学園の卒業パーティーで追放されました〈表〉
今日は王立学園の卒業パーティーの日。普通、パーティーは男女のペアで――それも婚約者と――参加するものだけれど、婚約者には事前に「エスコートできない」と伝えられていた。そのため、私は一人で会場に来ていた。
私のエスコートを断った婚約者は何をしているのだろうと思って会場に来ていれば、なんと元平民の子爵令嬢の腰に手を回しているではないか。私と彼の間に愛があったわけではないけれど、これはあまりにもひどい。そしてそれと同時に納得した。やはり、マノン・ルロワ子爵令嬢にご執心という噂は本当だったのだと。
私の気分がなんとなく沈んだまま会は始まった。今年度で最も位が高い生徒――つまり私の婚約者が開会の言葉を担当する。
「ルイーズ・ルクリエールとの婚約をこの時を持って解消する!」
開会の言葉を告げた後、彼は突然そう言った。あまりに突然の言葉に会場全体が静まり返る。
「そのような事実はありません。いきなり解消だなんて酷いですわ」
「ではその理由を説明しよう。マノン、頼めるかい?」
彼女は一歩前へ出て、私が彼女を虐げていたということを説明した。
「彼女が平民であることを理由として、不当に虐げられていると聞いた。この前なんて、階段から突き落としたそうじゃないか。そのような人物は王族に相応しくない」
「一方の意見しか聞き入れない者も王族に相応しくないと思いますけれど」
ため息を吐きつつ、ぽつりと本音を溢す。幸いにも、この不敬な発言は彼の耳まで届いていなかったようで、特に問い詰められることはなかった。
彼は私を睨みつけて、「反論はあるか」と冷たく言い放った。
「貴族のルールを知らないルロワ様に教えていただけと答えても意味がないのでしょうね。最後の件に関しては、階段から突き落とすなんて野蛮な行為はしておりませんわ。殿下の仰る通り、婚約は解消いたしましょう」
「ありがとう、ルクリエール公爵令嬢。この会場にいる皆も聞き入れたな?」
その後、彼はマノン・ルロワ子爵令嬢と婚約すると言った旨を会場の人々に伝えていたけれど、私はそれを聞かず、入り口へ向かった。早く家族に婚約解消の件を伝えなければならないから。
「ルイーズ嬢」
「なんですの? ナゼール様」
会場を出ようとした時に、学友だったナゼール様に引き止められた。彼には婚約者について以前から相談していたから、残念な結果になってしまい、申し訳なく思う。
「本当は『残念だったね』と君を慰めるべきなのだが……。俺は君の不幸を喜んでしまった」
「えっ?」
「ルイーズ嬢。俺の婚約者になってくれませんか?」
「私が?」と聞き返すと、彼は「君だから良いんだ」と言って、手の甲にキスを落とした。
「王子殿下のお下がりになってしまうけれど、よろしくて?」
「君ならなんでも良い。君を捨てた馬鹿王子にはとても感謝しているよ。だが、本当に良いのかい? 俺と婚約するということは我が国――隣国に行くということになるが」
「構いませんわ。どこに嫁ごうと家族になかなか会えなくなるのは同じこと。でしたら、知らない土地を見てみるのも素敵だと思いまして。私、あなたと話すうちにあなたの国が大好きになったのよ?」
「ありがとう、嬉しいよ」
彼はそう言って私を横抱きにし、頬にキスをした。彼に触れられた場所が熱くなって、恥ずかしくなって、「人前ですのに」と彼に囁く。
「みんなは王子の方を見ていて気がつかないよ。でも、君の可愛い顔が他の男に見られては困る。さあ早くここから出ようか」
彼は悪戯っ子のように微笑むと、私を抱き抱えたまま会場を後にした。
その後、彼が隣国の王太子であったことが判明したり、私に濡れ衣を着せた王子が王位継承権を剥奪されて王家から追放されたり色々なことが起きた。でも、彼が居るだけで幸せ――なんて思うのは、私もあの時の王子たちのように恋の病のせいなのかもしれないけれど……。少なくとも、彼らのように愚かにはならない。
彼が私を愛してくれる理由を聞いて私が悶絶したり、彼をドキドキさせようと張り切ったら逆にドキドキさせられたりするのはまた別のお話。