光と闇の楔 ~伝道師:佐藤尚人~
今回は、ほとんどどちらかといえば、伝道師の佐藤尚人が幅をきかせてたり(自覚あり
ちなみに、これをうちこみしている最中、突発的短編?を打ち込みしてUPしてみました
き…きになるっ!
というか仲間に連絡しようとしたらものの見事に阻まれたっ!
つまり黙っているように、と念を押されていることに他ならない。
目の前にはかなりの人数がいる、というのにどうしても意識はそちらに向かってしまう。
…というか、まさか、お仕置き…ということは…ない…よな?
いや、ありえるかもしれない。
そうおもうと絶対に失敗というか無様な行動はみせられない。
そもそも、こういった【伝える】ことも自分達の存在意義の一つ。
…できうれば、今回はにこやかにマグマの中に放り込んだりしてくれないことを祈るしかない……
光と闇の楔 ~伝道師:佐藤尚人~
伝道師。
それは遥かな太古より今に至るまでの歴史を正しく伝える存在。
そして自ら死ぬことが許されない存在。
この世界の行く末を見守り続け、導くようにさだめられしもの。
道を正しく修正するもの。
彼らに関してはいろいろと言い伝えがのこっている。
彼らがいつからいたのかは誰もしらない。
だがしかし、かつて神々と接触をもった存在がいうには、
神々が誕生したときにはすでに存在していたらしい。
そういう逸話も残っている。
事実はおそらく伝道師達しか知りえないことなのであろう。
興味本位で深く追求しようとした存在達はなぜかこぞって記憶喪失になったり、
もしくは廃人同様になったり、極端に臆病になったり、とそれぞれ。
そんな彼らに対して、伝道師達はなぜか憐れみの視線を送っていたらしい。
何がおこったのかなどとはおそらく当人達しか知りえないことなのであろう。
ゆえにこそ、彼らに詳しく追及するような挑戦者はまったくいない。
それでも、伝道師が神々にも近しい存在、と思われているのは事実。
ゆえにこそ神々に出会うことはできなくても、一番身近な存在。
それこそが伝道師。
そんな存在が今、生徒達の目の前にいるとならば誰しも興奮しても仕方ない。
ないが…そんな当事者である伝道師はそんな興奮した生徒達の熱気よりも気にかかることがあり、
彼らの様子はまったく気にもとめていない。
「どんな話しをしてほしい、という話しは事前に聞いていなかったが。
こちらでテーマをきめて話しをしてもいいのですか?」
とりあえず今の現状が現状。
ゆえに確認をこめて今回の招待者に対して問いかける。
「はい。伝道師様にすべておまかせいたします」
いつもなら任せられても何を話せばいいものか。
そう彼…佐藤尚人は悩むのだが、今回に限っては別。
ナオトがそんなことを思っているとは露にも知らず、答えた側とすれば、
目の前に伝説ともいえる伝道師がいることに舞いあがり、
かの御方が何を我々に話してくれるのであろうか。
という期待感で満ち溢れていたりする。
「判りました。それでは、この世界の仕組みと成り立ちについてみなさんにお話ししましょう」
少しでも真実をしっている存在が増えれば今後の対策にもつながるであろう。
かといってあまり詳しいことまでは話せない。
しかし保険は大切。
そう判断し、話す内容を頭の中でまとめてゆく。
そんな彼の様子をちらり、とみつつ、
「それでは、今回特別講師として招かれた、伝道師を務めているナオト様の講演会を行います」
場を進行すべく、進行係りの役目をおったギルド員が言葉を発する。
それと同時にぴたっと再び会場内が静まり返り、全員の視線が壇上のナオトにとそそがれる。
こほん。
軽くせき込むようにして気合いをいれ、
改めてこの場に集められている生徒やギルド員達をぐるり、とみわたし、
「さきほど紹介をうけました。伝道師のナオトといいます。
このたびは、未来を紡ぐみなさんへ何か伝えてほしい、という要請をうけてやってきました。
どのような話しをすればよいのか、協会からの指定もありませんでしたので、
本日はこの世界の仕組みなどについて正確なことを話したいとおもいます」
ほぼ直立不動な姿勢でそんな彼らにと話しかける。
内心はかなりどきどきしているのであるが、そんな様子をみせればどうなるか考えるだけで恐ろしい。
この話題を選んだのには理由がある。
なぜか文献などには偏った知識しか乗っていない。
人は認めたくない種族なんだな、とつくづく思い知らされる。
いくら自分達、伝道師が真実を伝えても、
その事実はいつのまにかすりかえられて都合のいいようにと解釈されてしまう。
「まず、これだけはみなさん、覚えていてください。
自分の行動がどのような結果をもたらすか考えて行動するように。
これはかなり重要です。ただの快楽や興味本位で行動した結果、
取り返しのつかないことになることがあります」
そう、今の自分達のように。
「みなさんは、みなさんが住まうこの大地が、空間に浮かぶ球体、と認識していますか?」
大地が丸みを帯びている、というのは高い位置などからみた地平線にて誰でも理解はできる。
その問いかけに少しばかり首をかしげるもの、?マークを完全に浮かべているもの。
そして認識しているがゆえにうなづくもの、様々な反応をみせる生徒達の様子が壇上からでもはっきりわかる。
「この世界で今では通貨、として使われている【水晶貨】。
それに埋め込まれている青き球体こそ今みなさんが暮らしているこの大地の外からみた姿です」
青き水晶、とまでかつてはいわれていた惑星、地球。
当時、まだ普通の人として暮らしていた自分達はその価値がわかっていなかった。
それがあって当たり前であり、失ってはじめてわかった大切なもの。
ナオトにいわれ、それぞれが水晶貨をだしつつ天上にかざす生徒の姿がちらほらと垣間見える。
たしかにすべての水晶貨には【地球】の姿が埋め込まれている。
太陽の光などにかざすときらきらとそれはそれは幻想的なまでに美しくはえる。
「今から四億年前までは、人類はこの地をこう呼んでいました。太陽系、第三惑星、地球。と
これはニホン、という国で使われていた言葉ですが、他の国では、アース、ともいわれていました。
それ以外にもいろいろといわれていましたが、基本、皆同じ意味をもっていた、そうおもってください」
数多な命が生息してこその、命の球…ゆえに、地球。
そう表現していた者もいた。
いいえて妙だ、とそれをしったときには感心もしたが。
「しかし。その後の科学滅亡により、この大地は死滅しかけました。
そのとき、それまで自ら動くことをしなかった惑星の意思そのものが自ら動かれました」
それまでは自らの子供たちの自主性にまかせていた。
だがしかし、このままでは自分もまた消滅してしまう。
そう判断し干渉することにした【星の意思】。
「そして、世界は変わりました。それまで、この地上には天界や魔界、様々な世界は、お話し上。
空想上のものでしかなかったのですが、【世界】はあえてそれらを設定し、
そんな【界】にそれぞれの役目をあたえ、この【星】を管理させることになさったのです」
ざわざわ。
天界などが存在していない世界。
そんなことがありえるのか。
ゆえにこそ、それらが当たり前である今の存在達からしてみればそれは信じられない事実。
「【世界】はすべての【理】をつくり、そしてそれぞれの【意義】をも設定なさったのです。
みなさんは、どうして、光と闇がある、とおもいますか?光があるからこそ闇が認識できます。
逆に、闇があるからこそ光もまた認識できます。どちらがかけても、その認識はできかねますよね?
すべては表裏一体。そのことを目にみえる形で【理】として設定なされた世界…それが、今の世の中です」
すべては【星の意思】によって創られた。
それぞれの【界】自体も星の意思の代弁者、といって過言でない。
「例をあげますと。魔界、ですね。彼らの存在意義は、【生物】が発する【負】の心の浄化、です。
彼らはやみくもに生物を襲うわけではありません。きちんと理由があってのこと。
彼らは【心の闇】に反応するように、そう【創られ】ているのです」
そして、【喰らう】ことによりその肉体を浄化し魂を指定された場所に送る。
それが彼らに課せられた使命。
力あるものが弱者を虐げる。
その結果、世界が疲弊しないように創りだされたあらたな仕組み。
「共通した目的があれば人々は種族を超えて協力し合うことをまず考えます。
それもまた考えられた理の一つ、です」
そう伝道師たるナオトから説明されてもいまいちよく意味が理解できない。
負の浄化、というのはいったいどういう意味をもつのか。
それがいまいち把握しきれない。
「かつて、世界は同じ大地に住んでいる、というのに人々がいがみ合い、そしてその結果。
この大地に住まうすべての生きとしいけるものを死に至らしめる道具をつくってしまいました。
大地の恩恵も忘れ、そして自分達の欲望のままに行動したわけです。
しかし、今の世界には、それを止めてくれる方々がおられます。
道具などがあらたにつくられ、それに加護がうけられないばあい、その道具が仕様できない。
それが行き過ぎをとめており、かつての過ちを繰り返さないように念には念をいれられているのです」
加護をうけなけばたしかに道具はまったくただの置物にすぎない。
それが生まれたときから当たり前であった人々にはその意味することがよくわからない。
「…まあ、あなた方は産まれたときからこの【理の世界】でいきておられますから。
そういわれても、実感はわかないとはおもいますけどね。
しかし、今の私の言葉は頭の隅にでもいいので覚えていてください」
新たな【理の世界】。
そう、彼ら伝道師達は今の世界をよんでいる。
かつての地球をしっているからこそそう区別するために誰ともなくいいだした。
【人】は干渉せずにほうっておいたら何をするかわからない、とは【意思】の言葉。
すべてがすべてでないにしろ、たしかに自分達が自分達のすまう地を傷つけていたのは疑いようがない。
この世界においてもかつての科学的根拠は通用する。
実際に、炎を燃やすためには酸素が必要であり、息をすれば二酸化炭素も発生する。
しかし今のこの世界においてそれらを構成しているすべての元素や原子にも【心】が付け加えられている。
目にはみえなくとも、それらの意向に沿わない場合にはどんなことがあっても様々な現象は起こりえない。
さすがに普通の一般の存在達に視えるような形にはなっていないにしろ。
しかし、今をいきるものたちに、元素や原子といったかつての説明をしても意味不明。
そもそも、何をいっているのかすらわからない。
何よりもそれらを形つくるべく、かつてはなかった特殊な素粒子がこの地上には存在している。
そしてその素粒子には【役目】が与えられており、ある一定の理を反した場合、
その素粒子が対象物を言葉どおりに粒子と化してしまう。
瘴気などに冒された動物などが倒されたときに消滅してゆく現象がこれにあたる。
理論と理屈をしっていればその現象も理解できるが、
ほとんどのものはそんなものが動いている、などとは思わない。
余計な知識はさらなる混乱をうむ、そのことは歴史からして物語っている。
だからこそ、そこまで詳しくは説明しない、教えない。
あまりに詳しく教えすぎてそれらを追求しようとしてかつてのような破壊兵器を創られてはたまったものではない。
…もっとも、その破壊兵器すらをも暴走させるキッカケをつくってしまったナオトからしてみれば、
危険になりえるかもしれない知識をおいそれと教えるはずもない。
今の【世界の理】基礎となっている元が何なのかをわかっているのは彼ら、【伝道師】のみ。
それはかつて彼らがまだ【人】として生きていた時代、
様々な種族の中で言い伝えられていた神話や伝説。
それらを元にして今の仕組みは創られた。
新たに再生された大地に創られた者達はかつての記憶をもったものたち。
肉体は滅んだものの、その後のことを考えて【意思】がそれらの魂を止め置いておいたに他ならない。
その他の生物や植物に関してもまた然り。
そもそも、この大地にいきていた存在達の【記憶】のすべてはいいかえれば、【意思】の一部。
ゆえにその存在における構成もすべてはほんの一部にすぎない。
それらをあらたに構成しなおすなど【意思】にとっては当たり前にできることであり……
今現在、この惑星に存在している様々な魂は新たに誕生したものもいれば、
かつてこの大地にいきていたものたちもいる。
魂における【思い】がいろいろな理由で強い場合は、【冥界】にてその魂の記憶は浄化される。
魂の消滅事態、普通は滅多と起こることはない。
すべての魂がその【生】をより正しく生きるためにこの【世界の理】は存在している。
しかし、愚かなことにそういった事実をしってしまうと努力を怠るものがでてきてしまう。
必要最低限な知識の提供。
――それが、彼ら、【伝道師】に課せられている役目の一つ。
「おそらくみなさんには今、私が説明したことは完全に理解できないでしょう。
ですが、これだけ、は覚えていてくださいね。
この世界そのものは、すべて、母なる大地の意思の元にあるのだ…ということを」
内容と言葉を選んで一通り説明した。
少し多めに息をすいこみ、最後の言葉を紡ぎだす。
「さて。それではここからは質問時間にしたいとおもいます。
…みなさん、質問があればどんどん挙手をして聞いてくださいね?」
これもまた彼らの役目の一つ。
もっとも、あまり詳しいことは言えない、という事実もあるが。
質問があればしてもいい。
といわれても、相手は神にも近いといわれている伝道師。
ゆえに、はい、そうですか、という生徒はまずいない。
しばしちょっとしたざわめきが会場内部をうめつくす。
……げ。
ふと一人が手を挙げているのに気付き一瞬硬直してしまう彼の気持ちはおそらく誰にも判らない。
「…では、そちらの御方、よろしくお願いします」
つい敬語になってしまうのは誰も責められないであろう。
しかし、彼がそう敬語をつかった、というその一点は幸運にもこの場にいる他の存在は気づいていない。
すっと手をあげているのは一人の少女。
さきほどからナオトが意識していた存在。
「伝道師、という役割についてあなたはどう感じていますか?」
椅子を立ち上がりつつも真正面を見据えてその問いかけを紡ぎだす少女。
ふわりと風もないのに少女の髪が揺れたように感じたのは気のせいではない。
青い瞳がナオトをまっすぐに見つめている。
その言葉の意味はおそらくこの場では、少女とナオトしか判らないであろう。
「伝道師になるのはどうしたらいいのか、という問いかけを言葉濁してるのかな?」
「だけど、役割についての感想もたしかにきいてみたいよね」
「あの子、かなり根性すわってるね~。伝道師様に堂々と質問できるなんて」
などとそんな少女が質問したのをうけて他の生徒達がそんな会話をしていたりする。
直接会えることすらままならない、とまでいわれている存在。
それが【伝道師】。
ゆえに恐れ多くて直接質問する勇気は普通はもちえない。
…そう、普通、ならば。
「…今の、質問にお答えします。この役割は自分達に課せられたもの。
投げ出したりはできない役目なのは魂において身にしみています。
私たちの役目はかつての悲劇を繰り返さないために少しばかり手助けをすること。
――いつか、かつて私たちがおこなったことが起こりえないための役目。そう思っています。
みなさんはよく伝道師になるためにはどうしたらよいのか。という質問をされる方々がおられます。
ですが、伝道師、というのはあくまでも役目の名前。
…一度、なってしまえば二度と元に戻れない可能性がある、そう思っていただいたほうが正しいです」
いくら産まれかわろうとも。
魂に課せられた罰はそうそう消え去らない。
自分達の至らない考えや欲や好奇心。
そういったものから起こしてしまった行為に対しての罰。
遥かな時を経過してもその罪はいまだに薄れることはない。
自分達は罪人である。
そう説明したこともかつてはあった。
しかしその意味が曲解され幾度も伝わり、もはやもうそのことじたいをいうのはあきらめた。
何しろ神々ですらそう間違った解釈をしてしまっているのだからたまらない。
…まあ、彼らからしてみれば、自分達の名付け親、でもある伝道師を悪しく思いたくない。
というのがあるのだが……
「今ので質問の答えになっているでしょうか?」
内心びくびくしながらも、質問してきた少女にと問いかける。
「はい。ありがとうございました」
そのままかるく笑みをうかべそのまま席につく少女の姿。
「さて…他には、質問ありますか?」
ほっと旨をなでおろしつつも、改めて周囲を見渡しつつナオトはしばし問いかけてゆく――
「勇気あるね~。あなた」
席にすわり、両脇にすわっている別の生徒から声をかけられる。
「そう?だけど聞きたいことはきかないと。後悔しない?」
行動せずに後悔する、そういう存在達はざら。
しかしその後悔の念は後々ふくらみ、とりかえしのつかないことになってしまうこともありえる。
「でも、今の質問の意図は何だったの?」
「さあ。何でしょう?何だとおもう?」
ふふ。
そんな両脇にいる生徒達にかるく笑みを還して答えを濁す。
今の質問の意味はいたって単純。
彼らがきちんとその罪を認識しているか、このひとことにつきる。
彼らが起こした罪はあまりにも大きい。
下手をすればこの惑星だけでなく他の惑星そのものも巻き込みかねなかった罪。
十分に反省しているようではあるが、まだまだ償っている、とは思えない。
――ゆえに、まだ彼らをその束縛から解く気は…さらさら、ない。
一人が質問したのをうけて勇気をだした他の生徒達もまた質問を開始しはじめる。
しばし、生徒と伝道師による質問と回答、といった光景がこの場において見受けられてゆくのであった。
王都に伝道師を迎えた。
ということもあり、講演会が終わった後もいろいろとあった。
それまでは生徒のみに対しての講演だったが午後よりは国民にむけての講演会も執り行われた。
まだ入学したばかりの生徒達はその会場周辺の人々の誘導、に充てられた。
ゆえに本日の授業はなく、日がくれ各自それぞれ自らの拠点へと戻って行った。
ディア達も例外ではなく、のんびりと椅子にこしかけ寮の一室で目をつむっていたその矢先。
「……あら。いらっしやい」
来るのはわかっていた。
ゆえにこそ気配が出現したほうにむけて声をかける。
自分を探しているのはわかっていた。
だからこそ、繋いだ。
「もう少しはやく探そうとする、とおもったんだけどね~」
くすくすくす。
ゆえにこそこの場に現れた人影にむかってくすくす笑いながらも話しかける。
「…あいかわらず、ですね。…おひさしぶりです。御無沙汰しております」
確かに歓迎会がある、というのを断って用事があるから、と退出した。
気配が完全に断たれているが学生の席にいたことからアタリをつけてうろうろしていた。
刹那、足元が揺らいだかとおもうと、いきなりこの場にたっていたのだが。
しかしその程度のことでもはや動じることなどない。
声が投げかけられて呼び寄せられたということを瞬時に理解する。
「まあねぇ。とりあえず、座って。ナオト。あ、皆には私がここにいる、というのは秘密、だからね?」
くすくす。
何かいたずらを思いついたようなその笑みに逆らえるはずもない。
相手が多少混乱しているのがわかるからこそあえてこの場に呼び寄せた。
「……天界も魔界も大混乱になってますけど……?」
さらっといわれて、それでも知っているであろうがいわずにはいられない。
…もっとも、それに対して答えがかえってくる可能性などほぼないが。
「依存症が出始めてる以上、彼らにはしっかりしてもらわないとね。【楔】が緩みかけてる証拠だし」
世界のありよう。
そして、その世界の【楔】としている存在達。
目の前にいるのは昼間、ギルド協会が主体となり行った講演会の主。
伝道師、佐藤尚人。
いつも深くかぶっているフードは今はさげられており、その顔が普通にさらけだされている。
そんな彼に対し、ごく自然に振舞っている少女…ディア。
「それはわかっていますけど。…何も貴方様自らうごく必要は……」
自ら動けばそれは【世界規模】となる。
それがわかっているからこそ戸惑いは隠しきれない。
しかし、今回のことはそれほどまでのことである、とも自覚している。
だからこそ、ナオトの思いとすれば複雑きわまりない。
「あら?自分のことは自分で。私はそう、あなたたちにも教えた、わよ?」
それは他の子供たち、にもいえること。
そういわれればナオトとて言葉もない。
たしかにその通り、なのだから。
「…また、何かされる、のですか?」
「さあ…ね?ま、情勢によってはそう、かもねぇ~」
…どうやら確実に何かしでかす気のようである。
しかし…ナオトには、そんな目の前にいる少女の姿をしている存在を止めることなどは…できはしない。
深夜。
すでに人気のなくなった王国内の一角のギルド寮の一室において、
しばしたわいのない二人のやり取りがつづいてゆく――
「ねえねえ!昨日、ちゃんとねられた!?」
「私はねられなかった~!」
「ふっ。俺なんて夢の中に伝道師様がでてこられたぜっ!」
「「「え~!?ずる~い!!」」」
ざわざわ。
昨日の出来事の余韻がいまだに町全体を覆い尽くしている。
昨夜、他にも用事があるとかで、すでに招かれていた伝道師はこの町には滞在していない。
それでも彼らにとって雲の上と認識されている影響は確実に町全体を覆っている。
そしてまた、ディアの在籍するギルド協会学園のこのクラスにおいても…その雰囲気は健在。
「…なんかにぎやかねぇ~……」
おもわずそんなクラスメート達の姿をみてつぶやくディア。
ディアからしてみれば何をそんなに興奮する必要があるのであろうか、とうのがある。
「仕方ないんじゃないのかな?だってあの!伝道師様がみえられたんだし」
一人、騒ぎの輪の中にはいらないディアを気遣い声をかけてきているのは、
初日、ディアに話しかけてきた淡く茶色いウェーブ少しかかった髪とそれよりも少し薄い瞳をつ少女。
初日にフラウ、と名乗ったその少女もまた騒ぎの輪の中にはいっていない。
「かれらにサマづけいらないとおもうけどね。その役目がら」
「ディアさんってかわってるわね~」
初日から彼女は少し周囲と浮いていた。
正確にいうならばそこにいるはずなのに、いない、というか、いて当たり前…というか。
そんな雰囲気をもっているからこそ気になった。
そして昨日。
皆が躊躇する中、率先して質問していた目の前のクラスメート。
だからこそまたフラウは声をかけていたりする。
伝道師に対してものおじせず、かといって他者を見下したようでもなく。
傍にいて何だかとても心地がよい。
それは近くによればよるほどその感覚がつよくなる。
「それより。フラウさん。何か用?」
「え?あ、うれし~。名前でよんでくれるんだ。
ううん。ただ、皆が騒いでるのにディアさんだけが一人でまったりしてたから」
一度の紹介で名前を覚えていてくれたこともうれしくおもう。
「それに、ディアさんって精霊達に好かれてるでしょ?周囲の空気、違うもん」
「まあ、好かれてる、といえばそう、かもね~」
実際は好かれているという部類ではないのだが、どちらかといえば甘えられている、というほうが正しい。
「家の仕事がら、精霊達とは昔から付き合いながいんだ。うちの一族って。
ディアさんみたときからおもってたけど、そこまで自然と一体化してる人って初めてみたし」
近くによればよくわかる。
ディアの気配が自然のそれと完全に一体化している、ということが。
「まあ、職人とかは精霊の加護がなければどうにもならないからね~」
初日にて実家の家業を継ぐとフラウはいっていた。
そして店を経営するにあたり、品々には精霊達の加護がついている。
それを見極められるかどうか、もまた経営者の手腕の一つ。
「自然の気が多ければそれだけ加護を多くうけているってことなんでしょ?
何かこつとかあるの?」
「ん~。こつ、ねぇ。しいていえばすべての声に耳をかたむけるってこと、くらいかしら?」
いつも声は聞こえている。
悲鳴もあれば懇願もあり、感謝の言葉もあり声は様々。
「まずは、自然界の気を確実に感じられるようになること。そうすればおのずとわかるわよ」
カラ~ン、カラ~ン……
がらっ。
「はいはい。鐘はなりましたよ。みなさん、席についてくださいね」
授業開始の鐘の音とともに、教室の扉がひらき、クラス担任教師がはいってくる。
「はい。それでは、みなさま。おはようございます」
『おはようございます』
教壇にたち、クラスを見渡し朝の挨拶を担任と生徒が互いに交わす。
「はい。それでは、さっそく点呼を取りたいとおもいます。みなさん、元気よく返事をしてくださいね」
出欠席の確認。
しばし、その確認のためのやりとりが教室内に響き渡る。
「……さて。ナオトにはしっかりと口止めしといたけど……
ま、仲間達だけには連絡してもいいけど彼らにも黙ってるように、とはいっといたしね」
とりあえず彼らが知っていることにより不都合はない。
もしこちらの意見をきかずに行動したりすればどうなるのか。
それは彼らが身をもって経験しているはず。
それでもうっかりと口を滑らせる気配があったりすれば、【昏睡】させればいいだけのこと。
「とりあえずは、ここに通いつつ、世界情勢も視て回る、そのほうが無難よね……」
拠点はとりあえずできた。
かといって、最低でも一年、ここにずっといては意味がない。
かといって多々と姿を成すのも赴きがない。
ここはしばらく、学園生活とそして世界情勢の視察。
それらを同時にやってみるほうが効率的にも、暇つぶし的にも面白そう。
ディアがそんなことを考えている最中、やがて点呼が終了し、
「はい。それでは本日の授業を再開したいとおもいます。
本日の授業は、薬草学、です。みなさん、薬草学の教科書を出してください」
いわれるままに、それぞれが机の上に教科書を机の上に出し始める。
薬草学。
それはこの世界にいきるものにとってはまさに必需品、ともいえる知識。
様々な効果がある草花の効用を習い、そしてそれを把握すること。
そうすることにより、より生活の幅がひろがってゆく。
うまくすればその知識をもとに一人で生活してゆくことすら可能。
しかし、中にはそういった知識が完全でなく擬態している存在に命を奪われてしまうものもいたりする。
ゆえにこそそのあたりのことはしっかりと学ぶ必要がある。
病気を治そうと薬草をとりにいき…その薬草にたべられてしまったりしたのでは意味がない。
また、薬草をとってきたはいいものの、それが毒の成分を含んでおり逆に死を早めたりする。
そんなことがおこらないためにもきちんとした知識は必要。
ゆえに、一番世の中でしっかりとこの手の研究が進んでいるのも…また、事実。
のんびりとした学園生活がこれよりどうなるのか、すこし楽しみつつも空をみあげるディア。
その心のうちを知っているものは…おそらく、誰もいない……
次回からは普通の学園生活&冒険?がはじまります