第15話「実験、始めるにゃん!」
深い眠りから一瞬で覚めた。
「まって!? ちょ、えっ、ちょっと待って!?!?!?!?」
玄関先で全力の後ずさり。
でも霧崎さんは、例のクールな顔のまま、片手にはタブレット、もう片手には——なぜかタッパー。
「朝食、持ってきた。あと、実験の準備。」
「朝食はあるよ!? じ、じっけん!? 何の!? どの!! 実験!?」
「“バイブ睡眠法”についてだが?」
「やめてーーーー!!その呼び方マジでやめてーーーーーー!!!」
顔が赤いとかのレベルを超えて、むしろ全身が熱い。溶ける。羞恥心で原子分解されそう。
「昨夜の記録、すごく興味深いデータが出てた。特に——君の脳波。」
霧崎さんは、スタスタと部屋に上がり込み、慣れた手つきでキッチンに朝食を並べ始める。
「……うちに入るの、2回目ですよね? 霧崎さん……」
「いや、3回目だ。1回目は部屋を観察して、2回目は全裸バイブを見て、3回目はいまこの瞬間」
「やっぱしぬぅぅぅぅぅぅ!!!!」
私はクッションを顔にぶん投げて、床に転がった。
羞恥死じゃない、これは羞恥による生き地獄……ッ!
「……で、天王洲。今日の夜も試すつもりなんだろ?」
「い、言ってないのに……なぜバレた……」
「ほら、そこ、バイブを乾かしているから」
「やめてーーーーーーー!!!!やめてって言ってるでしょおおおおお!!!」
床バタゴロ。叫びながら足バタバタさせる25歳、研究員(バイブ研究中)。
「……ちなみにだけど、その、実験……って、まさか霧崎さんも“同席”とかしないですよね……?」
「いや、する」
「即答ーーーーーーー!!!!????」
霧崎さんは至極当然の顔をして、パクっとオムライスの一口を私の口に放り込んできた。
「うまいだろ。ケチャップで“世界まる見え”って書こうか迷った」
「ほんとにやめてぇぇぇー!!」
私は椅子にドカンと座って、机に突っ伏す。
(ほんとはすこしうれしい。夢でも現実でも、霧崎さんがあたしのことを気にしてくれてるなんて……)
(でも、でも、羞恥が限界突破なんだよぉおぉおお!!)
霧崎さんは、私の頭の上に手を乗せて、ぽんぽん、と優しく撫でる。
「天王洲。実験の目的は“明晰夢に入ること”じゃない」
「……え?」
「君と一緒に夢を見ること、だよ」
「……」
「わたし、しぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!!!!!!」
全身が爆発するようなキュンで満ちた。
何この人。なんでそんなこと、さらっと言えるの!?!?
「て、ていうか……ど、どうやって一緒に夢を見るんですか!?」
「そのための実験だよ。バイブと、脳波計と……俺の声」
「こ、声!?」
「“囁きながら眠りに入る”と、脳が相手の声を夢に引き込む傾向がある。子守唄みたいなものかな?つまり、俺が君の耳元で」
——『天王洲、ねんねの時間だよ』って。
「ぎゃああああああああああああ!!!!」
叫びながら倒れた。マジで限界突破した。
このままだと現実でも絶頂して起きるところだった。
「じゃあ、夜にまた来るから」
「えっ!?!?!?!?!?」
「準備しといて。バイブも、枕元に。あと、あまり濡らさないように」
「やめてぇぇぇえええええええええ!!!!霧崎さんエロすぎぃぃぃぃいいいいい!!!」
玄関に向かって手を振る霧崎さんの背中に、私は思いっきりクッションを投げた。
でも——
(ほんとは……待ち遠しくてたまらないにゃん)
心の声ですら、つい語尾に“にゃん”がついちゃった。




