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光と闇の楔  作者:
13/74

光と闇の楔 ~ククル村での依頼~

そろそろ主人公が人でない表現がちらほらと~

ま、前回の伝道師とのやりとりでももうばらしてますけどね・・・・

「ぎゃ~!!」

「先生の鬼ぃぃっ!」

教室内に誰、というまでもなく、生徒達の悲鳴ともいえる叫びが響き渡る。

「はいはい。みなさんがきちんとこれまで勉強してきていたら問題ありませんよ~。

  新しくはいってきた転入生の大まかな現状をしることにもなりますしね」

にっこり。

昼休みがおわっての爆弾発言、とはよくいったもの。

教室にはいってきた担任がC-Aの生徒達にいった台詞はまさに生徒達からすれば死刑宣告にも近い。

学生にとって抜き打ちテスト、とはそれほどまでの意味をもつ。

ここ、総合科C組A担任教師、ヘスティア=アルクメーネ。

淡い金色の髪と緑の瞳をしている見た目二十歳代にみえるものの、

その実はゆうに百歳をこえている。

特徴的なのは髪に隠れてみえにくいが人族とはことなるその耳の形。

常にいつもバンダナをしているのでわからないがそこにはかわいらしい猫耳が存在していたりする。

耳があり、尻尾がある他はほとんどその容姿は人と変わりがない。

彼女達のような種族を獣人族、と簡単に呼びまとめられている。

人とは異なり数百年単位の寿命をもつものから、数年足らずの寿命の種族まで種は様々。

彼女の笑みは生徒達からは『悪魔のほほ笑み』とすら言われている。

彼女の指導は…かなり、厳しい……




       光と闇の楔 ~ククル村での依頼~




「…だから、ここがこうなって……わかった?」

とりあえず手元にとある資料をもとに説明する。

「うん。すご~い。ディアさんって先生よりわかりやすい!」

ディアの周囲には数名のクラスメート達が集まっている。

昨日、みなさんの知識がどこまでなのか改めて確認したいとおもいますので、抜き打ちテストを行います。

と告げられ、そして唐突に試験が開始された。

そして先ほど、その答案用紙が帰ってきたのだが……

なぜにあんな高度な問題を!?

というのが生徒達の意見の大半。

高学年で習うべき問題すら含まれていたりしたがゆえに、結果は散々。

そんな中で唯一といっていいほどにディアのみが高得点を所得していた。

だからこそ先生にきくよりは……ということでディアに聞いているのだが。

担任に聞きに行けばまちがいなく、夜遅くまで特別授業が開始されてしまうのは請負。

伊達に薔薇の悪魔、ともいえる担任教師、へスティア=アルクメーネに習っていたわけではない。

何しろ必要とあらば家までおしかけてきて延々と補習授業を行うこともある。

だからこそ絶対に担任には聞きに行きたくない。

それはこのクラス担任の性格をしっている生徒からしてみれば絶対にくつがえせない事柄。

ちなみに、この世界で普及している紙は、木材加工などに使われた木くずなどが仕様されている。

もしくは他のものをつくるために加工された植物の皮など。

ここ、ギルド協会にて使われている【紙】はその中でも特殊加工がしてあるもので、

その製法も独特。

防水、防火に優れており、傷もつきにくい、という長期保存にはもってこいな紙。

もっとも、通常の授業で使われる教科書と異なり、生徒達が習ったことを書き込んでゆく紙はべつもの。

そちらは基本、【再生紙】が使われている。

この世界においては紙はさほど高級品ではないが、さりとてものすごく安いものでもない。

普通の人々にも手にはいるような手頃な価格で売買がなされている。

「世界の仕組みって…なんか複雑……」

幼きころからは、常に天界にいる神々が自分達を見守っている、そうきかされていた。

そして魔界に住まうものは、人を堕落させる、とも。

「ま、人は自分達の都合のいいように解釈するからねぇ」

事実、今の魔界において人間界などに侵略する、というようなことをするものは滅多といない。

ちょっかいをかければそれなりの処分をうけることを彼らはしっている。

だがしかしその処分を甘くみてあくまでも自分の欲望のままに行動するこまったものもいるのも事実。

「だけど、門か~……門の番人もいろいろといるの?」

「門の番人、というか門そのものが意思をもった命、だからね」

各界を隔てる【門】。

その門に意思があることをしっている存在はごくわずか。

「ソトーはまあ、気まぐれだし」

「ソトー?」

ふと思わず漏らすディアの言葉に、先ほどまでディアに授業でわからなかった場所をきいているフラウ。

至極丁寧、そして教師よりも判りやすい説明に自然とディアの周りにはクラスメート達が集まってきていたりする。

「あ、何でもない。まあ、【門】にかかわることはまずないから気にしなくてもいいとおもうけど」

ふいに名を呼んでしまったことに気付いてとりあえずさりげなく何でもない、とこたえるディア。

彼らがその名を知るよしもない。

普通に暮らしているかぎり、【門】とかかわることはまずない。

もしも主従契約を求めて界を渡ろうとするのならば話しは別、だが。

界を守護し、隔てている【門】。

別名、次元の守護者、ともよばれている存在。

【ソトホース】という名ははっきりいって知られていない。

おそらく名前だけで表現してもまず誰もが何を示しているか答えられないであう。

「そういえば、次の休みはディアさんは何をするの?」

「私は当然、依頼をうけるつもりだけど」

先日の一件でたしかに学費はどうにかなったがさきだつものは一応必要。

とはいえいまだに学費を差し引かれた報酬は二人ともいまだに受け取っていない。

廃墟というか瓦礫と化した元屋敷が完全に安全であるかどうか、が判るまでは支払い延期となっている。

「そういえば、ディアさんはギルド寮、でしたね。ご両親は…」

「そんなのいないけど」

実際に、ディアには両親、と呼ぶべき存在はいない。

まあ、家族に近い存在ならば多々といるのだが。

「あ、す、すいませんっ!」

自分が家族がいるから、と誰もが平和に暮らしているわけではない。

そのことを判っていたはずなのに、知らないうちに相手を傷つけてしまったかもしれない。

そうおもうとフラウは自分自身が情けなくなってくる。

知らないから何をしてもいい、というわけではない。

知らない、知ろうとしないことは最大限の罪である、そう両親からも教え込まれている。

「さて。と。とりあえず今日の授業でわからなかったってところはこのあたり?」

「え。あ。はい」

抜き打ちテストの後にあった補習授業。

その授業の意味はよくつかめなかった。

教師の質問にさらさらと答えていたディアにダメもとできいたところ判り易く説明してくれることになった。

ゆえに、今彼女はディアに説明をうけているのだが……

「資格試験だけうけて、さくっと卒業するってわけにもいかないしね~」

それは本音。

しかしそのためにはかなりの資金も必要だし、逆に目立つことにもなる。

「精霊達に好かれている、というだけでいろいろと知識ってもらえるものなんですか?」

ディアのどこか笑いながらいうそんな台詞に対し、疑問におもっていたことを問いかける。

この先日やってきたディア、という少女は他の生徒達の目からみても異彩を放っている。

滅多とあうことのないエルフ族と感覚的に雰囲気がよく似ている。

ゆえにこそおそらく精霊の加護をうけているのであろう、とは何となく予測はしているのだが詳しくはまだ聞いていない。

「ま、時と場合によるでしょうけど」

ディアはどうして自分が詳しくわかるのか、彼女達には説明していない。

しかし何となくではあるが、雰囲気が完全に周囲の大気と同化していることもあり、

ほとんどの生徒達がディアは精霊の加護をうけているのであろう。

そうかってに勘違いしていたりする。

ディアとしても勘違いを訂正する理由がないのでそのまま勘違いさせたままにしていたりする。

そういえば、あの男性は言霊使いと勘違いしてたわね。

そんなことをふと思う。

まあ、あたらずとも遠からずなのでそれはそれで問題ない。

「じゃ、私は今日はこれで。また判らないことがあったら何でも教えれる限りは教えるから。それじゃ」

いまだに多少ざわめく放課後の教室を後にするディア。

明日、このギルド協会学校、通称学園はお休みの日。

希望があれば補習授業をうけることもできるが、大概のギルド寮に属する生徒は休みを利用して依頼を探す。

ゆえにディアとて例外ではない。

そもそもゆっくりしていたら、またケレスが問答無用で共同依頼を受けよう、といってくるのは目にみえている。

だからこそ今日は寮には戻らないことをすでに寮の管理人には告げてある。

「ディアさん、きをつけてね~」

「休みあけに、またね~」

ひらひらと手をふりつつも、クラスメート達に別れをつげて教室を後にするディア。

「さて…と。今日はこのまま、ギルドにいきますか」

とりあえず荷物は学園をでてしまえばいい。

ちょっとした空間を繋げることにより、荷物の出し入れは自由自在。

もっとも荷物などなくてもディアはまったく構わないのだが、それだと不振がられてしまう。

それゆえの処置。

「ま、探しに行くっていうのも嘘じゃないし」

実はすでに登校する前にめぼしい依頼は引き受けている。

ギルドは基本、一日中誰かが常に常務しておりいつでも依頼のやり取りが可能となっている。

とっん。

人気のない場所を確認し、【移動】しゆっくりと大地に降り立つディア。

はたからみれば、町の一角でその姿がかききえ、そしてその次の瞬間。

数キロ離れた位置にいきなり虚空から出現した、といっても過言ではない。

実際はその姿をただ、あるべき場所を【移動】しただけなのだが……

「やっぱり、懸念したとおり、寮の前で張ってるのよね~、ケレスは」

ふと確認して視たところ、案の定、というべきか。

寮の前でしっかりとディアがもどってくるのを待ち構えているのが視てとれる。

とはいえ、所詮【視る】という行為は相手に気付かれるはずもなく。

近くで直接見ている、というのではなく遠くに離れていても確認できる、それが【遠見】の能力ともいう。

しかしディアが扱っているのは一般に知られているその能力にはあてはまらない。

もっとも、第三者がみた場合はまちがいなくその能力を有し使っている、と勘違いするであろうが……

くすくすくす。

なかなか戻ってこないディアのことが気になるらしく、

寮の管理人に話しをきいて騒いでいるケレスの姿が視てとれる。

ゆえにおもわずくすくすと笑ってしまう。

そのままギルドへとかけいゆくケレスの姿も確認できるが、

ギルドは依頼人などに関しての情報は決してもらさない。

逆をいえば依頼をうけたものの情報をも漏らすことはない。

何よりも信用が第一の組織。

それはいかなる理由があろうとも決して覆されない掟。


「ずるぅぅっいっ!」

せっかくまた一緒に行動しようとおもったのに。

というか絶対にあの子は普通の子じゃあないっ!

そう確信しているがゆえにまた一緒に仕事をしようとおもったのに……

しかし、いくらまてどもくらせど寮にもどってくる気配がない。

念のために寮の入口で授業がおわりずっとまっている、というのに。

一緒にかえろうかともおもったが、C-Aはなんでもテストの補習授業中とのこと。

ケレスも悪魔のほほ笑み、と呼ばれている教師のことは話しにきいたことがある。

まちがいなくそれを知らずに出向いていれば別のクラスであろうがなかろうが、

確実に巻き込まれていたであろう。

周りの生徒がとめたのでケレスは巻き込まれなかったに過ぎない。

まてどもまてどももどってくる気配はなく、

まさか、とおもい念のために管理人に聞けば依頼をうけるので戻ってこない、とのこと。

ゆえにこそおもわずケレスは叫んでしまう。

どうして自分に声をかけてくれなかったのだ、と。

確かにまだ知りあって数日ではあるが、他に一緒に行動できそうな相手がいないのも事実。

だからこそ、まっていた、というのに。

「こうなったらギルドへ直行よっ!」

ギルド、もしくはまだ学園にのこっているかもしれない。

そんな期待を込めてそのまま走りだすケレス。

しかし、ケレスは知るよしもない。

すでにディアはこの町からかなり離れた位置に移動している、ということを……




さわさわ。

周囲に風の精霊の幼生達がまとわりつく。

それにあわせて風が優しく吹き抜ける。

毎回おもうけど、ほんとうに生まれたての子供たちはとてもかわいい。

汚れのない純粋なる心をもっている。

どうしてこのような純粋な心をもった子供たちがすこしづつかわってしまうのだろう、

と思うディアの気持ちは彼女なればこその気持ちであろう。

「ほんと、毎回産まれたてのこはどの子もかわいいんだけどね~」

周囲の影響もあるのであろうが、それでもやはり素直に育ってほしい、と思ってしまうのは仕方がない。

「まあ、私もただず~~とみてた、だけでもあったしね」

ときどき手助けをしてはいたが、それはあくまでも、少しのみ。

環境変化などにおいて手助けをしていたのみ。

ここまで干渉するきっかけとなったのはやはり人類が何をかんがえたのか世界、

否、あのまますすめばまちがいなく宇宙空間をも崩壊させかねない兵器をつくりかけていたため。

カナメ達の行動はたしかに遊び、では済まされない結果を招いたが、

しかし開発途中の真空原子爆弾の開発をつぶしてくれたのはあるいみ助かった。

どうして自分達の首をしめるようなものをつくりだそうとするのやら。

ほんとあのときばかりはほとほとあきれて、人類のみを消滅させるのも考えていたけども。

それでも過ちにきづいてくれるのをねがっていた。

…結果、地上すべての生き物がまきぞえになってしまったけども。

「しかし、きちんと管理されてないと暴走してしまうっていうのもさみしいものよね……」

下手に知識などが進化したためなのか、はたまた彼らの思考が問題なのか。

「…ま、他のところも同じような輩はいるみたいだし。

  というかよそはもっと問題おおきくなってたりするようだし」

実際に聞いたところでは惑星そのものをかき消す兵器なども開発されてしまった場所もあるらしい。

この場所とその場所はかなりかけ離れているのでそこの科学力ではここまでたどり着くことはできはしない。

しかし、知的生命体として進化した生命体はどうしてそのような思考になってしまうのであろうか。

それが悲しくて仕方がない。

中にはそんな思考をもたずに平和にくらしているものもいるらしい、というのに。

今歩いている道には一部のみに薄く切りそろえられた石が敷き詰められており、

段差などがないように舗装されている。

王都から離れた場所はまだそういった道の整備はできていないところも多々とあるが、

交通手段がほとんど馬車、もしくは馬のこの世界において道のよしあしはかなり重要。

中には飛竜、と呼ばれる種族に請い、契約を結び飛行手段を得ているものもいるはいる。

だがそういったものはごくまれにあたる。

しっかりと舗装されている道には草などは生えていない。

これらは草木の精霊と土の精霊達にそれぞれ【依頼】しているからに他ならない。

彼らはきちんと約束さえまもればそれぞれの場所にてその役割を果たす。

「さて、と。あ、みえてきた、みえてきた」

ゆっくりと歩く先に小さな村がみえてくる。

ちょっとした柵でぐるり、と周囲を囲まれたその村はこの世界ではよくある光景。

家の数は数十件にも満たない、小さな村。

こんな小さな村でも一応、表街道の道筋にあたるがゆえに旅人、もしくは冒険者などの足がかりとなっている。

「えっと。依頼主は、ククル村の村長から…と」

一応、うけている依頼書を再び確認。

この依頼書は依頼をうけたときに証明書、として発行される。

さらに説明するならば、ギルドにある依頼書事態を特殊な術により別の紙に文字のみを複製、したもの。

この紙には上から書き込みすることができないようにきちんと細工が施されている。

そしてまた、依頼を完了したときには依頼主からとある場所に拇印を押してもらうことにより依頼完了となる。

依頼によってはその場で報酬をうけとることもあるが、それは依頼内容にしっかりとかかれている。

つまり、ギルドでの支払いか、依頼者の支払いか。

前払い金がある、なし、そのあたりの細かなことまで依頼をだすときには求められる。

基本、何も書いてなければ、すなわちギルドのほうで支払いがなされる、とみなされる。

依頼主は依頼が完了した後に近くのギルド支部におもむき、その金額を支払えばいい仕組み。

簡単にいうならば依頼をするときにはある程度の手付金をはらっているがゆえに、

ギルドが一度は立て替え払いをしておく、という仕組みとなっている。

そのような仕組みをとっているのは、依頼をしてもうけるものがいなければ、

お金だけはらったのに誰も依頼をこなしてくれない、という自体を防ぐため。

「おや?こんな場所にかわいらしい女の子が一人で何か用事かい?みたところ冒険者かい?」

村の出入り口にあたるらしき場所に一人の男性がたっており、近づいてきたディアにと声をかけてくる。

「はい。ギルドから依頼をうけてきました」

「ほ~。では君はその若さで精霊の声をきくことができるのか」

村長がギルドに依頼をだしているのは村人全体が知っている。

だからこそおもわず感嘆の声を漏らす。

今回の依頼はどうしても精霊の声をきけるものでなければ遂行不可能。

ゆえになかなか難しい…とはおもっていたのだが。

しかも容易できる金額が金額。

ゆえにほとんどあきらめていたのも事実。

「まあ、一応。すいません。村長さんの家はどちらでしょうか?」

「ああ。はいって一番大きな屋敷だからわかるとおもうよ。あ、ちょっとまってて。

  お~い!ルカ!この子を村長の家に案内してやってくれ!」

ふとちょうど近くを歩いていたとおもわれる一人の少年を名指しし大声をあげる見張り番。

「何?カイおじさん?あれ?お客さん?めずらしいね~」

ここ最近、この村に立ち寄る冒険者などはまずいなかった。

ゆえにおもわずじろじろとその場にいるはずのない少女の姿をながめる少年。

歳のころはおそらく十かそこらくらいであろう。

くりっとした瞳に淡い青色の髪。

この世界において人族の髪の色や瞳の色はその当人が最も得意とする属性によってきまっている。

属性は自分で選べるものではなく産まれたときからきまっている。

それは母親の妊娠期間中にどれだけ自然の気をうけたか、によってきまってくる。

ゆえに特定の属性をもつ子供を授かりたい場合、それらの属性の強い場所に移動して生活することもある。

「こんにちわ。案内、お願いできるかな?」

そんなルカ、と呼ばれた少年の目線にあわせるように少しかがみ問いかけるディア。

見たこともないその髪の色と整った顔立ちにどきまぎしつつ、

「う、うん。わかった。お姉ちゃん、こっちだよ」

顔を多少あからめつつもディアを案内しようとするカイ。

「ルカ~。お嬢ちゃんが美人だからってへんなことかんがえるなよ~」

「おじさんっ!きちんと案内するよっ!さ、いこっ」

「では、失礼します」

にこっ。

そんなたわいない村人同士のほほえましいやり取りをながめつつもほほ笑みかえし、村にと入るディア。



村の規模的にはさほど大きくはないが、村の端にはちょっとした農牧がなされているらしく、

牛の声が村の中にひびいていたりする。

基本、放牧形式をとっているらしく、いつもは村の中にある柵の中に牛達はいれられている。

そして村の中心には水路がほられており、ちょろちょろと水の流れる音が響いていたりする。

ところどころに放し飼いの鶏が遊んでいる様子がみてとれるがそれが何ともほほえましい。

「ここだよ」

村をはいってしばらくいくと他の建物とは異なる大きな建物がみえてくる。

建物の形は王都の石つぐりのそれとは異なり、ここでは木で建てられたものが主流。

「村長~。お客さんつれてきたよ~」

ドンドン。

やがてその建物の前にくると扉をどんどんとルカが叩き大声で家主に呼びかける。

「なんじゃ。ルカ。そんなに大きな声をだして」

いつもこの少年が元気がいいのはわかっているがゆえに苦笑しつつも姿を現す。

おっとりとした顔に白いひげをはやしており、

いかにもどこかの御隠居、といった雰囲気を醸し出している初老の男性。

「お客さん」

「はじめまして。ククル村の村長。ギルドの依頼をうけてまいりました」

ぺこっ。

とりあえずでてきた人物に対してかるく挨拶。

「なんと!あの依頼をうけてくださったのですか!?いや、ありがたい。

   ルカ。御苦労じゃったな。まずはこんな狭い家ですが中にどうぞ。依頼の内容をお話ししますので」

「はい。失礼します」

とりあえず案内してくれたルカに改めてお礼をいい、村長に促されるままにディアは家の中にとはいってゆく――



「いやぁ。もう半分、あきらめかけていたのですわ」

ずずっ。

「いただきます」

ヒノキにて彫り造られた机の上に置かれたコップが二つ。

相手がコップを手にしてお茶をのみだすのをうけて、ディアもまたコップを手にとる。

この地ではお茶葉も生産しており、少し離れた位置に茶畑も存在している。

生産、といっても量は微々たるもので大量販売にまではいたっていない。

「それで、依頼内容は詳しくかかれていませんでしたけど。精霊達の声がきけるものが必須条件、とありましたが?」

詳しくは依頼主まで、という依頼であったゆえか、はたまた報酬金額がすくなかったがためか。

どうやらかなりの日数をギルドの中でほうっておかれたらしい。

つまりは誰もいままでうけるものがいなかったらしく、受付にもっていったところ、

もうすこしで依頼受付の期限がきれるので延長するかどうかを依頼主に確認するところだったらしい。

たしかに精霊達の声を聞けるものが必須条件、の割りに報酬金額は青1であった。

ゆえにほとんどの冒険者達が見向きもしなかったのだが。

何しろ依頼内容の詳しいこともわからない、依頼金もわずか。

しかも内容が精霊の声がきけるもの必須条件。

やっかいごとかもしれないのにそれでいて報酬が低すぎる、そう判断された結果見向きもされなかった。

「う。うむ。それがほんとワシらにはどうにもならんのじゃよ。

  ここから少し離れた場所に小さな森があるんじゃが…あ、森、といっても林みたいなものでな。

  それがあるときからいきなり中にはいれなくなってのぉ。

  その中心には泉があっての、まあ何かと頻繁に利用していたんじゃが……」

泉に家畜を連れていき水浴びさせたりもしていた。

しかし、ある日突然、森の中にはいれなくなった。

否、はいれるははいれるのだが、はいったとおもうと霧のようなものに包まれ、

そのまま気づけば元の出口に戻されてしまう。

「感の強いものは精霊達が何かを訴えている、とはいうんじゃが…どうにもできんしの。

  それで、ギルドに依頼をしたわけじゃ」

とはいえ小さな村の収入は限られている。

村人たちで話しあいどうにか集まったお金。

それが【青水晶貨ブルークリスタ】一枚。

依頼更新にかかるお金もないことから半ばあきらめているところに、ギルドからディアがやってきた。

「判りました。とりあえずそこの精霊達に話しをきいて。そして問題を解決、それでいいんですね?」

「おお。やってくれるか。いや、ありがたい」

「そのためにきましたし」

それに何よりそういう状況になっているのも気にかかる。

誰も傷ついたりしていないことをみても何かがあるのはわかるのだが。

直接いってたしかめたほうが実際に判りやすい。

「では、その森に案内していただけますか?」

「う。うむ。では準備ができしだい、案内するとしましょう。本当によろしくおねがいいたします」

「ま、できるだけのことはやってみます」

何が起こっているのか大まかのいくつかの予測はつく。

だけども歪みが発生している気配がないことから何となく原因は絞れるがそれを今あえていう必要性はない。

「さて…と。それでは、ご案内いたしますじゃ」

「はい。よろしくおねがいいたします」

とりあえずお茶のお礼をいい、村長に連れられて目的の問題の森まで移動することに。

周囲にたゆたう精霊達が何やら困ったような反応をとっているのが視てとれる。

村から離れあるくことしばし。

やがて視界の先にちょっとしたぽっかりと草原の中に位置している小さな森らしきものがみえてくる。

「あれが問題の森ですじゃ」

「わかりました。それでは私はこれからいってみますので。村長さんは村でまっていてください」

「よろしくおねがいします」

「ま、いってみないと何がどうなっているのかわかりませんし」

実際におそらく判らないものは調べてもわからないであろう。

…霊感の強いものがいればどうにかなったであろうけども。

そんなことを思いながらも、案内役の村長とわかれ、ディアは問題の森のほうへと足をむけてゆく。




どうしよう。

どうしたらいいの?

ねえ、なかないでよ?

――私たちの声、聞こえてないの……

――なかないで?迷い子よ……

森にはいると同時に聞こえてくる困惑した、それでいて戸惑いの【声】。

「やっぱり。迷子…か~………」

予測はしていたとはいえおもわずため息。

「…さいきん、こういった迷子おおくない?というか何やってるのかしら?導天使達は……」

おもわずつぶやくディアの言葉の意味はおそらく誰にもわからない。

導天使。

それは人の生死を案内する、といわれている伝説上の存在。

実際にはその存在は実在するのだが、人々はその存在を確認したことはない。

ゆえに、伝説、といわれているのだが。

そして魂は選別されあるものは冥界に、あるものはそのまま輪廻の輪へ、と振り分けられる。

この森にはいったとたん、出口に戻されていた、というのもあながちうなづける。

迷い子は基本、下手な扱いをすればその質が一気に変化する。

それに始め悪意がなくてもときとして他者を脅かす存在にも変化することがある。

それが【迷い子】。

「さて、と。行き場をうしなったまいごさんはどこにいるのかな~」

ディアの声に従い、ディアの周囲に様々な光の粒のような球が発生する。

――こっちです。

――こちらです。

――うれしい、お母さまがやってきてくれた。

――もう、あの子、大丈夫だね。

周囲に飛び交う光の球からはそんな【声】が語られていたりするのだが。

「どっちのほうの迷子かな?」

迷い子には二種類が存在する。

輪廻の輪の中にはいれなかったりした場合と自分がいくべき器の場所を見失ったもの。

冥界に送られる魂の迷子は今のところ発生していない。

そちらのほうはきっちりとそちらにいくまで案内役がつき従うようになっている。

そのまま精霊の子供たちに案内され、ディアは森の中をすすんでゆく。

どうやら今回のこの現象を起こしている原因となっている存在は、この森の中心にある泉にいるらしい。

迷い子にはその魂に安らぎと光を。

そうすることによりかの迷いは断ちきられ、自分のゆくべき場所へと移動することができる。

くすんっ。

くすんっ、ぐすっ、ぐすっ。

ここ、どこ?

ねえ?ここ、どこなの?

小さな、小さな泣き声がきこえてくる。

小さな泉のその一点。

小さな女の子が一人、その場にうずくまり泣いている。

特徴を示すならば少女の姿は全身が透き通っており、何も身にまとっていない。

その色も特徴的で淡い光のような一色のみ、で形が構成されている。

「はじめまして。迷子になっちゃったのかな?ん?」

周囲にはそんな幼子…迷魂を心配して精霊達がふよふよと飛び交っている様がみてとれる。

そんな中心にいる幼い姿をした【魂】に近づきゆっくりとはなしかけるディア。

かの【幼い魂】を守るために精霊達はこの森への侵入を拒んでいた。

汚れのない魂が染まらぬように。

『…だぁれ?ここ、どこ?ねえ、ここ、どこなの?』

わからない。

わからないこそ泣きたくなる。

自分は母親のもとでゆっくりとしていたはず…なのに。

あのあたたかなゆりかごはどこにいったの?

状況がわからないのだからもう泣くしかない。

「何かのハズミで器からとびだしちゃったのね。大丈夫、きちんとかえれるから」

ゆっくりとなきじゃくる魂をなでる。

この行為はおそらくはディアでなければできないであろう。

もしくは霊力のつよいもの。

それ以外の存在では魂に触れることすらかなわない。

「よく、ここまでがんばったね。だけど、もう、大丈夫……」

そっとなきじゃくる魂を抱きしめる。

それと同時、抱きしめられた幼子の魂がきょとん、としたような表情となり、

やがてぎゅっとディアの体にしがみつく。


――闇は安息。その安らぎと深遠に抱かれ魂は眠り、そして未来を照らす光に満ちて新たな生へと転化する。


「……おやすみなさい。そして目覚めたときには…あなたの生を大切にいきてね」

ディアの言葉とともに幼子の魂の周囲に光と闇が同時に出現し、それはそのままその子供の中にと吸い込まれ、

ふわっ。

腕の中、にこっと小さな少女がほほ笑むと同時、光につつまれその姿は解けきえる。

自分の行き先を見失っていた哀れな魂。

あのまま魂が自分のゆくべき場所にたどり着けなければ、母親は悲しみにくれることとなっていたであろう。

胎内にいるはずの子供に魂が宿っていない、など普通は思うはずもない、のだから……

「胎内から飛び出た迷い子…かぁ。ほんと、最近どんどん歪みがひろがってきてるわよね……」

ふぅ。

普通は滅多とありえない出来事。

しかし絶対にない、とはいえない現象。

「ま、仕事は解決したし。しばらくゆっくりとのんびりしてもどりますか」


先に子供を還したこともあり、詳しいことを知る必要性がある。

ゆえにその意識をこの場に同調させ

何があったのか確認してゆくディアの姿がしばし見受けられてゆくのであった――




さらり、と流した魂の迷い子編。こういうこともありますよ~という形。

ちなみに、この迷い子さん、後々、ディアにかかわってきたりします

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