第11話「猫ちゅっちゅ、だにゃん」
目が覚めた瞬間、あたし——かえにゃの心は震えていた。
やった、また……! 夢だ。霧崎さんちの、あの落ち着いた間接照明の部屋。
そして、いつもと変わらぬ低い視点、ふわふわの黒い前足。
「おかえり、ルナ」
霧崎さんの声が、あたしの全身を包み込む。
その響きだけで、胸がきゅうううって締めつけられて、尻尾がびくって立った。
「にゃ……ぁん……」
(あっ……かえにゃ、また発情モードになってる……)
ゆっくりとした手のひらが、あたしの頭を撫でる。
その指先は優しくて、でもじんわりと熱を帯びてて——
「今日の君は、すごく……甘えたそうな目をしてるな」
(……えっちな目線で言わないでにゃん……! それ完全にオスの目にゃん……!)
霧崎さんはあたしの体をそっと抱き上げ、胸元にぎゅっと引き寄せた。
心臓の音が伝わってくる。彼の、そして、あたしの。
二つの鼓動が重なるたびに、夢とは思えないリアルさに震える。
(ここ、現実? いや、夢。でも、現実よりリアル……!)
霧崎さんの指が、あたしの背中を這って——
ゆっくり、ゆっくり、お尻の方まで撫でられると、思わず喉が鳴った。
「ふふ、君は本当に、反応がわかりやすい」
(うぅ……恥ずかしいにゃん……でも、気持ちいいにゃん……)
尻尾の根本を撫でられると、そこは猫でもゾクッとする場所で——
(しかも、楓の時の記憶が残ってるから、よけいに敏感……!)
「今日は
——キスしようか?」
その言葉に、全身がピクンと跳ねた。
(き、キスにゃん……!? やっと、やっと……!?)
——でも、ここで問題がある。
今まで、キス直前で目が覚めてしまっていた。
霧崎さんの指先や舌が近づくたび、興奮がピークを超えて、強制終了。
でも今日は違う。
研究でちゃんとわかってる。興奮をコントロールする術も、心得てる。
深呼吸、深呼吸にゃん……落ち着くんだかえにゃ……
「……ん?」
(やばい、声に出てたにゃん!?!?)
霧崎さんはそのまま、あたしの鼻先に自分の顔を寄せた。
「じゃあ、ルナ……」
その唇が、あたしの鼻先に触れて——
ふわっと、まるで蝶が舞い降りるみたいな優しさで……
「ちゅ……」
——キス、された。
(んにゃああああああああああ!!!!!!!!)
爆発。頭の中で花火がぶわわわって咲いた。
肉球がジンジンして、もう、どこもかしこも熱い。
それでも、なんとか目は覚めない……! 研究の成果が出てる……!
「ふふ、震えてるな……」
霧崎さんの手が、あたしの頬に添えられ、もう一度、唇が近づく。
今度は、もっと深く——
(がんばれ、かえにゃ……負けるにゃ……!)
「ん、ちゅ……」
二度目のキス。唇が、鼻先から頬へ、そして……
「……次は、楓の姿で、してみたいな」
——その瞬間。
あたしの意識は、ズルリと滑るように現実に引き戻された。
朝。
天王洲楓、ベッドの上で白目。
「いぃぃやああああああああああ!!!!!
キス……したあああああああああ!!!!!!」
そして。
同時に泣きながらガッツポーズ。
「研究成功にゃああああああ!!!!!!!」




