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第12話「夢の中でも、現実でも」

「キスしちゃった……にゃ……」


出社前のシャワーを浴びながら、あたしは顔を赤くしてうずくまった。

水で体を洗ってるはずなのに、なんか熱が引かない。

体も……だけど、心がずっとぐつぐつ沸騰してる。


(あれは夢……でも、ちゃんと触れた。感じた。霧崎さんの体温も、唇も——)


お湯の温度をちょっと下げて、頭からかぶる。

ぬるいシャワーが肩を伝って背中を流れていくのに、興奮は冷めるどころかまた思い出してしまう。


(霧崎さんの……唇……「楓の姿でキスしたい」って……)


「……へ、変態……っ!!」


言ってる自分も同じくらい変態なのは、言うまでもない。

そりゃそうだ 夢を見たのは全部私だけ。

全てが全て、私の妄想なのだから。



出社したら、いつものように霧崎さんはデスクに向かっていた。

白衣の後ろ姿。ピンとした背筋。片手にコーヒーカップ。

くそぉ……夢の中の彼と、現実の彼の区別がつかなくなってきた……!


「おはようございます……にゃ……じゃなくて、ですっ!」


「……ふむ、おはよう。昨日は、ぐっすり眠れたか?」


(うっ……! な、なんか意味深に聞いてくる……っ!)


「は、はい。ちょっと、すごくいい夢を……」


(あああああ自爆にゃん!!!!)


「そうか。それはよかったな」


霧崎さんは、クールな笑みを浮かべながらコーヒーを一口。

でも、あたしにはわかった。

彼の指先がわずかに震えていたのを——


(まさか……まさかとは思うけど、あの夢のこと……知ってる?)


いや、まさか、そんなはず——

楓、冷静に、冷静にゃん。研究者として思考を保つにゃ。


「天王洲」


「にゃ!? ……ですか?」


「昨日、進展はあったか? 夢の研究」


ぎくっっっっ。


「あ、ああ、いや、まぁ、その……少しずつ、わかってきたというか……」


「なるほど。ちなみに、だが——」


霧崎さんはパソコンの画面を指差した。


「ここに『猫になってにゃんにゃん』って書いてあるが…………夢で君は俺の猫になっていたんだな」


「えっ!? ちょ、え!?!?」


私の記録してるアプリの画面だ。

静電気でも走ったかのように、全身の毛穴がぶわっと開いた。


「み、見たんですか!?!? その、他の……記録も!?」


「さすがに他は見ていない。パスコードロックがあったしな」


「っっっぶ、ぶわああああ!!!!!」


危なかった。

全力で机に突っ伏す楓。

パスコードを設定してある中身はこんな感じだ


『新米猫として今日も霧崎さんとイチャコラしたにゃんにゃん☆』

『今日は霧崎さんの硬いやつを肉球でふにふにしてしまいましたごめんにゃさい……』

『霧崎さんに猫としてキスされましたぁぁぁぁあ!ひゃっほぅ!!!ふぁーすときっちゅ♡ちゅちゅちゅのちゅ』

(もし見られてたら……この世のすべてからログアウトするところだった……)


「安心しろ。中身は見ていない。だが——」


霧崎さんが、椅子を回してあたしの方を向く。

その目は、研究対象を見るそれではなかった。


「——俺も明晰夢を見てみたい」


はいそれは無理でーーす!!!笑

なぜって??

それはあなたがお・と・こ☆だからなのです!


猫黒太バイブは入りませー…………ん?


(………ま………まって………)


爆発寸前の脳内。

よくよく考えたら『明晰夢の条件』ってなんだろう。

黒猫バイブは入りませーん☆とかいいながら、よく考えたら別のところに入るのでは!?(BL的思想)


「そ、それは危険なのでダメです! も……もう少し研究を進めて解明してからにしましょう!?」


「そうか」


少ししゅんとした表情でつぶやいた。

貞操を守ったぞ、かえにゃえらい。


「俺も——君の猫になってみたかったのに」


「え、え、え、え……えぇぇぇぇぇ!?!?!?」


——にゃにそれ、告白!?!?!?

でも、でも、え、猫!? 逆パターン!?!?


(なにそれなにそれなにそれにゃん!?!?!?)


爆発寸前の脳内。

楓、研究員やっててよかった!

夢と現実の境目がどんどん曖昧になるこの感覚——


好き。霧崎さんが、好きすぎる。

夢でも、現実でも。

猫でも、人間でも。

ぜんぶひっくるめて、好き。


「……じゃあ、次は一緒に、夢で会いますか?」


「もちろん」


霧崎さんは静かに笑った。

その笑顔は、夢の中で見たどのシーンよりも優しくて、ずるくて、愛おしかった。

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