光と闇の楔 ~竜との邂逅~
みなさんは覚えているでしょうか?初期にでてきた竜さん家族v
まさかまた出てくる、と思ってた人は…いる、でしょうね。
何しろ私の書くものだし。
というわけで、いってみるのです♪
うろうろ…
うろうろ、うろうろ……
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
くすり。
おもわずその様子をみてくすり、と笑ってしまうのは仕方がない。
このひとがこんなにうろたえてるなんて久しぶりにみる。
あとは…
もうすぐ、もうすぐね。
私たちの赤ちゃん……
寝そべる腹の中に抱え込んでいる小さな卵。
本当ならばもっと時間がかかるとおもったけど、ある一件以後魔力が異様に高まっていった。
おそらく周囲に満ちる力の影響であろうけど。
だけども、初めての子。
どんな子がうまれてくるのは私もたのしみ。
だけど、うまれたら生まれたでやんちゃになるんでしょうね……
光と闇の楔 ~竜との邂逅~
「…すごい、霧……」
森に一歩足を踏み入れると一寸先すら見えない霧の濃さ。
「そう?でもこの霧はこの森そのものが発生させてるものだから他意はないとおもうけど」
前回ここにきたときに、念のために森にそうお願いしておいた。
そもそも普通は彼らが行わなければならないことなれど、まだ年若いがゆえにそこまで気がまわらなかったらしい。
しかし守るべきものがいるのにそれでは困る。
ゆえにそのあたりはしっかりとお灸をすえるように、とも言っておいた。
「…いったいどんな育ちかたをしたらそこまで自然のことを判るようになるのよ……」
「普通は誰でもわかるはずなんだけどね~。ただ、目をそらしてるだけで」
目をとじ、耳をふさいでみえるものをみえなくしている。
そのことに気付けば価値観が変わるはずなのに。
命とは何か。
その答えがそこにある。
「とりあえず、滝のところにいきましょ。川のせせらぎがしてるからこっちが上流ね」
「…だから、なんでわかるかなぁ~……」
ディアにいわれても納得いかないケレス。
精神を集中しても漠然としたことしかわからない。
今進んでいるのもかろうじてディアの姿を視界にとめながら進んでいるに過ぎない。
足元すらもおぼつかないほどに霧が濃い、というのに
なぜかディアの周りだけはそんな気配がないように感じる。
実際に、一寸先すら見えないはずなのに、ディアの姿はしっかりとケレスの視界にはいっている。
見失えばまちかないなく迷子になるか、もしくは噂どおりに森の出口に飛ばされる。
そう確信がもてるがゆえにディアの姿を見失わないようにあわててついてゆくケレス。
あるいてゆくことしばし。
やがて川のせせらぎがきこえてきて、森の中を流れる川にとたどり着く。
「さて。これから上流目指してあるくわよ」
「川の周囲には霧はないんだ……」
川の周辺には先ほどまでの濃い霧は発生していない。
といってもそれは川のある部分とその両脇の一部分のみで、
木々が生い茂り始めている場所からは先のみえないほどの濃い霧が立ち込めている。
しいていえば霧の中に静かに川が流れている、と表現したほうがしっくりくるようなそんな景色。
しかしこれならば迷いようがなさそうである意味ほっとする。
ディアは気にしていないようではあるが、ケレスからしてみれば、一寸先も見えない、
というのはかなり神経質になっていたりする。
そのような濃い霧が大量発生する場合には何らかの要員がある、ということを
教育の一環として幼いころより教えられているがゆえであろう。
自然に発生した霧と意図的に発生させている霧とではその用途はまったく異なる。
前者は自然界の日々の営みにて自然に起こりえるもの。
しかし後者は何かしらの意味があってなされるもの。
大体、何かを隠したりする場合に後者はよく使われている。
もしくは他者の命を守るために周囲の自然がそのように仕向けていたり、など。
とりあえず緊張していたこともあり、この川の空気はとてもここちよい。
ゆえに無意識のうちにほっと息をなでおろしつつも、大きく息を吸い込むケレス。
「さ、滝はもう少し上流よ、いきましょ」
「ディアってここにきたことあるの?」
「周囲の自然が教えてくれてるけど、ほんとなんできこえないのかしらねぇ?そのほうが不思議だわ」
「…私はディアのほうが不思議よ……」
本気でいっているっぽいディアの言葉に脱力せざるをえないケレス。
そもそも自然の声、すなわち草木の声をきけるものなど、
ケレスからすればエルフ族くらいしか思いつかない。
しかしディアはその一族ではない、という。
だから余計にわからない。
わからないが、実際に聞こえているようなのでそのようなものなのだろう、と納得するしかない。
「とりあえず目的の場所はもう少し上だし。のんびりといきますか」
別に時間指定をされているわけではない。
学校がおわりこの場にきてはいるが、ここで夜をあかしても別に不都合はない。
そもそも攻撃をしてくる輩はここには存在していない、のだから。
「…そうね。ここで野宿するのも癪だわ……」
いろいろと聞きたいことはあるが、あまりのんびりしていれば完全に日がくれてしまう
というかこんな霧の濃い中で夜を明かしたくはない。
万が一、敵意をもったものがいてもこの霧の濃さでは相手の姿もみえはしない。
互いにそんな会話をしつつも、二人しててくてくと川の上流へと足をむけてゆく――
「…って、何これぇぇっ!?」
「さて、ついた。っと。?ケレス?何騒いでるの?」
思わず目前に見えた光景に叫ぶケレスに、きょとん、とした表情でいっているディア。
「ディア!これをみて何ともおもわないの!?」
これ。
というのは目前に広がっている光景。
川の上流にある滝壺にきたはいい。
いいが、なぜその滝壺の周囲にぴっしりと、
しかも自分達の身長に近いほどの高さを誇るヒギエアが群生しているのか。
それが聞きたい。
切実に。
そもそも、こんな大きくなるまでヒギエアが放っておかれることはまずあり得ない。
特に人が住まう場所が近くにあればなおさらに。
目の前にはびっしりと、
ちょっとした大人顔負けくらいの高さを誇る、朱色の花を壺状にした花々が咲き乱れている。
ちなみにその壺状の花の下にはいくつもの蔓があり、それらがうねうねとうごいている様がみてとれる。
「あら~。力が濃いせいか成長もはやくなってたのね。
あのね。あなたたちの根がほしいんだけど、わけてくれない?」
「ちょっと!ディア!ちかづいたらあぶな……」
しゅるんっ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
近づいたら危ない。
そういいかけたケレスの言葉をさえぎるようにして、ディアの言葉をききとげ、
その場にいるすべてのヒギエアの花達がその蔓に自分達の根の一部をもって自然に差し出してきていたりする。
その光景をみておもわず固まるしかないケレス。
ちなみにこのヒギエア、自分の意思で動くことができ、幾多の根を足のように動かし移動する。
「ありがとう。だけどあまり無意味に他の命をたべたらだめよ?
あなたたちはここの気だけでもいきられるんだから」
こくこくこく。
にこやかにいうディアの言葉をうけてか、
それぞれのヒギエアの花がまるでうなづくように花をこくこく上下させていたりする。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いや、まって、ちょいまってっ!今の、何!?何なの!?」
「え?ただ会話してるだけ……」
「ど…どこまでディアは非常識なのよぉぉっ!!」
緊張していた自分の気持ちはどこにある、というのだろうか。
ヒデギアの根を取る場合、すくなからずともその花のもつ溶液にて少なからず怪我を追う覚悟をしなくてはならない。
…花々が自ら率先して根をわけてくれる、など今まできいたことも見たこともない。
ディアからしてみれば、別に会話して分けてもらうのは当たり前。
ゆえにケレスの叫びにただ少し首をかしげ、
「へんなケレス」
「へんなのはあなたよぉぉっ!」
どうも彼女と一緒にいれば予想外のことを経験するような気がひしひしとする。
そんなことを思いつつも叫ぶケレスの声は滝の音にむなしくもかき消されてゆく……
「…も、つかれた……」
何がどう、というわけではない。
かろやかにヒギエアの花達と会話しているディアをみていて精神的にどっと疲れた。
ゆえにその場から少し離れ、疲労の色もこくおもわずつぶやくケレス。
と。
「るぐおおおっっっっっっっっ!」
森の中、場違い、ともいえる雄たけびが周囲に響き渡る。
「ひっ!?」
「あら?」
その声をきき、体を震わせるケレスに、ふとその声をきいて花々との会話を中断し顔をあげているディア。
「何うろたえてるのかしらねぇ~。とりあえず、いきますか。じゃあね。みんな」
このまま放っておいてもいいのだが、いかんせん。
かかわっている以上、ほうってもおけない。
それに感じる波動からしても無視はできない。
ゆえにその場にいるヒギエア達に別れの言葉をかけて、声のしたほうへと歩き出す。
「う~ん…前、私が直接手をかしたからかしらねぇ~……」
そうとしか思えない波動がそちらのほうから感じられる。
「いや、いやあの!ディア!どこにいくつもりよっ!」
それでなくても先ほどのヒギエアの一件で茫然としていたというのに、
何やらまたまた常識外の光景を目にしてしまいそうでおもわずつっこむケレス。
「ちょっといってくるわね」
「いや、ちょっと、って、ディア!まってよ!こんなところにおいていかないで~!!」
何しろここはヒギエアの群生地。
いくらカレラが大人しい、といっても居心地がいいわけではない。
しかも軽く自分達くらいの大きさのヒギエアがいくつも群生していれば逃げたくもなるというもの。
いつ、自分をエサ、と認識されるかわかりはしない。
すたすたと歩きだすディアをあわてておいかけてゆくケレス。
この周囲には霧は発生してないようであるが少し森にはいっただけでやはり霧は濃くなる一方。
そんな中でディアとはぐれればケレスは自分が迷う自身がしっかりとある。
迷うだけならいいが、あんな巨大なヒギエアが群生していたような森である。
あとどんな肉食系の植物などがいるかわかりはしない。
ディアならば相手と【話す】ことができるようなので回避できるようではあるが、
はっきりいってケレスはそれらとコトを構えたくはない。
そもそも、こんな中で火の術を使えばまちがいなく自分にとぱっちりがきてしまう。
そのあたりの常識はいくらケレスとてわきまえている。
水の加護をえた、とはいえ精霊達を敵にまわせばどうなるのか、考えるだけで恐ろしい。
ディアいわく、この森は精霊達が住みついている森、とのこと。
だからこそ下手な行動はさけるべき。
ゆえにあわてディアの後をケレスは追ってゆく。
「……さて、と。時間は…急いだほうがいい?」
ふわっ。
周囲の木々がディアにこたえてくる。
どうやらなるべく早く急いだほうがよさそうである。
「るぐぉぉっっ!」
それと同時再び森の中に響き渡るちょっとした雄たけび。
それを雄たけび、といっていいのかははなはだその叫びの意味がわかっているディアからすれば疑問だが。
どの種族にしてもどうして自らの胎内ではぐくまない親、というのはうろたえるのかがわからない。
自分達があわてふためいてもどうにかなるものでもないであろうに。
すっと手をかざし、すっと手を横に振る。
それと同時にサァっと晴れてゆく濃い霧の海。
霧が晴れたその視界の先にちょっとした大きな塊の姿が二つほど目にはいる。
「クレマティス。何騒いでるの。そっちのアルニカが半ばあきれてるわよ?」
くすり、と笑みをうかべつつも視界に入る二つの大きな塊にと言葉を投げかけるディア。
視線の先には森の木々よりも大きな何かの塊…よくよくみればそれが生き物だ、と理解ができる。
びっしりと体全体をおおっている鱗に体半分ほどのシッポ。
後ろ足二本にて大地に下半身を下ろすとともに座りこんでおり、その両手は所在なさげに虚空をさまよっている。
緑の艶のある鱗は周囲の自然にあるいみ溶け込んでおり、じっといていればさほど違和感はないであろう。
『汝は……』
どこか聞き覚えのある声。
ゆえにその声のしたほうを振り向けば、少し前、この森にやってきた少女がそこにいる。
ゆえに戸惑いの声を出す彼の気持ちはおそらく間違ってはいないであろう。
「あれだけ『どうしよう、どうしよう、どうしようっ!』って騒いでたら嫌でもわかるって」
そう。
目の前のこの森に住まう、若き竜…緑竜のクレマティス。
さきほどの雄たけびは彼のもの。
正確にいうならば雄たけび、というか一人パニックになって騒いでいた、というほうが正しいが。
「こんにちわ。アルニカ。どうやら卵が孵る、みたいね」
みれば緑竜のつがいの竜である黄緑色の姿をした彼女がかかえている卵に変化がみられている。
卵の殻にヒビがはいってはいれどもそれ以上は進んでいない様子。
完全なる力不足。
卵から竜の幼生が孵るためにはその幼生にあった【力】が必要不可欠。
力が足りなければ孵ることはできはしない。
『おひさしぶりです。…すいません……』
直接に【力】に触れて理解してしまったがゆえに恐縮してしまう。
何よりおそらく彼女がここにやってきた理由も理由。
自分達の【力】だけでは産まれることのできない我が子。
すなわち、あのときの【力の余波】にて自分達よりも格上の存在として誕生するであろう。
それは確信。
このまま卵から孵ることができなければ、いずれ卵の中で子供は死んでしまう。
とにかくひたすらに自らの力を卵にそそいではいたが変化はあまり見られなかった。
そのせいでつがいとなっているクレマティスが半ば混乱し叫んでしまったのだが。
それがいいのかわるいのか。
とりあえずその叫びのおかげでどうやら子供が死ぬようなことにはならなそうである。
しかし頼ってしまうのはやはり心苦しい。
だからこそ謝らずにはいられない。
「いいのよ。…あ~。この前の私の影響、かしらね。とりあえず、このままだと子供にも影響悪いし」
いいつつも、すたすたとうずくまっている黄緑色の竜のほうへと歩みよるディア。
ディアがその傍にいき卵に手をふれたとほぼ同時。
「もう、ディア、はやい…って、竜!?」
ディアを追いかけてきていたケレスがその姿を目にし思わず叫ぶ。
ケレスの目の前には森の木々よりも大きな竜が二体。
しかも一体の傍にディアはどうどうと近寄っていたりする。
大きさ的にいえば竜族の中でもかれらは小さい部類にはいるのだが、
そんなことはケレスにはわからない。
ゆえにその場にて硬直してしまう。
さもありなん。
通常、竜と相対したときには、まちがいなく人のほうが部が悪い。
しかもよくよくみればうずくまっている竜の方は何かの球体のようなものを抱いている。
すなわち、それが意味することは……
「って、ディア!あぶないわよっ!」
そこまでおもい、はっとする。
よくよくみればディアはその球体に手をそっとおいているのである。
この行為ははっきりいって竜を怒らせるのには十分すぎるほどの行為。
ゆえに顔色を真っ青にして叫ぶケレス。
「あら。ケレス。大丈夫よ…さて、と。『めざめなさい』」
竜語を使い、目覚めを促す。
ディアが触れた卵はまるでそれに呼応するかのように、
ピシッ…ピシピシ……
静かに殻が割れる音が小刻みに震えるように響きだす。
先ほどまで、いくら両親たる竜がいくら力を送ってもまったく反応しなかった、というのにも関わらず。
ピシ…ピシッ…バキイッンっ。
「ぐるわっ!『おおおっ!』」
「く~っ『まあっ』」
卵の殻が一部完全にはがれおちたその瞬間、二匹の竜が同時に声を発する。
ケレスには何か相手が吠えたように感じ、ディアには彼らの言葉がありありと理解可能。
「…ぴきゅっ!」
卵の殻からゆっくりと真っ白い…というかほぼ透明に近い小さな体が顔をのぞかせる。
かわいらしい声をだしているのは御愛嬌というべきか。
「……ぴゅっ?」
きょろきょろ。
ちょこん、と一か所割れた卵の殻から顔のみをのぞかせている様は何とも愛らしい。
『ほらほら。アルニカ。こまってるから手助けしてあげないと』
くすくすくす。
無事に孵ったことにほっとして温かな目でみていた母たる竜…アルニカはディアの言葉にはっと我にと戻り、
コッン、コンコン…パリッ。
残りの殻をその前足部分の爪にてゆっくり器用にはがしてゆく。
「…え…え…?」
一方のケレスは何がおこったのか理解不能。
というか…あの、卵から顔をだしているかわいらしい物体は何!?
そんなことをおもいつつその場にしばし硬直していたりする。
『あ~。やっぱり、黄竜だったわね。…この前の影響かしら?
あのまま何ごともなければこの子もあなたたちとおなじ緑竜になったでしょうにね……』
気配でわかっていたがゆえに直接みればしみじみ納得してしまう。
さほど力を込めたつもりはなかったがやはりまだ固定されていない魂への影響は強かったらしい。
まあここしばらく後継者が生まれていなかったので問題ない、といえば問題ない。
『……そのほう、我らの言葉、はなせたのか?…言霊使い、ではなかったのか?』
どうやらいまだに勘違いしていたらしく、戸惑い気味に声をはっしてくる父たる竜。
『私は一度も言霊使いだなんていってないし。それよりアルニカにねぎらいの言葉かけないと。
どれだけあなたはつがいである彼女に迷惑かけたのかしらね~』
あのときにしろ、今にしろ。
あまりうろたえたりするのは子供の誕生に悪影響を及ぼす、というのに。
竜族の誕生は周囲の環境、そして自然界の気の動向による。
自然の気が満ちている箇所で彼らは誕生し、そしてその自然の力を具現化した存在として誕生する。
子供も然り。
両親ともが育っている子供は【卵】としてまずその形を構成し、
そしてその中でゆっくりとその個体の形をつくってゆく。
そのときに影響するのは周囲の気そのもの。
そして誕生するときの気もまた子供の個体に大きく影響を及ぼす。
特に根本的な本能、ともいえる性格面、について。
親たる竜がうろたえていたりした場合、そのままの性格をひきついでしまったりする、という性質をもつ。
育っていくうえでその性格の修正はできはするが、いざ、というときその性格がどうしても表にでてしまう。
『まあ、今回は私がここにいるからそういうのはなくて、ほんとうにまっさらな状態のままみたいだけど』
裏も何もなく、何ものに汚されてもいない、純粋な魂の個体。
これからの日々の中でゆっくりとその個性を身につけていくであろうその幼生。
「とりあえず、無事に生まれたみたいだし。このままここでこの子育てる?それとも竜の里にいく?」
とりあえず念のために確認いれておく。
もっとも、この子供のことが竜族の上層部にわかれば嫌でも迎えにくるであろうが。
「って…ディア!さっきから何…は!?まさか、あなた竜語まで理解できるの!?」
さきほどから何やらディアがぐるぐる唸っていたような気がしてはいたが、
何となくだが竜の様子から会話しているようにとれなくもない。
ゆえに、はっと我にと戻りおもわずさけんでいるケレス。
「え?ケレスははなせないの?」
「はなせるわけないでしょうがっ!!」
いったいこのディアはどこまで常識外れなんだろう?
そんなことをふとケレスは思ってしまう。
あまりの事実に目の前に脅威ともいえる竜がいる、というのをきれいさっぱり失念しているのがケレスらしい。
「くぴ~!!」
きょろきょろ。
ぴょっん。
完全に殻からでてきた竜の子供。
大きさは手の平にすっぽりと収まる程度。
その形は両親の竜と同じ形をしてはいるが色が異なる。
両親の竜達は緑と黄緑、一般にいう緑竜、という一族にあたる。
たいして産まれたこの子供はといえば、透き通るまでの真っ白い竜。
本当に背後が透けてみえるのでは?というほどの透明感をかもしだしている。
そんな小さな竜の姿にくりっとした黒い瞳がぱっちりと見開かれ、
ぴょんっと飛びつくようにディアの手の中にもぐりこんできたりする。
そのまま手の平にこすりつけるように、ぴ~ぴ~いいつつも完全に甘えている様子。
『あらあら。まあ仕方のないこね~。申し訳ありません』
『?さっきから、何かおまえおかしくないか?』
そんな様子をみて申し訳なさそうに謝る母竜アルニカに、
意味が判らずに首をかしげている父竜クレマティス。
そもそも、名乗っていないにも関わらず、ディアが名前を呼んでいる、という時点で予測がついてもいいであろう。
しかし、アルニカはともかくとしてクレマティスはいまだによく理解していないようで、
その長い首をすこしばかりかしげていたりする。
『そういえば、この子の名前は考えてるわけ?』
いろいろと彼らが名前を考えていたのは知ってはいる。
しかし同じ一族として産まれてくるであろうことを前提にしていたこともしっている。
それゆえの問いかけ。
『しかし…なぜ、我らの子が黄竜として……』
竜族の中でも一番位が高い、といわれている一族。
自分達のような緑竜から生まれた、などと今の今まできいたことがない。
かといってこの地の【気】が自然界そのものともいえる【世界の気配】ともいい難い。
世界の気配をより強くうけたものが黄竜として誕生する。
それは竜族であればどんな存在でも知っている事実。
産まれた瞬間から、その存在のありかたを理解し、そしてその仕組みをも理解する。
それが竜族。
しかし力の扱いはそれぞれ個々に負かされているがゆえに成長具合はそれぞれ異なる。
『・・・・・・・・・・・・・クレマティス。あなた、ほんと~~にきづいてないの?』
そんなつがいである彼の言葉におもわず呆れた声をあげているアルニカ。
彼らが竜語で話している間、ケレスからしてみれば何をしているのか、話しているのか理解不能。
ただわかるのは、目の前に竜族がいて、しかも真っ白い竜か産まれた。
さらにディアが竜語を使い竜達と会話している、ということのみ。
「まあ、その話題はおいといて。騒がれたくないし。しかし久しぶりに見たわねぇ。黄竜の子」
たしか以前産まれたときは一万年ちょいくらい前だったはず。
今は長をやっている彼女が後継者が生まれない~と嘆いていたのは知っている。
よくよく考えてみてみれば黄竜が生まれるときは毎回自分が関与しているような気がしなくもない。
「シアンに連絡とるならしておくけど。それともあなた達でしばらくここで育ててみる?」
どちらにしても長として教育をうけることになれば家族団らんの時間はあまりとれなくなるであろう。
「まあ、私とすれば性格が固定されるまでは両親の元で育ったほうがいいとおもうけどね」
かつてのときはなぜかディアが面倒をみるハメになっていたりしたが、このたびはきちんと両親が存在している。
普通の人の言葉で話しているはずなのになぜかその意味はすんなり、と二匹の竜の心にと響いてくる。
『…なぜ、そこで長の名が……』
戸惑いの声をあげるクレマティスをそのままに、その答えには笑みでかえし、
「ケレス。何そこでかたまってるの?こっちにきたらいいのに?」
いまだに、この場、
すなわち森の木々が一角途切れたその木々と広場との間にて固まっているケレスに声をかけるディア。
「かたまてっ・・って。ディア。なんであなたはそんなに平然としていられるのよぉぉっ!!」
先ほどのことといい、今といい。
ケレスからすればはっきりいってもはや考えが追いつかない。
というか現実逃避をしたくなってしまう。
そんなケレスの叫びはただただ、静かな森の中に響き渡ってゆく……
さらっと流した花の根回収と、竜とのフラグ(まて
ちなみに、産まれた竜は水晶のような色彩をしている、とおもってくださいv
完全に透明でなくすこし不透明っぽいドラゴン形体、ですね。
うごいてなければガラスの置物、としてもまかりとおります(笑