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賑わう街の中をオレリアに引かれながら歩く。道の横には多くの店や屋台が並んでいる。
「着いたよ」
きょろきょろと街を見回しているうちにいつの間にか目の前まで来ていたらしい。装備を買う店は屋根から煙が出ており、金属を叩く音が中から響いている。
「ここが?」
「うん。街の鍛冶屋の一つ。腕はそこそこだけど、金さえしっかり払えば私でも客になれるから重宝してるよ。足元も見られないしね」
中に入るとむわりとした熱気に包まれる。奥のカウンターには一人の女が座っており、入ってきたシン達を見つめていた。
「あんたか…。人間種を連れているとはな」
「どーも、今日はこの子の装備を見繕ってほしくてね。基礎的なやつでいいよ」
「金は?」
「私が払う」
女はため息をつくと、シンの身体を観察し始める。
「素人。戦いなんてやったこともない体つき。体力も人並み程度にあるかないか。鎧はだめだね。適当なコート着て、急所を守る胸当てがいい。武器は…扱いやすい槍がいいんだろうけど…その腕じゃ重いか…次点の剣だね」
ブツブツと呟きながら店内を歩き、次々に店内の商品を集めていく。5分ほどで一式が集まり、カウンターの上に置かれた。
「こんなもんだろ。初心者セットってやつだ。そいつならこれで十分だろ。全部で金貨5枚」
「はい。これお金。早速着させていいかい?」
「好きにしな。着替えるならいつもの横の部屋で着させろよ」
「ああ」
オレリアに促され、着替えのための部屋にはいる。
「なんで、オレリアも居るんだ?」
「装備のつけ方、わかるの?」
「……頼む」
「ふふん、お任せあれ」
彼女はにんまと笑うと、シンの装備を手伝う。胸当てや剣を吊るすベルトのつけ方など、知らないことは多い。15分ほどたってようやく装備を身に着けたシン達は部屋の外に出る。
「…さっきの珍妙な服よりは遥かに冒険者らしい
「そうか?いや、そうなんだろうな」
「ああ、少なくとも無力でカモな少年からは卒業したな」
そう、店員の女が肩をすくめながら言う。女曰く、武器もなく、常識もない若い少年など食い物にされるだけなのが道理。少なくともそこからは脱することができたらしい。
「そんなに危なかったのか…」
「正直かなりね。使いつぶされて奴隷にされるのがオチって感じだったよ。じゃ、ようやく装備も整ったし、ギルドにいってみようか」
「ギルド?今日は買い物の日じゃなかったのか?」
「一番の目的は終わったからね。明日の仕事を確保してから行こう」
シンが首を傾げると、オレリアはそう答えて再びシンの手を握る。その動作に店の女は一瞬、目を細めたが何も言わなった。
「なるほど…分かった」
「じゃあ行こうか!」
オレリアに手を引かれ、シンは店を出る。誰もいなくなった店のなかで、女は小さくため息をついた。
再びギルドにやってきた。まだ、昼過ぎの時間のせいか、受付にも酒場にも人がいない。オレリアは張り紙の少ない掲示板の前に立ち、依頼を吟味し始めた。
「んー、これは…報酬が割に合わない。これは…怪しいな。で、こっちは…あの依頼人か。受けるだけ損だな。……シンが初めてだし、これにするか」
そうやって剥がしたのは、薬草採取の依頼。近くの森の中で、特定の薬草を採ってくるものだ。期限は3日。その依頼書を持っていくと、受付嬢が判子をを押す。
「受理いたします。請負人はオレリアさんとシンさんで間違いないですね?」
「ああ」
彼女が頷くと、依頼書の写しに二人の名前と日付を書いていく。
「完了いたしました。では3日以内に納品をお願いします」
オレリアは頷くとそのままシンを連れて外に出る。
「依頼って言ってもあっさりしてるんだな」
「そりゃね。朝は何十人も捌かないといけないんだ。依頼の受理だって簡略化されるさ。いちいち時間をかけてたらそれだけで日が暮れちゃう」
「ああ、なるほど」
オレリアの言葉に納得した表情で頷く。確かに、それなら簡略化されていくだろう。時間がかかればお互いに不満が溜まるばかりだ。
「じゃ、仕事も確保したし、あとは買い物を楽しもう!!まずは朝に言ってた柔らかいパンを食べさせてあげるよ」
「うぉ、ちょ!?」
こっちこっちと手を引くオレリアに、よろめきながらもなんとかついて行く。しばらく歩けばシンの鼻をおいしそうな匂いが刺激した。
「いい匂いでしょ?焼きたてのパンや串焼きの匂い、ここは食べ物の屋台や店が多い通りさ」
「ああ、凄いな。匂いも人も」
その通りは昼時であることもあってか、多くの人で賑わっていた。屋台には串焼きや、何かの焼き物、飲み物、果物。パン等さまざまだ。その一つ一つに何人か人が並んでいる。
「まずはそこのパン屋にしよう」
そう言って連れられたのは一番近くにあったパン屋。ここからも焼きたてのパン特有のいい匂いが漂っている。
「すげえな」
中には、普通のパンから腸詰や芋を潰したものを挟んだものや、菓子パンまで置いてあった。どのパンも美味そうである。
「まぁお昼だし、お腹にたまりそうなものにしようよ。それに菓子パンは砂糖を使う分高いからあんまり量を変えないしね」
「そうなのか?」
シンの中では菓子パンも惣菜パンもそこまで値段は変わらないイメージがあるが、そうではないらしい。値札を見れば確かに桁が一つか2つ違う。
「確かに…そんなに砂糖は貴重なのか」
「まぁね。生きるのに必須ってわけでもないし、どうしても贅沢品になっちゃうから」
「なるほど…」
甘いものは貴重。その事に軽い衝撃を受けつつも、美味しそうなパンをオレリアといくつか見繕う。
「こんなにいいのか?」
「良いんだよ。君はそんな事気にしなくて。たんとお食べよ」
選んだパンを買ってきたオレリアは輝くような笑顔でそれを差し出してくる。困惑しつつも腹が減っているのは確かなので受け取って食べる。
「美味い…」
「でしょ?宿の黒パンとは大違いさ。これがちゃんとしたパン屋のパン。宿のは保存が利く黒パンしかないし、すぐ固くなっちゃうからね。おいしいパンが食べたければパン屋に行くしかない」
同じようにパンを食べながら彼女は説明する。その説明を聞きながら二人でまた街を歩いていく。それからも、オレリアがすすめるいくつかの店を回ってはそこで買ったものを食べながら街を歩いていると、気づけば夕方になっていた。
「そろそろ宿に戻らないとね」
「そうだな」
シンも頷くとオレリアと共に宿に戻る。宿では相変わらず無愛想な男がやり取りをして部屋の鍵を渡してきた。
部屋には昨日と同じ場所。当然ベッドも一つだ。
「また、一緒に寝るのか?」
「当たり前じゃないか。1人だけ床に寝るなんてお互い気になるし嫌だろ?」
「そうだけど…」
金を払ってもらっている以上強くはいえない。だが、なぜ2人部屋を取ろうとしないのか。そんな疑問が浮かぶ。
「あ、そうだ。朝やった魔法教えてあげようか?」
そんな疑問もオレリアのその言葉で吹き飛んだ。
「いいのか!」
「あはは!目が輝いてるね。もちろん、教えてあげるよ」
「でも、そんなに簡単に使えるのか?」
不安そうなシンにオレリアは優しく微笑む。
「安心しなよ。魔法ってのは案外簡単に使えるものだよ。そりゃ、攻撃だったり回復だったりするなら理論や魔導書で習得しないといけないのも多いけど
、生活魔法なら誰でも使える」
だから、どんな魔術師も最初は生活魔法から始めるのさ。そう言ってシンの手を握る。
「伝授は簡単さ。私が君の魔力を動かして生活魔法を使う。君はそのなかで動く魔力を認識して同じように動かせばいい。一度気がつけば案外簡単に動くものだよ」
彼女はそう言って、シンの背中に回り込むと、背中から抱きつくような姿勢でシンの腕に手を添える。
突然の密着に身体が一瞬硬くなるが、オレリアの真剣な表情に気が付き、意識がきり替わる。
「行くよ。よーく自分の中に集中するんだ」
それから数秒後、ふわりとシンの腕が淡い光りに包まれた。




