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第1話「猫になっちゃったにゃん!」

気がついたとき、わたしはふかふかの毛布の上にいた。


あれ……? ここ、どこ? あたし、昨日たしか——


身体を起こそうとして、違和感に気づいた。いや、起こそうと“した”というより、“四本足”で立ち上がろうとした……?


え? え? え?


パニックは一瞬で脳内に広がった。視界がいつもより低く、なにより床が近い。全身を動かしてみると、身体が小さく、しなやかで、しかも尻尾……ついてる!? いやいやいやいやいや!


「にゃ……?」


……って、声も猫やん!!???


「おはよう、ルナ」


その声が聞こえた瞬間、すべての情報が一時停止した。


霧崎、さん……??


目の前にしゃがみこんだ彼の顔が、まっすぐにこっちを見ている。相変わらずのクールビューティー。整った顔立ちに、スーツが完璧に似合っていて、もう絵に描いたような“できる男”、その名も霧崎きりざき ゆう


なのに、なんでわたしに話しかけてるのよこの人……って、あたしがそのルナ!?


「よく寝てたな。ほら、こっち来い」


しゃがんだままの霧崎さんが、手を広げてこっちを呼ぶ。


うそでしょ、なにその“優しい飼い主”モード!?

え? え? 普段のあの冷たい感じはどこ行った!?

え、むしろめっちゃ優しくない?

ていうか、“ルナ”って誰!?!?!? あたしの名前は楓だってば!!!


——落ち着け、かえで。まず状況整理しよう。


昨晩、あたしは自慰してた。猫の顔のバイブで。そう、性器に挿れたまま寝落ちしたんだった。

あれ、もしかして死んだ? でも天国にしてはやけに生々しい……ていうか、これ夢?

夢ってことでいいんだよね!? てことはつまりこれ……夢の中の霧崎さん!?!?


「どうした、動き鈍いな……こっちおいで」


その声と同時に、霧崎さんの手が、スッとあたしの背中に触れた。


——びくぅっ!


な、なにこれ、めっちゃゾクゾクするっっ!!

ってか猫の身体でも性感帯ってあるの!?

ていうか、霧崎さんの指、やば。スベスベで長くて、なのに力強くて、撫で方が……やばいってば……。


「……やっぱお前、発情期か?」


……はい???


「昨日から様子おかしかったもんな。声も甘えてたし……まったく、俺をその気にさせんなよ」


いやいやいやいやいや、え、待って待って。

なんでそんなセクシーボイスで言うんですか!?!?!?!?!?


っていうか、わたし、猫なんですけどおおおお!!??!?


でも、なにこのドキドキ。いや、キュンキュン……? いや、違う、これは……


興奮……だと!?!?!?!?


「ん? 体熱いな。どうした、ルナ」


言いながら霧崎さんが、あたしの首元を指でなぞってくる。しかもその指が、喉元から胸のほうに、すぅーっと……


——いやいやいや、そこ、やばいやばい!! 猫でも感じるとか、どういうこと!?!


にゃっ……!


「ほら、やっぱ発情期じゃん。……可愛いな」


ちょ、ちょ、ちょっと待って!

あの霧崎さんが! 猫の私にそんな、そんな……っ!!


わたしの胸、いや、猫の胸ってどこ!? てか、乳首あるの!?(あるわ)

ダメ、やばい、これ、明らかに刺激が……!


「なあ、ルナ。お前、女の子って自覚あるのか?」


って、耳元で囁くのはズルいでしょおおおおおおおお!!!


「……俺のこと、好きか?」


ふにゃあああああああああ!!! え? 今、言った!? 夢でも破壊力えぐいんだけど!!


身体がビクビク震えて、さっきまで四足で立ってたのが嘘みたいに、くにゃってなってしまった。霧崎さんの指がわたしの顎をなでて、口元にキスしそうな距離まで近づいてきて——


(え、え、キス、来る、来る、来ちゃう!?)


——そして、霧崎さんが目を細めて、ゆっくりとその唇を近づけてきて………


………にゃぁぁぁ!?!?!?


わたしはベッドの上で跳ね起きた。現実の、25歳の、女・天王洲てんのうず かえでとして。パジャマの下は……ちょっとびしょびしょ。やっぱ昨日のまま寝落ちてたか。


「はあ……あっぶな……あのままキスされてたら、絶対漏らしてた……」


てか、これ絶対夢だったけど、感触リアルすぎなんですけど!? 明晰夢ってやつ!?!?


しかも、あたしが猫になってて、霧崎さんがあんな……あんな感じで……っ!!


「…………」


だめだ、また思い出して股間がじわっとする。これ、クセになりそう……


「……霧崎さんに、また、会いたいにゃん……」


気づけば、思わず語尾が出てしまっていた。

——かえにゃ、爆誕である。

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