yellowGreenルート
YGくんのルートです。学校を辞めたいと願う主人公に、担当の人魚がするアドバイスとは?
「学校を辞めたくて。」
するとシーラさんは少し虚しそうな顔をして。
「学校かぁ。なんか色々事情がありそうだね、今回はコバたんに任せるかぁ。」
「こっ、コバたん?」
「そうと決まれば、コバたんのところまでレッツゴー!」
「コバたん?」
シーラさんは私の背中を押して言った。
「ごめん!私今から仕事なの。たぶんコバたん武器庫に居ると思うから、そこを左に曲がって!」
振り返るとそこにはもうシーラさんはいなかった。
「...。」
ここまできたんだもの、行かなきゃ、ここに来て願いを叶えられないとか絶対に嫌だ。私は意を決して、長い廊下を歩く。シーラさんが言った通りの方向に向かうと、そこには「armoury」と扉に書かれた部屋があった。多分ここがシーラさんの言っていた武器庫かな。ドアノブに手をかけると、急に動悸がした。本当にこれで願いが叶えられるのかな、なんだか最近悪い方向にばっかり考えてる、それもこれもあいつらのせいだ。
「行かなきゃ。」
私は思いっきりドアを開ける。そこには武器が大量に置いてあった、武器庫なんだから当たり前か。けど...
「あれ?誰もいない?」
「おい。」
いきなり野太い声が後ろから聞こえてくる。ゆっくり振り返ると、そこには黄緑色の尾ひれの小柄な人魚が居た。小柄といっても、シーラさんより少し背丈が高い気がする。この人が今さっきの声の主なのか?
「お前だよな?願いを叶えに来た客ってのは。」
「はい、あの......シーラさんが言ってたコバたんって、あなたのことですか?」
「そうだけど...。」
私が訊くと、黄緑色の人魚はチッと舌打ちをした。感じ悪っ!
「シーラの奴、また客にいらんこと吹き込みやがって。」
「コバたんさん、舌打ちはちょっと感じ悪いです!」
すると目の前の黄緑色の人魚は明らかに怒った顔になって
「コバたんって呼ぶなぁ!ワイの名前はペール・コバルトグリーン、このモルーア王国の防衛大臣だ!」
いきなり大声を出されてびっくりする。だけど私はそれ以上にびっくりしていることがある。
「すみません!コバたんって呼ばれてるからコバヤシさんかと思ってました!」
「そこじゃないだろ!ところでお前、願いを叶えに来たんだよな?シーラの野郎から話は聞いてる。学校を辞めたいんだよな?」
「はい。」
コバルトさんがゆっくり口を開いた。
「なんで、辞めたいんだ?」
「......。」
いざ聞かれると、上手く言葉が出てこない。
「言うのが辛いなら無理に話す必要はない。」
「え?」
無理に話す必要はない?コバルトさんは真剣で誠実に思える眼差しで、私を見つめる。
「大丈夫です。話しますから。」
ここで話さなきゃ願いを叶えてもらえない。ちゃんと話さなきゃ。
「お前がいいなら大丈夫だ。」
私は深呼吸をして、今まであったことをコバルトさんに話した。
「私は小学生の頃からずっと絵が大好きです。長年の努力が実って、目指す美術専門の名門校にこの春合格しました。入学当初は、ずっと憧れていた学校にやっと入れた!嬉しい!って思ってました。
けど学校生活をスタートさせてみると周りの皆にはもの凄い知識や技術があって驚くことばかりでした。
私は今まで通り頑張って課題に取り組んで沢山制作しても、どれも上手く形に出来なくて......良いアイディアのつもりで何時間もかけた作品も展示に間に合わず酷評されたり。夏頃から段々と自分の実力不足を痛感するようになりました。
授業レベルについていけずに、消耗する日々。クラスメイトと一緒に上手く笑えなくなりました。とにかく私には時間が足りなくて、焦りから休み時間や放課後も返上で作業に没頭して作品に向き合ってきました。其れまで仲良くしていた子達とも距離ができてきて
なんとか課題を再提出して、皆んなに追いつけると自信がついた頃にはクラスから完全に浮いて、気軽に話せる友達はいなくなっていてました。
こちらから挨拶しても、あからさまに無視されたり、クスクス笑いながら陰口をいわれたりして。
恥ずかしくて何でも無いふりでやり過ごそうとしたけど、そのうちカバンに落書きされたり、靴の中に画鋲を入れられたり、物が無くなったり、気がついたら所謂いじめを受けるようになってました。
先生に相談しても『それぐらいのすれ違いは、よくあることだよ。しっかり話し合いなさい。』と、取り合ってくれなくて。
校外の友達には惨めな姿は見せたくなくて、学校を辞めたい事を理由をぼかして伝えるのが精一杯。『行きたかった学校なんでしょ?もう少し頑張ってみなよ。』と励まされるだけで、余計に相談出来なくなりました。
両親にも学校に行きたくないと言ったら『学費が無駄になるから卒業まで我慢しろ。』って。
でも、教室には本当に居場所が無くて、私どうしていいのかわからない。好きだった絵も描きたい気持ちが湧かなくなりました。兎に角、もう早く学校を辞めたいんです。」
「うん。」
コバルトさんは不思議そうな眼でこちらを見ている。
「なんで困ってるんだ?学校辞める必要ないだろ?」
「え?」
私は、コバルトさんの言葉に思わず変な声が出た。けど、コバルトさんは武器の方まで泳いで、布巾を取り、刀の様なものを拭きながら続けた。コバルトさんは続ける。
「芸術家は常に孤独だ。
お前、エリートが集まる中で今までのやり方が通用せずに焦ったのかもしれないけど、そこからちゃんと努力して今は一定の評価がもらえるようになったんだよな?
その為に人付き合いを蔑ろにしてさ。まぁ失敗したとこはあるのかもしれないけど、それでも1番優先すべき事を頑張ってるお前に嫌がらせしてくる奴らの方が悪い。100%悪い。
そんな奴らは初めから友達じゃないんだよ。クラスに無理している必要は皆無だぜ。
でも、イジメのせいで絵を嫌いになる?!学校を辞める?!そんなの馬鹿らし過ぎるだろ。
大体辞めるべきは虐めてる側の人間だろ?証拠集めたりしてないのかよ?
学校辞めて逃げて終わりにしようなんて、疲れすぎて視野が狭くなってんぞ。クラス以外の居場所を作れば充分だ。しっかり寝て、食べて、計画を練ってけ。
今の辛い気持ちや怒りさえも全部作品にぶつけて、昇華するんだよ。どんな経験も感情も作品を作る時には財産だ。そんな低俗な奴らよりずっと高みに行けばいい。
作品で自己証明してみせろ。作品の力で、そいつらの幼稚でくだらない頭を叩き割れ!自分の価値を疑うな!
何度でも言うけど芸術家は孤独でなんぼなんだよ。
一目置かれる存在になったなら、お前の言葉を聞かない奴はいなくなるんじゃないか?」
「....。」
そうか、私は....。確かにそうだ、私、視野が狭くなっていたようだ。
「ありがとうございます、コバルトさん。私やっぱり学校辞めません。みんなから認められる様に努力します!とりあえず次の校内コンクールに作品出してみます。」
「そーだね!イチカちゃん!」
後ろからから女の人の声が聞こえてくる。振り返るとシーラさんがそこにいた。
「シーラさん、いつのまにそこに。」
「ずっと聞いてたよ。そんな理由で学校辞めようとしてたんだぁ〜。」
ニヤニヤと、からかってくるシーラさんをコバルトさんが嗜める。
「おいシーラ失礼だろ。」
「ごめんごめん!コバたん。」
「おい!」
目の前で戯れる二人をみて少し微笑しい気持ちになった。話を聞いて貰って、思い詰めていたのが嘘のように心が軽くなった気がする。私はこれからも真摯に作品作りを頑張っていこう。
次のモチーフは人魚がいいかもしれない。
次のエピソードの更新は少し先になりそうです。ごめんなさい。みんな気長に待っててね。