第7話「猫になりますにゃん!」
ふわっと、体が軽くなる。重力がなくなって、世界がぐにゃんと歪む……
「……また、猫になっちゃったにゃ……」
視界が低い。手を見ると、もふもふの前足。ピンクの肉球。
わたしは完全に、霧崎さんの飼っている黒猫、“ルナ”の姿になっていた。
ここは、霧崎さんの部屋。
間接照明だけが灯る、静かな夜。
「ふふ……やっと、また来れたにゃん……」
まるで恋人に会いに行くようなドキドキと、肉球に感じるしっとりとした床の感触。
夢だってわかってるけど、これは紛れもない“リアル”。
そっと振り向くと——
「ルナ。起きたのか?」
……出た。
霧崎さん、降☆臨。
ゆるく寝癖のついた髪に、胸元の開いた黒のルームウェア。
そして、わたしを見下ろすその視線が、やっぱり甘くて、鋭い。
「ん……にゃ……」
(訳:かえにゃ、参上にゃん……)
すっとしゃがみ込んだ霧崎さんが、わたしの頭を優しく撫でてくれる。
人間の時の10倍、いや100倍、敏感なこの猫ボディでその指に触れられたら——
「んん……にゃぁ……」
あっぶな。
もうすでに声が出そうだった。
でも、今度こそ興奮しすぎて目が覚めないように……冷静、冷静にゃん……!
「ん? 今日は……耳のあたりが敏感だな」
——くっっ!!!
ダメ、それ言っちゃダメ……っ!
いきなりピンポイントに耳をくすぐるように触れてくるとか、霧崎さん、わかってやってる……?
「んっ、ぅにゃ、ふぁ……」
(※耳がゾワってして、腰が抜けそうです)
こ、これまでのトレーニングの成果……出せ、かえにゃ……っ!
そう思った矢先、霧崎さんの手がわたしの顎から喉元、そして首筋へ——
「ここ……好きなんだろ?」
「っっ!!!???」
ぐわあああああああああ!!!
まさかの直球攻め!!!!!
そして、彼はついに、口を近づけてきた。
——んちゅ。
舌、です。
かえにゃの……猫の首筋を、霧崎さんの舌が、ぬるりと……舐めた。
「にゃ、ん、ぁ……ぅう……ん、んにゃあああああっっ!!!」
(※鳴き声です。語彙力は飛んでったにゃん)
ぴくぴくと体が跳ね、しっぽがぴーんと立つ。
脳の奥で、スパークした感覚が走る。
やばい……これはやばい……ッ!!
「ダメ……! そこはダメにゃ……っ!!」
——がばっ!!!
目が、覚めた。
案の定、目が覚めてしまった。
そして……
「ちょっとまって……っ、びしょびしょ……」
(※現実でもちゃんと身体が反応していたようです)
ふと、脳波計を見てみると、しっかり記録されていた。
「γ波、MAX振り切り」
「かえにゃの……“エロマインドコントロール”……完☆全☆敗北にゃん……!」