第5話「猫はさかるにゃん!」
——また、来た。
ふわふわの毛に覆われた手。ピクピク動く尻尾。やけに鋭くなった嗅覚と、敏感すぎる耳。
わたし、天王洲楓、改め、黒猫のかえにゃ。
またこの夢に、来れたにゃん!!
「ふふ……ふふふふふ……!」
喜びのあまりベッドの上でくるくる回ってしまう。
霧崎さんのベッドの上。ふわっふわのダブルベッド。男の一人暮らしとは思えないほどきれいに整えられていて、ほんのりと香るコーヒーと革の匂い——これ、現実世界で毎日嗅ぎたいにゃん。
さっそく霧崎さんのそばに
にゃにゃんと参上した
「ルナ……また来たのか?」
その声。もう聞き間違えるわけがない。
わたしの、大好きな、ドSで優しい、夢の中だけの霧崎さん。
「……にゃあ」
無意識に鳴いてしまう。わたしの舌じゃなく、喉の奥から自然に漏れる声。
にゃんてえっちい生き物なの……猫ってすごい。
霧崎さんはわたしの前にしゃがみ込み、目線を合わせる。
その視線が、また、たまらなくやさしい。けれど、どこか見透かすように冷静で、ドキッとする。
「また……欲しくなったのか?」
ぴくっ
思わず、耳が跳ねる。
霧崎さんの指が、ふわりとわたしの背中を撫でる。
「にゃ……んっ……!」
ちょっと待って!? ちょっとだけ撫でられただけで全身ゾクゾクしてるの、完全にやばい。
背中から首筋にかけて、ゆっくり、なぞるような動き。
猫の皮膚の感度、どうなってんの!? これほとんど性感帯なんですけど!
「ほら……震えてる」
低い声。耳元。ああ……あかん……わたしのリビドーが限界突破する……っ
「霧崎さ……にゃ……にゃにゃにゃにゃ!!(語尾が制御できない)」
「フフ……そんなに鳴いて、発情したのか?」
あかん、この霧崎さん、完全にドSスイッチONですにゃん!!
そして——そのまま霧崎さんは、わたしの身体をやさしく持ち上げると、自分の膝の上に乗せてきた。
柔らかくて硬い、男性の太もも。
「おいで、ルナ。もっと……こっちに」
「にゃ、にゃっ……ん、ふぁ……!」
顎の下をくすぐるように指で撫でられて、気持ち良すぎて全身の力が抜けてしまう。
頭を預けるように霧崎さんの胸元へとずるずる滑っていくと、彼の腕がわたしをしっかりと包み込む。
「ふふ、いい子だ」
甘い。
甘すぎる。
その声、反則。
でも、もっと聞きたい……
もっと近づきたい……にゃ……
ゆっくりと近づいていく。
「……ふにっ」
ふと、何か硬いものを踏んだ。
しかも、熱くて、大きくて……って、あれ、これ、えっ?
——いやいや、待って。
ちがう、わたし猫だから喋れない。いま思考が漏れてないよね?
とりあえず現状を整理するにゃん。
・わたし → 猫(多分♀)
・霧崎さん → 発情猫にやさしくする人間
・現在 → 肉球で男の象徴らしきものに接触(めちゃめちゃ硬め)
「……ふにっ」(2回目)
やってしまったああああああああああ!!!!!!
まさに、その瞬間——
——目が、覚めた。
「…………」
「……は、はずかしい……」
ベッドの上で、天井を見上げながらぼんやり呟く。
「……猫……踏んじゃった……」
わたしの肉球(夢の)で霧崎さんの”棒”を踏んで、明晰夢、終了。
「いや、まじで!あれ踏んで興奮マックスで目覚めるなんて!私ただの変態じゃん!!!」
枕に顔を埋めて、絶叫した。
「はあああああ……また失敗……かえにゃ、また起きちゃったにゃん……」
でも。
……悔しいけど、興奮しちゃったにゃん。
霧崎さんの腕の中、撫でられながら、責められながら、ドキドキして……
硬くなってたってことは……私に興奮してくれてたって事なのかな……
あとほんのちょっとだけ、あのままなら最後までいけたかもしれない。
でも、また”ピーク”で目が覚めた。
つまり、次の課題は明白。
「興奮しすぎたらアウト……っ」
それを超える術を、わたしは探さなきゃいけない。
次こそ、霧崎さんと——
「にゃふ……(うっとり)」
今度こそ、最後まで。