第6話「猫もあるけば棒にあたるにゃん!」
「うわーーーーー!!!」
朝の6時、わたしの部屋にこだまする、悲鳴。
夢から目覚めて3分、冷静になった今、改めて思う。
「かえにゃ……霧崎さんの棒、踏んじゃったにゃん……」
昨日の夢のラストを思い出すたび、頭を抱える。
あんなに良い雰囲気だったのに。霧崎さんの大事なところを、あろうことか肉球で、グッと、グニッと——
「それで目が覚めるとか、かえにゃのバカ!!!」
(いや、ほんとにバカ……っ!!)
悔しさにベッドをバンバン叩きながら、思考を整理する。
【問題点】
1.興奮が限界を超えると夢から覚めてしまう
2.霧崎さんがエロすぎて、興奮せずにいるのはほぼ不可能
3.しかもそのエロさが日に日にレベルアップしてる(なぜ!?)
【仮説】
・感覚過敏状態(猫ボディ)+霧崎のスキル=脳内オーバーロード
・おそらく脳波が一定の興奮域に達すると「夢」から強制排除される
「これは……もう、分析するしかないにゃん……」
わたしは立ち上がると、愛用のノートPCと、脳波測定デバイスを手に取った。
これ、実は社内の睡眠研究チーム用に開発されたドリームトラッカーβ。
電極ヘッドバンドをつけて眠るだけで、脳波データをリアルタイムで測定できる優れモノにゃん。
「ふっふっふ……次はこいつで、かえにゃのエッチ脳をデータ化してやるにゃ」
どうせならとことん研究者らしく攻めるのが、かえにゃ流。
とはいえ、脳波データの読み解きはちょっと専門的だから、軽く説明しておくと——
【用語メモ】
・α波(アルファ波):リラックス状態。まさに“うとうと”にゃん。
・θ波(シータ波):夢に入りやすい状態。明晰夢が発生しやすい脳波。
・β波(ベータ波):興奮・緊張時。心拍も上昇傾向。
・γ波(ガンマ波):強い興奮状態。いわゆる、覚醒一歩手前にゃん。
そう——前回の夢で起こったのは、たぶんこのγ波の暴走。
「これじゃ明晰夢、持たないにゃん……!」
ということで、次の作戦!
“興奮を抑えながら夢を見る”トレーニングを開始にゃん!
まずはベッドの上にあぐらをかき、深呼吸。そして脳波ヘッドバンドを装着。
「ふー……霧崎さんが猫をなでなでする……でもかえにゃは冷静……」
できるだけ妄想しながらも、深くゆっくりと呼吸を続ける。
「霧崎さんの……太もも……触れたら……んっ……でもかえにゃ、平常心……」
目指すは、“エッチな状況でもα波をキープ”するスキル!!
わたしはそれを**“エロマインドコントロール”**と名付け、毎晩のように訓練を繰り返した。
研究員として、もはやこれは義務。かえにゃの使命にゃん!
そして、夢のログ、脳波データ、そして感情曲線のグラフを毎日記録する。
そのすべてを、スマホの中の秘密アプリ『にゃんこ・ドリームノート』に保存していた。
「ふふふ……次こそ絶対に、霧崎さんと……にゃふふ……」
——そんなある日。
仕事帰り、霧崎さんと二人で実験の残務整理をしていた研究室。
「そろそろ終わりだな。俺はもう少し作業するから天王洲は先に帰っていいぞ」
「は、はいにゃん。あ、いや、“にゃん”じゃないです……!」
あっぶな! 思わず語尾出ちゃった!!
逃げるようにその場を後にする。
わたしはポケットをまさぐって顔色を変えた。
「うそ……スマホ……ない……!?」
ま、まさか。
あの……わたしの全妄想と研究記録が詰まった、あのスマホを……!
「机の上……に、置きっぱなし……だった……にゃ……」
……いや、でも大丈夫。霧崎さんがスマホの中身を見ない限り。
研究室。
カウンターに置かれたスマホが、
ピコン♪と明るく光る。
通知の内容が、画面に、でかでかと表示される。
『にゃんこ・ドリームノート:明晰夢が実現した(新しい記録あり)』