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光と闇の楔  作者:
24/74

光と闇の楔 ~火の精霊王と契約の儀式~

儀式の内容はさらっと流してます。

今回はあるいみ科学の授業のようなものに近いかも・・・



「では、互いの利点が一致した、ということで」

「わかっているとおもいますが、これがおわったら……」

「わかっています。互いに信念を貫き敵対する、でしょう?」

様子を見に行かせたメンバーからかなり実のある情報がもたらされた。

ゆえにつなぎをとり話しあいをした結果。

地界においてはひとまず共同戦線を張る、ということで合意がなされた。

「それでは…あちらのほうの仕掛けは……」

「ただいま、随時作成中です」

「「・・・ふふふふふ……」」

長年の夢。

幾多の界に別れているこの惑星を一つの界において掌握する。

そうすれば今は外にいくことすらできないがいずれは外、つまりは星空の空間までもわがてにできる。

自分達にはその力があり、またそれが世界の、世の中のため。

互いに互いがそう完全に信じ切っているのだからタチがわるい。

今、これより光と闇の共同戦線が開始されてゆく……




             光と闇の楔 ~火の精霊王と契約の儀式~







「んきゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

ど、どこが安全なわけ!?これのどこが!?

心の中ではげしく叫びつつも、口からでるのは悲鳴にもちかい叫び。

水晶の里、としかいいようのない場所を抜けて、そこから火の精霊王のいる部屋に続くといわれている小道。

そこに足を踏み入れたはいいものの、いきなり足元の床がぬけるわ。

さらには両脇の壁らしきばしょから炎の矢ともいうべきものがとびだしくてるわ。

さらにとどめとばかりにいきなり巨大な岩がケレスめがけて一本道をごろごろところがってきている今現在。

「あ、穴っ!…って、でぇぇっ!?」

とにかく必死で逃げている最中、床に穴があいているのをみつけ迷わずとびこむ。

が、その穴の下に煮えたぎったマグマがこれみよがしにあるのはこれいかに。

「…は~…は~…し、死ぬかとおもった……」

どうにかそのまま落下しそうになるのをかろうじてこらえ、穴よりはいでるケレス。

「と、とにかく。早く精霊王をみつけて契約の儀式お願いしないと、体がもたないわ…これは……」

これ以上様々な罠などに出会っては間違いなく体がもたない。

今の今まではどうにか運がよくて逃げ切られたが、

のんびりしていたらシャレにならないような気がひしひしとする。

しかも、壁一面に何やらおもいっきりあやしい石像のようなものがはめ込まれているのか、

もしくは彫り込まれているのかわからないが、それが異様に気にかかる。

何となくではあるがそれらが一斉にのんびりしていたら動き出しそうな気がする。

ひしひしと。

別にそれは勘でしかないのだが、こういった勘はケレスはよく当たる。

す~、は~。

とりあえず気を落ち着かせるために大きく息を吸い込んでは吐き出し、

「よっし!とにかく、いっきに走り抜けようっ!」

ゆっくり歩いていたら絶対に厄介なことになる。

直感的にそう確信し、そのままその場から地下へと続く道を一気に駆け出す。

と。

ガコ…ガコガコ…

何やら鈍い音がしたような気がし、走りつつふと後ろを振り向けば、

案の定、というか何というべきか。

壁にずらっとならんでいた石像がことごとく動き出し、

しかも様々な武器を手にしてケレスのほうへとむかってくる。

「やっぱりぃ~!!」

とにかくここは逃げるしかない。

どうやら相手はさほど早く移動できないようである。

追いつかれては確実に困ったことになる。

それゆえに、必死で走るケレスの姿がしばしその場において見受けられてゆく……



「ぜ~…ぜ~…ぜ~……」

どれくらい走っていたであろうか。

ふといきなり視界が開け、ちょっとした広い空間にと体が躍り出る。

それと同時、今まさに出てきたばかりの道、すなわち入口とおもわしき場所の上部より、

がこんっ!

音がしたかとおもうとその道はあっという間にふさがれる。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

もしかして閉じ込められた?

息をきらしつつもケレスがそんなことをおもっていると、

「ほぉ。よくここまで無事にこれましたね。さすがアリスちゃんの娘ね」

ころころと笑いを含んだ何ともいえない女性の声がケレスの耳にと聞こえてくる。

ふと声のしたほうをみてみると、中央に椅子らしきものがあり、そこに一人の女性が座っている。

しかしその椅子は真っ赤な溶岩で煮えたぎっており、そんな椅子に座っている女性はといえば、

その髪も服もどうみても溶岩でできている、としか思えない容姿をしていたりするのは気のせいか。

「え…あ、あの…?」

「ああ。はじめまして。というべきかしら?よく話しはきいてたから初めて会った気にはならなかったわ。

  ようこそ。ケレス=アストレア。私がここの主、サラマンダー、よ」

「…は?」

一瞬、何をいわれたのか理解不能。

しかしよくよくん考えてみれば確かにどうみても目の前の女性は人ではない。

というか人ならばその髪全体が炎らしきものでできているなどあり得ない。

気合いでどうにか気をおちつかせつつ、周囲をよくよく観察してみるケレス。

そこは開けた空間であり、周囲の壁にはごうごうと溶岩らしきものが流れ落ちている。

おそらく風と水の結界を張っていなければ熱さでいっときともこの場にはたっていられないであろう。

そして目の前にも溶岩の滝のようなものは流れ落ちており、

その滝の目の前に椅子が設置されており、その椅子に座ったままでケレスに話しかけてくるその女性。

サラマンダー、と女性は名乗った。

それは、つまり……

「あなたが…いえ、あなたさまが…火の…精霊王様?」

何か想像していたのと全く違うその容姿。

てっきり、男性とばかり思い込んでいたケレス。

まあたしかに、精霊が男性体か女性体かきちんと正式に伝わっているわけではない。

もっとも、彼らからしてみればその気になれば性別をかえることは簡単極まりないのだが。

「まあ、そう呼ばれてはいるわね。たしかに火の精霊を束ねているのは私よ。

  さて、アストレア家の血を引くものよ。汝は我が試練をうける気はあるかや?」

いきなり口調がかわると同時、周囲の雰囲気も一変する。

びりびりと結界に身を包んでいてもわかる熱気と威圧感。

気を抜けばそのままのまれて意識を失ってしまうであろう。

「私、ケレス=アストレアは古の血の契約にのっとり、火の精霊王様の試験を承りたく存じます」

しかしこの威圧感は悪意あるものではない。

先日うけたような悪意あるあの干渉と比べればどちらかといえば神聖なもの。

ゆえに心をふるいたたせ、決意の言葉を述べるケレス。

「汝の心、しかと見極めたり。されば…汝、我が試練に見事耐えてみせよ」

にっ。

そういうと同時にっと口元に笑みを浮かべる火の精霊王。

それと同時、先ほどまで周囲を覆い尽くしていた威圧感が瞬く間にと霧散する。

試練。

ごく。

その言葉に違う意味で緊張する。

代々、火の精霊王がアストレアの血筋にかす試練は個人個人で異なる、と聞いている。

ときにはその人物の人柄や能力によって変化し、ときには精霊王の気分により変化する、そうきいている。

ちなみにケレスの父はなぜか頭をつかう試練を受けさせられたらしい。

ケレスの父親いわく、あれはもう一生分の頭をつかった、とかいっていたのだが。

「見たところ、けっこう強い風の結界に水の結界も張ってることだし。

  これくらいは耐えられそうね。試練の内容はいたって単純。

  今からこちらが攻撃するからその攻撃をかわして私のもとに一撃をくわえること、簡単でしょ?」

どこか楽しそうにいってくる火の精霊王、サラマンダー。

いや、あの、はい?

攻撃?

今、何かものすっごく聞きたくないような言葉がきこえたようなきがするのはきのせいか。

「アリスちゃんがいってたし。ケレスちゃんはアリスちゃんの火虎から逃げ切られれるんでしょ?

  なら、これくらいも簡単でしょうしね」

火虎。

その台詞にすうっとケレスの顔色が一瞬青くなってしまうのは仕方がないのかもしれない。

ケレスの母が得意とする召喚術の一つで文字通り、火の虎。

それが数十体。

かつて実家にいたときほぼ毎日、特訓としょうされておいかけまわされていたあの日々。

しかも物心ついたころからほぼ毎日。

あるいみケレスの心のトラウマになっている術、といっても過言でない。

そうサラマンダーがにこやかに宣言したかとおもうと、次の瞬間。

ずわっ!

周囲の壁という壁から蛇のような火の細長い何かが出現し、瞬く間に部屋全体を覆い尽くす。

その数、ばっとみただけでおよそ数十。

それぞれがそれぞれその口より溶岩を吐き出し…

「…って、えええええ~!?」

こんな試練なんて聞いてない。

というかあれにあたったらいくら保護結界をまとっているとはいえ間違いなく死ぬ。

「あ。大丈夫。体がたとえ炭になっても絶対にここでは死ねないからね~」

大丈夫、じゃないっ!

にこやかにいうサラマンダーの台詞に思わず心の中で突っ込みをいれるものの、

しかしケレスはそれを口にだす余裕はない。

とにかくひたすら必死で自分にむかって放たれてくる炎の塊と、

そしてまた、大きな口を開いては一飲みしようとしてくる火の蛇。

さらには油断したら体を巻きつけてこようとしてくる蛇等。

とにかくひたすらそれらの攻撃から逃げるので必死。

こちらから攻撃をしかけたくとも相手からの攻撃のほうが早すぎて術を紡ぎだす余裕もない。

き…危険は承知でもディアからあのムチかりとけばよかった!

そう今さら思うがすでに試練は始まってしまった。

この試練を達成しなければおそらく確実に母親によるさらなる特訓とお仕置きがまっている。

せっかく実家から離れて母の特訓からのがられたのにまたあの日々には絶対に戻りたくはない。

「わ…私は絶対にまけられないのよ~!!!」

何ともいえない悲痛な悲鳴が、サラマンダーの鎮座する王の間の中にと響き渡ってゆく……



「…あれ?フォルミ様?」

ここに彼がくるのはかなり久しぶりのような気がする。

ゆえにその姿を目にとめおもわず問いかける。

「久しぶり。それよりサラマンダーはいる?」

とりあえず用件をすまさなければ。

「おられますけど。今はおそらく遊ばれ…もとい儀式の最中だとおもいますよ?

  あ、もしかしてお母様に御用ですか?」

彼がここにくる理由は王か、もしくは今ここにこられているかの存在に用事がある、としかおもえない。

「…は?いやいや、ちょってまて!?まさかここにこられてるのか!?【意思】が!?」

その言葉にひどく驚愕する。

フォルミ、とよばれたその青年の髪はひたすらに白。

肌のいろも果てしなく白く、瞳は青。

かつて彼が発見した物質を構成する粒子、その彼の功績をたたえ、

その素粒子のことをフォルミ粒子、と呼んでいたかつての人類。

フォルミ粒子は彼の研究により、それまでクォーク、レプトンという分類に分けられる、

というのはわかっていたが大きさは知られていなかった。

だがしかし、彼はその大きさを突き止め、それを他のものに利用することを研究開発した。

すべての素粒子の大きさを特定し、またそれらのもつ振動状態まで突き止めた。

その結果、爆発的までに技術力だけでなく武器としての開発も広がっていったのだが。

彼はただ自分の研究をしていたにすぎないが結果として地上に最悪な結果をもたらしてしまった。

それゆえにその責任を問われ、【伝道師】の一人、として今ここにいる。

余談ではあるが力を媒介とする粒子のことをボース粒子、と呼び称していたが、

それらの力の概念を研究解読したものもまた【伝道師】の一人として存在している。

この二人が素粒子物理学を完全に解読しなければ、

おそらくかつての地上の運命はまた違ったものになっていたであろうことは疑いようがない。

「私がいたらおかしいのかしら?フォル?」

「うおっ!?」

いきなりといえばいきなり。

いきなり背後から声がしておもわず飛び上がるほどに驚きの声をあげる彼はおそらく間違ってはいない。

「って、いきなり現れないでくださいませっ!」

「あら?どこに姿を現そうと私の自由でしょ?」

確かにそれはそうである。

あるが心構え、というものがほしい。

切実に。

「それはそうと、お久しぶりです。しかし天界と魔界からでてきてこちらにこられてるとは……」

いって思わずため息をつくフォルミ。

「ナオトからどうせ連絡がいってるんでしょう?それで?とうとう宣戦布告でもしでかした?」

こちらが話さずともやはりというか案の定、というか当たり前、というべきか。

すべてわかっているらしきその台詞に少しばかり脱力してしまう。

「…いきなり本題をいわないでください。とりあえず何を考えたのかテケリとショゴスは手を結びました。

  その報告をしにサラマンダーに会いにきたのですが……」

よもやこのたびは彼らが手を結ぶなど夢にもおもっていなかった。

それはリュカがもたらした報告によってかの組織が動いたから、なのだが。

そこまで詳しくフォルミは知らない。

互いの勢力の味方を得てかの王は自分の力を過信しおもいっきり他国にむけて宣戦布告する気まんまん。

さらには精霊界などにも攻め入るなどといった無謀極まりない作戦をたてているらしい。

精霊と地界に住まう存在の力の差。

それすらもきちんと把握していないものの愚かな野望。

それでも二界による存在が加護を与えたことにより、ひとまずしばらくは【理】の断罪の処罰はかからない。

加護をあたえている、ということはすなわち、他の界のものがその行動を認めている、という保証にあたる。

いわば何かしようとするときの逃げ道のような仕組み。

どんな仕組みにおいても必ずどこか逃げ道はある。

またそのように一応設定もされている。

「まあ、そうでしょうね。とりあえず自由に動いてもらったほうがあとあと楽ではあるけど。

  まあ、関係ない存在達を巻き込まないようにあなた達もきちんと行動しないとね」

さらっといわれて、ああ、そういえばこのかたはこういうかただった…

そういまさらながらに思い出す。

それゆえに小さくため息をつき、

「…もしかして、この一件を理由にそろそろ自由にしすぎている存在達へお仕置き、ですか?」

何となく、いや、それは確信。

幾度もそれを経験しているからこそわかる。

それゆえの問いかけ。

「まあね。まったく、いつになっても平和がつづくと変なことを考える存在ってでてくるのよね…

  ま、そのまま反省しないようなら、あなたたちのお仲間が増えるかもね」

くすくすくす。

お灸をすえて反省しないのならば時間をかけて反省を促す他にはない。

魂ごと消滅させたのでは意味がない。

いつでもできるがゆえにそれをしない。

それがディアが決めている決めごと。

「あ、あと、ケルベロスの動向、よくみてないといけないっていっといてね」

「は?…冥界の番人が何か?」

どうしてここで冥界の番人の名前がでてくるのかフェルミは理解不能。

「番人だから、よ。とりあえず私がここにいることは他にはいわないように」

「…判りました」

おそらく何かするつもりなのであろう。

しかしそれに対して自分達が口出しできる立場でないことはよくよくわかっている。


しばし、伝道師フェルミとディアの会話がその場において繰り広げられてゆく――



ピシ…ピシビシ…

「や…やった…の?というか、ディア、なんという危ないもの手渡してくれてるのよっ!!?」

どうにかなった、という安心感からか逆にその怒りが別の方向にむいてしまうケレス。

試練をうけるにあたり、何かあった場合、これを投げてみたらいいわよ。

そういわれ、手渡された小さな水晶珠。

必死に逃げまくり、それでも足元からも火の蛇が出現し、足場すらなくなってきていた現状。

そのときにディアからもらった品物のことを思い出し、ダメもとで投げつけた。

が。

その水晶が火の蛇などに直撃したその刹那、部屋全体をものすごい吹雪が舞ったのはどういうわけなのか。

しかもその吹雪によって部屋全体に出現していた火の蛇達はことごとく凍りつき、

ごとり、と音をたてて床にとおち。

さらには四方の壁から流れ落ちている溶岩すら完全にと凍りついた。

あまりの威力に茫然としそうになるが、そのままその威力はケレス当人にまで及びかけ、

それから逃れるために必死で今度は吹雪の外へ逃れなければならなくなっていた。

ようやく吹雪が収まり、周囲を見渡してみれば、先ほどまでの熱気はどこにやら。

周囲は全体的にひんやりとした空気に包まれており、

この部屋全体が完全に凍りついていたりする。

一歩間違えればケレスもまたこの部屋の状態と同じく氷漬けになっていた可能性が高い。

ゆえに理不尽かもしれないが怒りの矛先がディアにと向けられていたりする。

まあそれはそれで心情的に仕方がない、といえば仕方がないのだが……

「…驚いたわ。ここまでの威力のある魔石……どうやって手にいれたの?」

心底感心してしまう。

何となく水晶が破裂した刹那。

直感的に嫌な予感がして溶岩の滝の裏へとその身をくぐらせた。

その刹那。

部屋全体を覆うとんでもない冷気。

あのままあの場にいればいくら火の精霊王とて無事ではいられなかったであろう。

それほどの冷気。

一般の人間がもてる魔石のレベルではない。

冷気が収まったのをみてとり、滝から姿を現しそして目にしたのは、

自分の神殿がことごとく氷におおわれてしまっているという現状。

ゆえにこそ驚かずにはいられない。

「友達にお守りといって渡された石なんですけど……わ、私まで氷づけになるところでした……」

もはや相手に敬意を払うどころか、疲れ切り、それすらどこか失念しているケレス。

「お友達?…まさか…いや…なるほど」

ふと異なる場所にて見覚えるあの気配がゆらぎ、すぐさまケレスの言葉の意味を察知する。

「…なら、遊ぶわけにはいかない、というわけか~…は~……」

本当ならばせっかくアリスが丹精こめて育てたという子供の能力を観察してみたかった。

しかし今、ケレスが発した言葉から察するにあまり遊んでいては自分の立場が確実に悪くなる。

それはもう確信がもてる。

かの気配をもつ存在がその気を揺らすなどという現象がおこりえた。

すなわち、そのような可能性をもつ出来事は一つ、しかない。

水晶の里に現れた覚えのある気配。

その気配があからさまに動揺しているのがこの場にまで伝わってくる。

だけど、お母様、こられてるならここにくればいいのに。

…あとから追いかけて挨拶しないと。

そう心に固く決意し、

「ま、仕方ないわ。とりあえず、試練は合格、としときましょう。

  では、ケレス=アストレア。汝、我が前に」

「え?あ…は…はい」

何が仕方がないのかケレスにはわからない。

自分は火の精霊王の示した彼女に一撃をあたえる、という条件を果たしてはいない。

自分が逃げることが必死であの吹雪の中でサラマンダーがどう行動していたのか、などとケレスは知れない。

ただ、ケレスからしてみればあんな冷気の中でもやはり精霊王って何ともないんだ。

さすが精霊王。

そんな間違った概念をより強くしてしまっているわけなのだが。

「古の契約により、我、アストレア家が娘。ケレス=アストレアに加護をあたえん」

ケレスがサラマンダーの前にひざまづく。

それをうけてサラマンダーがそっとそんなケレスの頭の上に手をかざし、言葉を発する。

その刹那。

ケレスの体全体を淡い炎が一気に包み込む。

その炎はやがてすべてケレスの体内へとすいこまれてゆく。

これにより完全なる火の契約が完了したことになるのだが。

精霊王の加護の契約。

それすなわち、火の属性をもつすべての術が使用可能になる。

もっとも、いくら使用可能、といっても使う存在の力量がなければそれは宝の持ち腐れ。

つまり努力しなければ身につくことはない。

「私、ケレス=アトスレア。今ここに確かに精霊王様の加護を受け取りました」

自分の中に新たな力が芽生えたのを確認し、形式的に言葉をはっするケレス。

そんなケレスを見下ろしつつ、

「あ~あ。せっかく少しばかり遊べる、ともったんだけどな~。

  なんか面白そうなことになってるみたいだし、また人になって外の世界にいってみようかしら?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

何だか精霊王様ってこういう性格だったわけ?

どことなくその性格が自分の母親と重なりおもわず無言になってしまうケレス。

まあ、性格が似ているのでサラマンダーとアリスは意気投合しているわけなのだが……

「とりあえず、いきましょうか」

「・・・・・・は?」

いきなりいきましょうか、といわれてもケレスには理解不能。

そもそも何をいっているのかがまったくわからない。

「あの?精霊王様?」

「サラ、よ。サラマンダーって名前、長いから、サラって呼んで。

  とりあえず、水晶の里にいきましょ。なんかお客もきてるみたいだし」

ここに彼がくる、ということは何か緊急事態が起こった、ということ。

ここしばらくそのようなことはなかったというのに。

大概、前もっていついつくる、と連絡が入るようになっている。

しかし今回の訪れにはそれがない。

すなわち、何かが起こった、ということに他ならない。

「お客?…もしかしディアのこと…ですか?」

しかし、ケレスは水晶の里にもう一人別の客人がやってきている、などと夢にもおもわない。

ゆえに里でまっているディアのことかとおもい問いかける。

「ディ…ア?…あ~。なるほど、違うわ。今、里にきてるのは伝道師の一人、よ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」

今、目の前の火の精霊王は何といったであろうか。

伝道師?

そんな存在がどうしてこんな場所に?

離れている場所のことがわかる、というのはさすが精霊王、というより他にないが。

しかし、目の前の精霊王から伝道師などという言葉がでてくるとはケレスは思いもしなかった。

ゆえに間の抜けた声を思わずだしてしまう。

「きっと何かがあったのね。あ~。天界と魔界がらみ、かしらね?

  それにしてはあれは緊急事態でもなさそうだけど……」

姿を消したくらいならば一万年ちょっと前にもあったこと。

ゆえにそう緊急報告するようなことではない。

もっとも、このたびはどの界にいったかわからないので彼ら精霊のうちではちょっとした騒ぎになってはいたが。

「ああ。そうそう。ここからでるときに通る道。今度は問答無用で石像達が襲いかかっていくでしょうから。

  今得た力を駆使して頑張って里までたどり着いてね?」

ふいっ。

それだけ言い放ち、突如として火の精霊王、サラマンダーの姿はその場よりかききえる。

正確にいうならば足元にある溶岩の中に解け消えるように瞬時に消えてゆく。

「…え?え…えええ!?ってどうやってもどれっていうんですかぁ!?」

いまだにやってきた道の入口らしき場所は岩でふさがれている。

つまり。

「い…岩をどけて、さらにはあの石像達を撃退してもどれ…ってこと?」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

一人、取り残されたケレスはもはや茫然自失。

しかしこのままここにいてもどうにもならないのも事実。

「ふ…ふふふふふ……やってやろうじゃないのよっ!!もう、やけよっ!」

岩を炎で溶かし、そして襲ってくる石像達に対しては術で対抗、もしくは武力で対抗するしかない。

伊達に幼いころから武術をも教え込まれているわけではない、のだから……


しばし、半ばヤケになったケレスの叫びが響き渡ってゆくのであった……





ようやく戦乱の序章に入れます……

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