光と闇の楔 ~集いし存在達と接触と……~
今度は静岡で地震です・・・
知り合いが心配でメールしたらさきほど無事、と連絡があり一安心。
でもまだ余震がつづいてるそうです・・・・
「外界?」
「あ~…あまり知られてないというか、間違った認識つたわってるみたいだからね~」
ふとしたはずに話題に上った魔界や天界、そして精霊界。
何しろ今この王都は先日、近くに魔界との道が開いたかもしれない、というので大騒動と化している。
「基本的には、この地は一つの惑星なわけ。そしてその惑星の中に様々な界が存在してるの。
まあ、この界の区分けは教科書にものってるとおもうけど」
とりあえず首をかしげている目の前のクラスメートにひとまず説明を開始する。
「本来、様々な界を移動するためには、【門】を通る必要性があるんだけど。
ときどきその門以外にも道が開けることがあるの。
もともとかつてはそんな門などはなかったからね。門が誕生したのは今から約四億年ほど前らしいし」
実際にありはしたがそこまで確実な意思を持たせてはいなかった。
どちらかといえば傍観的な立場に位置する存在だった。
それを各個たる意思にしたのはかの出来事以降。
まず先に【門】を固定化し、そして様々な【界】を設定した。
「基本、どの界においてもまああまり暮らしぶりはかわらないからね」
よく天界などでは遊んでくらせる、とおもっている存在達が多々といるが実はそうではない。
天界とて地上界と同じく生命の営みがある。
彼らの寿命も永遠ではない。
天界人にしろ魔界人にしろ平均的な寿命は数百年から数千年、といったところ。
当然世代交代、というものも存在する。
もっとも、一部の存在に関してはそういうものは存在しないのだが。
上位の存在達とて世代交代、というものは存在する。
もっとも、彼らの場合、その記憶を受け継ぐことでその名前ごと引き継ぐことになるのだが。
「…ディアさん、どこからそんな知識えてるわけ?」
「え?自然界の存在ならば誰でもしってる常識よ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そんなもの?」
常識、といわれても知らないものは仕方がない。
しかしそうきっぱりいわれれば、そうなのか?ともおもってしまう。
どう頑張っても彼らには自然界の声、というものはいまだに聞くことができないのだから……
光と闇の楔 ~集いし存在達と接触と……~
「う~ん。やっぱりメイブツのニパはおいしい」
とりあえずもう一度調べてはみた。
ならば情報収集するしか他にはない。
とはいえ情報収集、とは名ばかりのような気がするのはおそらく誰のきのせいでもないであろう。
彼の組織のメンバーがいればまちがいなく、突っ込みをしているかおもいっきり怒鳴っているであろう。
何しろ先ほどからどうみても聞き込み、というよりたべ歩きをしていればなおさらに。
この首都テミスにやってきて二日目。
別に急ぐわけでもないのでこうして様々な店を回りつつ、彼曰くの聞き込みをしている青年…リュカ。
「…って、あれ~?」
とりあえずひさしぶりにやってきたこともあり、きょろきょろしているといつのまにか街並みを外れてしまったらしい。
王都、といえどもやはり暗部は存在している。
つまり、人気のない場所ではどうでもいいような輩はどこの世界にもいるわけで……
「ようよう。兄ちゃんよ~。なんかはぶりよさそうだね~」
「お兄さんたちに分けてくれないかな~?」
いつのまにやら前後に数名、人間の男たちがリュカを囲んでいたりする。
変わった格好のいいカモがいる。
彼らの認識はその程度。
彼との実力の差をまったくといっていいほどにわかっていないのはあるいみ幸運なのか不幸なのか。
「お~!今回ひさしぶりのおいはぎさん!?おいはぎさん!?
さいきんさ~。いきなり襲いかかってきたりする馬鹿ばっかと遊んでたから久しぶり~」
リュカからすれば人間達がこのようにして行う、いわば『おいはぎ』行為はとても珍しい。
何しろ魔界においてそのようなことをすればまちがいなく命のやり取りとなる。
つまり、相手の実力をきちんと読み取ること、それこそが魔界において生活してゆく統べとなる。
しかし、こういった平和な世界にすごすものたちはその根底のことができていないわけで……
何やら気のぬける声でそれでいて目をきらきらさせつつもそういわれては黙っていられるはずもなく。
「に~ちゃん、自分の立場、わかってるんか?」
おもわずにやにやと笑みを浮かべてそんなことをいっているどうみてもゴロツキA、としかいいようのないその男性。
まあ腰に短剣を差しており、簡単な皮鎧を身につけているところをみるとおそらく冒険者か何かに登録しているのであろう。
もしくはそのように偽造しているか、のどちらか。
「大人しくだすもんだしたほうが身のためだぜ?」
この周囲には人気がない。
つまり少々騒いでも表通りの商人達の掛け声にかき消されておそらく悲鳴すら届かないであろう。
「あ。こんどはミクの実発見~。んでは、僕はまだたべ歩きがのこってますので~」
「って、無視するなっ!てめぇ、ほんとうに自分の立場わかってねぇなっ!」
くんくんととある匂いをかぎとりにこやかにほほ笑みながもその場を立ち去ろうとしているリュカ。
先ほどから声をかけているゴロツキ男性がさっと手を挙げると同時に数名の男たちがリュカの周囲を取り囲む。
「に~ちゃん。すこしばかりイタイメにあわないとわからないようだな。…すこしかわいがってやれ」
『へいっ!』
どうやら男がリーダーらしく、子分とおもわしき男たちに指示をだす。
それと同時、彼らがそのまま一斉に飛びかかり……
「あ。こっちからだ~」
ごっんっ!
『…ってぇ~~っ!?』
たしかにどこをどうみても田舎者?としか思えなかった青年を取り囲んでいた。
そして一斉に襲いかかろうとした。
そこまではいい。
いいが、どうして自分達は仲間同士でおもいっきりぶつかり合いをしなければならないのか。
何のことはない、その場からするっとリュカが移動し彼らの包囲網をすり抜けただけなのだが、
そんな些細な事実にすら気づくことなく、
「くっ!てめえら!何あそんでやがるっ!」
せっかくみつけたカモである。
何しろ先ほどからけっこうな量をかいぐいしており、まだまだお金をもっている、と踏んでいる。
だからこそこっそりと後をつけて機会をうかがっていた。
「てめえも!とっととだすもの…」
いって腰にさしている短剣を抜き去り、リュカのほうにむけようとする。
が。
「……ん~、面倒なんだよね~…ま、自分達だけであそんでてね?」
いいつつも、そのままひらひらと手をふりながらその場を後にしてゆくリュカ。
「くっ!にがすかっ!まて!やろうども!にがすなっ!」
どうやらすんなりとは逃がしてはくれないらしい。
「……は~、面倒」
とりあえずこのまままとわりつかれてはせっかくのたべものもおいしくなくなる。
ゆえに。
「Une vision(幻影)」
ぽつり、とつぶやきパチン、と指をならす。
「ん?てめぇ、ようやく観念しやがったなっ!」
目の前にはあいかわらずの笑みを浮かべているかわった容姿の青年。
「てめえら!やるぜっ!」
いいつつも青年のほうにむかい部下達に声をかける。
が。
「…な!?何てめえら、誰にむかって…!?」
「なっ!?まて!まちがえて…ちいっ!」
リーダーの男の声をかわきりに、仲間がいきなり斬りかかってくる。
そしてまた、他のメンバーもまた仲間に斬りつけているのがみてとれる。
しかし、彼らの目からしてみれば、まちがいなく、笑みをただただ浮かべている青年を攻撃しているに過ぎない。
そう、彼らの目には互いが互いに青年、にみえているのだから……
『ぎゃぁ~~~~……』
「ん~?何かきこえたかな~?」
もぐもぐ。
うん。やはりこの実は凍らせてたべるにかぎるっ!
一方、そんな彼らをさくっとその場にのこし、表通りにもどり露店より凍れる実を買いその場でたべているリュカ。
「あ~。おおかた、ごろつきどもがさわいでるんだろうさ。しかし、兄ちゃん、いいくいっぷりだね~。
きにいったよ。どうだい?これも?」
「おお!それはカシオの実!いやぁ!こんなものまであるんですねぇ~。さすが王都!」
差し出されたのはちょっとした両手で抱きかかえるサイズほどの実であるが、
皮をむいてたべればひんやりとした食感でほとんどのものが虜になる果物の一つ。
「いや~。ひさしぶりにきたかいがありました~。おじさん、いい仕事してるね~。
どこからこれら仕入れてるの?今、聖都との取引ってどうなってるの?」
カシオの実は主に聖都、とよばれる都がある国にて栽培されている。
かの地以外ではここまでの甘さと冷たさがでないらしく、ゆえにかなりの高級品の一つとされている。
「ユグルとの取引かい?まあ、たしかにこれはユグルからの輸入品だけどね。
最近なんでかユグルの民がよくくるんだよ。そのおかげで品物がこうして豊富に手にはいるわけさ」
「なるほど~」
ユグルの民。
聖都、と呼ばれる都がある大陸の民のことをそう呼び称す。
聖都とはこの世界のほぼ中心地にある大陸の中心にある都のことをさし、
そしてまたその地に住まうものは、天界、魔界人にもっとも近しい能力をもっている。
一節に聖都の民が天界人、闇都の民が魔界人、といわれているが。
この世界に存在している巨大大陸の中心にある、惑星の一からしてちょうど裏表の位置にと存在している大陸。
そこには直接、魔界、天界につづく道がある、とされており、どちらかの世界に夢を抱く冒険者などがよく訪れる。
が、無事に戻ってきた、という話しはあまりきかない。
もっとも、交渉次第にて案内人を雇えれば他界に入ることは可能なのだが。
あむっ。
丁寧にわざわざ皮をむいてきってくれた店主から実をうけとり、あむっと一口。
ひんやりとしたここちよさと甘さが口の中にとけいり何ともいえない味わいに浸ってしまう。
「……リュカ?こんなところで何やってるの?」
彼がそう果物のおいしさに浸っていたその最中、背後から彼にとっては聞きなれた…
それでいてもっとも畏れ、そしてもっとも敬う存在の声が聞こえてくる。
気配から数名、やってきていたのはしってはいたが。
というか相変わらず、というべきか。
おもわず苦笑してしまう。
ふと感じた力の気配。
ゆえにどこにいるかはすぐに理解ができた。
それゆえに、
「リュカ?こんなところで何やってるの?」
ふと見慣れた姿は、相変わらず、といっていいのであろう。
露店の店主に何やら果物を斬ってもらいおいしそうにほうばっている。
その姿からして彼がかなり実は歳を得ているなどほとんどの存在は想像だにしないであろう。
そんなことをおもいつつも、とりあえず彼がここにいるのは大体予測はできる。
事後確認の意味をもかねて少女…ディアは視線の先にいる人物にと声をかけたのだが……
「あ~!あれ~?」
「あれ~、じゃ、ないでしょ?…あ、すいません。この子、何かおかしなことしませんでした?」
背後を振り返り、目をぱちくりさせて叫ぶ青年…リュカの言葉をせいし、あきれつつも、
背後にいた少女…ディアはそんなリュカを横目にひとまず露店の主人に話しかける。
「ん?なんだ。嬢ちゃんの知り合いかい?」
見た目どこかの両家のお嬢様っぽい子と、どうみてもかわった容姿の青年の接点がおもいつかない。
しかしこの世の中、どこでどう繋がりがあるかはわからない。
ゆえに、すこしばかり首をかしげつつも、目の前の話しかけてきた少女に問いかける露店の主人。
「ええ、まあ。このこ、このあたりの常識とぼしいですから」
まあ嘘ではない。
というかたしか彼のここの常識は以前にきた千三百年前でとまっているはずである。
「ひどっ!とぼしいって何~!?」
「事実でしょ?リュカ。今のここの常識わかってる?」
「え~?前とあまりかわらないんでしょ?」
「・・・・・・・・・・・・かわってる、のっ!」
まあ、人前でいつもの呼び方をしない、というのは称賛にあたりはするが。
さすがに千年以上もたつと人間達の間の常識も文化レベルも異なっている。
以前にきたときと同じような感覚でいられては、絶対に問題が起きかねない。
そんな二人のやり取りをみつつ、どうやら仲がよさそうなおそらく友人系統かな?
そう捕え、
「まあまあ。そうだ。お嬢ちゃんも何かかわないかい?」
「…おじさん、商売上図、ですね。そうですね~。では、そちらとそちらをもらえますか?」
「……かうの?」
というか目の前の存在が物をたべる、というのがいまいち幾度みてもよくわからない。
というかまったく食べなくてもいいはずなのだが……
「はいよっ!あ、これおまけだよ。しかしそっちの兄ちゃんもだけどあんたも美人さんなんだから、
このあたりにたむろしてるゴロツキたちにはきをつけなよっ!」
おそらく二人そろって歩いていたら絶対に目立つ。
それゆえの忠告。
「大丈夫ですよ。この子も私も一応は強い部類に入りますから」
「……一応?」
さきほどからディアの言葉に横からおもいっきり突っ込みをしているリュカであるが。
そんなリュカの言葉はことごとく無視されていたりする。
「さ。リュカ。これもってね」
「ええ~!?僕、荷物もち!?」
「いいじゃない。か弱い乙女に物をもたすき?」
「どこがかよわいんですかぁ?!」
「…リュカちゃん。そのあたりのことはよぉぉ~く話しあいましょうか?」
にっこり。
すかさずおもいっきり否定の言葉を叫んだリュカにたいしにこやかにほほ笑みつつも話しかけるディア。
ちなみにその目はまったくといっていいほどに笑っていない。
「……すいません、すいません。僕がわるかったです…もちます、もちますよ~……」
すぐさま身の危険を感じ、素直にディアの買った荷物をうけとり、そのまま両手で荷物をもつ。
「ま、ちょうどそろそろお昼だし。そのあたりで何かかんたんに時間つぶしながらでも話しはききましょっか」
「…はい~…。あ、おじさん、どうもありがとうございました~」
「いいってことよ~。兄ちゃん、今から尻にひかれてたら大変だね~」
やり取りをみていてもどうみても女性のほうが立場は上。
というか完全にあしらわれているのがみてとれるがゆえに、ほほえましくもあり面白くもある。
世の中、やっぱり女は強いよな。
うん。
そんなことをおもいながらもリュカ、と呼ばれている青年に同情心を覚えつつも声をかける。
「……さからったら大変なんですよ~」
「あははは。ま、どこの女もつよいってことさ。ま、がんばんなっ!お。これもサービスしといてやる!」
何やらひさしぶりにほんわかとした男女のかかわり方をみたような気がする。
ゆえに露店の主人は気前よく、他の売り物をも手渡してくる。
「ありがとうございます。さ、いこ。リュカ」
「……前がみえませ~ん~」
「リュカはそんなの関係ないでしょ?」
「……主様、ひどい……」
ぽそっ。
そんなディアの台詞に思わずぽそっと文句をいうリュカ。
しばしたわいのないそんなほのぼのとしたやり取りをかわしつつ、
リュカとディアはひとまずその露天商の場を離れ、別の場所へと話しをするために移動することに。
「でも、びっくりした~。やっぱりソトがいったとおり。主様、こっちにきてたんだ~」
目の前にいるディアにむかい、手元にあるホットミルクをのみつつ問いかける。
「あ~。ソトホースがいったのね。で?リュカがここにきたのはこの前のあの道のこと?」
今、二人がいるのは表通りに面しているカフェテラス。
ちなみに二人がいるのは外通りにめんした位置であり、外の景色を見ながら食事がたのしめる、
としてなかなか評判の店でもある。
二人のそんな会話は普通に通りを歩いている人々のざわめきで当然だれも気にはとめない。
そもそも、かなり目立つ容姿のものが二人いる、というのに誰も気にはとめていない。
ディアのもつ雰囲気が完全に周囲ととけこんでおり、ゆえに傍目からは一人の青年がのんびりと飲み物を飲んでいる。
としかうつらない。
「うん。主様もわかってるとおもうけど。あれを確認してこいって~。
馬鹿だよね~。そもそも他者の命で簡易的に創った道なんて長持ちするわけないのにさ~」
リュカの台詞はもっとも。
しかしそれを知らない輩のほうが多いのもまた事実。
「というか、警備隊は何をしてるのかしらねぇ?…ベルゼブとかにお仕置き必要かしら?」
「…僕、ベルちゃんに同情するよ……」
本気でいっていることを悟り、どこか遠くをみながらもおもわずつぶやくリュカ。
「それはそれとして。主様はどうするつもりなのさ~?」
とりあえず聞いておくことは聞いておきたい。
それによって自分のとるべき行動もまたかわってくる。
「それがね~。そろそろ代替わりが始まるのよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え゛?」
何かひたすらに聞きたくない言葉がきこえたような気がするのはきのせいか。
否、気のせいだ、といってもらいたい。
「まあ、そのせいで活発に歪みも起こりえてるのはわかってるけどね。
無意識のうちに影響うけてるんでしょ。様々な生命達は」
「あ゛~……たしか、今の代替わりとなるべく器というか姫君はどこかの星にいってるんでしたっけ?」
たしか、どこかの星に普通の人として暮らしていると聞いたことがある。
「ちょうどその星が歪みだしていたからという理由でそこに送られたらしいけどね。
まあ、そこの星…というか星系もどうやら落ち着いたらしくて。
…まあまだ正確に大姉様から話しはきてないけどね」
基本的に大姉様、とディアが呼んでいる存在達に一番始めにそれらの情報は伝えられる。
そもそも、【姉】達の存在がありこうしてディア達が存在していられるのもまた事実。
「なのでさくっととりあえず上も下も、面倒なことしてくれかねない輩は静かにさせとこうかとおもってね」
「なるほど~。なら僕はそれとなく上のほうに情報流す程度でいいのかな~?」
すでにもう慣れたもの。
別に情報を伝える程度ならば彼にとって痛くもかゆくもない。
「…ま、ここに上から使者がくるみたいだから、彼女ととりあえず話してみて」
「…ん?」
ディアがそういうと同時、リュカはふとした気配を感じ思わず首をかしげる。
が。
「…あれれ~?」
すぐさまその気配に気づき、おもわず首をかしげるリュカの姿がその場において見受けられてゆく――
ふわり、感じる風がここちよい。
「やっぱり地界の風は上と違って味があるわよね」
思わず本音がもれいでる。
「というか、門の彼、なんか唸ってたけど、どうかしたのかしら?」
【門】を通るとき、なぜかいつもと異なり雰囲気が少しばかり違ったような気がしたが。
まあそれは気のせいなのかもしれない、そう思い直し
「さて…と。たしか、地界のギルド証は……」
ぴらっ。
懐から幾枚かのカードを取り出しひとまず確認。
本来ならば一枚でいいのだがいちいちわけているのには理由がある。
そもそもすべて同じ容姿で行動するわけにはいかない事情が彼女にはある。
ふわり、とやわらかな金の髪が風にたなびく。
その長い金色の髪は一つにくくられみつあみ状にしてたばねられている。
服装はいたってシンプル。
どこにでもいるような簡単なちょっとした何かの金属らしき鎧…といっても、
胸部分と肩部分、そして腰部分のみの…であるが、とにかくそんな鎧を身にまとい、
腰にはちょっとした小さな袋がくくりつけられている。
特徴的なのはその背に背負った大きな剣であろう。
太陽の光に反射してきらめくその姿はまるで伝説上の鉱石でつくられているかのような錯覚をうける。
…事実、そうなのだが、よもやそんな代物をどうみても十代後半の少女が手にしている…とは誰もおもわない。
「まったく。上も上よね。そもそも上からも何ものかが無理やり道を開いたとほぼ同時期に、
どうやら魔界のほうからも道を開いた可能性があるからそこも調べてこい、なんて」
ぶつぶつ。
どうしてしかも自分が出向かなければならないのであろうか。
上層部いわく、ある程度の実力のあるもののほうが正確な情報が判りやすい。
とはいっているが。
たしかにそれはわかっている。
いるがそれとこれとは話しは別。
文句をいいつつもしばしあるいてゆくとやがて町に続く関所もとい、門が見えてくる。
王都テミス。
王都、というだけのことはあり町全体が城壁というか壁にと覆われており、
出入りするためには町に設けられている東西南北の門を通るしかない。
そして一番表門、とされているのが南の門。
すなわち彼女が今向かっている門なのであるが。
「うん?冒険者か?」
「はい。これがギルド証です」
門番に先ほど用意しておいたギルド証を受け渡す。
「ふむ。念の為に所属をお願いできるかな?」
「所属ギルドは今のところありません。名前はアテナ、です。見ての通り戦士です」
その背に大きな剣を背負っていればどうみても剣士か戦士、としか見えないであろうが。
「ふむ。流れの戦士、か。しかし、戦女神の名前と同じとは、いい名をもらったな」
「よくいわれます」
そんな兵士の言葉ににこやかに笑みをかえして答えておく。
「よし。とおれ。しかし問題だけはおこすなよ?」
「はい、わかっています」
そのままギルド証をうけとりかるく挨拶し、そのまま少女…アテナと名乗った少女は町の中に足をふみいれてゆく。
「…あら?」
ふと何か見覚えのある姿を目にしたような気がする。
おもわずそれゆえに足をとめる。
町に足を踏み入れてしばし。
ふと何か見慣れた姿…というか懐かしい姿を目にしたような気がして思わず足をとめる。
気のせい?
とはおもうがやはり気になるものは気になる。
ゆえにもう一度、来た道を引き返してゆき――
「……あら?」
そこに本来ならばこの場にいないであろう存在の姿を目にしおもわず目を丸くする。
しかしすぐに笑みをうかべてそちらのほうへと歩き出す。
「…ひさしぶり。リュカさん」
「あれ~?何、何~?気配感じたとおもったらやっぱりアテナちゃん~?」
その場にはもう一人の人物がいたりするのだがそれには彼女は気付かない。
カフェテラス、と呼ばれているらしきその場にて椅子に座り何やら飲み物を飲んでいる人物。
人物、といえるかどうかは不明だが。
その容姿はかつてみたときと寸分変わりがないので間違えるはずもない。
さらにいえばその雰囲気を忘れようもない。
ゆえにこそ確信をもって話しかける。
案の定、というべか彼女が話しかけると相手は目をぱちくりさせつつも、
…あいのかわらず笑みをうかべ、間の抜けた声にて返事をかえしてくる。
「……リュカさん、そのちゃん、はやめてくださいっ!」
あいかわらずの『ちゃん』づけ。
ゆえにおもいっきり抗議の声を発する彼女の気持ちは判らなくもないであろう。
「え~?僕からすればアテナちゃんはアテナちゃんだよ~?だってさ~?ち~さいころ面倒みてたの僕だよ~?」
「くっ!」
それをいわれてはもともこもない。
たしかに忙しい父達のかわりに面倒はみてもらっていた。
いたが、そのときのことを持ち出されたくはない。
「それより~。なんでわざわざ戦いの女神のアテナちゃんがこんなところに~?」
大体の予測はつくが、それを微塵に顔にだすことなくにこやかに問いかける。
そんな彼…リュカの言葉に。
「それはこちらの台詞です。リュカさん、あなたこそ、どうしてこんなところにおられるのですか?
たしか、今は主の命をうけて魔界に潜入してる、とおききしてますが?」
一応そのように伝え聞いている。
どのような役目か詳しいことまでは知らないが。
「あはは~。おしごと~。僕はただ、このあいだひらいた道を調べにきただけだよ~?」
どうもこの彼と話していたら脱力してしまい相手の気配にのまれてしまう。
それは昔から彼女…アテナはよく身にしみてわかっている。
いるが。
「道?ああ、例の、やつ、ですか。あ、すいません。私にもコーヒーをお願いします」
いつのまにかそのままあいている椅子にとすわり、相席しているアテナ。
しかしその横にいるディアにアテナはまったく気づかない。
あ~…主様、完全に気配を周囲と同化されてるから気づかないんだ~
ほんと、アテナちゃん、まだまだ子供だよね~
それに気づき、思わずそんなことをおもうリュカ。
本来ならば気づかなければいなけい立場なのに気づいていない。
そのことがまだまだ彼女が未熟な女神だ、と物語っている。
「ま、まだアテナちゃんは産まれて二千年だしね~」
リュカは産まれてこのかたすでに齢一万年は当に超えている。
実際はもう二万年すら超えている。
ゆえにいまだ二千年足らずのアテナは子供という認識しかない。
「その、ちゃん!はやめてくださいっ!」
「え~?さみしくてないては、そしてこまらせよーとしてわざわざ水を寝具にかけたのはどこのだれ~?」
「む・か・し・の・話しはしないでくださいっ!!」
どうもこのリュカ相手だと自分のいつも保っている性格がおもいっきり壊れてしまう。
ゆえに思わず叫び返す。
「あはは~。だめだよ~。アテナちゃん~。そんなに大きな声をだした皆におどろかれるよ~?」
たしかに先ほどから叫ぶアテナを何ごとか?とちらほらとみている存在達の姿が目にとまる。
まあ、大概は、なんだ、男女の痴話げんかか、でほほえましくみていたりするのだが。
リュカ、そしてディアの座っている机にやってきたこの女性。
正真正銘、天界に属しているそれも一応は高位神の一人、戦女神のアテナ、その当人――
しかし、よもやこの場に神が降臨してきているなど、当事者達以外誰もしるはずもないのであった……