表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/20

第3話「猫になれたにゃん!」

また……暗闇の中で、ふわっと意識が浮かび上がる。


眠っていたはずの身体が、どこかあたたかくて、やわらかくて、なにより軽い。

これは——


「にゃ……にゃん……」


——目を開けた瞬間、かえにゃは黒猫だった。


前足をそっと動かすと、ふわふわの毛がぴくりと動く。身体が軽い。しなやか。完全に昨日と同じ感覚。


また、猫になれてるにゃん!!


再びこの世界に来れたことに、心の中で喜びの舞を踊る。

楓の身体は、前回と同じ黒猫。足も短くて、ふわっふわ。肉球ぷにぷに。

動くたびにしっぽがパタパタしてて、もう最高にゃん。


そして、目の前には——


「おはよう、ルナ」


……来た。


来たよ、霧崎さん……!


顔は近く、でも指先はさっきよりもゆっくりと、やや意地悪そうに背中をなぞってくる。


「今日も甘えたいのか?」


言葉のニュアンスが、ちょっと昨日より攻めてる。


指先がしっぽの付け根まで触れたとき、かえにゃの身体がビクンと跳ねた。


「……敏感だな。昨日の続き、してほしいのか?」


「にゃっ……にゃんっ」


え、あたし今、返事しちゃった!?!?!?

ていうか「にゃん」で肯定になっちゃってる!?


霧崎さんは、にやりと笑った。絶対わざとだ。


「……素直なやつだな。そんなに俺に撫でられたいのか」


違う! そうじゃない! いや違くないけど、でもそういうわけじゃなくて!

うわあああ、混乱してるうちに撫でがエロくなってきてるぅぅぅ!!


「俺の猫なら、ちゃんと可愛く鳴けよ?」


そう言って、霧崎さんはかえにゃの喉元をぐっと押さえた。柔らかく、でも支配するように。


「……にゃあ……ぁ」


「……可愛い」


霧崎さんの、あの低い、けど優しげな声。


霧崎さんはいつもの白シャツ姿。スーツの上着は脱いでいて、袖をまくってる。

その腕まくりがえっっっっっっっろい。なんで!? ただの布の位置なのに、えっっっっっっろい!!!


ソファに座った霧崎さんが、わたしの方に手を伸ばす。


や、やばい、くる……!


撫でられる……!


その手のひらが、するっと背中に触れた瞬間。


「……にぁっ……」


猫ボディでも感じる、ゾクッとする快感。

それはもはや、物理的な“撫で”じゃなくて、精神的な“ご褒美”に近い。


「……ふふ、気持ちいいか?」


その低くて甘い声で囁かないでぇえええ!!!


霧崎さんは、わたしの頭から首、背中、しっぽの付け根にかけて、流れるように撫でていく。


猫になってるのに、体温が上がるのがわかる。

耳が熱い。いや、耳どこ!?猫耳ってどこに感情表現出るの!?


「おまえ……本当に、気持ちよさそうな顔するな」


次の瞬間、かえにゃの身体が抱き上げられた。


思わず反射で前足を霧崎さんの胸に置く。鼓動が聞こえる。彼の、鼓動。

距離がゼロになる。


霧崎さんの指先が、わたしのあごの下に触れて、くいっと持ち上げる。


「……今日は、逃がさないからな」


その言葉に、体の中がジンと震えた。


(……にゃん……)


まさか——キス、くる!?今回は本当にくる!?


霧崎さんの顔が近づいてくる。

猫であるわたしの顔のすぐ前に、あの完璧な整った顔があって、視界全部が霧崎さんに染まっていく。


(だ、ダメだって、こんなの、心臓もたないにゃん……!)


でも、逃げたくない。


このまま——


目を閉じて、

その唇が、わたしの鼻先にふれる、ほんの直前——


「……にゃあ……」


——目が、覚めた。


「……にゃぁあああああああああああああ!!」


布団の中で暴れる楓(人間)。


「なんで!? なんでまた起きちゃうの!?!?!?!?」


両手で顔を覆って、布団をバンバン叩く。


「あとちょっとだったのににゃん!!!!!」



息が、荒い。心臓がバクバクしてる。

かえにゃの身体は、汗ばんで、脚の間はまた……。


あの抱きしめられる感覚。あの腕の力。匂い。

現実じゃありえないくらい、愛されてる感触。


「……はぁ。霧崎さん、ほんと、ずるいにゃん……」


かえにゃは、顔を両手で覆いながら、クッションにうずくまった。 


しゅんとしながらも、思い出してニヤける自分。


猫になって、霧崎さんに優しく責められて——

ときどき意地悪な声で、耳元でささやかれて——

撫でられて、撫でられて、撫でられて——


(……もう、夢の中のわたし、完全に発情期の猫じゃないの……)


はぁ、と息をついて天井を見上げる。


「次こそ、最後までいくにゃん……っ!!」


明晰夢の秘密を解き明かして、毎晩、霧崎さんの猫になるんだにゃん。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ