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光と闇の楔  作者:
11/74

光と闇の楔 ~契約と特別講師~

今回は後半部分にて伝道師の尚人、登場!番外編の主人公!

彼には苦労してもらいましょう


「……あ~…面倒だなぁ~……」

先日の会話がどうしても脳裏から離れない。

そもそも、他の【場所】にいる仲間からも芳しい情報ははいってこなかった。

「それに意思がどちらからも姿をけしていれば…なぁ~……」

おそらくどうしてそのような行動をしたのかはなんとなくだが予測はつく。

最近、代替わりが近いことによる銀河系の内部における【理】が多少なりとも乱れている。

それによりこの惑星にも影響を及ぼしているのであろう。

ここ最近は以前とくらべ、勝手な行動をとる各界のものが増えている。

しかもそれらほとんどが【王】に判断してもらおうとする依存症に陥っていたようでもあった。

「ま、自分は自分の役割を果たすだけ、なんだがね」

いいつつも、ゆっくりと上空から大地へと下降してゆく一人の青年。

黒い髪に黒い瞳。

しかし全身を同じく黒いローブとマントで覆っているのでその容姿は覗きこまない限りわからない。

「さて。伝道師。鈴木尚人すずきなおとのお仕事の開始、だな」

生身で空を飛んで移動してきたその青年はそんなことをつぶやきつつも、

そのまま何事もなかったかのように王都に続く門をくぐってゆく――




      光と闇の楔 ~契約と特別講師~






テミス王国の首都テミスから数キロ離れた位置に存在している小さな丘。

丘、といってもちょっとした森のようになっており、

ここは魔の森、ともいわれ近づくものはあまりいない。

山、ともいえないちょっとした高さなのでほとんどのものが、丘、と呼んでいる。

その中ほどに問題の建物はあったのだが。

「でも、なんで魔の森の外に湖があるの?」

それも丘を下りてすぐの場所にあったりする。

それはかつてそこには町が存在しており、その街が消滅したときにできた窪みが湖になったものなのだが。

その事実は一般的には知られていない。

機密文書としての歴史書の中に記されているのみ。

それは禁術を行おうとした記録でもあるので

あまり公にできない内容であるがゆえにそういう処置がとられている。

誰しも好奇心、というものはもっている。

そのことをしり、万が一再び過ちを起こすものがいないように、との配慮をも兼ねている。

「まあ、新たな湖ができるのはそう珍しいことじゃないでしょ?」

事実、必要とあらば、自然界に請い願い、その願いが聞き届けられると精霊がつかわされる。

そしてその精霊の加護のもと、あらたな【場】がつくられることはしばし。

もっとも、それが私利私欲のためなどであれば願った時点で何らかの自然界からの罰が科せられる。

一般的な例は私利私欲目的をした存在に対してゾルディ、もしくは魔が襲撃を開始する。

魔の好物は存在達の欲望などといった感情。

その感情に支配された肉と魂は彼らにとってはあるいみ美味。

ゆえに勝手に地上界にでむきそのように仕向ける魔もいるにはいる。

だがしかしそういう輩は魔界の上層部にあたる存在達がきちんと処罰をかしている。

どうしても手におえない場合は彼らの【王】に対応してもらっているようではあるが。

「滅多にない、とは教えられてはいるけどね」

そうほいほいと願いをかねえていては努力を怠ってしまうのが目にみえている。

ゆえにどうしても自分達の手では無理、と判断された場合のみ、それらの【奇跡】は起こされる。

「そういえば、この森って、きたときとまったく雰囲気かわったわね」

ここにきた当初は昼間だ、というのに薄暗く感じていた。

しかし今は普通の森のように木々の隙間からは太陽の木漏れ日が大地におとされている。

「まあ、負の力は仲間を呼び込むからね」

害をあたえるしかない念にまみれた建物があったがためにこの森全体がその力に覆われてしまっていた。

しかし問題となっていた力を取り除いたことにより、この森は本来の姿を取り戻している。

「あ、みえてきたわよ」

ケレスの問いにさらり、と答えつつも、視線の先を指し示す。

そこには木々の間からきらきらと太陽に反射しきらめく湖がうっすらと確認できる。

「…み…湖の精霊…か……」

精霊、という存在は人の身からすればかなり崇高なる存在である。

ゆえにこそ緊張せずにはいられない。

精霊の怒りを買い、不幸になった存在は数知れない。

そういったことを知っているがゆえに緊張せずにはいられないケレス。

「ま、かたくならなくても。気楽にいきましょ」

話しているうちにやがて森を抜け、湖のふもとにとたどり着くケレスとディア。

きらきらと太陽が湖面に反射し、ときおり魚の跳ねる音とともに水が跳ね上がる様子が見て取れる。

二人がいる位置においては背後の木々が湖面に写り込み、ゆらゆらと木々が揺らめくように垣間見える。

「さて、と。ついたみたいね。とりあえず、契約の儀式をする前に、ここの精霊に願わないとね。

  いまだにまだ契約したことがないっていってたけど、とりあえずやってみてくれる?

  もし私にわかる間違いがあるのなら指摘できるし」

大体の予測はつくが横を振り向きつつもケレスに話しかけるディア。

「え。あ、う、うん」

ここまできたらやるしかない。

ゆえにこそ、すっと両手を重ね合わせるようにして祈る格好をとり、

そのままその場にゆっくりとしゃがみこむ。

「我、火の眷属の加護をうけし血脈のものなり 我はここに願う 儀式の許可を今、ここに」

両足をついて正座のような格好をしつつも、手をあわせて祈りをささげる言葉を紡ぎだす。

本来ならばこのとき、【神聖語】ともいえる言語をつかえばより確実に効果はある。

ということは知ってはいるが【神聖語】は意味と、そして言葉がきちんと一致していなければ発動しない。

つまり、少しでも解釈などが間違っていればそれだけで何事もおこらない。

ゆえに、大概普通の言葉で【願いの言葉】を紡ぎだす。

精霊などによる何らかの加護をもつ属性をもっている存在は必ずそのことを相手に告げる必要がある。

自分はあなたに危害を加えるつもりはありません。

という意味合いをこめて自身のもつ力を先に示す意味合いをもつ。

しかし、やはり、というかいつものごとくに自らの周囲に魔方陣らしきものは一つも発生しない。

もしも願いが発動したのならば周囲に陣が浮かび上がる。

いつものこととはいえやはり何ごともおこらない現象を目の当たりにすれば哀しくなってしまう。

自分ははっきりいって才能がないのではないであろうか。

ここ数年はそんなことすら本格的に思ってもいたりする。

それでもそれ以外の才能だけは誰にも負けまいとして様々な知識だけは身に付けたつもりではある。

「…あ~。ケレス。あなた、何に対して願ってる?」

実際に願いの言葉を紡ぎだすケレスの姿をみて懸念が確信へとかわるディア。

一応確認のために一番【儀式】における大切なことをきいてみる。

「何…って。もちろん、天界に対して」

何をいっているのだろう。

そんなことを思いつつも、ディアの問いかけに対して当然のようにとこたえるケレス。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・やっぱし・・・・・」

どうも根本的なところが間違っている。

天界に対して願っても何もおこるはずはない。

そもそも、天界と地上はたしかに繋がってはいるが自然界における様々な事柄を統治しているのは精霊達。

ゆえにこそ、きっぱりいいきったケレスの言葉におもわず脱力してしまうのは仕方がない。

「天界と自然界はまったくの別もの。この地上における自然を治めているのは精霊王よ」

精霊王、ユリアナ。

彼女を筆頭にして様々な精霊王達が存在し、さらにその下に個体名をもたない精霊達が存在する。

天界における自然などは天界に生活している精霊達が創りだしている。

つまり、それぞれにそれぞれの役割がありきちんとかれらはその役割を分担している。

そのことになぜか人々は気づきにくい。

「精霊王。もしくはこの世界そのものに願わないと。ちなみに、天界はあくまでも天界であって。

  世界の一部にすぎないんだから、天界がかかわる願いの儀でないかぎり願っても意味ないわよ?」

もっとも、世界そのものに願われてもいちいちそんな【声】をきいていたらどうにもならない。

だからこそ、各分野においてそういった存在達がいる。

「え?天界が世界の中心、なんでしょ?」

「中心?違うわよ。この世界そのものが中心であり。

  天界はあくまでもその世界の中の一部にすぎないの。それは魔界や他の界においても同じこと。

  そしてこの地上で自然界ともいえる現象を治めているのは精霊達、つまりは精霊王よ」

そして精霊達は様々な場所の守護をも兼ねている。

もっとも、さらに詳しくいうならば、

この【世界】に関してでいうならばこの【世界】が中心なわけであり、

太陽系規模でいう中心はあくまでも太陽が世界の中心となる。

そして、太陽系をも抱擁する星の海単位で考えるとなれば中心は銀河の中心。

すなわち、【マァト】が治める場所となる。

今をいきる存在達は【外】にでる術をまずもたないのでそこまで詳しく説明する必要性はない。

だからこそ簡潔に説明する。

「え?だけど、天界には神々がおられて……」

「……神々をつくりだしたのもまたこの世界。そして精霊を創りだしたのもまたこの世界、よ?

  この世界がなければ彼らは存在すらしていない。だから天界に祈っても意味はないの」

なぜか、神、というだけで万能、と思い込むらしくほとんどのものがそういった勘違いをしているが。

しかし、術をつかう存在がそんな勘違いをしていては、

正確な本質がつかめないどころか間違った力の使い方をしてしまう。

それでも思い込み、というものは恐ろしいもので、誰しもその思い込んでいる事柄が間違っている。

と認識しようとはしない。

「まあ、だまされた、とおもって。天界に祈りをささげるのでなく。精霊に対して願いをささげてみて?」

「……まあ、どうせ今までいくらやっても成功しなかったんだから、ダメもとでやってみるけど……」

天界が世界の中心ではない、といわれてもピンとこない。

しかしいままで天界に祈りをささげても何も現象は起こりえなかった。

幼いころから今のいままでずっと。

だからこそ、ダメモト、とばかりにその意識を切り替える。

ゆえに再び目を閉じて祈りだす。

半ば信じてはいないがやらないよりはまし、という気持ちで……



懐かしいとても温かな気配。

いつもは常に傍で抱かれているような感覚がより強く感じられた。

そしてそれに合わせて感じるのは何かを願う【心】。

その心は愛しき気配の近くから感じられる。

ゆえに意識を外にとむけた。

たゆたう身にて外を視るのはかなり久しく行っていない。

周囲を【視】てみればどうやら湖面の近くに二つの人影らしきものが見て取れる。

一人は何か願いの儀式のようなものを行っている。

どうやら人間の少女が先ほど感じた【心】の持ち主なのであろう。

そして、その傍にたたずむもうひとつの人影。

人、の姿はしているが……

「……Est il pouponnez?」

間違えるはずがない。

周囲の自然とまったく同一の気配をもつ存在などいるはずもない。

おもわずつぶやくその言葉がきこえたのか、ゆっくりとその手を口元に充てているのが視てとれる。

このまま姿を現さないわけにはいかない。

おそらく何かの意味があるのであろう。

口元に手をあてているのをみれば黙るように、との指示のはず。

ゆえに意識を表にむけて、自らの意識そのものを実体化し湖からその姿を現すことに――



「私を呼びましたか?人の子よ。私の名前は、クロエリア。この地を守護する湖の精霊」

いきなり、といえばいきなりのことで驚いた、というより他にはない。

願いをむける意識をかえただけで体全体が温かな光に包まれたような感覚をうけた。

その直後、手前のほうから聞こえてきた静かな、それでいて威厳にあふれた声。

「……嘘……」

目の前の事実が事実だと信じられない。

ゆえにおもわず茫然としつつもつぶやくケレス。

茫然としているケレスの目前には湖の上にふわり、と浮かぶ水の羽衣のようなものを纏っている、

一人の少女が浮かんでいるのがみてとれる。

見た目の年齢はおそらく十前後であろう。

しかしその肌も体もすべてがどうみても水で形成されており、どうみても人、でないことを物語っている。


――湖の精霊。


目の前に浮かぶ人の形をしている存在は確かにそういった。

ゆえにこそ信じられない。

そもそも、声が聞こえることは多々とあってもその姿を【他者】にみせるなど普通は考えられない。

ゆえに茫然としてるケレスは気付かない。

ケレスの背後にほほ笑みながら、

そっとその口元に手を当てて人差し指を突き立てているディアの姿があったりするのだが。

目の前でいまおこっている現実がつかみきれないほどに確実にケレスは動揺していたりする。

「ほら。ケレス。願いがあるんでしょ?しゃきっとしないと」

くすくす。

ぽんっといまだに半ば茫然としそのままの姿勢で固まっていたケレスの肩ほぽん、とたたき声をかけるディア。

「人の子よ。願いの心は届きました。儀式の許可を、ということのようですが。

  加護の儀式を願うのですか?」

みたところ、火の加護をうけている一族の人間の子供のようではあるが。

いまだに精霊との加護の契約を結んでいないのは一目瞭然。

そのことに対してふと疑問に思う。

そもそも、あの御方がいるのならば簡単にしていても不思議はない。

ないが、それをしていないところをみると何か理由があるのであろう。

そう即座に判断し疑問を打ち捨てる。

そして、黙っているように、と動作で示されている以上、

目の前の人間の少女に疑念を抱かせることなく対応しなければいけない。

ゆえにいつもとる口調で、儀式を行っていたケレスにと問いかける。

「え、あ、は、はい!」

もっとこういう場合、願う言葉はある、というのは頭ではわかっている。

理性ではわかっているが混乱し、きちんと働かない思考ではそのことに思い当たらない。

ゆえに正直な簡潔な言葉を紡いでいるケレスの姿。

「では、私があなたに水の加護を授けましょう。あなたに水の恵みと加護があらんことを……」

そんなケレスに対して、湖の精霊が言葉を発するとほぼ同時。

ケレスの周囲に青い光があふれだす。

「L'arriere Kuroe.Difficulte(クロエリア。御苦労さま)」

そんな彼女…湖の精霊クロエリアに対してディアがねぎらいの言葉を紡ぎだす。

何かディアがいっているように聞こえるがその意味はケレスにはわからない。

光はやがてケレスの体内に吸い込まれるようにときえてゆき、

やがて何事もなかったかのように光は収まってゆく。

「私はいつでもここにいます。何かあればまたおいでなさい。人の子よ。

  ……Merci pour mere, mots」

滅多に直接あえる存在ではない。

ゆえにこそいまだに茫然とし意識がままならない人の子の様子を確認したのちに、

ふかくその場に頭をさげる湖の精霊クロエリア。

自分の身に何がおこったのか今いち理解できていないケレスはそんな精霊の様子に気づかない。

否、気づけない、といったほうが正しい。

おそらく人と行動を共にしている以上、あまり深く追求すべきではない。

ゆえにこそ再び頭をさげて、

「では、私はこれで」

いってそのまま、その姿の形成をとく。

それと同時、水の塊に一瞬のうちに変化し水は何事もなかったかのように、

ぱしゃっ。

音とともにその形跡を跡形もなくかき消してゆく。

あとには状況理解ができず、

茫然とどこか現実から離れた場所に意識をとばしてしまっているケレスの姿が

しばしその場においてみうけられてゆくのであった……




ぼ~……

「大丈夫?ケレス?」

いまだに夢見心地。

ゆえにこそ苦笑しつつも問いかける。

「え?あ…え~と……」

「ほら。しっかりして。クロ…でなくてここまで送ってもらったのは判ってる?」

何だか信じられない。

湖の精霊と直接あってしかも加護の契約までしてもらえた。

なんだか夢をみているよう。

意識がどこか心あらずであったのは間違いようがない。

「…え?あ、あれ?私、いつのまに戻ってきてるの?」

ふと気づけばいつのまにやらテミスの町の入口にとケレス達は立っている。

「どこまでぼ~としてたのかしらね。ふふ」

いいつつも、すっと町からでて少し離れた場所を流れている川をそっと指し示す。

それだけでなんとなく予測はついた。

おそらくは、あの湖の精霊が水を通して自分達をここまで送ってくれたのであろう、ということに。

だけどもそのあたりの記憶がテミスからしてみればあやふやで、

何がどうなったのかいまいち理解しきれていない。

「ほら。もう日も暮れかけてるし。ギルドへ急ぐわよ。状況の説明が必要、でしょ?」

「え、あ、う、うん」

何か今日はいろいろとあった。

「依頼はきちんと報告を終えるまでが仕事。これは何においてもいえることよ」

「わ、わかってるってば」

いわれなくてもわかっている。

わかってはいるが…もうすこしこちらの動揺も察してほしい。

何しろ姿を形勢できる精霊に直接会えた。

姿を自力で形勢できる精霊はかなり力があるといわれている。

しかも固有名詞をもっていた、ということは精霊の中でも実力が測れる、というもの。

上位精霊に属していないであれども、おそらく、中級精霊には属しているであろう。

そんな精霊に加護を直接与えてもらえた、というその事実がいまだにケレスの中で信じられない。

ケレスの心の葛藤はわからなくもない。

だからこそおもわずほほえましく見つめるディア。

「さ、いきましょ」

ほほえましく身守る視線をむけながら、ケレスを引き連れ、

依頼をうけたギルド支部へとディア達は報告のためにと足をむけてゆく――



「そうですか。【呪】の種でしたか……」

ここで間違いを指摘しても意味はない。

そもそも、そのように人々の中で認識されている以上、別に問題はない。

呪闇カオス、と詳しく説明すればおそらく大混乱になるのは請け合い。

だからこそ、【呪】の種が発生しており、

ゆえに屋敷が再生していた、とそのあたりはごまかしをかねて説明している。

【呪】ならば人などが消えてもおかしくはない現象が起こりえる。

呪闇カオス】の発生は、時として町一つのみこむほどの被害を生み出すことがある。

そんなものをどうやって浄化したのか、ときかれれば目立つこと請け合い。

ゆえにただの【呪】として報告している。

捜査員が事後確認のためにむかってもおそらく真実は判らない。

嘘はいっていない。

事実をきちんと説明していないだけ。

いまだに何やらぽや~とした感覚が抜けないケレスの様子をみて、呪に充てられたのであろう。

そう勝手に判断しそれ以上は突っ込んでこないギルド受付の職員。

受付にことの顛末などを説明したのはディア。

ディアの説明はたしかに筋がとおっており、普通ならば疑いようがない。

そう、普通に考えれば…の話しだが。

よもや学生が国家危険視レベルの【呪闇カオス】をどうこうできる、などとは嘘でも思うはずもない。

「とりあえず、確認のために捜索隊が向かうことになるとおもいますが。

  そのあとで成功報酬は支払われることとなります。たしかお二人は学園の生徒でしたね?」

一応、ギルドの身分証にその旨が記載されている。

「まだ完全に生徒、ではないですが。まだ諸費用を支払ってないもので」

少し遠慮勝ちにいうそんなディアの台詞に、

「なるほど。それでこのたびの依頼、ですか。それでは今回の報酬で学費を支払われる予定ですか?」

「え。あ。はい。私も彼女も今回の報酬で一年分を支払うつもりではあるんですけど……」

そのことはこの依頼をケレスからきいたときに一応確認している。

ゆえにこそケレスの変わりに説明するディア。

「それでは、こちらのほうでそのあたりの手づづきは行いますので。よくあることですからね。

  もっとも、一年分の学費を一気に…というのはあまりおられませんよ?」

普通ならば分割払いして学費を支払う生徒が主。

今回のような破格ともいえる成功報酬はかなり珍しい。

この依頼をみつけてきたケレスはあるいみ幸運だった、といえなくもないが。

だがしかし、相手が相手でもあった。

報酬につられてアレに飲み込まれていた存在は一人や二人ではなかったというのをディアは知っている。

「では、それぞれに白水晶貨ホワイトクリスタ五枚づつ支払うことになりますね。

  寮のほうへ結果が出次第をいれておきますので。そのときに報酬を取りに来てください」

依頼を達成したからといってすぐに報酬が支払われるわけではない。

特にこのたびのような調査目的に対する依頼ならばなおさらに。

普通の依頼ならば事後確認は必要ないのだが、

このたびの内容が内容でもあるだけに慎重をきわめているらしい。

慎重にならざるを得ない理由はギルド側からもあるのだが。

何しろこの依頼をうけた冒険者たちが…今まですでに七名も行方不明になり、

そして数名の死亡が確認されている。

かろうじて闇から逃れられたものもまた、間近にてかの【気】をうけたことにより、

肉体がそのまま浸食されていき、瘴気によって肉体そのものが朽ち果てた。

その魂はそのままひきづられるようにかの一部となっていた。

学生も引き受け可能な依頼レベルにしていたギルド側はそういった細かな事情を知らなかった。

もっとも、知っていたら国をあげて問題に取り組んでいたであろう。

「わかりました。では手続きのほう、よろしくおねがいします。ほら。ケレス、かえりましょ?」

「え?あ、うん」

ディアの説明を横できいていたが理解できない専門用語がかなりでてきていた。

ゆえにあっけにとられたのも事実。

「ディアって…博識、なのね」

だからこそそんなことを言わずにはいられない。

そもそも、儀式に関しても、天界でなく世界、もしくは精霊に願うなどとは想像もできなかった。

「ま、いろいろと情報ははいってくるから」

どこから、とはいえないが。

その気になれば情報程度ならばこの世界であるかぎりディアに判らないことはない。

「とりあえず、寮にもどりましょ。…寮の片づけも必要だし…ね」

「あ…そういえば、そうね……」

片づけなども自分でやらなければいけないのをおもいだし思わず沈んだ声をだすケレス。

まあ、必要最低限ともいえる家具がそのまま部屋にのこっていたのが不幸中の幸いといったところか。

前の住人のお下がりとはいえ金銭的に苦しいことにかわりない。

だからこそ、すでにその持ち主がいないのであればありがたくつかわせてもらおう。

そうケレスとしては割り切っている。

互いにそんなやり取りを交わしつつ、二人はギルド寮へと戻ってゆく……





ざわざわ。

「はい。みなさん、静粛に」

今日は朝から全校生徒が集められた。

協会が誇る巨大な施設、複合施設。

その中にある収容人数は五人超えくらいまでなら余裕ではいるほどの部屋。

いつもはここに様々な運動用具が並べられているのだが、今日はそれらすべてが片づけられている。

学校に出向いたところ、全員集合するように、との通達があった。

ゆえに、今現在で【学園】に通っている生徒はこの場に全員やってきている。

もっとも本日休んでいたり、またまだきていないものなどはこの場にはいないが。

この場に集まった生徒の数はおよそ百八十名。

この学園の特徴として何も朝から授業をうけなくてもよい、というものがある。

つまりは学びたい選択科目のときだけ通学する、という手もつかえる。

そういった存在達は大概何かの他の仕事などをもっていたりするのだが。

そういう存在達のことを考えてこの仕組みが取られている。

声を響かす魔道具を仕様しこの場にいる全員に超えが聞き取れるように注意を促す声が聞こえてくる。

「今日はみなさんに重大なお知らせがあります。

  このたび、以前から申請していました、特別講師が来られることが決定いたしました。

  ゆえに本日の授業はその特別講師による緊急授業となります。

  みなさんにはこれから、それぞれ自分が座る椅子を用意していただき会場作成を行ってもらいます」

つまり、どうせ座るのは生徒達なのだから、生徒自身に椅子を並べさせよう、というもくろみ。

たしかに別の部屋に椅子が安置されているのは知っている。

いるが生徒を動員してまでする必要性があるのだろうか?

そんなことを思った生徒が多数いたらしく、何ともいえないざわめきが部屋全体に広がるものの、

それにはまったくきにもとめず、

「申請が通りましたのは、みなさんも御存じの、伝道師様ですっ!」

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

次に紡がれた言葉に、一瞬、し~ん、と会場内部が静まり返り。

そして。

『えええええええ~~~!!??』

次に驚愕の声が部屋全体を覆い尽くす。


伝道師。

その言葉をしらない存在はこの世界ではまずいない。

神々の代行者だの、世界の代理人だの、あげくは聖なる具現者、など呼び方は様々。

伝道師は神々にすら対等に言葉を交わせる立場にある、という噂すらある。

事実、そうなのだが。

つまり、普通の存在達にとってはまさに雲の上、否、神様的存在。

それが伝道師。


「さあ。みなさん。伝道師様のお話しをきくために、みなさんで会場を作成しましょうっ!」

『うぉ~~!!』

「……なんか、ここまで騒ぐ必要はないとおもうけど……」

おもわずそんな生徒達の様子をみておもわず引いてしまうディアの気持ちはおそらく間違ってはいないであろう。

そもそも、いつのころからか彼らの伝承が誤まって伝わっていたのは知っている。

知ってはいるが…

ここまで勘違いしているということに、実際に視るのと知るのとではかなり差があることを改めて認識する。

冷静なのはディア一人のみでその他の生徒達は嬉々として指示されたとおりに動きだす。

「……とりあえず、自分の椅子くらいはもってきますか……」

何もしないと逆にどうやら目立ちそう。

ゆえにため息をつきつつ、ディアもまた椅子が収納されている部屋へと足をむけることに――



協力すれば大きな会場も短時間で完成する。

それはまさに協力することの大切さをしっかり物語っている。

一刻もしないうちに会場の準備は整い、それぞれ学年、そしてクラスごとに別れて席にとついている。

生徒達の視線は段差が一段高くなっている本来ならば舞台演説などに使われる場所。

時には演劇などにも使われるが。

そこに置かれた一つの教壇にとそそがれている。

「それでは、本日、はるばるかなたからおこしくださいました。伝道師様の登場ですっ!」

わ~~!!

盛大な拍手と歓声。

そんな様子を舞台の端からながめて、いつもながらかるくため息をいている一人の男性。

いつも深くかぶっているフードは今は外されており、ローブのみを纏っている姿をとっている。

その黒い髪と黒い瞳。

歳のころならば

そして黒いローブが彼その存在を異質の存在かのように逆にその存在感を引き立てている。

毎度のことながらこの扱いにはまずなれない。

そもそも真実を教えても信じてもらえない、というのはこれいかに。

もう説明するのも、誤解をとくのも疲れきった。

ゆえにもう疲れることはしないことにした。

ギルドの関係者の案内をうけ、ため息をつきつつも、それでいて役目は役目。

そうわりきり、そのまま舞台の端からその中央に置かれた教壇へと進んでゆくその男性。

その姿をみて、さらに歓声がひときわたかく響き渡る。



ふと、何となく気配を感じた。

それはほんとうの、ちょっとした勘というか慣れ、というか。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

おもわず目をぱちくりしてしまうのは仕方がない。

絶対に。

しばしその場に硬直する伝道師、と紹介された男性の目には、

あきらかにここにいるはずのない存在の姿をみて完全に固まってしまっていたりする。


そんな彼の様子に気づき、

「くすっ」

小さく笑い声を洩らす。

どうやらこちらに気付いたようね。

そんなことをおもいながらも思わず笑みがもれるのは仕方がない。

しかしこんな場で叫ばれるのは困りもの。

ゆえに、右手をかるくあげつつも、左手を口元にもっていき人差し指を突き立てる。


……ここ、ギルド協会学校の生徒の集まり…だったよな?

だったよな?な?

誰にともなくおもわず自問自答。

しかし、視線の先にはいるその姿は間違えようもなく、というか雰囲気からして絶対に間違いようがない。

相手もこちらに気づいているらしく、

しかも動作で黙っているように、と指示をだしてきていればもはや疑いようがない。

しかもかるく手を振っていたりするのだからたまったものではない。

つまり確実に自分の感覚と勘、そして考えが間違っていないことを明確に物語っている。

な…なんだってこんなところに【意思】がいるんだぁぁ!?

おもわず表情にはださないものの内心、驚愕の叫びをあげる彼の気持ちはおそらく間違ってはいないはず。

そんな彼の動揺と混乱など知るよしもなく、

「こちらの方が今回、我らの呼びかけに応じてくださいました。伝道師の一人。ナオト様です」

ナオト、と呼ばれた男性が動揺しているのにまったく気づくことなく生徒達にむかって説明する職員達。

「…天界、魔界から消えたとおもったら……」

先日の仲間との会話はどうやらあながち間違ってはいなかったらしい。

ゆえにおもわずぼそっとつぶやく彼の気持ちは

おそらく、事実を知る存在からすれば間違ってはいないであろう。

・・・あとで、きちんと説明をもとめるっ!

そう心に強く決意し、

「ええ、と。ただいま紹介に上がりました。とりあえず伝道師をしています、ナオトと申します」

かなり動揺しつつもその動揺をおしころし、いつものようにとりあえず始まりの挨拶を紡ぎだす。

声が震えていないのは長年の経験のたまもの、といえよう。

伊達に四億年以上生きているわけではない。




伝道師。

今はいつのまにやら噂が一人歩きしゆがめられた事柄が真実として一人歩きをしているものの、

その本質はかつて過ちを犯した人々の慣れの果て。

過去の記憶をもち、そしてこの世界の【いきとしいけるもの】達が再び過ちを起こさないように導く役割をもった存在。

が、そんな真意をきちんと把握しているものは…ほとんど、いない……








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