく、天界側からしてみれば種族管理における絶滅危惧種族として認定されていたりする。
それらを踏まえ、今ディアの目の前にいる堅竜族の青年は人間の感覚の見た目でいうならば、
おそらく十代後半。
しかし堅竜族の成長速度は人族とはまったく異なる。
数年間は普通に大きくなっていくものの、十年をこえればある一定の力を超えない以上、
それ以上の成長はのぞめない。
その一定の力を超える手っとり早い方法は自分達よりも強いものと戦い潜在能力を引き出すもの。
それ以外では時間をかけて自然の力をとりこみ自分の力とし引き出すもの。
最近の若い堅竜族はその後者の方法をひどく毛嫌いしどうしても力のみに頼る傾向になっていたりする。
ゆえに、それでなくても数のすくない種族の彼らが極端に数をへらしていっている、
という現状を導きだしている。
しかしそれに彼らは気付かない。
注意を天界などからうけても、彼らは自分達の文化だから、といって聞き入れようとはしない。
天界とて万全ではない。
彼らがこばめば天界とてそれ以上強制的にどうこうできる権限はない。
そして、目の前の青年。
彼もまた若気の至りというべきか。
自分の力をてっとりばやく伸ばすつわものを探す目的と、あわよくば他界の実力者との戦闘。
それを望んでこの大会に参加申し込みをしていたりする。
「あら?対戦相手は見た目で判断したらダメなのよ?堅竜族のあなたならそれをわかっているんじゃなくて?」
くすくす。
彼らは基本、もともとは狩猟の民である。
中には草食の民はいるものの、基本は狩猟を主とし雑食性質をもっている。
あまり寒い場所では活動力が低下する、かなり致命的な欠点をかかえている。
まさに盲点ともいえる弱点。
竜族の鱗までとはいかないまでも堅竜族の鱗もそれなりの耐久力をもち、
一時期などは人間族にかなり乱雑された種族でもある。
また、普通に蜥蜴などから皮などをはぎ取るよりも、堅竜族からはぎとったほうが量もおおく質がいい。
…ゆえに、種族激減にかなり拍車をかけているのだが。
人間すべてがそのような愚かな考えをもっているわけではないが、それでも念には念を。
ゆえに彼らはある程度の年齢に達すると人里におりるときには人の幻影を纏うことを強制させられる。
しかし自分の容姿に絶対的な誇りをもっている若者たちはその長老達の提案をききいれようとはしない。
目の前の青年も自分の種族、そして姿に絶対的な誇りをもっている。
ゆえに人の幻影をまとう、などといったわずらわしい行為はまったく行っていない。
「え~!それではSGエリア、一回戦、第十試合!対戦するは強制参加学生と、堅竜族!!
時間制限は一時間!では、試合、開始っ!」
対峙する二人とはうらはらに進行役の声が会場内にと響き渡る。
それと同時。
『わ~~!!』
盛大なまでに観客席から歓声が発せられる。
何しろ堅竜族とは最近では滅多とおめにかかれない種族。
その力はいまだに未知数ともいわれている。
その対峙する生徒はギルド協会学校の生徒、とはいうことだが階位は示されていない。
通称、【学園】の生徒はその階位と所属している学科により一般的な存在より強いことが多々とある。
だからこそ期待ができる。
それがたとえどうみても十代そこそこの少女だ、としても。
ギルド協会学校には様々な種族の存在が通っているのもまた事実。
ゆえに見た目と年齢が一致している、とは絶対に限らない。
それを観客達はよく知っている。
伊達に毎年この大会は開かれているわけではない。
「誕生して二十年でその姿…か。少しばかり稽古をつけてあげましょうかね」
くすっ。
ディアからみての青年のそのまっすぐな心はとてもここちよい。
しかしだからこそ、おしい、とおもってしまう。
もっている力をきちんと性格に使いきれていない。
…ならば、その力を正しく扱えるような戦いをしてゆき、
自分自身でその力を引き出すように仕向ければよい。
くすくすとその場にて笑うディアの姿をみて顔をしかめつつ、
「学生?運がわるかったな。悪いが、私の目的はさらなる目的だ。
怪我をさせたくない。棄権、もしくは辞退してくれたら助かるのだがな」
いくら何でも無抵抗の、しかもかなり弱い人族の女、しかも子供を攻撃したくはない。
むしろ弱いものに攻撃する、それは戦士たる堅竜族にあってはならぬこと。
さらにいえば今の進行役の説明では、強制参加させられているギルド協会学校の生徒であるらしい。
だからこそその提案を申し出る。
目の前の人間の少女はどうみても強くはみえない。
自分の一撃をうけただけでまちがいなく死ぬであろう。
ここでは死者となっても生き返ることができる、とわかっていてもいい気分ではない。
「あら?…まあ、まだ見た目にだまされる、というのは経験の差…なのかしら?
なら、すこしばかり、問題ない、というのを見せてあげましょうか?」
くすっ。
先ほどまでは完全に周囲の気配と同化させていた。
その気配の方向性を少しではあるが変化させる。
びりっ。
それとともに周囲の空気が一瞬のうちに硬貨し、その場の空間のみ息苦しくなってゆく。
しかし普通に観戦している観客はその事実に気づかない。
ただ、観客たちは対戦相手がにらみ合っている、という形式にしか見えない。
ざっ。
その周囲の変化にいち早く敏感に察知しおもわずざっと一歩後ろに飛び下がる。
「…訂正、する。どうやら全力でいっても問題ない相手、とみた。
女子供に刃をむけるのは愚者のすること。しかしどうやらつわものとみた。
我は堅竜族クリーチャ一族が一子、サガ!」
「あらあら。ご丁寧に。クリーチャ、か。となるとブロスの子供の一人ってことね」
それだけですべてを把握しているディアはさすが、といえようが。
「?父をしっているのか?」
「まあね。さって…じゃ、いきましょうか?」
くすくすくす。
息苦しくも感じるが目の前の少女はまったくもって実力がわからない。
父を知っているようではあるが、父から人間に知り合いがいる、などと利いたこともない。
びりびりとした空気が絶えず肌にとまとわりつく。
しかし少女の表情は先ほどまでとまったくもってかわらない。
ただ、少女を中心とした空気が一瞬のうちに変化しただけ。
殺気も何も感じないのに、ただただ本能が行動することを畏れている。
こんな感覚はサガは知らない。
世の中は広い。
そう父がいっていたことを身をもって実感する。
しかし、しかけてみなければ相手の実力もわからない。
何よりも自分はつわものと戦うためにこの大会に父にも内緒で参加したのだ。
まけるわけにはいかない。
つわもの、とよばれている魔界、そして天界、霊獣界におけるつわものと戦うためにも。
「いざ、まいるっ!」
声とともに、だっと走り出しその手にしているその身長よりも長い槍を構えるサガ、となのった堅竜族の青年。
今、ここに、ディアと堅竜族の青年サガの戦いが幕を開けてゆく……
「……やれやれ。ようやく仕事が一段落した……」
といってもまだまだ仕事はのこってはいるが。
「あれ?シアン様?お久しぶりです」
総合ギルド会館の受付係りである女性がつぶやく一人の青年に気づき声をかけてくる。
「ああ、ホンか。きちんと頑張っているか?」
「はい!見てのとおり、重要個所であるこの会館の案内係りを務めさせていただいております」
竜族より出向、という形でギルド協会にでむいている火竜族のホン。
火を司る竜の中ではかなりの実力をもち、ゆえに長たるシアンとも面識がある。
その属性を示すかのごとくに普段はおとなしいのだが
何かのきっかけがあれば手のつけられないほどに気性が荒くなる。
燃え盛る火を前にすると手がつけられなくなるのと同じ現象が彼女にもあてはめられる。
「でもシアン様がここ、人間界の会場にこられるなんて珍しいですね?」
霊獣界、もしくは天界ならばわかりもするが。
そもそも、霊獣界に本来所属する竜族は天界の神々にも匹敵する力をもっている。
下位の神々くらいならば竜族にかなわない。
もっとも、長が自ら大会に参加する、という事例は今のところ…かつて一度しか起こりえていないが。
その時にはオーディンを始めとした神々やなぜか嵐乱の王ともいわれている魔界のバアル公が参加し、
かなり混沌とした大会となってしまったのだが。
その余波で近づいてきていた彗星がもののみごとに破壊された、という実例があったりする。
「うむ。すこし気になることがあってな。とりあえず各エリアへの通行証はこれでかまわんか?」
各種族の責任者などが申請すれば与えられているフリーパス証。
しかし一応検査はある。
「シアン様には問題はなさそうですし。かまいせんよ?それでは、おきをつけて。
あ、でもくれぐれも竜の長、というのがばれないようにしてくださいね?騒ぎになりますから」
そもそも、普通に竜族の長がきているとわかれば大混乱間違いなし。
それゆえのホンの忠告。
「ああ。わかっている。では、ホン。お前も仕事をしっかりな」
「はい!」
よもやその気になること。
というのが【星の意思】と【神竜ヴリトラ】のことというわけにもいかないシアン。
シアンがわざわざ直接やってきた理由。
先日からおこっている人間界での騒ぎ。
その報告はギルドに出向している身としてホンも報告をうけている。
ゆえにそれらのことを見極めるためにもやってきたのであろうくらいにしか思っていないホン。
…時として真実を知らないほうが幸せ…ということがある、という典型的な例なのであろう……
たぶん次回でようやく本格的に反乱組織がでばる予定(打ち込み容量以内ならば)