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閑話. 忠誠と誓い、そして歓喜 〜シルヴァン〜



高熱で意識を失っていたアニエスが目を覚ました。

目を覚ましたアニエスは何かに怯えて酷く取り乱した。錯乱に近く、鋭利なものを見つけると首を貫こうとさえした。

私は愛する可愛い妹のその狂乱ぶりに恐怖を覚えた。

両親は妹の身体を拘束した。母は涙を流して妹に謝った。父は優秀な医師を探し回った。

幼い妹は、嫌だ嫌だ、もう嫌だと幽鬼の様な虚な瞳でボソボソと呟き続けた。

どんな医師に見せても、何も分からなかった。高熱による脳への障害ではないか、精神の異常ではないか、悪魔に憑かれたのではとまで吐かす奴もいた。そして皆、一様に安定剤を処方して帰っていく。

数日するとアニエスは暴れたり自分を傷つけることはしなくなったが、まるで抜け殻の様になってしまった。

母はアニエスと一緒に日を追うごとに憔悴していく。

父は、王宮医師を用立ててもらえないか王城に行くという。

着いて行きたいが2人を守らなければ。何も出来ない自分が不甲斐なく歯痒かった。

父が馬車に乗り込むため玄関を出たところで、門の向こうに豪奢な馬車が停まっているのが見えた。

何事かと目を凝らすと、王家の紋章が記されていた。護衛の騎士も多い。

門を開けさせ、外出を取りやめた父と共に来客を出迎えた。

美しい装飾の馬車の扉を護衛の騎士が開ける。そこから降りてきたのは小さな男の子だった。

1人だけ?不躾だが中を除いてみたが、他に誰もいない様だ。


黒髪の可愛らしい男の子は揚々とこちらに挨拶をする。


「急にすまないね。私はサフィール・エリスディア。第二王子だ。ご息女の具合がよくないと聞いてお見舞いにきたのだ」


「小さき太陽にご挨拶致します。殿下、よくおいでくださいました。ですが、大変申し訳ございません。…娘は今、人と会える状態ではございません」


父の挨拶と一緒に私も礼の姿勢を執る。


「いや、そうだろう。急に来て不躾極まりないのは私の方だからね。おや?侯爵は外出か?」


父の姿と控えていた馬車を見てから、父を見据え鷹揚に問うた。


「はっ、娘の容体が悪く、王宮医師を承りたく陛下に謁見を申し込みました」


「そうか、まぁ、待て。私が帰った後、もう一度、考えてみてくれ。うん、では、まずはご子息と少し話させていただいてもいいかな?」


サフィール殿下はそういうと私に向かって微笑んだ。


「は、はい、構いません」


何故かとも、問えず返事をする。気がつくと重力に負けて平伏してしまいそうだった。


「では、外ではなんだからね。一室貸していただけるかな?侯爵」


「はっ、ご案内致します」


私は背中に嫌な汗を感じていた。それは父も同じだろう。

違和感しかないのだ。

相手は第二王子、確かまだ5歳ほど年齢のはずだ。

それなのに、瞳から放たれる覇気や立ち振る舞いはそれに正しくないのだ。

まるで王と話している。そんな錯覚すらしてしまう。


客室に案内すると殿下は1人掛けのソファーによじ登って、きちんと座ると言った。


「茶はいい、ご子息以外、外してくれ」


残された私は小さな殿下の前で、着席することも出来ずに、ただ立ち竦んだ。

困惑を隠せない父や使用人が立ち去り、扉がパタリと閉まると笑顔を落とした幼子の眼差しが剣呑と光った。


「何をしているんだ。貴様は」


厳かで低くした声が胸に刺さる。


「…え」


自然と歯がガチガチと暴れ出した。


「何をしているのかと、聞いている。まるで役に立たない木偶ではないか。愚か者」


「……っ」


「侍女だった伯爵令嬢は自ら来たぞ?お前がその調子とはな…がっかりした」


その瞬間、私は膝を付いて頭を下げた。

地面に縫い付けられたように、頭が挙げられない。汗がしとどと流れ絨毯に滴っていく。


「はぁ、シルヴァン、思い出せ、この愚か者が」


突如、どっと大量の記憶が流れ込んでくる。大切なもの。奪われたもの。壊されたもの。悔やみもがいた長い時間、忌まわしい憎しみの対象、そして守りたかった…守れなかったもの。

頭が割れそうに痛い。震えと共に、涙が溢れてくる。


「はっ、はぁっ、うっ、うぅ…」


止まらない。

頭が割れそうだ。

だけと、この震えも涙も決して苦痛のせいではない。

あぁ、これは、歓喜だ。


「も、申し訳ございませんっ」


「……よい、アニエスを救う」


「…っ」


「先ずは、義姉さんには心安らかにいていただかねばならない。そうだろう?」


「はいっ」


「その次は分かるな?」


「はい!」


「では、義姉さんの部屋に」


「畏まりました。殿下」



喜びに身体が震えているのが分かる。取り戻せるのだ全てを。ぶち壊せるのだ。忌まわしいあの下衆どもを。

このお方がチャンスを与えてくださった。木偶な私を変える為に、愛する家族を守る為に。あの永劫に続いた苦艱から、もう一度、全てを取り返すチャンスを。

椅子から飛び降りて歩み寄ってきた殿下の小さな靴に、私はそっと唇を寄せた。

果てることのない忠誠を誓って。



お兄様と殿下の一場面です。

何故、思い出せで思い出せるのか?それは、きっとご都合主義が働いたに違いありません。それか怯えた神様が何か祝福を与えたのかもしれません。

広い心で受け止めていただけたら嬉しいです。


こんなに拙い文ですが読んでくださっている方がいる事に喜びを感じています!

ありがとうございます!

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