2. 復讐
アニエスとラインバルドの婚約は、王により正式に破棄すると発表された。
その折、ラインバルドは酷くごねたという。悪女に騙された、唆されたのだから破棄は無効だと言うのだ。しかし、王が激高する前に王妃の逆鱗にふれ散々打ち据えられた。
王侯貴族の前で、高位貴族であるアニエスを侮辱し無実の罪を着せようと虚偽を騙ったミラベル・ローズナーとウォルト・ワグナーや他数人の生徒は捕らえられた。
勿論、それは家紋に大きな傷をつけることになる。
ワグナー家はウォルトを廃嫡にすることを宣言し家紋に掛かる火の粉を最小限に留めようとした。しかしエイルハート嬢への賠償を支払うことが出来ず領地の一部を手放した。それに投資の失敗による同家への多額の負債がある。これから余程上手く立ち回らなければ、爵位すら危ういだろう。
ミラベル・ローズナーに関しては、第一王子と既に深い関係にあったようで状況が判断できるまで、丁重に身柄を留置することとなった。
子爵家はそれまで謹慎となり、追って沙汰が下されることになる。
対して第一王子であるラインバルドはというと、南方にある隣国、オルナシアとの国境線へ向かうことになった。
数か月前から国境付近で不穏な動きが確認されており、両国で小さな衝突が度々起こっていると報告が上がっているためだ。
その指揮を執り、武功を立てることで罪が雪がれることになったのだ。
指揮を執ると言っても、実際に矢面に立つのは騎士達でありラインバルドが前線で戦うわけではない。後方で指揮という名の、実質、待機である。
もともと国家間の仲は良好であったのだ。それが西方の国との情勢が悪く、陸続きであるエリスディアに対しても警戒し国境を厳しく制限してしまったのだ。
争いたいわけではない。
第一王子が交渉の為のやってきていという呈で、戦闘を回避したい、対話による解決がしたいという意思を伝えるための出陣である。
王子といえども余りにも軽い沙汰であったため、貴族内で不満に思うものも多かったが、被害者であるエイルハート嬢が厳しいものを望まなかったとあれば、皆、彼女の寛大さに心を打たれるだけでそれ以上騒ぐことはなかった。
衝突と言っても軽いもの。
王子として向かい、それなりの圧をかければ交渉の場を設けるのは容易いだろう。そもそもオルナシアとは悪い関係ではなかったのだ。
最近まで流通も盛んにおこなわれていたし、王族同士の交流だって少なくはなかった。ラインバルドとてかの国の王族とは顔見知りだったし、王子とはアニエスと一緒によくお茶を飲んだ仲だった。
楽な仕事だと思った。
寧ろ、交渉によって確実な和平を結べば両国の流通は復活する。貿易に関して有利な条約を取り付けられれば、今回の騒動を雪いだとして釣りがでるほどの功績になる。
ラインバルドは、意気揚々と発って行った。
国境線に着いたときラインバルドは思った。思ったよりも南国の兵が多い。思っていたよりも激しい戦闘が起こっている。
思っていたよりも状況は芳しくないようだ。頬を汗が滴った。
数か月経ったのち、ラインバルトが捕らえられ捕虜となったことがつたえられる。
ラインバルドがオルナシアとの会談時に、西国によるオルナシアへの侵略戦争が勃発したのだという。
今回の我が国との諍いで兵が割かれていたところを狙ったようだった。
西国の捕虜を拷問したところ、機密情報漏洩に対しラインバルドの関与を吐いたのだ。浅はかにも此度の情報を西に漏らしたという。ラインバルドはオルナシアに捕らえられた。詳しく調べるとラインバルドは隠し口座を持っていたようで、ここ数年に渡り不明瞭な金の動きがあったと報告された。
こんな愚かなことがあるだろうかと誰もが第一王子を糾弾した。
我が国と南国オルナシアとの不和も両国の情報を、第一王子が西に流していた為ではないかと。
カツカツと軍靴が冷たい石床をならし地下牢へと下っていく。
この先に我らが第一王子が捕らえられているという。
オルナシアと西国との戦争には、エリスディアの国家としての意志ではないとしてサフィール率いる軍が参戦した。
オルナシアとエリスディアは共闘の末、西方の軍を退けた後、両国によって新たな会談が設けられる。
両国の誤解は解け和解し、同盟を組むことで西国を牽制していくことで合意した。西国と高い山間を挟んだエリスディアより、平地続きであるオルナシアはかの国から狙われ易く、侵略の歴史を繰り返してきた。
此度の騒動の賠償としてエリスディアから、オルナシアと西国との国境に兵を派遣し共に防衛に当たること。オルナシアは年間日照率が高く多くの作物が作られる農耕国家でもあった。その作物に対する税率の減額をすることで妥協され署名された。
次第に両国の流通は再開され、同盟により以前よりまして活発になるだろう。エリスディアにとっては痛手ではあるが、流通の再開は国民にとっては望ましい結果だ。和やかにお互いの手を取り合って締めくくった。
会談終了後、サフィールは友人であるオルナシアの王子に西方と繋がっていたとされる兄への面会を申し出た。オルナシアの王子は驚くこともなく穏やかに承諾してくれた。
鉄格子の前で佇み、兄に声を掛けた。
「兄上…」
項垂れて膝を抱えていたラインバルトは声を捉えると、弾けるように顔をあげた。
「サフィール!来てくれたのか!ここから出してくれ!私は何も知らないんだ!!」
サフィールは片手で口を覆い、震える声で付き添いの王子と兵士に声を掛けた。
「申し訳ない。二人で話すことをお許しいただけないだろうか?」
王子は兵士たちに手振りで退室を指示し、泣きそうなサフィールを不憫に思った兵士たちは黙って王子に続いて地上へ続く階段を昇って行った。
「サフィール!」
疲れ切ってはいたが希望に満ちた目でラインバルトは弟に向かって手を伸ばした。
「んふ、くふふっ…」
「サ、サフィール?」
その手はつかみ取られることもなければ、堪えるように肩を揺らしている弟にラインバルトの笑みは困惑に歪んだ。
「あはははははははははははははははっ、ははっ、あぁ、駄目だ。すみません、笑ってしまって」
笑い涙を拭いながらサフィールは困惑して引きつった笑みを浮かべているラインバルトを見やった。
「兄上…………すっごく無様ですね」
サフィールはニンマリと口角を上げた。
「…は?」
「あぁ、先ずお伝えしますね。ミラベル嬢ですが身ごもってはいませんでしたので、北の修道院に入ってもらいました。あそこは厳しいからなぁ・・・長生きはできないでしょうね」
「そ、そんなことはどうでっ」
「どうでもよくないんです!」
言葉を遮り鉄格子越しの兄の顔に、ぐっと以下づいたサフィールは凄んだ。そしてニヤッと笑った。
「あぁ!可哀想だなぁ!ミラベル嬢!本当はなぁーんにもやっていないのに」
ラインバルトの顔が間の抜けたものへと変わる。きっと、え?とか、は?とか言いたかったのだろうが息を吐く音しか聞こえてこなかった。
「あれ、全部、私が仲間たちと仕組んだことなんですよ。ミラベル嬢は、ただ兄上に可愛がられていただけなんです。彼女の言っていた通り、本当に何にもやってなかったんです。あ、何にもやってない訳ではなかったですね。殺人未遂事件は兄上との自作自演でしたものね!…そうそう、証拠の動画ですが、あれは兄上の言う通り捏造ですよ。仲間の令嬢が変装してくれたんです。あぁ、ワグナー令息の様にお粗末ではありませんよ!彼女、変装が上手なんです」
「さ、さふぃ、ぃる…お前…」
「アニエス義姉さんも、何にも知らないし、何にもしていないんです。義姉さんは今回、私たちに沢山可愛がられていただけです。ミラベル嬢に対しての嫌がらせは、全部、私が指示を出したものですから」
「え・・?あ・・・」
「それにしても本当に可哀想なミラベル嬢。兄上、どうして信じてあげなかったんです?本当に何もやってないって、彼女、言ってたじゃないですか。噓なんてついていなかったんですよ。最後なんて突き放しちゃって、可哀想で見ちゃいられませんでしたよ・・・」
軽蔑した目を向けてやると、ラインバルトの顔は血の気の引いたように蒼然となった。
「本当に愛していたんですか??あれで」
目の前にいるのは本当に自分の知っている弟なのか。
いつも無造作な髪は揃えられ、眼鏡のしていない瞳は光を通していないのに何故か爛々としている。
弧を描く口元に暗く赤い瞳は震えるほど恐ろしく、まるで悪魔の様だと思った。
「あ、ウォルト君の実家の投資、実はあれも私がそそのかしたんです。だって、絶対に沈むって分かっていましたから」
あぁ、兄上、なんて無様な顔なんだろう、ざまぁないな。
サフィールは格子に近づけていた顔を身体ごと離し軽蔑の目で兄を見る。
「それから、オルナシアとの同盟はこちらが賠償を被る形で決まりましたよ。なんてことをしてくれたんですか。まさか兄上が西と繋がっていたなんて驚きです」
呆れてため息を漏らすと、食いつくように格子にしがみ付いてラインバルドは悲痛に叫んだ。
「違う!俺は知らない!!俺じゃないんだ!!!」
「知ってますよ。兄上にそんなこと出来ないことくらい。勿論、それも私達ですから」
「……は……?」
「西の情勢も、そろそろ南方を攻めたがっていたのも知ってたんです。実は西と繋がっていたのは、兄上ではなく私なんですよ。私が兄上の名前と筆跡を使って、色々搔きまわしたんです。オルナシアの王子と一緒に一生懸命考えたんですよ。どうすれば、被害を最小限に抑えつつ、兄上がこんな顔してくれるだろうかって。嬉しいなぁ、大成功だ」
まるで悪戯が成功した子供の様に、サフィールはニヤニヤと笑う。
「な、どういう事だよ!俺が何をしたっていうんだ!何故、オルナシアの王子まで」
「お前が義姉さんを捨てたんだろう?」
その言葉と共に、ぐっと寄せられたサフィールの顔にラインバルドは仰け反った。気圧されて、身体が震える。息を深く吸えず犬の様に短い息を吐いた。仄暗いにも関わらずギラギラしている瞳にじっと見つめられると、魔獣の口腔に飲み込まれたかのような感覚にさえ陥った。
違う。何故。と、かすれて震えた声だけが漏れて出る。
「まぁ、暫くはここで拷問されていてください。生かさず殺さずしてもらいますから」
「い、いやだぁ!何故だ!サフィール!た、助けてくれ!なんでもする!」
「あははは、大丈夫ですよ。暫くしたら迎えに来ますから」
ラインバルドは迎えに来てもらえるという言葉に縋った。
「何年後かな?二年?三年?そうしないと、こちらさんも納得しないでしょうし」
そういってサフィールは踵を返し歩き出した。
「でも結局はオルナシアも儲かっちゃってるからwin winなんですけどね。まぁ、前回よりは被害は最小限に済みましたが、双方、それなりに兵も亡くしたんで仕方ないですよ。兄上」
ラインバルトの言葉にならない叫びが聞こえてくる。
獣の様に泣き叫びながら、惨めなものだ。
階段を上り始めたサフィールは、満足そうに笑った。
「兄上にはもっともーっと苦しんでもらわなくっちゃ♡」
うっとりとしたその声色は兄の耳にはとどかなかっただろう。
僕には前世の記憶がある。
そこは比較的平和な世界で、僕は平凡な人生を送っていた。
可もなく不可もなく、当時は退屈だったような気がするが、今思えば恵まれた人生だったように思う。
忙しくはあったが仕事は順調だったし、繁忙期は家に帰れないことは多々あったが忙しい合間に読む小説は癒しであり喜びだった。
冒険もの、ミステリー、流行りの転生もの回帰ものと、ホラー以外なら何でも読み漁った。
前世でどんな最後を迎えたのか、生憎覚えてはいないが最後に読んだ小説はしっかりと覚えていた。寧ろ、メンタルを強烈に揺さぶられて感情移入してしまって正直辛かった。その作品は、可哀想な王妃様というタイトルで古本屋でふと見かけて買ったやつだった。
はっきり言って後味が悪い、胸糞悪い作品だった。最初から最後まで主人公の少女が報われない、まるで泥水の中を僅かに溺れない程度に生きていた。
どんなに公務を肩代わりしても、どんな素晴らしい政策も、民への愛も、一切彼女のものになることはなかったのだ。
これも全て、クソ王子後の王が屑だったからだ。
勿論、最後のざまぁを期待しない訳がない。絶対に大どんでん返しが来るはずだ。そう思っていた。
だが、読み終えた感想はこんなことってある?だった。
ただ只管に彼女の辛苦を舐めた人生が終わるまで綴られていたのだ。
ネットで検索すると僅かばかりのレビューが付いていた。やはり酷評。
ただ僕の場合は読まなければよかったとはならなかった。
どんな辛酸な目に遇おうと、愛する者の為に直向きに進み続ける彼女に惹かれていったからだ。
彼女の行った政策はどれも素晴らしく慈愛に溢れるもので、それを発案し指揮する彼女は凛として神々しかった。正しく、貴賤を問わず誰の声にも耳を傾け、手を差し伸べる。時には潔く、剣の様に鋭く研ぎ澄まされた精神は美しくて心が震えてしまったんだ。
彼女の夫はクソ野郎で、その愛人もクソ野郎にしなだれるしか能のない自己中のクソだった。
彼女を自由を奪った議員も国王もクソだし、彼女を縛った人間全てクソで無能だった。
あぁ、身体の中でグルグルと何かが渦巻いている。憤りだ。激しい怒りで胸が焼けそうだった。救いたい救いたい救いたかった。彼女が報われてほしかった。なんとかしたい。誰でもない。僕の手で――
「あぁぁぁあああぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ・・・そんなっ、お願い、目を開けて、目を、お願いだ・・・・」
そして思い出した。
ギチギチと嫌な音をたてて軋んでいるロープの下で、宙に揺れている彼女を見た瞬間に。
彼女を抱きしめて慟哭していた。
そう、僕には前世の記憶がある。僕は転生していたんだ。彼女がいる可哀想な王妃様の世界に。
なのに、なのに何故、何故今なんだ。僕なら救えたじゃないか、何かできたはずじゃないか。なのに何で、何で、物語の最後に思い出すって、こんなのって、あんまりだ。
あぁ、今世の僕の何て不甲斐ないことか。ずっと彼女に憧れていたのに。ずっと彼女の傍にいたのに。彼女の肌を渇望していたのに・・・愛していたのに。
僕は、何もしなかった。
気遣う呈で彼女の瞳に映るだけで、醜い腹の底を満たしていたんだ・・・。
あぁ、同じじゃないか、僕はクソだ・・・・・。
それから、どれだけの時を過ごしただろう。
彼女の葬儀を終えた後、僕は城から姿を眩ませた。
兄の統治は彼女が亡くなってからというもの、見る影もないほどに荒廃した。
善性を失くした統治者は瞬く間に国を貪っていったのだ。
外から見たエリスディアは、彼女のいない国は歪で、まるで地獄の様じゃないか。
国を周ると色んなところに彼女の残したものがある。前に進んでいると気が付いたら僕の周りには、彼女を慕った者たちが集まっていた。
僕たちは、兄に反旗を翻した。
離宮に軟禁されていた両親を救い出すと、二人とも酷くやつれていた。
決意を聞いた二人は、涙を流してただ僕を抱きしめた。
二人は、謝った。僕と、義姉さんに。
もう遅いよ。遅かったんだ。僕たちは、皆。
両陛下を連れ出し、南に下った。かつて友好国であったオルナシアの王、彼女の母方の従兄に助力を求め、二人を保護してもらえるよう頼んだ。
父を連れ出して官軍とした僕たちは、王位簒奪者として兄へ宣戦布告をした。
父の声で集まったのは、その代に国に国王に厚い忠誠を誓っていた諸侯たち。
僕の周りに集まってきてくれた者は、かつて彼女を慕っていた者たちだった。
彼女を愛していたのに何もできなかった僕と、彼女の兄、護衛騎士、彼女の侍女だった令嬢、そしてオルナシアの王。そして彼女に救われ、彼女を敬愛していた臣下や臣民達だった。
それは集まると膨大な軍になった。
ほら、見てください。義姉さん。貴女はこんなに愛されていたんですよ。
血だまりの中に首のない身体が二つ転がっている。
あぁ、なんだよ、呆気ない・・・・。
血生臭い空気が身体に張り付いているけれど、もう何も感じなかった。
あぁ、しまったな、また失敗してしまった。もっと苦しめるべきだったのに・・・。
もう、終わってしまった。もう、終わらせてしまった。
だからかな、全然すっきりしないんだ。全然報われない。報われないんだよ。
義姉さん、貴女がいなきゃ、やっぱり、さみしいよ・・・・・
それからは、必死だった。
王位を継承した僕は、ただただ彼女の真似事を、彼女ならどうするか、彼女なら、彼女なら、と必死だった。
直向きに国の為、民の為に努めた。
妻帯はせず、次代の王には、あの時生まれた兄の子を立てて愛しんだ。
甥は、そもそも両親から愛情を注がれておらず当時から、僕や義姉さんに懐き慕っていた。両親を亡くしたというのに、あの弑逆は当然の報いとまでいいはなった子だった。
優しい義姉さんならば、こうするんじゃないだろうか。子に罪はないのだ。
ただただ直向きな振りをした。国民が飢えることのないように、子供たちが学ぶことを諦めなくともいいように、文明の発展の為に、全てを愛しむように耳を傾け、時には鋭い剣の様に、凛と真摯に見えるようにふるまった。
両親も穏やかに看取ったし、甥は妻を娶り次代を紡いだ。
私は、床の中からゆっくり辺りを見渡した。
「父上・・・」
「お義父様・・・」
甥夫婦やその子供たち、医師や近しい者たちが集まって私を見ている。
皆、静かに涙を流し、甥は私の手を優しく握り甲を優しく撫でている。
子供たちは必死に嗚咽を飲み込んでいる様だ。
あぁ、私はよく頑張ったな。きっと、これは幸せな最後なんだろう。
私が手を動かすと甥は静かにそれを外した。力なく手を差し出すと、意を汲みとって甥の妻とその子供たちが傍に来てくれた。
その頬を順番に撫でていく。
最後に甥の手をしっかり握り
「あとは、任せた」
そう言って、ゆっくり目を閉じた。
意識が闇の中に沈んでいく。
あぁ、神よ。私はやり遂げられたのでしょうか?
しかし、彼女を失った空虚が終ぞ埋まることはありませんでした。
沈み込む意識の向こう側で私を呼ぶ甥の嗚咽が聞こえてくる。
あぁ、・・・その兄に似た色が、あの女に似た顔が、
大っ嫌いだったよ。
神よ。私は自分の中の憎悪を押さえつけながら生きてきた。
彼女に対する愛は年を追うごとに増して膨らみ続けていった。もう、声すらも思い出せないというのに。
私の中から、彼女の声が消え、姿に霞がかっていくにつれ、憎しみも大きくなっていった。
彼女を救えなかった自分に。彼女を救えなかった友人に。彼女を虐げた全ての存在に。
それを嘲笑うかのように、私たちの運命を弄んだ神という存在に・・・!
神よ、私はお前を絶対に許しはしない・・・。
待っているといい。
私を転生させたのだからお前はどこかに居るんだろう。
許すものか、許すものか。絶対に。
お前をこの業火で焼き尽くすまで、私のこの魂は決して消えはしない。
神の座から引きずり降ろし、終わることのない永劫の苦しみを味合わせてやる・・・必ずだ・・・・―――――
シャッとカーテンが開く音と共に、暖かな日差しが瞼の向こうを刺激する。
「殿下、朝でございますよ」
優しい乳母の懐かしい声が耳を擽った。
足音が次々に室内に入ってくる。私はゆっくりと瞼を上げ、朝日に目を眇めながら辺りを見渡した。
優しい微笑みの乳母と、侍従にメイドが着替えをもって並んでいる。
「・・・・神め。やろう、逃げやがったな・・・・」
小さくつぶやいたその言葉は、神以外には聞こえなかっただろう。
齢五歳の朝を迎えた日だった。
転生の人生を超えてからの回帰である。
可笑しくてしょうがない。私はニンマリと笑わずにはいられなかった。
とても、拙くて申し訳ないです。
このシーンが書きたくて、肉付けした文なので、やっぱり全部拙いです。
が、とても楽しかったのでお許しください!!
自分の妄想を形にするのは、とても難しいですね汗
世界中の作家様達に、感謝と敬意を!!!(ありがとう‼︎拝み)